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日本一のインディーズCD工房 [音楽業界]

富山県は魚津に、「若林工房」というインディーズのCD製作会社があります。
http://www.waka-kb.com/
この地域では知らぬ者ない「若林のおとーさん」が社長さんで、副社長さんは奥様。社員なし。

この会社の作った中野振一郎さんの「パーセル:チェンバロ作品集」が、昨年暮れのレコードアカデミー賞音楽史部門賞を受賞しました。
http://www.ongakunotomo.co.jp/ex/record_academy_total/index.html
流通も普通のと違うこういう小さな会社のディスクが堂々と賞を取るなんて、やっぱり時代が変わってきてるんでしょうねぇ。今世紀に入ってからのレコード・アカデミー賞受賞ディスクリスト、特に古楽とか室内楽、現代音楽なんてジャンルを眺めてると、売上げがせいぜい数百枚なんて商品の扱いはもうメイジャーレーベルがやるもんではなくなってきてるみたいだなぁ。

小さいレーベルは問題は流通です。「うちなんて、普通の流通はしてないでしょ。それがさ、レコ芸で推薦されたら、タワーレコードだかHMVだか、電話かかってきて、うちで扱わせてくれって、もう吃驚(笑)。」

今時の若いもんだったら、ネットでの販売とか、データダウンロードとかで華々しくやるんでしょうけど、若林のおとーさんは、そんなの面倒なんでお皿を作るだけ。そんなことをするための社員だっていないし。だけど、商品としてのパッケージにはとても拘っていて、例えばこれまたDenonさんから若林工房にやってきたメジューエワのベートーヴェン・サイクルなんて、富山近代美術館に所蔵されている瀧口修造の作品を綺麗なジャケットにしてる。正にご当地産のディスク。ちなみに、それらをディスクに使う際の瀧口氏権利管理者さんからの条件は、「作品の上に文字を置いたりしないこと」だけだったそうな。

ところでこの若林のおとーさん、当電子壁新聞をご覧の方の一部には、すっかりお馴染みの方でありましょうぞ。ってのも、なんのことはない、旧洗足大学魚津校舎の「学びの森交流館」で開催されている「こしのくに音楽祭」、「シモン・ゴールドベルグ・メモリアル音楽祭」、現「とやま室内楽フェスティバル」の学生セミナーで、実質上の現場総監督というか、影に日向に支えているというか。よーするに、おとーさんがいないとこのセミナー、富山湾の蜃気楼のような砂上の楼閣になっちゃうんですわ。
どんなに素晴らしい学生がいようが、どんなに素晴らしい講師がいようが、どんなに素晴らしいスタッフがいようが、はたまたどんなにお金があろうが、若林のおとーさんがどっしりと構えてないと、恐らくは何一つ動かない。こんなこと書くと、「またまたやくぺんちゃん、そんなに俺をおだてたってCDの1枚も出ないよ」なんて笑われるだろうけどさ。

今回の訪問、別に何の用事があったわけでもありません。ホタルイカがあがるし、白海老も美味しいし、上手く行けば蜃気楼も出る頃だから、温泉にでも入りにおいで、そうそう、中野さんが新川文化ホールで録音してるかもしれないし、ってこと。ただぼーっと出かけて、セミナー会場の裏山から満開の桜眺めて
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温泉に浸からせて貰って、富山湾の魚いっぱい喰って、富山の酒じゃんじゃん飲んで、もの凄く立派なスピーカーで中野さんのチェンバロなんぞ聴いて…

こういう方がちゃんといる街は、いかに商店街がシャッター通りになろうが、夜になると居酒屋以外に人がいなくなろうが、景気が悪いと二言目にはみんなが叫ぼうが、最後のところで大丈夫。うん。

地方文化の充実とは、若林のおとーさんみたいな人がきちんと存在していて、そこにある公共施設やらなにやらを、必要があればきちんと必要に応じて活用できるような環境になってること。新川文化ホールだって、若林工房の録音で日本中に名前が知られなければ、「街のはずれにあるでっかい無駄なハコモノ」って言われるだけかも知れないもの。

ここまで記したら、やっぱりおとーさんに登場して貰いたくなったなぁ。案外、写真、撮ってないぞ。あ、1枚あった。ご自宅で再生されるCDを聴きながら、もう眠そうになっちゃってる。
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若林工房の次のディスクは、魚津の新川文化ホールで先週に録音された、中野振一郎さんのヴァージナル集です。微妙で繊細なヴァージナルの録音の苦労について、深夜まで語るに尽きない若林のおとーさんでありました。

結局は、全ての文化施設も、公共資産も、使う人次第。使える人がいるかどうか。それだけのこと。

魚津、最高じゃん。黒部川挟んだ向こうには、6月にエクが録音する予定の入善もあるしさ。富山って、すごおおく文化的。

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皇帝きむち

うーん、素晴らしい工房ですね。


富山!!!母方の先祖は滑川の売薬だそうで、昔演奏で訪れた時に異様に懐かしさ感じました。魚津の埋没原生林でしたっけ、すごかったですね。

また演奏に行きたいなあ。
by 皇帝きむち (2010-04-22 10:03) 

kuni!

若林さんには、どんなにお世話になったことか!
隣人と近づきすぎない距離感で成り立つ都会暮らしでは想像が難しい、おせっかい一歩手前ともいえる濃密な人間関係を、おせっかいと感じさせない軽やかさでつくりあげて。だから、若林さんに「たのむちゃぁ~」といわれたら、断る理由なんてどこにもない。よろこんでお手伝いさせていただきます、となる。

若林工房、イリーナメジューエワの魚津でのライヴCDに載ってる、彼女自身のエッセイの一節が忘れられません。
「この町(魚津)を知ってから、私は、すべての事柄がどれほど人間の力に左右されているか、すなわち文化の未来もいかに私たち次第であるかということを再認識したのでした」

本物の持つ力は、外面上はそれほど派手ではなくても、きちんと伝わる。40枚を超える若林工房のディスクの「継続の力」がそれを証明しています。メジャーかインディーズかなんてリスナーには全く関心の外のこと。むしろ、一定以上のビジネス規模でないと採算が取れない(それだけ会社の図体が大きい)メジャーには真似の出来ない軽やかさを、一種の羨望をもってみています。
(外からはわからない苦労もきっと多いことでしょうけど、若林さんはそんな苦労話は絶対にしない方なんですよね)

魚津出身、若林さんの中学の後輩になる者から、ひとこと。


by kuni! (2010-04-23 00:38) 

Yakupen

おお、kuni様は若林さんの後輩なんですかぁ。それはそれは。

まあ、割り切って無責任に言ってしまえば、役割分担、ってことなんでしょうね。メイジャーにはメイジャーしかできないことがあるはずです。今の、「スターマネージメント会社の広報媒体としてCDを作るセクションとしてのDG」、みたいになれとは言いませんけど、メイジャーはやっぱり大きな資本でしか出来ないことをする。そうじゃないところは、若林工房みたいなきちんとしたところが世界中にできて、そこがやる。流通は基本的にネットで、レコード屋さんや店舗は情報をハンドリングするお店に特化する、ってことなんでしょう。

それぞれのところが、知恵を絞って状況に対応すれば、まだまだなんとでもなるでしょう。がんばりましょー!

by Yakupen (2010-04-23 13:13) 

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