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「劇場法」ヒアリング見聞録 [劇場法]

先週金曜日から、去る6月に議員立法でバタバタと成立しちゃった「劇場・音楽堂等の活性化に関する法律」、所謂「劇場法」の指針を作成するためのヒアリング作業が文化庁で始まっております。明日まで。
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まずは、「劇場法」がどんなものか。これ。法律とはいえ、ツルッと読めるものなので、お暇じゃない方もちょっと目を通しておいて下さいな。
劇場法.pdf
さても、この法律、ご覧のように、ぶっちゃけ、理念法です。この法律が出来たからといって、誰がどう見ても文楽の劇場をぶっ潰そうとしている大阪のハシモト市長に対し、「おおおおし、これで市長を牢屋にたたき込めるぞ!」ってもんじゃあない。

とはいえ、法律が出来ちゃった以上、それがどんなもんであれ、具体的なことをなにもしないで良いわけでもなく、特に第十六条に「文部科学大臣は、劇場、音楽堂等を設置し、又は運営する者が行う劇場、音楽堂等の事業の活性化のための取組に関する指針を定めることができる。」なんて書いてあって、その先には「文部科学大臣は、前項の指針を定め、又はこれを変更しようとするときは、あらかじめ、劇場、音楽堂等の関係者の意見を聴くものとする。」とある。

小生もいろいろ悪口を言うけど、お役所というのは、法律で決まっちゃったらともかく形だけでも言われるがままに動かねばならない究極の真面目さは持っているわけです。で、先月末くらいに公文協が全国の公共ホール指定管理者さんにだあああっとアンケートを流したりしてて、なんか動きがありそうだなぁ、とみんな思ってたら、案の定、お盆の真っ最中、民間の人なんていないタイミングで「ヒアリングやりまっせ」というリリースが出された。なんと、始まる2日前です。
http://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2012-08-21
聴講したい奴は前日の昼前までに連絡しろ、ってんだから、いったいどれだけの人が情報に間に合ったのやら。

ま、それはそれ。もの凄く急いでいる、って前向きに取ってあげる良い国民になりましょう。
んで、やくぺん先生も、いつもJTやらサントリーに通う道の上、昔の虎ノ門ホールでやるんならまるっきり無視するわけにもいかんわなぁ、ってわけで、某音楽雑誌編集長と話をして、ともかく1日くらい眺めてみますか、ってことになった次第。

丸の内の地下鉄駅を上がって、警察官がいつも立ってる財務省の前を抜けると、あらゆる官庁の中で最もノンビリした文化庁があります。どーでもいいけど、目白の移る前の近衛邸のあったところですわなぁ。裏の霞が関ビルには旧華族さんの同窓会室みたいなものが上層階にあるし。溜池があった頃は知らぬが、この1世紀くらいは由緒ある場所でありまする。

んで、2時からのヒアリング、本日の登場は、東京の民間音楽堂の代表たるサントリーホール。それから、地方の公共ホールの代表例たる岐阜県の可児市文化創造センター。それに、オケ連さんなんかも参加する日本音楽芸術マネジメント学会という研究団体、なのかな。もひとつ、日本舞台音響家協会という音響技術者さんの集まり。そんな様々な利害や視点の業界関係者が、大臣が「関係者の意見を聴く」ために集められた。

これって、サントリーのスタッフは炎天下をトコトコ歩いてくればいいけど、岐阜から来た方なんて、やっぱり電車代は出てるんでしょうね。どういう規定になってるのかしら。

中学の教室くらいの部屋に、真ん中に四角く机が並べてあって、文部科学省側と業界関係者側とが向かい合う形になる。
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それを横から眺めるように、椅子が3列くらい並んでいて、ギャラリーになってる。本日は、そうですねぇ、最大で10人くらいのギャラリーがいたかしら。初日は3人だった、というのだから、ま、凄い増えっぷり、敢えて大盛況というべきか。メディアは知り合いはいかったけど、文部科学省の広報誌をずっと作っていた出版社の担当編集者さんとか、どこぞの大学でアートマネージメントだかやっててどっかの劇団の手伝いをしているお嬢さんとか、いろんな方がいたようです。

それぞれが30分程の持ち時間で、まず、業界関係者側が10分程、自分のところの説明とか、この法案に何を望むかとか、手短に喋る。と、向かい合ったお役人さんや副大臣が、いろいろ質問する、ってもんです。
残念ながら本日は文部科学大臣はおらず(初日はいたというが)、下々の意見を聴くのは文部科学副大臣やら、文部科学大臣政務官やら、文化庁次長やら、文化部長やら、芸術文化課長やら、文化活動推進室長やら、支援推進室長やら。ともかく、文部科学省の偉いお役人の皆さんであります。

ええ、ここまでお読みになられた方は、そろそろ????と思ってるかもしれませんね。よーするに、文部科学省の偉い方々が現場の意見を聴いたり、現場があげてきた意見に説明を求めたりして、「劇場法」を具体的にどう運営するかの指針を決める参考にしましょう、ってこと。具体的な指針の中身を作文するお役所の現場の人々ではなく、もっと偉い人たちが相手です。

ぶっちゃけ、日本の官僚システムでは、プロフェッショナルなアートマネージメントやら芸術現場運営をやってきた人たちが文部科学省の内部に入って法律の運営の具体的な方策を作ったりする、ということはありません。小生なんかが眺めていると、例えば可児市のホールの館長で本日も熱弁を振るった衛紀生さんて業界のスターさんは、本来はヒアリングに出てきて意見を述べる側じゃなくて、法律を運用する側に座ってるべきだと思えちゃうわけですよ。副大臣は普通の国会議員なわけだし、文化部長さんもあるときは日本中の中学や高校の運営の問題をやってたりした方。普通の意味での専門家ではない。皆さん、ちゃんと勉強なさっているだろうし、みんな頭の良い方なんだろうけど、でも、アーツ業界の人たちではない。その人たちが、法律の運営を考えねばならない。

ま、そういう日本のビューロクラシーのあり方が良いのかどうかは、また別問題(ある意味で、文化関係者の暴走を防ぐシビリアン・コントロールでもあるわけですし)。それぞれの立場の業界関係者が、この法律によってこのようになって欲しい、ということを述べました。「ホールをコミュニティアーツセンターにする、ハコモノをどうやって脱するかをこの法律のきっかけになって欲しい」とか、「教育普及活動をホールの大事な役割、一定割合にそういう人材を置く、義務化は無理にしては、盛り込んでくれれば、現場としては有り難い」とか、「指定管理者に対する指針であり、同時に自治体への指針に大きな意味を持たせて貰えば有り難い」とか、ま、いろんな意見が上奏(ってわけじゃないけど、やっぱりそう見えるなぁ)されてました。

あんまりレポートになってないけど、そんな風なもの。この後、恐らく、パブリックコメントなんかがあったりして、年末に向けて「指針」が出てくるんでしょうねぇ。どんなことになるやら。そもそも、この法律、使えるものになるのやら。

以上、まだまだ暑い虎ノ門からのご報告でありました。あんまり報告になってなくて、スイマセン。

追記
今、出国準備を全部済ませた成田空港のラウンジです。昨日来のバタバタな中での文化庁見物、あまりきちんとものを考えていられなかったんで、ちょっとだけ追記。

ええと、昨日のいろんな関係者と文部科学省や文化庁テクノクラート・シニアスタッフの面談、ひとつ判ったのは、「文化庁は、この法律を宿敵自治省主導で導入された指定管理者制度に対する武器にしたがってるんじゃないかな」って感触がはっきりあったこと。無論、悪意や縄張り意識ではないのでしょうけど、ま、敢えて週刊誌ジャーナリズム的な眺め方をすれば、そんな感じでしたね。

指定管理を出す側、議会やら自治体のローカル・テクノクラートに対して、劇場法を使って何らかの縛りをかけていこう、良く言えば、実態としてはコストカットのための方便にしかなっていない指定管理者制度を、本来の理念に戻していくために劇場法を利用出来ないか、と考えている風が言葉の端々に感じられました。文化庁としての思惑がどうであれ、それはそれで良いことではありますわなぁ。

もうひとつは、アーツカウンシル化を前提にした劇場法の使い方。昨日発言なさった某地方アーツセンターの名物館長さんは、「そもそもこの法律に民間が入ってくるのは無理がある」と仰ってました。小生はこの発言には全く反対の意見なんですけど、ま、それはそれ。ただ、最終的に、本当に文化庁とも自治省とも、はたまた地方政府とも無関係な独立した専門家集団としてのアーツカウンシルが日本の芸術助成を行う方向になるのなら、ぶっちゃけ、民間とか公共とか言う枠組みそのものが無意味になるわけですよねぇ。そこに向けて劇場法をどう使えるのか。これは案外面白いかも。尤も、既存の省庁や行政が既得権としているお金を動かす力をすすんで放棄するとは思えないけどさ。

蛇足ながら、演劇から出てきたプロデューサーさんは、やっぱり見ていて面白いです。「公共の金をどこまで引っ張り出して公演をするか」ってヨーロッパ的な感覚の演劇プロデューサーが日本でも出てきたのは、やっぱり80年代後期のバブル以降だと思うんだけど、そういう人たちが今や公共ホールの「偉い」人になって、お互いに足を引っ張り合いながら公金を取ろうとしてる。ノンビリした音楽の世界は、そういう方々からぶっ潰すべき既得権として思われているよゐこの太った子羊たちですから、小生なんかはこういう元気な人たちを眺めてるとホントにワクワクする。音楽には、ルネ・マルタンなんて外圧くらいしかおらんもんねぇ、こういうギラギラしたプロデューサーさんは。若い音楽業界関係者の皆々様、頑張らないとマズイよ。

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