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チェロは歌うだけじゃ…ない? [現代音楽]

昨晩、一部で大いに話題のチェリストのジョヴァンニ・ソッリマがドヴォルザークの協奏曲を弾くのを見物にミューザ川崎まで詣でたでありました。

っても、一部の方々とすれば、ソッリマというのは作曲家なのかも。マネージメント業界現役時代には日本チェロ協会なんぞのお手伝いもしていたうちのお嫁ちゃまなど、ソッリマと言ったら「ああ、作曲家の」と仰いましたですし。楽譜の手配とか、権利関係とか、いろいろあったんでしょうねぇ。

さても、そのソッリマ氏、なにやらマイクが林立するシティフィルの前に登場し、ドヴォコンをご披露下さったわけであります。演奏家としてこういう曲を普通のオケと弾く、という所謂「ソリスト」としての活動はいっぱいあるのか、関係者の方に尋ねたら、先頃イタリアだかで3回だか続けてドヴォルザーク弾いてたそうな。
音楽は、まあお聴きになった方はお判りのように、演歌ギリギリとは言いませんが、楽譜の許容量いっぱいまでのルバートやらアッチエルランドやら、時間を自在に扱う。妙な音譜が山のように入ったりとか(ちょっとは入るけど)、音程がまるっきり違っちゃうとかではないんだけど、「弦楽器」というか、「チェロ」という旋律楽器の音の出方、出し方から不自然にはならない限界ギリギリの中で、最大限にいろんなことをしてみせてくれる、というもの(その意味では、先頃のエベーヌQにちょっと近いものがあるかな。無論、弦楽四重奏はアンサンブルだから、ここまで好きは出来ないけどね)。
ぶっちゃけ、自分でチェロを弾く方なら「ここはこんなことやっちゃったらカッコ良いだろうけど、ちょっと無理だよなぁ、俺には」なーんて思ってるようなことを次々とやってくれちゃう、ってか。なるほど、実際にチェロやら弦楽器やらをお弾きになる方々から演奏家としての人気に火が付き、アマチュア奏者を束ねるみたいな合奏をやっちゃうのもよーく判ります。これは「俺たちのアイドル」でんがな。ミニチュアスコアを手にしながらスピーカーの前で指揮者になった気持ちで聴く、なんて20世紀のオールドファンの方には、かなり抵抗あるかもなぁ。それにしても、これに付き合う指揮者さんとオケはさぞかし大変だったでありましょう。皆様、ご苦労さまであります。

ちょっと意外だったのは、独奏のダイナミックレンジは案外と広くはなかったこと。痛いような強烈なピアニッシモとか、オーケストラに負けじと鳴り渡る耳を聾せんばかりの大音響とか、そういうもんはありません。これまた、チェロという楽器が自然に歌える範囲内で、強弱の指定は物理的な音響ではなく、あくまでも表現として提示されます。だから、結果として、すごく聴き易いんですわ。これは一歩間違うとネガティヴな評価になりそうなんだけど、所謂「クラシック音楽」も滅茶苦茶広いダイナミックレンジを前提に存在する静寂なコンサートホールや自宅のオーディオルームではなく、電車の中でYouTube音源をちっちゃなヘッドフォンで聴く愛好家がいっぱいいる、ヘタするとそっちが圧倒的な多数である、という2019年現在の現実を鑑みるに、納得はいくやり方ではあります。
恐らくライブ録音していたであろう昨晩の演奏、今時の再生環境でも独奏者としてのソッリマ氏の芸風をきっちり伝えられることでありましょう。

てなわけで、ここまでは前座。面白かった、というか、とても興味深かったのは、アンコールで弾かれた自作の無伴奏作品でした。ソッリマ先生、なんとなんと、関係者が客席からスマホで撮影したとしか思えぬ動画をご自分のFacebookにアップしていらっしゃいます。Facebookの動画をどうやって引っぱってくるか良く判らないんで、ともかく、ソッリマ氏のFacebookページそのものをご紹介。ほれ。
https://www.facebook.com/sollimamusic/?__tn__=kC-R&eid=ARBYDLxBjU4jUj8GmJX__9j6r0YIHusC4Cumf-R8Ae0wBnpyVqYqXvl8ROTAyiMWxvDqnG72amRHA1xd&hc_ref=ARQZxWkr2BmwgbKw_vUYMWT2WYSPcEeacq1y2lgSGzaFn_uQgNGiwSmEvnGPAs348Bg&__xts__[0]=68.ARCpZiTjGZcNBSSI-d6DtbvmtfhbI5mfIPhxUZWfxJfHlxeBOfgrbQFjG5JL-H8YndI9o_DAFtpVCEabLZn2shPNpisjVZzVjO_3dE3u1weVUS-hYEDkbEgF4neSAl8-eXXilplKX74EgYHTFxtQ0MZlCeWrmT-uGhA7TW57V6DNnRwMBN26sPHykHaGygxrTCNVQwNgmQsM7Ax9AWaVRthcb_yRAExIfdHR7Hov-ar7KzC0xcGFT9XGPt7hDMx7c65wcRwUQ3WeaMEvi59gT8aWTDTOYZlK-rlzeV3CLrYOllawfDbUnMkaJEo_cGQmsQnZiMhUxPZbfwAhLq7ChrSCSo0zTZRBYzz8virNayb_5zMIrReAHHpZgaN9dO7JUkEksLZ3YCyuSLlwQ8OUWXVQ4zfPqL5rvdbVgTlXzfTqVplIV3BZolWTFNvKn7w
これを上からスクロールしていって、「場所:MUZA川崎」となってるホールの映像が昨晩のアンコール。こういうのを演奏も作品も著作権がある御本人がアップして無料で世界に見せちゃう世の中になったんですなぁ。もう「著作権」とか「映像権」とかの議論なんて、明後日の方向に置き去りでんな。JASRACさんも必死になるわけだわ。

もうこういう映像と音があるから、なんのかんの言うのも気楽なわけですが、ただ、現場で接していると、前半の歌を中心とした部分はともかく、特殊奏法と呼ばれるいろんな音の出し方が繰り出される後半は、やっぱりライヴでないと伝わらないなぁ、と思わされます。そんなんを割り引いても、いろいろ伝わるものはある映像でしょうけど。

お判りのように、作曲家としてのソッリマという方、この作品に限って言えば、「20世紀後半以降に開拓された無数にある前衛のチェロ奏法の中から、実際に演奏者として有効なものを選び出して並べる」って仕事をなさってる。正に「演奏者兼作曲家」がやるべきことを、しっかりおやりになっている。

チェリストの作曲家といえば、それこそ19世紀のヴィルトゥオーゾから延々と続く系譜があるわけで、20世紀後半にもウェルナー=トーマス・ミフネとか、知ってる方は良く知ってる作曲家兼チェリストがいた。そういう中で、ここまできっちり「前衛の響き」の最良の遺産を広く人々に伝えようと本気になってる奴は、いそうでいない。そういう意味で、このソッリマという作曲家さん、やっぱり只者ではないと思った次第。

100人チェロでそういうものが前面に出て来るか、ちょっと判らないけどねぇ。
http://plankton.co.jp/100cellos/

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佐藤

https://www.facebook.com/watch/?v=2587858711248725

↑これで良いと思われますm(_ _)m

by 佐藤 (2019-08-10 07:07) 

Yakupen

佐藤様

ありがとうございます。御世話になります。
by Yakupen (2019-08-11 22:30) 

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