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コンクールの審査員というもの [音楽業界]

以下に記すのは、楽屋から出走馬を眺めるプロのための覚え書きである。自分の魂の糧にしたり、自分で演奏するための参考に弦楽四重奏曲を鑑賞なさっている方々には、正直、どーでも良いことだ。どちらかというと、こんなパドック的な発想なんぞ持たない方が良いかも。
だって、小生らプロの室内楽業界売文業者は、馬やら調教師やら納入業者に意見や感想を伝え、そのフィードバックを得ることが出来るし、それを期待されているからこそパドックへも立ち入れる。よーするに、「関係者」だ。当然、発言に責任もあるし、現場からその感想を厳しく評される(具体的には、演奏家から「あんた何にも判ってないね、それはねぇ…」と叱られたりする、ということです)。

というような前振りを前提に、今、グラーツで開催されている中央ヨーロッパ国際若手弦楽四重奏選手権(その先にあるワールドクラスの国際大会への挑戦権を得る大会、くらいの位置づけ)を、ちょっとだけ分析してみよう。

このコンクール、国際的には決して知名度が高いわけではなく、一般聴衆の注目度が高いわけでもない。それなのにわざわざ遙か南オーストリアなんぞまで足を運んでいる理由はふたつ。
ひとつは、審査員。もうひとつは、演目。

審査員の顔ぶれについては、商売作文で論ずる可能性が高いので、詳しく触れません。
結論だけ述べれば、カルミナQの現役チェロ奏者シュテファン・ゲルナーを弦楽四重奏部門の審査委員長とするだけあって、長老と若手、それに演奏家以外の視点もひとつ入れた、極めてバランスの良い審査員構成になっている。昨日も触れたように、とっても残念ながら、長老3名のうちの2名が病欠(今回、グラーツまで来た理由のひとつは、ニッセル先生に今度いつ会えるか判らず、お会いできるときにお会いしておきたいなぁ、と思ったからなんですけど…)。交代に長老を緊急招聘できるはずもなく、現役室内楽奏者が7名の審査員団中の4名を占めることになる(あとのふたりは、ひとりが音楽マネージメント業界人で、ひとりが評論家兼先生)。
写真は、午前中の審査を終えてゾロゾロと出て行く審査員団。権利関係のある人もいそうなんで、わざと妙な写真にしてあります。一番左手端がシュテファン社長。一番右手の座ってる方が、弦楽四重奏マニアならよくご存じ、あの独特の頭のラサールQの…

グラーツ音楽院の公式ホームページに、審査員団の写真がありました。じっくりご覧なさりたい方は、こちらをどうぞ。左から2番目のニヤニヤしているのが、カルミナQチェロのゲルナー審査委員長。
http://www.kug.ac.at/schubert/fotos_2006/bearbeitungen/2006-02-16-13.jpg

トップレベルのコンクールの場合、審査員団に現役奏者が増えるのはとっても危険である。例えば、未だに問題となっている1997年のロンドン国際弦楽四重奏コンクールだ。ブックやら今井信子やら、現役バリバリの奏者ばかりを揃えた審査員団、このコンクールを実質仕切っているメニューインがもう動けなくなっていたためか、彼らの声を抑えるのが大変だったそうな。

どういうことかといえば話は簡単。現場技術的な要求が高度になりすぎるのである。つまり、「あれじゃあ困る」という声が大きくなるのだ。現役バリバリの奏者とすれば、若者だって同じ舞台に立つ仲間でもあるわけだから、妥協の余地が少ないのである。ピアノやら独奏やらのコンクールなら、「あれはあれ」と他人事の顔も出来よう。でも室内楽の場合には、常に「もしもこいつらと大舞台で共演するとしたら…」という視点が出てくるのである。
そりゃー、厳しいでしょ。だって、自分の問題だもんね。ニコニコ賞をあげてバイバイ、じゃあすまないんだもの。長老ならそれで良いんだけど。

もうひとつは、些かタブー、でも誰でも判ってること。現役奏者とすれば、若手奏者は営業上のライバルである、という事実。
残念ながら、音楽業界は「若手」という枠は持っているけど、「中堅」という枠は持っていない。で、中堅の現役バリバリ奏者とすれば、若手の枠が常に用意されている業界に対し、ある種の不満を抱えている。となれば、「この程度で私の仕事を奪われてはたまらぬ」という気持ちが、どこかで無意識に働いて当然だ。

だから、ちょっとばかしできそうな相手には、すごおおおく厳しくなる。

幸い、あと2時間もすると2日目のセッションが始まるグラーツの大会、商売レベルにすぐに上がってこられる水準の団体がいるかどうかはともかく、審査員の皮を被った現役奏者が脅威(=驚異)を感じる連中は……(←意図的にぼかして書いてます、小生も商売がかかってますから。)

ってわけで、審査委員長のシュテファン社長も毎度ながらえらく元気で、「おおおす、やっくぺーん、お前、あいかわらず貧乏かぁ!」という調子なんであーる。いやはや。

演目について書いている時間がなくなった。また今晩にも。書く意欲が残っていれば、ですけど。


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