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誰が「売れっ子作曲家」を作るのか [現代音楽]

読者対象10名くらいの駄文です。別に冬至の柚子湯に相応しいような話じゃなく、関西の音楽評論家、白石さんのブログ記事を拝読していて感じたこと。たまには前頭葉を3ミクロンくらいは動かさないとさ。
http://d.hatena.ne.jp/tsiraisi/20111221
ここでは19世紀末から20世紀のイタリアオペラ業界で、どうしてヴェルディやプッチーニが他の凡百の作曲家から抜き出る存在たり得たのか、というお話がされています。
最近は、遠くは歴史学の20世紀後半にちょっと流行したアナル学派の影響なんだろうけど、「音楽のあり方をその時代の文脈に置いて考える」というやり方がなにやら凄く偉いらしく、所謂「古楽」とか「ピリオド奏法」なんてのは演奏側からのその手のアプローチなわけですね。

んで、「どうしてベートーヴェンは上京して10年もしないうちにやたらと演奏されたのか」とか、「なんで晩年のモーツァルトは売れなくなって貧乏になったのか」とか、考えようによっては相当に下世話な話が学問として研究されるようになっている。この白石さんのブログで議論されているのも、そういう流れの話です。

さても、ここで小生がイヤでも頭に思い浮かべるのが、数週間前に会っていろいろ話をしたブーシー&ホークスのアジア営業部というか、中国担当者というか、まあそういう仕事をしている方のことなんですよ。
「ドクター・アトミック」を巡ってジョン・アダムスにインタビューするときにいろいろとお手伝い下さった方で、恩義も出来たこともあり、それ以降、いろいろと日本の情報提供をさせていただいたりしてるわけです。この業界、そんなお金じゃないやり取りで成り立ってるわけですわ。

数週間前に彼女が東京に来たのは、ベンジャミン・ブリテンの生誕100年に向けた、ぶっちゃけ、一種のプロモーションでした。で、彼女の日本での動きを眺めていて、なーるほど、現代の作曲家って、出版社の人がオーケストラとか指揮者とかにこんな風な営業活動をすることによってビッグネームになっていくんだなぁ、こうやって「売れる作曲家」を作っていくんだなぁ、とあらためて実感させられた次第。

例えば、タン・ドゥンとか、リームとか、最近ではドイツのヴィドマンとか、明らかに「誰かがプロモーションすることによって売れっ子になった現代作曲家」というのがおりますね。ヴィドマンはドイツではそれなりに上手くいってるけど日本ではまだまだで、やっと来シーズンにアルミンク社長がNJPでやってくれるくらいだけどさ。ま、それはともかく、出版社の人が頑張って、更にはマネージャーがついたりして、各種音楽祭やプロモーターやメディアやレコード会社のプロデューサーが取り上げ、ラジオやネットで何度も放送されるようになり、有名になっていく。

つまり、現代音楽なんて最も商売からは遠そうな世界でも、いや、商売から遠そうな世界であるからこそ、本気で商売をしようと思えば非常に明快なやり方がある。そのラインに乗れることが、「売れる」作曲家、「有名な」作曲家、になる手っ取り早い方法。唯一の、とは言わないけどね。

日本でも、広島出身の某作曲家さんがこのところ急速に名前を出して来ているけど、某国立藝術大学出て、某超大手広告代理店で働いてて独立した某プロデューサーさんが動いているわけですし。

あ、そんな状況を悪いと批判してるんじゃないですよ。白石さんのブログ記事を読んで、なーるほどなぁ、そういう状況ってのはやっぱり著作権ってものがきっちり出来てくる頃に確立したんだなぁ、と今更ながらに思った、というだけのことです。

以上、作曲家なんて霞喰っていそうな奴ですら資本主義の世の中に生きているのだ、ということをあらためて確認するための話でありましたぁ。

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コメント 6

とらお

すっごく興味深い話です。ありがとうございます。
by とらお (2011-12-23 08:09) 

O

>日本でも、広島出身の某作曲家さんがこのところ急速に名前を出して来ているけど、某国立藝術大学出て、某超大手広告代理店で働いてて独立した某プロデューサーさんが動いているわけですし。

あの人が売れたのはそういうウラがあったんですね。
やっと納得しました。
彼のシンフォニーなる代物を聴いてもつまらない音楽にしか聞こえないので。
あの人の場合は聴覚失くしてみたいなわかりやすいハンディキャップがプラスされてるので売りやすい、という条件もあったんでしょうね。
どんな作曲家でも世に出ようと思ったらある程度の後押しは必要でしょうが、才能のある人間を引き上げてほしいなと思いますね。
by O (2011-12-23 14:26) 

hyamada

ベルリン・フィルやエクサンプロヴァンスで新作が初演される世界的にトレンディなHさんのことかと思って読んだのですが、Sさんのことなんですか。。。
by hyamada (2011-12-23 22:34) 

Yakupen

のーこめんとっ!

とはいえ、どんな理由であれ、「この作曲家は俺がいろいろ動くだけの価値がある」と厳しい商売をしているプロデューサーさんに見込まれたのだから、それだけの力があった、ということです。まあねぇ、出版プロデューサーすらいない日本国社会ですから、作曲家にプロデューサーがいると知ると驚いちゃう方もいるのかしら。ううううん…

by Yakupen (2011-12-24 00:37) 

期待

今回の一件の舞台裏を詳らかにされること、楽しみにしています。
この記事も、もはや全国のクラシックファンが見守る記事となったわけです
by 期待 (2014-02-06 12:09) 

Yakupen

ぶっちゃけ、こんな騒動になるとは。この記事はあくまで目立たず、ってことにしておきたいです。なんせ裏が取れないことがもう多いですからねぇ。ううううん…
by Yakupen (2014-02-06 14:37) 

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