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紹介の場としてのフェスティバル [現代音楽]

たった一週間弱とはいえバタバタとあちこち動きまわり、いつまで続くやら南洋のような湿気厳しい神無月の始め、恒例のアジア・オーケストラ・ウィークも今頃ジャカルタのオーケストラの皆さんが成田空港で帰国便JALへの搭乗を待っている時間となりました。これで今日はお休み、ってしたいところだけど、なぜか慣れないタイプの演奏家取材が午後からあり、これが終わらないと倒れられない。ふううう…

18回目となり、文化庁関係者さんが(今年は何故か長官の姿がない)パーティで「永遠に続けます」なんて言わん方が良い啖呵切っちゃったりしたこのイベント、商売もん取材なんでこんな無責任私設電子壁新聞にはあれやこれや書くわけにはいかんのですが、そっちには書きようがない感想をちらっと記しておきまする。

このシリーズ、これまでもやってくる各都市のオーケストラがなんのかんの趣向を凝らし「お国もの」作品を紹介してきました。リストなど作ると面白いのだが、かなり本気で自国作品紹介をする団体もあれば、アンコールがわりにお手軽なローカル娯楽作品でまずは盛り上がってくださいな、ってのもあり、聴衆への提示の仕方も様々。文化庁側から何か要求を出しているわけでもないようで、あるでやらず古典一本勝負みたいなオケもありましたっけ。

今年はたまさか近現代新作を盛んにやっている室内管ふたつと、モダン系作品を積極的に演奏している若い団体という特殊なキャラクターのオーケストラが集まってしまったのか、提示された作品の質やキャラクターが非常に明快で、その部分だけ取り上げても非常に興味深いことになっているの数日前にも記した通り。

んで、昨日のインドネシアのジャカルタ・シティ・フィルハーモニックの演奏会でありまする。この演奏会、チラシに印刷された演目どころか当日プログラムにすら記されていなかったのだけど、結果とすれば「インドネシアの今時の若い者が書いた21世紀初頭インターナショナル様式の短い管弦楽曲+地元期待の若手ソリストによる定番古典協奏曲+ロマン派以降のちょっとモダンな定番シンフォニー+実質上アンコールの大盛り上がりノリノリ系万人にアクセスしやすいローカル作品」という綺麗な演目となっておりました。うん、ひょろひょろっとした指揮者のブティ・ウトモ・ヴラオウォ氏、「ジャカルタの若杉弘」と呼んでやろーではないかっ!

追加で最初に演奏されたマティアス・サンボーンなる作曲家の、絶対にブリテンやらドビュッシーと並べて演奏されること考えてるな、って《故国の海の四つの風景》ったら
IMG_1415.jpg
「ああ、こういう若い作曲家がちゃんといて、どうやってか知らないけど、なんとか生活出来ているんだなぁ」と思わせてくれるもんでした。バリバリに突飛なことをやってるわけではないけど、今時のオケの鳴らし方をちゃんとわきまえて、適度の新鮮さもある。追加で演奏が決まったためか作曲家の紹介が全くないのだけど、今は本人のFacebookページなどで大雑把な仕事のあり方などは判るわけで
https://www.facebook.com/matius.shanboone
へえ、ジャカルタ出身でリュベックで勉強して、今はバーミンガムにいるのかぁ、今のインドネシアの若い連中って、オランダに留学するわけじゃないんだなぁ、ピアノ曲がウニヴェルサールから出てるのかぁ、なーんて写真眺めたりして。調べてみると、門天ホールでピアノ曲が紹介されたことなどもあるらしい。ダルムシュタットの講習会にも参加してるみたいだし、ま、典型的な頑張ってるインドネシアの若い作曲家くん、でありまする。

そういう「今時の若い連中」の姿を聴かせてくれた最後に、Dadang W.Sという作曲家さん、情けなや、年齢も経歴も全然判らない方の作品が置かれる。これがもう、ぶっちゃけ、外山雄三《管弦楽のためのラプソディ》21世紀初頭インドネシア版、って音楽でありまする。なーるほど、これだけ演奏して、会場大盛り上がりになって(指揮者さんが知性派で、ひたすらノリノリにぶち上げるというタイプではなく、大植えーちゃんが去年大邱やソウルで客席総立ちにさせたみたいなお祭りにはなりませんでしたけど、指揮者がそっちタイプだったらやれそうな曲でした)、「はい、これがインドネシアの現代のオーケストラ曲ですよ」って思われても困る、ということだったんだろーなー。

香港シンフォニエッタが今日の台中公演でも披露するロ・ティンチェンの新作もそうだけど、アジアであろうがどこであろうが、ポスト・ポストモダンのポストファクト、リミックスの創造大いに結構、って世界では、それなりに新たな「インターナショナル様式」としか言えぬ音楽の言葉遣いが出来てきてるよねぇ、と思わせて下さいました。さあ若者たち、次はこの会場を舞台とした武満賞を目指せ、でんな。

当たり前と言われればそれまでなんだろうけど、実際の音としてこういうことを感じさせてくれただけでも、この1週間の御上主導音楽祭、「紹介の場」としてのフェスティバルの目的は十分に達成しただろうと納得しましたです。

だからって来年もこういう傾向になるのは、全然判らないのがまた面白いところなんだけどさ。

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