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「御上」なしのアーツ助成を目指しましょう [音楽業界]

明日から10日程べったり続く恐怖の秋の取材週間を前に、今日はプラッソン御大の《幻想》なんて娯楽には目もくれずにしっかり溜まっているテープ起こしを始めねばならないのだけど、その前に昨日くらいから起きている我がニッポン国のアートへの公的助成金を巡る騒動について、へっぽこほぼ隠居老人たるやくぺん先生の意見を述べておかないと気持ち悪いんで、あっさりと記しておきます。全く読む必要などないのーてんきな一般論ですから、皆さん、すぐ帰ってさっさと自分の仕事をするよーに!

まず、先にひとつ言っておくと、やくぺん先生みたいな商売をしていると、「出るとあてにしていた助成金が出ず、困ったことになっちゃった」なーんて話は、音楽舞台の組織運営担当者やら芸術監督さんやらから耳にする(ってか、愚痴られる、というか)ことはしばしばあります。今回の愛知とは状況は違うでしょうけど、イベントをやっちゃってから予定していた助成金が出なくなる、ってのは珍しいことではない。
たた、ディレクターさんや担当責任者さんたちとすれば格好いい話ではないし、そんなこと世間のアートファンや音楽オペラ愛好家に言われたところで、「ああそうですか、そりゃご災難ですねぇ、来年、大丈夫なんですか、貴方の組織」としか言えない。だから、とりたて世間に伝えることもないし、「我が芸術団体は予定していた助成金が取れなかったために来年度は大幅に活動を縮小します」なんてプレスリリースを業界内に配ることもない。
つまり、普通は世間では知られることのない、あくまでも業界内の話なわけです。理由はいろいろあるんだろうけど、こういうことは珍しいことではない、ってこと。実際、この数ヶ月でもそれなりに話題となった某舞台作品を巡りそんなことがあったと、某団体責任者さんから聞いてます。

ま、それはそれ。

さても、芸術文化振興基金助成事業のマークを、わしら口さがない連中は大いなる皮肉と自戒を込めて「アートに手枷」と呼んでいます。つまり、それがどんなもんであれ、御上がらみの(この財団は一応は「国庫の税金+民間からの寄付金」で運営されているわけですが)金が回ってくる場合、道に落ちてた金を拾っちゃったラッキー、ってなわけにはいかないことは誰だって判ってる。「忖度」やら「御上へのへつらい」という反応をするか、「だからこそ、我々はこの取り返した金で民衆のために戦わねばならないのだ」と考えるか、それはいろいろです。

冷戦崩壊後の所謂「自由資本主義社会」では、「強制的に集め国庫に納まった金をどうやって分配するか」が立法府の有する政治権力のほぼすべてです。幸い、一応は合法的な身体的拘束や暴力を直接用いるのは極力避ける、もしくは見えないようにする、くらいの謙虚さは、流石に今のニッポン国御上にもあるようですので。だから、「金を出すのだから口を出す」という方法で今の御上をやってる連中が突っ込んでこようとするのは、当然と言えば当然でしょう。
そういう政府で良いという人が全有権者の2割弱くらいおり、今の選挙制度ではそれだけの支持があれば上下院の議席6割以上を抑えられるのですから、これはもう現実として仕方ない。今の御上連中にそれをやるなと言っても、魚に泳ぐな、鳥に空を飛ぶな、というようなもんですから。

「御上」が金を使ってアートやらに口を出そうとするのを本気でやめさせたいなら、方法はひとつ。所謂「芸術助成」のシステムから立法府の権力を排除するシステムを作るしかない。少なくとも組織上は、御上が関与できない人々やら組織やらが「芸術への公金助成」を行うようにするしかない。

普通、そういう組織を「アーツ・カウンシル」と呼ぶわけですね。今、大阪やら東京やらに存在している同名の組織とはまるっきり違うものです。どんなものかは、まかり間違ってこんな文章をまだ読んでる方なら、説明は不要でありましょう。判んなかったら自分で調べなさい。いくらでも調べようはあるんですから。

てなわけで、何を言いたいかと言えば、今回の騒動を起こさないようにしたいなら…文部科学省やら文化庁やら、その下にある所轄の独立行政法人たる芸術文化振興基金やらとは無縁のアーツ助成財団を作って、芸術文化振興基金に入ってるものであれわしらの税金からアートに回る金は、全部一度そこに流れるようにし、その団体が御上とは関係なく運用する。国やら自治体やらが特定の芸術イベントに直接お金を出すことは、制度上不可能にする。芸術への寄付もそこに集まるようにする。そのために、自分らの税金を御上が決めた割合で助成金として助成財団に流すのではなく、芸術支援のための寄付のシステムをきちんと整備し、そっちにお金を入れたらその分は個人であれ法人であれ税金からきっちりさっ引かれるようにせねばなりません。つまり、アートに分配されるように託した金は「国」に集まらないようにするってこと。

今起きてる騒動が、そういう方向に向けた動きへの最初の一歩にでもなれば良いのですが。

こんなときになんの夢物語を言ってるんだ、このボケ、と突っ込んでる方がいっぱいいらっしゃるでしょうけど、とにもかくにも、最終的にはそうするのが最も問題が少ないやり方だろうと思う次第。こういうやり方はやり方で、またいろいろ問題があるのは、それこそ英国の例などから判ってるわけですがねぇ。

さて、今日も元気に働こう。

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Yakupen

翌朝になってこのアホな文章を読み返してみると、いろいろ書き加えたり直したりしたい部分がいっぱいあるけど、ま、これこれで騒動が起きた翌日になにを思っていたかの日記ということでお許しあれ。

ひとつだけ誤解なきように加えておくと、今回の名古屋のトリエンナーレに関しては、正に「御上が直接やるアーツ・フェスティバル」であることが重要なポイントだったという特殊事情がある(来週開幕する「アジア・オーケストラ・ウィーク」がなんで特別なイベントなのか、と同じことです)。そこを突っ込んでくと、わしらが諸手を挙げて喜んでた「芸術文化基本法」は、現政権みたいな史上空前の酷い御上の場合は極めて危険なものになり得るんだなぁ、という反省があったりするわけだけど…

ま、それはまた現政権が日本国憲政史上の黒歴史になった頃に…って、もうこの世にはおらんわい、そんな頃にゃ。

by Yakupen (2019-09-28 08:52) 

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