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エベーヌQが達成した偉業 [弦楽四重奏]

昨晩、いつまでたっても梅雨が終わらない新帝都は溜池で、エベーヌQの世界ツアー東京公演が開催されました。
https://www.quatuorebene.com/beethoven-around-the-world-engl
この「ベートーヴェンで世界を巡る」と題されたツアー、言うまでもなく迫り来るベートーヴェン・イヤーに向け仕掛けられた(誰が仕掛けたのか、というのはまた別の話)イベントなわけで、ご覧のようにこのイースター明けくらいから年内いっぱいで世界各地をベートーヴェンを中心とする7種類のプログラムで総計40回くらいの演奏旅行を行い、それぞれのツアーで演奏が練れてきた最終回を中心にライヴで収録、ベートーヴェン・イヤー記念で世界超メイジャー会場で連続演奏会をする際にパッケージとして会場販売出来るようにする、というもの。ベートーヴェン全曲で7回ってどういうプログラムなんじゃ、とマニア筋の皆様はお思いでしょうが、個々の主催社側情報を眺めると

第1部北米編:作品18の1、作品131
第2部独墺編;ラズモ第1&2番
第3部極東編:ラズモ第3番、作品130&《大フーガ》
第4部南米編:作品18の6、作品127
第5部豪州編:作品18の2,《セリオーソ》、《ハープ》
第6部アフリカ編:未発表
第7部インド編:未発表

ってことになってます。まあ、作品14をやるかどうか、作品130改定版終楽章をどう扱うか、7回という余裕のあるサイクルならどうにでもなる(一部のツアーではベートーヴェン以外の曲もやっており、それほと求道的な感じになってないのはこの団体らしいというか、ジメナウアー新社長の現実路線というか)。作品18の4と作品132という人気曲がまだ温存してあるので、恐らくはアフリカがハ短調メインの作品18の残り3曲(+αで作品14?)、インドが最後なら最後らしく作品135と作品132、ってところじゃないかな。

昨日の演奏を聴く限り、この「ライヴ」の全曲録音は、ディスクとしては作品番号や作曲順に並べ替えるよりも、各ツアー毎に●●編という形で1枚づつのお皿にするのがいいんじゃないかい、と思えました。
予想部分も含めてだけど、7回でこのプログラム、これまでのベートーヴェン全曲演奏会でもなかったプログラミングで、なかなか上手くいってるじゃないかい。ライヴの演奏会としては短すぎる回もあるものの、ベートーヴェンだけを抜き出せば長さも丁度良い。なんせ、ラズモの1番と2番の間に性格の異なる別の作曲家の曲を挟む、って、やりそうでないプログラミングは、こういう年間企画をきっちり立てたイベントじゃないと出来ないしさ。

実はいちばん無茶っぽいのが、演奏会の前半と後半が共にでっかいフーガで終わる極東編だったんじゃないかしらね。昨晩はそこを無事に乗り切ったんだから、もうイベントとしての山は越えたんじゃないかな。その辺り、直接本人達に尋ねようと思ったんだけど、終演後に30分以上サイン会の列が出来
IMG_0164.JPG
終わるまで待ってたんだけど挨拶するしか時間がなかったもんで、尋ねられてません。ゴメン。

演奏の中身に関しては、書き出すとキリがなく、本日は先週の関西取材を原稿にする間に不在者投票に行かねばならぬので、ダラダラこんな無責任電子壁新聞をやってる暇はなく、敢えて誤解されそうなひとことで言っちゃえば、「21世紀型イタリアQ風ラテン系ベートーヴェン」でんな。基本、音程が自分で作れる旋律楽器という弦楽器のキャラクターに逆らわず、ヴァイオリン族の音色をそのリミッターの範囲内でギリギリまで拡大し、ダイナミックスやきっちり訓練された微妙なテンポ変化を細かく多用し輪郭をハッキリさせ(室内楽はメイジャー系奏者でも小規模ホールでの公演が常識になった今でこそ可能な、20世紀後半の大ホール対応型メイジャー弦楽四重奏団演奏様式ではやりたくてもやれなかったやり方)、まるで録音技師がミキシングルームでコントロールしたみたいな絶妙なバランスで各声部をきちんと聴かせつつも常に第1ヴァイオリンの旋律線が際立ちすぎずに聴き取れるようにする。
口で言えば簡単だけど、実際にやろうとするともの凄く大変な職人的作業をしてます。晩年のベートーヴェンの意外な程豊かな旋律性を追いたいオールドファンはそれでよし、古楽が再開発したヴィブラートや弓の使い方の違いを多用した音色の豊かさに溺れたければそれもよし、彼らの「ジャズ」から引っぱられた方なら強烈なアタックと明快に設定された高揚感に酔いしれればよし…どんな風に聴いてもそれなりにきちんと聴衆の求めるものが聴こえる音楽をやるって、プロとして凄く大変なことで、正に「メイジャー」でんな。これじゃなきゃ高いギャラは取れん、という音楽でありました。

個人的に興味深かったのは、《大フーガ》の作り方(というか、聴かせ方、かな)で、第1フーガ部を5つくらいだったか、第2フーガ部は3つくらいかな、ともかくいくつかのブロックに分けたこと。正直、あたくしめのようなどんぶり耳がライヴで1回聴いただけでは、どうやって聴衆にそういう印象を持たせたのか完全には判らないままでした(フーガ・モチーフのアクセントの付け方、実はフーガ内でも微妙なテンポの変化があった、アップボウのアタック中心の中に違うボウイングを混ぜ込んでくる…等々)。おおおおっと思った奴らは、ディスクになったら家で楽譜手にしながらもう一度聴け、ってことなんでしょう。

世界のメイジャー会場が2020年のベートーヴェン記念年弦楽四重奏業界代表に選んだだけの「メイジャー」感たっぷりの、ちっとも偉そうにはしてないけど堂々たる音楽でありましたとさ。

ま、それはそれ。昨晩の演奏会でやくぺん先生がホントに仰天したのは、客席でした。一昨日のハクジュさんはどうだったか知らないけど、少なくとも昨晩の縦使いにした溜池の紫薔薇会場には、いつもお馴染みの東京首都圏の室内楽好きの皆々様の顔とはちょっとばかり違った熱気で溢れてたのでありますよ。要は、客に30代以下くらいの若い男女がいっぱいいた、ということ。そんなの音楽学生だろーに、とお思いでしょうけど、確かにそういう層もあったが(きくところでは、桐朋学園の弦楽器にエベーヌ追っかけ隊がいるそーな。なんかこういうのって、90年代のカルミナ以来じゃないかい。エベーヌ出現後にヨーロッパの学生たちが古楽はしか転じてエベーヌ風ジャズはしかに一斉に罹っちゃって今に至ってる現象が極東の島国にも?)、明らかに今時の若年富裕層風なお洒落なお嬢さんとか、ちゃんとした青年とか、頭の白い爺やらがしかめ面して怖そうに座ってる弦楽四重奏会場とはまるで異なる雰囲気が醸し出されていたんですわ。なんなんねんっ!

エベーヌが売れる前の若き日から生活のためにやってた「ジャズ」の方で撒かれた種が、21世紀も10年代の終わりになって少しづつ育ってきているのか?そうであれば、そういう客層に対してもベートーヴェンでアピール出来る音楽を、エベーヌがしっかりやっている、ということ。

これ、スゴいことでありますよ。ホント。

終演後、やっと挨拶だけできたピエールとガブリエルに「こんな若い客、東京のベートーヴェンで見たことないよ」と言うと、本人達もビックリしてました。健全だっ!

エベーヌQ、ミュンヘンARDが「優勝を出します」大会に変貌して最初のこのジャンルの優勝団体として、その求められる歴史的な新たな使命を果たしつつある。いやぁ、立派になったものであーる、と老人初心者は有り難ぁくその天使が如きお姿を眺めるばかりな晩でありましたとさ。エベーヌのオリジナルメンバー男子のファーストネームって、ピエール、ガブリエル、ラファエル、ですからねぇ。

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