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アジアでいちばん古いオケ大暴れ! [演奏家]

アジア・オーケストラ・ウィーク2019の番外編、哈爾浜交響楽団の演奏会が颱風迫る中、都下武蔵野市の市民文化会館、数ヶ月前に改装成った大ホールで開催されました。オケ連の偉い方やら先頃までAOWについて回っていたステマネさんなども顔を見せ、ホントにまるで今年の4つめのオケみたい。
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この演奏会、なんせ主催は哈爾浜市という文字通りの「御上主催の文化事業」であります。このポスターも、じっくり見ると興味深いところがあり、なんせオケの前に立ってるのが普通なら音楽監督だけだろうに、どうみても事務局だか市の人だかみたいな人物が両側にいらっしゃるんですよねぇ。

その指揮者ったら、なんとまぁ、ロン・ユーが世界で華々しい大活躍(日本での認知度は知りませんが…)を始める前は、ぶっちゃけ客観的に見て「中国出身&拠点でいちばん世界的に名前が知られている指揮者」のムハイ・タン御大であります。今年のAOW週間、香港シンフォニエッタのイップ様といい、中国の実力派著名指揮者をしっかり並べてきたんですよねぇ。オーケストラ・アンサンブル金沢はスダーン御大ですから、なんと立派なラインナップかっ!これも建国70年記念祝賀なのかっ!

金曜の午後2時という不思議な時間に開催されたこの演奏会、まあ、裏番組で皇居挟んだ反対側の錦糸町でもNJPが音楽監督で《オケコン》などという本気定期をやってるわけだから、格別珍しいとはもう言えないのかもしれないけど、やっぱり普通に働く人には絶対に来られない時間。じゃあ哈爾浜市や中国大使館関係の招待客ばかりで入り口で哈爾浜名物腸詰を配ってるのか、ってばそういうわけでもない。無論、関係者は多かったものの、たまたまなんかの形で告知を目にした多摩地区のご隠居音楽好きが「へえ、2000円で《新世界》が聴けるなら安いじゃないか」とやってきた、という感じでした。マニア層の顔は皆無で、唯一いらしたのは我が共著本の共著者、ハマの名プロデューサーH氏だけでありました。

演目は、期待していたローカル作品がなくなって《フィガロの結婚》序曲になっちゃったりで、えええええ、って感じだったんですけど、いやぁ、マジ、これがもう、めちゃくちゃ面白かった。今年のO楽のT誌年間コンサート・ベストテンに絶対に入れねば、という程の内容でありましたよ、皆のしゅー!

朝比奈隆ファンの皆様なら誰でも知ってるこのオーケストラ、創設やその経緯は面倒なのでググってみてください。恐らく、マニア向け記事がジャブジャブ出てくるでしょう。今時の中国らしい、バブル期ニッポンに匹敵するみてくれ外観のハッタリかまし放題、もとい、ランドマーク公共建築粒としての存在感たっぷりなコンサートホール(ぶっちゃけ、中国人民解放軍海軍の空母みたいなもんですわ)が次々と誕生している景気良いイケイケ社会らしく、2014年には哈爾浜市コンサートホールが経済特別区みたいなところに出来て、そこを本拠地に活動してる。長田音響さんが手がけていて、長田音響のホームページにしっかり「手がけたホール」のひとつとして挙がってます。外観の絵面は、ま、「哈爾浜市音楽庁」で適当に探してくださいな。いかにも今風なもんです。
https://www.nagata.co.jp/sakuhin/concert_halls.html

音楽都市宣言をし、モダンな立派なオペラハウスまで建てちゃってる哈爾浜市のオーケストラとなれば、広大な中国全土に雨後の竹の子のように誕生している振興オーケストラとはちょっと違うだろう、という期待は、ぞろぞろと舞台に登場するメンバーを眺めるだけでも高まってくる。北京国家大劇院管弦楽団の人に「中国で外国人団員を迎えたのはうちが最初」という話を聞いたことがあるけど、まあそれももう思えば10年以上の昔、経緯がどういうことかは知らぬが、新潟から武蔵野にやってきた哈爾浜響ったら、カンブルラン・ヘアのコンマスを筆頭に、コントラバス、ホルン、ファゴット、トランペット、フルートの首席奏者はヨーロッパ人。ヴィオラのトゥッティにも若い欧州人らしき男の子がいる。ホルン奏者に舞台袖下からお婆ちゃんが紙袋渡してるところをみると、どうやらホルンには日本人の若者がいるのかな。メンバー表を眺めれば、第1ヴァイオリンに山本要子さん、チェロには渋谷陽子さん、と明らかに日本人系な名前も。ホルンはキム・スジョンくんかな。どーでもいいことだけど、メンバー表に挙がっている「ネット放送」担当の李航さんって、なにやってるんだろうか?ベルリンのフィルハーモニーみたいに、ホールそのものにネット生中継用のシステムが組み込まれ、団としてもその専門家を雇っている、ということなのかしら。

ああ、コンマスに座ってた奴、こいつじゃないか。ザンクト・ガレンなんかで仕事してて、今シーズンから哈爾浜響に指揮者コンマス兼任のレジデンスで来てるそうな。
https://www.robertbokor.com/

…ってな経歴からもお判りのように、このオーケストラ、中国地方都市に10年代になって次々と結成されてる若いオケとは明らかに一線を画してます。敢えて語弊のある言い方をすれば、東アジアのまともなオケのひとつ、ってこと。タン監督が得意のハンカチパーフォーマンスで登場し、いきなり《フィガロ》序曲が鳴り始めるや、あああ、これはちゃんとしてる、と思わせてくれました。縦の合わせということはあんまり気にしておらず、声部全体がビエネッタ・アイスがズルズルっとずれちゃうみたいになることもあったりするけど、それでもなぜか格好はついてる。比喩的に言えば「音程がちゃんとしてるロシアのオケ」って感じです。後述のような大爆演をやらかしてくれるんだけど、でも音程がちゃんとしてるんで耳を聾さんばかりの騒々しさにはならないのは立派。

哈爾浜出身で国家大劇院管コンマスというソリストのヤン・シャオユのチャイコ協奏曲は。まあ独特の歌いまわしの芸でこれはこれ、なんかあんまりチャイコフスキーに聴こえないというのが凄いなぁ。
とはいえなんといえ、本日の白眉はタン御大の《新世界》にトドメを刺すっ!最初から指揮台なしの舞台中央へと歩いて出てきた御大、ポディウムに向かいながら流麗に右手の指揮棒を対向配置に振ったヴィオラの方に向かって突き出し、なんともう音楽が始まってしまう。そこからは、「おいおいおい、そんなこと楽譜のどこに書いてあるだぁ」と突っ込んでもなーんにも意味がないやりたい放題。楽器や音を変えちゃうわけじゃないけど、そこで強烈なリタルダンドするかぁ、そこであんた太鼓にfいくつ付けさせたいんだぁ、という音楽。だけど、それがなんかいかにも格好が付いているんだから、まあこれはこれでありだろう、チェコの連中だってもっとトンでもないことするもんね、って納得しちゃう。正に巨匠芸、荒れる暴れる大爆演、「中国のストコフスキー」とは言わないが、敢えて「中国のコバケン」「中国のエンリケ・バティス」と賞賛しよーではなかいっ!

聴衆に楽章間の拍手なんぞさせまいぞと全部アタッカで続け、聳え立つ摩天楼を仰ぎ見るといよりも、聳え立つ摩天楼をぶっ潰せと中国北方から遠路飛来したドラゴンが大暴れするような終楽章が、ニュージャージーならぬ満州の彼方に壮大に沈む夕日のように金管の雄叫びに消えていくや、一瞬の静寂を破り客席からは怒号のような喝采が武蔵野の地に巻き起こるのであったぁあああ!

割れるような喝采に応え、なんと和太鼓なんぞがいつのまにか舞台上手に引っ張り出されていて、始まったのはあっと驚く、小山清茂《木挽き歌》ではないかいっ!さらにさらに、なんか知らんが中国の作曲家の管楽器がマウスピースだけを吹いたり、オケマン全員が声を出したり大騒ぎの音楽が、ホール天井も割れよ、颱風なんぞいっちまえ、とばかりに響き渡るっ。出口での告知に拠れば、この曲らしいです。
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そして終演後には、でっかい横断幕が出てきて、ホールの真ん中に座っていた市関係者らしき人々も舞台に上がり、大インスタ大会で熱狂の時間は幕を閉じたのであった。
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哈爾浜交響楽団、いったいいくつあるか判らぬ「アジアで最も古いオーケストラ」としてのプライドも、振興音楽都市としての誇りも決して嘘ではない、大盛り上がりの秋の午後でありました。H先生苦笑しつつ、「ウラル交響楽団以来だねぇ」とのこと。なーるほどね。

哈爾浜、やはり一度くらいは行ってみないといかん都市だなぁ。

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