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優勝団体に遭いにいく・その9:第7回メルボルン国際室内楽コンクール弦楽四重奏部門第1位ノガQ  [弦楽四重奏]

まだまだ続く「優勝団体に遭いにいく」シリーズ、つらつら考えるに、先週までの実質3週間のツアーで聴いた弦楽四重奏団の中で「優勝団体」と呼べる連中を列挙するだけでも、ええと、アルテミス、ドーリック、ツェムリンスキー、ファン・カイック、ヘルメス、エベーヌ、カザルス、ロルストン、アキロン、マックスウェル、ノガ…おいおい、こんなにコンクールはあるのかぁ、と言いたくなるけど、実際、そういうもんだからしょーがないわね。

てなわけで、遭ったのはもう10日も昔だけど、別に急ぐネタでも無いので、今回の御題はノガQでありまする。ほれっ。
029.JPG
メルボルンの時の様子は、こちらを参照。
http://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2015-07-18
この記事でもお判りのように、ノガQは優勝はしたものの、もっと大事とも言えるムジカノーヴァ賞はジョコーソQが持って行き、オーストラリア大陸でのキャリアを作るチャンスを失ってしまったという可哀想な状況だった。へえ、そういえば、現時点でかのストラディヴァリウスのパガニーニ・セットを貸与されているクレモナQは、このときに3位だったのかぁ。うううん、なる程なぁ、優勝って、どれほど意味があるのかと思っちゃいますねぇ…

あのメルボルンからもう3年、いよいよこの夏、というか、現地では冬の最中に第8回が開催されるわけでして(って、メルボルン大会って4年に1度じゃなかったかぁ?)、前回の優勝団体がどうなっているか、大いに気になるところでありまする。

このノガQ、非常に不思議でした。そりゃ、ムジカヴィーヴァ賞は他に譲ったとはいえ、天下のメルボルンの優勝団体、その後に少しはあちこちで名前を見るかと思えば…うううん、なぜかまるで見ない。無論、世の中には、アルテミスとかアポロ・ムサゲーテとか、大きな大会で優勝した後にマネージャーさんや周囲が戦略として少し寝かせる、というか、1シーズンくらいは可能な限り表に出さず、じっくり自力を養った上でガッツリと世に出していく、というやり方をした団体もある。それはそれで、大いにあり得るでしょう。特にこの10年くらいは、意識的に「可能性」を選ぶ大会も増えてきているので、考え方としては判ります。ロスルトンなんて、正に「バンフ・センター挙げて修行中」って感じですもんねぇ。アムステルダムにはバリーも来てたし。

ノガQの名前を見ないのはそういう理由なのかとも思っていたが、それにしては時間がかかりすぎている。もう次の大会が見えてきているというのに、タイミングとしてもマズかろう。そんなわけで、アムステルダムの最初のビエンナーレが「各地の大会優勝団体揃い踏み大会」をやってくれたのは、非常に有り難かったわけです。おお、やっと苦労人ノガが聴けるじゃ無いかぁ、ってね。

ぶっちゃけ、ノガQ、メイジャー大会優勝から3年という状況で、そのタイトルに相応しい状況でありました。基本、極めて真面目な団体で、悪く言えば尖った部分はなく、安定してちゃんとしている。メンバーが交代して、実質上別団体やら活動停止になってしまったわけではない(フォルモサとか、いろいろ頭に浮かぶなぁ)。

どうして彼らが欧州若手マーケットに乗ってこないのか、やっぱり不思議だなぁ、と思い、チェロくんと立ち話をしたわけです。たら、疑問は一発で氷塊しましたです。曰く、「僕たち、マネージャーがまだいないんですよ、ええ、拠点はベルリンで、もの凄くいっぱい練習の時間も取ってますし…」

要は、ノガQはベルリンのメイジャーオケのメンバーがやっている団体である、ということなんですわ。なんせ、第1ヴァイオリンのシモンくんは、こういう人。
https://www.berliner-philharmoniker.de/en/orchestra/musician/simon-roturier/
え、これってベルリンフィルの公式ページじゃないの、と思ったでしょ。その通り、ノガQの第1ヴァイオリンは、天下のベルリンフィルの正規団員なんですわ。それどころか、これが第2ヴァイオリンさんLauriane Vernhesのプロフィル。
https://www.dso-berlin.de/de/orchester/personen/orchestermitglieder/
これもベルリン・ドイツ響のページだろーに、ってね。ヴィオラさんもどこかのオケにいるそうで、チェロくんは「僕は弦楽四重奏に専念です(笑)。」

なるほどねぇ。言うまでもないと思いますけど、ジメナウアー以下、ヨーロッパの主要室内楽系マネージャーさんは、「オケメンバーが加わった弦楽四重奏団」は、基本的に扱いたがりません。特に若い団体の場合はなおさらです。理由はハッキリしていて、マネージャーが仕事持ってきても、そのときに常にその団体が使えるか判らないからです。既に偉い団体になっていれば、「彼らは今シーズンは何月から何月と、何月から何月しかやれません」と世間に言ってしまっても構わない。買う方は、それでもやりたい、と思いますからねぇ。ところが若い連中の基本は、「ともかく金にならなくても数をこなす」です。オケのメンバ-、それもベルリンフィルともなれば、コンマスやソロ首席クラスでない限り、自由に休みを取るなど不可能。ダニエル・ベル氏の苦悩を今更言うこともないでしょう。

オーケストラ団員でも、全員が同じオケなら、オケの室内楽定期に出して貰ったりして、キャリアを作っていくことが出来る。これはもう、所謂「常設弦楽四重奏団」というものが実質存在しない20世紀前半までのヨーロッパでは常識だったし、今でも旧東欧系などでは基本です。だけど、彼らは同じベルリンとはいえ、違うオケにいるからそういうわけにもいかないし。

てなわけで、なぜノガQがそれなりの自力があるのにマーケットに乗ってこないのか、極めてはっきり、簡単に判ってしまったわけでありまする。無論、本人達は弦楽四重奏をやりたいと思ってあれこれ頑張っているわけだが、さても、こうなるともう、ノガ会社とすれば、初めから「インディーズ」を狙っていくしかない、ということになるわけですわ。まさか、弦楽四重奏のためにベルリンフィル辞めろ、とは言えないもんなぁ。

ノガQ、ともかく、演奏会を目にしたら聴きに行ってあげてください。その価値はありますし、こういうやり方でどこまでやれるか、ひとつの実験として見ていきたいものですし。

なんか、ニホン国なら常識だわなぁ、この話。いやはや。

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レモングラス

ベルリンフィルのDigitalConcertでSQ上がっててSimon氏のvn凄いのでびっくり。こんな凄い人がTutti弾くのかぁとオケの収録探してみたらなんとセカンドの後ろのプルートにちょこんといてまたびっくりしました笑 さすが天下のベルリンフィル。
by レモングラス (2021-05-17 00:54) 

Yakupen

レモングラス様

ドイツではオケのメンバーになっていると、所謂常設団体で室内楽をやるのはシステム的に極めて難しいんですよねぇ。日本はその意味では例外、ってか、オケで名前を売って「あのオケの人がやってる弦楽四重奏団」という風な集客が当たり前になってる。このコロナの下、ノガはどうなってるんでしょうねぇ。ベルリン、遙かなり。
by Yakupen (2021-05-17 15:22) 

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