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「ドクター・アトミック」制作ドキュメンタリー放送 [現代音楽]

8月6日の朝8時半過ぎです。嫁さんは、広島の式典を眺め、新しいオフィスに初出勤して行きました。まさかこの歳で「会社に就職する」なんてことがあるとは思わなかった嫁さんは、20世紀の終わりに雇用保険関係の書類を処分していて、この数日大騒ぎだったんですけど。Hiroshimaの朝に新しい職場に向かうなんて、なかなか象徴的。どうして前の職場を辞めるのか、と多くの人々から疑問を持たれながらの出発に、ひとつの答えを与えてくれてるような。

無論、野望、だけどね。

さても、明日、7日の夜、ゴールデンアワーに、NHKハイヴィジョンがジョン・アダムスの「ドクター・アトミック」メイキングのドキュメンタリーを放送します。
なるほど、この手があったかぁ。事実誤認だらけで無茶苦茶なトンデモ論を無抵抗に擦り込まれたゴーマニズム世代がマスコミ現場を担うようになった今の日本の社会文化状況では、このタイミング以外で放送は出来ないだろうしなぁ。
http://www.nhk.or.jp/frontier/schedule/20080807.html
ドキュメンタリーフィルムのオリジナルのトレイラーはこっちです。
http://www.wondersaremany.com/
5月にリンカーンセンター・シネマで上映されたときのNYタイムズの紹介記事はこちら。批評にはなってませんね。アダムスの最初の構想では、オッペンハイマーの苦悩を戦後のマッカーシズムの時代まで描くつもりだった、という紹介が面白いなぁ。結果として、「中国のニクソン」みたいな叙事的な作品ではなく、人間による原子の力の解放という文字通りドクトル・ファウストゥス的なテーマになって、意外にも叙情的な作品になっちゃったわけだ。ふうん。
http://movies.nytimes.com/2008/05/30/movies/30wond.html

2007年制作のフィルムですけど、2005年の原爆投下&対日戦集結還暦(?)記念としてサンフランシスコ戦勝記念オペラハウスで初演されるまでのドキュメンタリー映像です。とはいえ、この後、昨年のネーデルランド歌劇場、今年のシカゴ・リリック・オペラと続けて上演されたピーター・セラーズ演出の共同制作プロダクションの映像ですから、当電子壁新聞ではすっかりお馴染みですけど。http://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2007-06-30

セラーズも、先日、渋谷某所で上演された巨大ミュージック・クリップのおまけの演出にもなってない演出とは違って、半分舞踏作品でもあるこの作品の様式性と、オッペンハイマー、その嫁さん、シャーマニズムと自然の力を象徴した乳母、それぞれが重圧の中に視る幻想を的確に描き出しています。ドキュメンタリー映像でどの程度舞台の空気が伝わるか判らないけど、あの「トリスタン」の映像に任せっぱなしで舞台としてのコンセプトのない舞台に呆れかえった方は、セラーズのホントの力量を知るためにも、是非ともご覧になることをお勧めしますよ。

無論、NHK自前の制作じゃあなくて、出来合いの輸入品です。でも、「原爆の日」にNHKがこの作品をどのような切り口で日本語文化圏の人々に提示するか、楽しみではありますね(訳を付けるだけだろうけど)。なにせこの作品、音楽雑誌は殆ど興味を持ってくれず、この秋にメトで上演されるのを追いかける予定も、商売にはならなさそう。でも、観ておかないとなんのかんの言えないしなぁ。己の力不足を感じるばかり。ううううん…

ちなみに、明後日8日には、第一生命ホール夏の恒例、林光の「原爆小景」全曲演奏があります。アダムスの作品が終わったところから、林作品が始まる。極めて叙事的ドラマたりうる題材を叙情的に纏めることで、アートとして時代を超えた普遍性と永続性を生み出す試み。

追記 8月7日夜10時前、見物を終わりました。うううん、NHKさんは完全に吹き替えを作りましたね。で、このドキュメンタリーを眺めても、小生が「音楽の友」に辛うじて小さく書かせていただいたアムステルダムのプロダクションで感じた幕切れ部分については、一切触れられてません。オリジナルのクレジットを見るに、日本語文化圏のネイティブは関わっていないみたい。NHKのスタッフは、結局、「ドクター・アトミック」という作品をまるで観ずにこの番組を作ったか、さもなければサンフランシスコの初演ではアムステルダムやシカゴで用いられた終わり方をしなかったということなのか。ううううん、判らぬ。

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UD生

やくぺん様、別項の「原爆博士」DVD発売の記事、貴重な情報をありがとうございました。

このNHK・BSハイビジョンの番組は、拙者も観ました。ところで、上記の記事中にある、やくぺん先生の『音楽の友』誌の論評が、バックナンバーを繰っても、探し方が悪いのか、なかなか見つかりません。まことに恐縮ですが、2007年の何月号だったかご教示ください。
by UD生 (2008-09-04 22:13) 

Yakupen

今、過去原稿を調べたら、昨年の7月17日に原稿を入れてます。ということは、2007年の8月売り9月号だと思います。編集者さんと「ザルツとか夏の音楽祭の情報がいっぱい出てくる前の、閑散期に入れちゃいましょう」という会話をしたのを覚えてます。なんせ小生、掲載誌をちゃんと保管してないんです。スイマセン。
なお、これだけ大騒ぎしたのに申し訳ないほど小さい記事です。後ろの方の白黒のベタ情報コラムページでした。1ページの4分の1程度のコラムです。正直、せめて1ページ欲しかったんですけど。まあ、ともかく、こんな普通では掲載などあり得ないようなテーマですので、入れられただけ良かった。

ちゃんとした記事にしたいんですけど、どうも来月のメトも記事にするのは無理みたい。ううううん、「音楽芸術」が生きていれば…。

by Yakupen (2008-09-05 00:44) 

UD生

やくぺん様、早速のご返事、ありがとうございます。出張先から戻り次第、週明けに確認してみます。

METの公演、拙者は「ライブビューイング」で観るつもりです。このたびMETは、タン・ドゥン「始皇帝」などもDVD化するそうです。来年あたり「原爆博士」もDVD化すれば、2種類の映像が出回ることになるかもしれませんね。
by UD生 (2008-09-05 09:55) 

UD生

『音楽の友』の記事、確認できました。2007年9月号の196ページでした。ご教示ありがとうございました。
by UD生 (2008-09-09 19:34) 

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