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ミカエルの旅の原点回帰 [現代音楽]

パリ・オペラコミックで、今の音楽業界で最も注目されるべき若手指揮者マキシム・パスカル指揮のシュトックハウゼン《光の木曜日》舞台上演を見物して参りました。
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今回の超短期渡欧の裏本命、かな。

ええ、これは商売もんというよりも、新国出版の冊子『戦後のオペラ』執筆陣でなぜか冒頭概論もやらせられた担当者としての責任みたいなもんですなぁ。ま、クルタークもそうだけどさ。なんせ、《光》チクルス全てを上演することを視野に入れた動きを始めているという30代前半の若手指揮者が最初に手掛けたプロジェクトですから、これは眺めておかないと。

今回の上演、ひとつのポイントがヴェニュが初演のミラノ・スカラ座と似た構造の、いわゆる19世紀ガルニエ型大規模オペラハウスでの再現であります。直ぐ近くのガルニエではなく、規模はスカラ座よりも小さいオペラ・コミックというのがなかなか微妙ですが、いかにもやりそうなシャトレ座とかバスチーユではない、というのはこの作品の初演の在り方を追体験するには貴重な経験かも。ちなみに共同制作にボルドーの歌劇場が入っているので、規模としてはさらにひとまわり小さいあっちの方がより理想的かもなぁ、聴衆とすれば。

で、ともかく結論を述べてしまえば、「スカラ座のルカ・ロンコーニによる初演の在り方を、30余年を過ぎた劇場技術や映像、音響の発達を踏まえて今風にヴァージョンアップした原点回帰」でありました。無論、やくぺん先生は1981年の世界初演は眺めてはおりませんが(葛飾オフィスの仕事場にポスターのコピーは掲げてあります)、当時のスキャンダルめいた騒動や今に伝わる様々な舞台写真、情報などを眺めるに、ロンコーニがセットとして作ったでっかい燕とか、バカでっかい地球とかを映像処理に置き換え、更に今風の字幕の助けも借りた、相当に「オーセンティック」な上演だったのであろうと思った次第。

ただ、昨日のパスカル君率いるパリの若いもんを集めなんと1年もみっちり練習を積んだという手兵オケ(こういうやり方も師匠のロト様とそっくりだなぁ)の方が、2幕や3幕での「オケのメンバーがパーフォーマーとして演技する」というシアターピース的な動きは、恐らくは81年のスカラ座での初演よりも余程達者になっていたんではないかと思うですね。《光》サイクル全体の中で最も知られ、独立して演奏されることも屡々な第2幕の「ミカエルの世界旅行」では、NYでのバスクラ奏者のミカエル誘惑とか、中央アフリカでのチューバ奏者のミカエルとの決闘とか、まあ立派に演技していて、ある意味、オヤジギャグ満載の《光》サイクルを妙に格好良く見せてくれたりして。ちなみにでっかい地球儀は出ず、後ろに映像が投影されてました。オケをガッツリ練習したというだけあって、パスカル君の音色処理を含めた才気煥発さが最も反映されのもこの幕でありました。

この作品、第3幕になって段々と「シュトックハウゼン教」の世界に突入していくわけですが、全く偶然にも前日にシテ・ド・ラ・ムジークでクリーゼ最晩年の名ばかり高い4つのなにやらというオーケストラ歌曲を聴くことが出来、ああああやっぱりこの幕ではシュトックハウゼンはかなりスペクトラム楽派的なところに足を突っ込んでたんだなぁ、とあらためて感じさせられたのも収穫でした。演出としては、ルシファーとの最終決戦(って、なんど決戦するんだか、この2人は)の場面はルシファー歌手は終始客席で歌い、その映像が舞台の後ろに大きく映し出される、という今時の映像技術がないと出来ないやり方にアップデートされていて、ミカエル・トランペットとルシファー・トロンボーンが舞台上で戦うのとシンクロされていく。しんみりむっつりで倍音たっぷりで眠くなるこの幕を、なんとか楽しく眺めさせてくれた。ミカエルとエヴァは歌手を1幕と3幕で別の人にしたのも、現実的で賢い判断だったですね。結果として、カーテンコールでは三位一体じゃなくて4人がセットで喝采に応えることになったわけだけどさ。これ、ミカエル・チーム。ダンサー・ミカエルは少年のような女性。
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大拍手だったのはトランペット・ミカエルでした。無論、もうシュトックハウゼン息子じゃありません!

もうひとつ。ソロ歌手も器楽奏者も(コンマスのヴァイオリン独奏部分も含めて)コンタクトマイクを用い、会場にぐるりと設置されたスピーカーのあちこちに音像が移っていくIRCAMっぽいやり方が極めて巧みに用いられて、ミカエルが世界旅行でエファに出会うときにどこにいるか判らないとか、歌手の声が舞台に見えるのとまるで違う場所から聴こえるとか、面白い演出になってました。多分、スカラ座初演ではここまで意識的に出来ていなかったんじゃないかしら。

以上、いろんな意味で《光の木曜日》今風な原点回帰、数年前のバーゼルで出た「シュトックハウゼンの怪作をどこまで普通のオペラに出来るか」というやり方の対極にある上演でありましたとさ。
https://yakupen.blog.so-net.ne.jp/2016-06-26
チームに全くシュトックハウゼン・ファミリーが入っていない初の大規模上演だったそうで、その意味でも時代の変化を本格的に感じさせられましたです。

それにしても、パスカル君、30代の頃のラトルくらいに注目すべき輩でんがな。来年2月の《金閣寺》は、皆さん、必見でありますぞ。次は6月にシテで《土曜日》だそうで、問題の3幕は聴衆と演奏者がみんなで運河を船に乗って移動するそうな。うおおおおお、20世紀最大のおおぼら吹きシュトックハウゼンだなぁ。これはいかねばっ!

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