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ラン・シュイを偉くしよー! [演奏家]

キング牧師誕生日の休日が終わる頃になると、北米の劇場やオーケストラから次々と「来年のシリーズが発表になりました」というリリースなんぞが送られてきて、ああそろそろ春節だなぁ、なんてまるっきり滅茶苦茶な季節感を抱く今日この頃、皆々様はいかがお過ごしでありましょーか。

このところ、なんだか妙にプチお忙し状態になっていて、そもそもやって来るリリースの9割を中も空けずに捨てていて必要な情報もドンドン落ちていっているであろー隠居初心者とはいえ(21世紀10年代最後の今、御上や世間に騙されずに生きていくのに最も重要なスキルのひとつが「情報を捨てること」「情報を捨ててしまうことを気にしないこと」であることは、いまさら言うまでもあるまいっ!)、なんかの拍子に目に入ってしまう告知もある。で、たまたま眺めてしまったのがこちら。このリリースをwebで眺めるならこっちを教えて下さい、というところで出て来る画面を貼り付けます。
http://v.marketingautomation.services/view?k=3&c=308460019&j=78697884675&l=MzWxNDUxNTMwMbC0BAA&utm_medium=email&utm_source=sharpspring&sslid=MzWxNDUxNTMwMbC0BAA&sseid=M7QwMjc3MTE3NwQA&jobid=a642c5d1-4e7d-4cc9-a067-3d50718a4d3e

「シンガポール響の音楽監督ラン・シュイがとうとう退任、この週末に最後の演奏会となる《復活》やります。写真は26日に送りますので、さあ皆さん、記事にして下さい!」という典型的なメディア向けご案内です。ってねぇ、シンガポールって、ストレートタイムズ以外に、こういうもんを記事にする紙メディアってあるんかね?

こういうリリースですから、今更「ラン・シュイがどういう人か」とか、「この演奏会の意義はどんなもんなのか」とか、不特定多数メディア向けの情報はなにもありません。てか、言うまでもない、ってこと。

問題はその「言うまでもない」で…果たして少なくとも日本語メディアから情報のほぼ全てを得ているような文化圏の方にとっては、ちっとも言うまでもないことじゃあない、でしょうねぇ。

今、ちょっとググってみても、どうやら日本語では「ラン・シュイ」という情報はwikiにもないみたい。無論、英語版にはありますし、ハリソン・パロットの公式なプロフィルも簡単に出て来る。こちら。
https://www.harrisonparrott.com/artists/lan-shui
なんせ、煽りが「ラン・シュイがシンガポール響にもたらしたものが、セルがクリーヴランド管に、ラトルがバーミンガム市響に成したことに等しいのは、何者も否定できない。ラン・シュイは良いローカルオケを世界的なアンサンブルへと変貌させた」ってんだから。引用元はアメリカン・レコードガイドとなってるんだが…この媒体でシンガポール響について書くとすれば、まさかロバートじゃあるまいか。なんか、それっぽいなぁ。

ま、それはそれ。どうやら監督になったのは2007年だそうで、え、そんなもんだっけ、という気がしないでもない(追記:重大な間違い。音楽監督は1997年からです。最初に送られてきたリリースが間違ってた。あるんかい、そんなん!面倒だから本編の記述はそのままにしておきます。)。やくぺん先生が上海Qがソリストでゾウ・ロンのオケと弦楽四重奏の協奏曲をシンガポールで録音するのを見物に行き、シャンの連中と喋ってたら、オケの練習してるラン・シュイ様に叱られた、って頭抱えるような記憶は、監督になってからのことだったのかな。当電子壁新聞内の検索で探しても出てこないので、どうやら当無責任メディア開設前の2005年よりも前のことか。ってことは、「音楽監督」になる前も随分長かった、ということかしら。あ、このディスクですな。改装前のヴィクトリア・メモリアル・ホールだった。
http://tvanimedouga.blog93.fc2.com/

この10年くらい、録音も盛んに出ていて、なによりも現時点で存在する映像収録されたマーラー交響曲第10番ってのは、ラン・シュイ&SSOしかないんじゃないかしら。

思えば、ラン・シュイが監督になった頃のSSOは、「どんなレベルであれ、誰が考えてもインドシナ半島ではSSO以外にちゃんとしたオケがない」という20世紀末の状況から、この地域の経済大発展の中であちこちにオーケストラが出来、追い上げられ始めた危機的状況でもあった。実際、お隣でペトロナスが大資本をバックに世界中からオケマンを集めてマレーシア・フィルを設立しいきなり地域トップを目指した動きに対し、
ソウル市響(=ソウル・フィル)みたいに楽団員総入れ替えでオケを一気にワールド・トップクラスに持って行こうという動きはあったという。だけど、SSOは結局、それをやらなかった。ラン・シュイを監督に据え、地道に演奏力のアップを行い、オーケストラとしても様々な活動をするようにした。現状がアメリカン・レコードガイドの書き手さんが言うような「世界のトップ」かどうかは、まあいろいろな意見があるでしょう(東アジア地区だけだって、日本のオケはすっかり蚊帳の外で、香港フィルとか上海響とか、俺たちがアジアトップと豪語してる状況ですから)。とはいえ、少なくともそういう21世紀初頭のアジアのクラシック音楽の歴史の中で、重要な仕事をした人であることは確かなわけであります。

実際、一昨年くらいに辞めることを発表してから、SSOの方は「後任選びが大変」とぼやいてました。結局、決まったのかしら。首席客演指揮者にはアンドリュー・リットンを捉まえたみたいですけど。やっぱり監督になって貰うには、シンガポールは遠すぎるのかなぁ。世界最長距離のひとつの直行便で18時間越えだもんなぁ、NYからだと。

さても、ラン・シュイさん、暇になったんでそろそろ日本にも本格的にいらして下さってもいいんじゃないかなぁ。台湾なんぞには随分と客演するようになってるみたいだし。「まだまだこれからというところで著名オケの監督を辞めた人」はアランばかりじゃないぞー!

[追記]

2日目の本番終了後、大量の写真がSSO事務局から送られてきました。で、上の追記に記したように、最初のリリースは「音楽監督就任は2007年から」とあったのは間違いで、「音楽監督は1997年から」です。そーだよなぁ、やっぱり。

せっかくだから、公式写真を貼り付けます。ほれ。携帯カメラの嵐っ!
photo058.jpg
Lan Shui Farewell Concerts
25 & 26 January 2019, 7.30pm, Esplanade Concert Hall
Guest of Honour (on 26 January):
Minister Grace Fu, Ministry of Culture, Community and Youth
写真提供:“Singapore Symphony Group”

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きつね川

マーラーsym.10の映像は、Lan Shuiのほかにもうひとつ、
インバル指揮のやつが、RCOが出したマーラーBlu-rayボックスに入ってますよ。
いい演奏です!
(カーペンター版ではなくクック版ですが…)
by きつね川 (2019-01-26 12:07) 

Yakupen

きつね川様

一昨日に書きかけで放り出していたものをアップしたら直ぐのご返事、ありがとうございます。なるほど、ボックスに入ってるんですか。「単品ディスクで」とすべきだったわけですね。

情報提供、ありがとうございます。皆様あっての「少しは嘘ばかりではない電子壁新聞」ですので。
by Yakupen (2019-01-26 12:43) 

rx1202

こんばんは、上海在住者です。
水蓝(Shui Lan)は上海響でショスタコ8番、チャイコ1番などを聴いてきましたが、締まりのある演奏で指揮者によってダレるこのオケをしっかりとコントロールできるお気に入りの指揮者です。今年は6月22日に上海響で真夏の夜の夢全曲と中国人作曲家の新作の世界初演を行うのでタイミングが会えば聴きたいと思っています。
by rx1202 (2019-01-26 23:17) 

Yakupen

上海在住者様

情報、ありがとうございます。上海は、なんか顔を出すとアヤシイ楽器業者の人がワラワラ出て来て、楽器を東京にもってってくれ、とか危険極まりない話をしに張り付いてきたりする文字通りの「魔都」なもので(笑)、ホントに用事がないと行かないちょっと困った場所になってしまってます。ラン・シュイさんは杭州出身だそうですから、上海やらではこれからお仕事も増えてくるんでしょうかね。情報、宜しく御願いします。ロン・ユー御大の後続を目指せ、とは言わないけど。
by Yakupen (2019-01-27 13:05) 

のぼる

彼は1990年代半ばデトロイト交響楽団のアシスタント・コンダクターのような地位にいて、私は同オケの定期会員だったので、何度か実演に触れてます。その時の音楽監督はネーメ・ヤルビィ。ここでレパートリーを広げ、基礎を叩き込まれた気がします。


by のぼる (2021-01-02 20:39) 

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