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サンフランシスコでニクソンは [現代音楽]

朝5時起きでNYを出て、時差3時間のSFに到着し、開演が8時からで終演が11時半だったものだから、もう眠くて仕方ない。荷物詰めもせねばならぬので、忘れる前の防備録をちょっとだけ。

さても、サンフランシスコ戦勝記念オペラハウス、その名の通り第2次大戦を正式に終わらせる文書が署名された歴史的建築物であり、その記念に「ドクター・アトミック」を委嘱し初演したところでもあります。そこで、「中国のニクソン」のプロダクションがあった。数年前にヴァンクーバーだかで出て、とてもよく出来ていると評判になっていた舞台の移植です。
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それまでずーっと舞台を観たくても観られなかったのに、311を挟み昨年の1月から今までに世界中で4つの違うプロダクションが見物出来た。初演直後にあちこちで、ってことはたまにあるけど、ある時期、あまり演奏されなくなり、今世紀に入ってから徐々にリバイバルしてきて、昨年1月のメトのオリジナル演出の改訂再演のような舞台が出て世界中に配信された頃から、完全に20世紀の古典として定着し始めた。こういう経緯を取る作品もあるんだなぁ。1幕のニクソンのアリアと、2幕最後の江青のアリアは、バリトンやコロラトゥーラソプラノの標準演目として定着しつつあるし。

本日のプロダクション、メトと並ぶ巨大オペラハウス向けの舞台です。こんなにでっかいところ。
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なんとなく舞台の醸し出す空気が日本の二期会とかに似てるシャトレ座のプロダクションとは、雰囲気が随分違う。まあねぇ、まかり間違って日本で上演することがあるとしたら、「音楽に語らせて、歌と踊りはきっちり高レベルでやって、演出はまあ、出来るところまでほどほどにしてそれほど凝らない」ってシャトレ座流のやり方になるんだろうから、こういう大劇場での本格上演に接することが出来たのは貴重な経験でありました。

ええ、眠いので、ポイントのみ列挙。

※「ドクター・アトミック」の専門家、ローレンス・レネスの指揮は、オーケストラのリズムの立っているところと寝かしているところが極めて明快だったり、オケのあちこちに仕掛けられたシュトラウス風の遊び(2幕のパットが養豚場に行くところでは、まるで「ドンキホーテ」かなんかみたいにぶーぶー豚の声がする)をはっきり聴かせたり、1幕最後のパーティを猛烈に煽ったり、いかにもプロの指揮者、って棒です。今度、スウェーデン王立歌劇場の音楽監督に抜擢されたそうな。やっぱり、偉くなってく奴だったんだわな。

※演出は、映像の使い方がとても上手でした。昨今は書き割りの代わりに映像、ってのは当たり前だけど、それを演出の中に自在に組み込んで、セットと巧みに関係づけていた。序奏ではホントにエア・フォース・ワンが飛んでいる映像が出て、その中にニクソン夫妻が乗ってるのが見えたり、人民が呟いている上にホントに着陸したり。パットの北京見物も子役とか全然出さないで、全部映像で処理したり。3幕の回想シーンでも映像が上手に織り込まれたり。これ、ちゃんとしたプロダクション・スタッフがいる劇場じゃなきゃ処理しきれないでしょう。公演は2回のみで別キャスト、なんてやり方では不可能な精密な作り込み方。

※演出そのものは、一見、リアルに始まるのだが、どんどん状況が暴走していって、とってもリアルじゃない展開になっていく、というつくり。だから、観ていてとっても面白い。昨年来眺めた4つの舞台の中で、「面白い」って意味では、いちばん面白かったかも。それがドタバタにならず、あああこれはこの人たちの幻想なのかな、って感じギリギリで収まっている。この感じ、なんかに似てるぞ、と思ってたんだが、そーです、成田空港で買って、ケネディ空港からマンハッタンに入る地下鉄の中で読んでた最近の筒井康隆でんねん。テイストがそっくりだわ。

※難物の第3幕は、それまでやってきた幻想暴走系をそのまま持ち込んでいるので、とても説得力があった。この瞬間の海胆頭では説明できぬ。ゴメン。管弦楽曲としても有名な「首席は踊る」のシーンで、ホントにあんなにみんなが踊ったのは初めて観たぞ。

※歌手は、これだけ会場が広いとそれなり以上のパワーがあることが前提になるわけですが、目立ってへっこんだ人がいたわけでもなく、皆さん立派でした。ニクソンは松本の「ファルスタッフ」でフォードをやった人だそうな。大抜擢の韓国のソプラノさんの江青、歌の正確さではこれまででピカイチ。3幕のキャラクターの作りなどは流石にスミ・ヨーには及ばないが、是で後続者と認識されるんじゃないかしら。なお、この作品で始めてはっきりと日本出身と判る方がメインキャストに名前を連ねていました。チハル・シバタと仰るダンサーさんで、「The Red Detachment of Wemen」のヒロインを踊ってました(パリのバレエでもヒロインさんは日本の方みたいだったが、よく判らなかった)。

以上、あまりちゃんとしたご報告にはなってなくて申し訳ない。とにもかくにも、SFの「中国のニクソン」、もう一公演くらいあるみたいなんで、東海岸在住のお暇な方は是非どうぞ。お安くはないオペラハウスなりに、満足した出し物が観られると思いますよ。お客さんは政治コメディと思って眺めてた方が多いようで、あちこちで爆笑でした。

さて、次は9月に、1年半の「中国のニクソン」連発の締めくくり、作曲者指揮での演奏会形式です。これでしばらく、上演はないみたい。「ドクター・アトミック」もしばらくないようです。オッペンハイマー博士のオペラ、実は広島原爆の悲惨よりも原子力開発による環境破壊がテーマの作品だけに、311以降はますますリアリティが増しているのだが…かえって日本ではやれなくなってるなぁ。

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サンフランシスコ人

サンフランシスコ・オペラの新音楽監督...

http://www.seattletimes.com/entertainment/san-francisco-opera-names-its-first-female-music-director/

Entertainment
Nation

San Francisco Opera names its first female music director
Dec. 5, 2019 at 2:06 pm Updated Dec. 5, 2019 at 2:47 pm
by サンフランシスコ人 (2019-12-07 08:30) 

Yakupen

サンフランシスコ人様

情報、ありがとうございます。これ、小生のところにもイギリス業界紙のWeb版の速報で来ていて、当電子壁新聞でもネタにしようかとも思っていたのですが、なんせ今、アムステルダムで別件の真っ最中でして。

まあ、前任者は日本ではサントリーのホールオペラやったりしててそれなりに知られていたので、少しは話題になると良いのですが…なんせガラパゴスですのでねぇ。

by Yakupen (2019-12-07 16:24) 

サンフランシスコ人

12/5 サンフランシスコ・オペラの新音楽監督の(サンフランシスコでの)演奏会....

http://datebook.sfchronicle.com/music/review-new-sf-opera-director-kim-and-adler-fellows-prove-future-is-bright

Review: New SF Opera director Kim and Adler Fellows prove future is bright

Joshua Kosman December 7, 2019 Updated: December 7, 2019, 1:52 pm

"Throughout it all, Kim provided musical guidance that was firm but pliant, delicate yet strong-limbed. At every point, you could feel her giving the singers just what they needed to excel, without ever drawing focus onto her."

by サンフランシスコ人 (2019-12-09 04:12) 

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