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優勝団体に遭いにいく・その2:第9回大阪国際室内楽コンクール第1部門アイズリQ [大阪国際室内楽コンクール]

今回の超短期北米滞在の大きな目的のひとつが、かつて大阪国際室内楽コンクール第1部門を制したふたつの団体が、共に現在は本拠地とするニューヨーク・シティで日を空けずに演奏会をするのを聴きに行くことにありました。まずは、半年と少し前に優勝したばかりのアイズリQが、この秋からのシーズンでレジデンシィを勤めるメトロポリタン美術館が主催するシリーズ第2回目のコンサートであります。
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メトロポリタン美術館の室内楽シリーズといえば、長くグァルネリQが実質上のレジデンシィを勤め、シーズン中に4回くらいの演奏会をずーっと行っていた。20世紀の終わりくらいからは、アリス・タリー・ホールでのリンカーンセンター室内楽協会のエマーソンQやジュリアード音楽院の演奏会としてのジュリアードQ、92丁目Yのレジデントの東京Q、はたまたマンハッタン音楽院レジデントのアメリカンQ、フリック・コレクションでのヨーロッパ系外来団体などと並び、マンハッタン地区で弦楽四重奏が定期的に演奏される重要な場所のひとつとなっていたのは、皆様よーくご存知の通り。

グァルネリQが引退し、後を継いだパシフィカQが数シーズンでブルーミントンを本格拠点とすることになって(それが理由かは知らぬけど)、さて次はどうなるんだろうと思ってたら、なんとなんと、「その2」でご報告するアタッカQがレジデンシィになるという。へええ、すごい若手に持ってきたなぁ、とビックリしたら、どうやらシステムそのものが変更になったようで、大物中堅団体を長くレジデンシィにして実質的にはその団体にとって最も重要なNYCでの定期演奏会主催をサポートするというやり方を止め、いきのいい若手を「レジデント」にして、シーズン内に4回くらいの演奏会を主催してあげる、という「若手支援」の枠になってしまった。無論、それが悪いというわけではなく、お陰でアタッカ、そしてアイズリ、と、まるで「大阪に優勝したらレジデントにしてあげましょう」みたいなことになってしまっている。大阪大会の評価の客観性が別の所で証明されているような形で、それはそれで大いに有り難いことであります。


てなわけで、感謝祭休暇が終わりすっかりアドヴェント、いかなネット商戦がメインになった北米とは言えここはマンハッタン、買い物客で溢れかえる五番街をセントラルパークに沿って上がっていったメトロポリタン美術館ロビーは、夜の9時までオープンの金曜日ということもあってか、すっかり日も暮れた6時半過ぎくらいになっても世界中からやってきた観光客の皆さんで大混雑。アイズリQから、「チケットはボックスオフィスにあるから」と言われているものの、ボックスオフィスそのものがどれだけあるのやら、訳が判らぬ。

なにしろ今晩の会場、これまでグァルネリQが提起をやって来た、地下だか1階だかのミイラがずらずら並んだ先にある奥まったところのオーディトリアムではありません。アイズリQの初回はそこだったそうだが、今度はなにやらイタリアから持ってきた邸宅の中庭みたいな場所だそうな。散々彷徨って、3箇所くらいのボックスオフィスで「今日の演奏会は…」って尋ねた挙げ句、やっと辿り着いたのは、なんのことはない、5番街に面したいちばんメイジャーな階段上がった正面入口の直ぐ裏でありました。

へえ、こんなところあったっけぇ、と思いつつ、ルネサンス彫刻が無造作に並べられた中庭に演奏台を架設し、お馴染みの電子楽譜なんぞを据えるための譜面台を並べた前に、総計60席くらいが並べられている。文字通り、これ以上判りやすいのはないくらい判りやすい「Music in Museum」でありまする。これまでのメトロポリタン美術館の室内楽シリーズ、「美術館での演奏会」を期待すると完全に肩透かしの、真っ当すぎる室内楽演奏会場だったので(楽屋が無い、とかいう問題はあったものの)、ま、随分と感じは違うもんになったことよ。
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てなわけで、この街では珍しく金曜の晩なのに午後7時に演奏が始まります。先週末に日本から戻ったばかりのアイズリQ、元気いっぱいで登場するや、日本の一部でも聴かせてくれた超モノフォニーのヒルデガルト・フォン・ビンゲンだとか、やっぱり奇妙な音が並ぶジェズアルドを、擬似ルネサンス空間に響かせる。正直、弦楽四重奏には響きすぎる場所だけど、これらの曲には丁度良いかな。
続いて、今回、はるばるやくぺん先生が太平洋を渡った理由でもあるナンカロウ第3番。これ、日本ツアーの間も盛んに練習していて、最初から聴いている日本室内楽振興財団のもぐらくんやらYさんには、4人それぞれがまるで違う拍子を刻んでいく突拍子も無い音楽のできかけを散々聴かせて、目をまん丸にさせていたそうで、「今日の演奏をYさんに聴いていただきたかったわ」って。まるで勝手なメトロノームが4つ、まるで勝手に鳴っているのをぼーぜんと眺める曲かと想像していたら、意外にも、なんか、音楽になってたんで逆にビックリでありました。ナンカロウを聴いちゃえば、最後の《大フーガ》だってもう驚かないぞっ!

そんなこんな、休憩無しで1時間ちょっとくらい。場所が場所だけに終演後に楽屋で…ってのもムリで、アイズリQの皆さんが会場に出て来て、談笑のお時間となりましたとさ。
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曲によってスタッフが背景の照明を変化させたり、うううん、ちょっとやらずもがな、と苦笑してしまいそうな演出もあったものの、天下のメトロポリタン・ミュージアムの「Music in Museum」を任されたアイズリQ、しっかりその責務を全うしたのでありました。次回は日本の作品なども取り上げるからか、東洋美術の展示室が会場。最終回は、マンハッタンの北にあるそれこそ中世の建物をまんま持ってきちゃった別館クロイスターでの演奏会だそーな。

うううん、企画している学芸員さんが凄く攻めてるなぁ、と感心することも出来るかもしれぬが、正直、やくぺん先生のような爺とすれば「栄光のメトロポリタンの弦楽四重奏シリーズ」が、なんだか妙にモダンでクールなもんになってしまったなぁ…と淋しく感じてしまうのもまた事実なのであります。はい。

なお、まだ公式には発表されていないけど、関係者さんに拠れば、次回2月23日のアイズリQ演奏会、ライブストリーム中継があるそうな。ご関心の向きはこちらのサイトからどうぞ。そのうち、ちゃんとした情報がアップされると思います。請うご期待。
https://www.metmuseum.org/events/programs/met-live-arts/aizuri-quartet-18-3

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