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台風一過の川崎にて [音楽業界]

荒川放水路や中川放水路が決壊し葛飾巨大柿の木周辺も水没するやもしれぬ、という不穏な情報が金曜朝くらいからマスメディアやらSNS上で乱れ飛び、あっちいったりこっちいったりのバタバタの台風19号襲来、皆様いかがお過ごしでありましょうか。ここ大川端は大川の水位は上がっていつものノマド場藤棚下の水辺プロムナードも冠水していたようでありますが、まあ、あそこはそういうための場所なんだからそれはそれ。治水こそが領域国家統治の基本と、20世紀前半に伊藤左千夫が牛に餌やりながら歌詠んでたような湿地帯に巨大な放水路を掘ってトーキョーの東をまともな場所にした先達の努力に、感謝するばかりでありまする。なんせこの場所、たかがまだ400年程度の新開地なんですからねぇ。

って世間話は、実は本日のネタの本論に繋がっているわけでありましてぇ…本日午後、各地で河川氾濫情報相次ぎ鉄道寸断、神無月も半ばとは思えぬ湿った熱風が南西から強烈に吹き込む晴れ渡った空には国土交通省の河川管理の新型ヘリが飛び回り、足りなくなって関西からも助っ人が荒川放水路河口埋め立て地ヘリポートへと押っ取り刀で駆けつける姿が目撃される中、ミューザ川崎に詣でて参りましたです。

荒川放水路と大川に挟まれ、かつては縦横に走っていた運河が埋め立てられて道やら公園になっている墨田区では、昨日はさっさとトリフォニーのNJP定期はキャンセル。金曜に武蔵野で哈爾浜交響楽団が大盛り上がりで演奏を終え、携帯をオンにしたら、事務局から中止の連絡が入ってました。んで、本日の川崎も、なんせ皆様ご存じのようにシン・ゴジラにやられまくった武蔵小杉やら、ポップカルチャー系展示で人気の川崎市美術館がある辺りの多摩川が決壊、水が出ているという。ミューザ川崎がある区でも冠水し避難している市民がいるらしい。これはやっぱり中止かなあ、と思ってミューザのスタッフに「やるんですか?」と連絡したら、昼前にくらいに「オケマンが全員来られると判ったのでやります」との返事が。

うううん、果たしてどれだけ聴衆が集まれるのやら、そもそもスタッフがちゃんと集まれるのか?どうなることか、ノット御大がアイヴス《答えのない質問》とシューベルト《未完成》を続けてやるという、とっても今風のやり方がどんなもんなのか眺めてやろうと思ってた関心は、まるで別の方向に向いてしまった。同じ区内が冠水している中で敢えて「クラシック音楽の演奏会」を市が開催する決断は、どのような結果になるか。世論の動きに拠っては、主催した市の文化財団は世間から大非難に晒される可能性もあるぞ。そうなったときには、一応、ぎょーかいの内部が見える人間として、客観的に何か言えるようにしておかないとまずいかもなぁ、まあそれが役回りな訳だし…

ってなわけで、些か、ってか、ものすごおおおおおく気が重いけど、大川端は佃縦長屋から六郷川の向こうまで出かけることにした次第。電車はちゃんと走ってるかいな。月島駅に向かう途中、大川から水ががっつり入ってきた佃堀には、神田川辺りから流されてきたのか、こんなでっかいもんが哀れな姿を晒しカラスやらトンビやらがご飯にしてくれるのをプカプカ待ってるし
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月島駅大江戸線の改札駅員さんに「川崎まで、京急で行けるんですか?」と尋ねると、浅草線から京急への直通運転はしてませんが品川に行ける列車は何本かに一本はあるようです、とのこと。普段は大門乗り換えで30分ちょっとで京急川崎まで行くんだもん、開演まで2時間近くあるからなんとかなるだろーに、と大江戸線に乗り込む。東京駅からJRという道もあるが、JR東日本は昼前の段階でウェブの案内ではまだ動いていないみたいだし、動き始めは大混乱だろうし。

さても、誰がこんな日に地下鉄乗ってるのやら、と思えばそれなりに人はいる。大門駅で大江戸線からいつものように浅草線のホームに上がってくると(あれだけどんどん上がっても、まだ地下なのじゃ!)、ホームにはでっかい荷物を引っ張ったり背負ったりしたインバウンドさんがいっぱい。ああ、なるほど、みんな羽田アクセスなのかあ。で、駅員さんが必死に対応している。曰く、「品川京急方面の連絡はしておりません!JRかモノレールに行ってください!」おいおい、それならそうとさっさと教えてくれれば東京駅に出たのに…と文句を言ってもしょうがない。状況は刻々変化し、インバウンドさんお上りさんの最後にして最大の武器たるグーグルマップさんやらNAVITIMEさんやらは対応など出来ていない。これはもう流されるしかないと、慌てて浜松町駅に向かえば、目の前をネイビーブルーのスコットランド応援団さんたちが歩いて行く。ちゃんと時間までに競技場に到着出来ると良いんですけど、スクラム組んで突進しても電車は走らないしなぁ。
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とにもかくにも浜松町駅京浜東北線ホームに向かうと、こんな表示。
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おいおいおい、川崎まで行かないじゃないかぁ。蒲田で京急に歩けというのかい、おおおお、目の前を東海道線が下って行くうううう!これはともかく、来た列車で品川まで行ってみるしなかない。と、京浜東北は全然来ず、山手線がやってきたので、慌てて乗り込み、建設中の高輪門駅は妙な場所にあるなぁ、と眺めながらJR品川駅に至る。上のコンコースに上がれば、おやまあ、京急乗り換えはでかい荷物のインバウンドさんで溢れかえっていて、向こうには何事もなかったかのように快速特急三崎口行きなんぞが停車しているじゃなの。

京急蒲田でNAVITIMEガン見のインバウンドさんたちがどっさり降り、列車はいつもより若干のんびり気味に六郷川にさしかかる。おおお、濁流が渦を巻いておるわい。
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降り立った川崎の街は、洪水騒動で人も閑散かと思ったら、なんてこった、水ならぬ人で溢れてます。地下の飯屋街は半分くらいが閉まっていて、結果として開いている店はどこも大行列。JR超えてミューザ側に行っても、マグドナルドからリンガーハットに至るまで行列で、カフェには食い物らしきもんはなく、コンビニにもおにぎりサンドイッチ類はスッカラカン。しょうがないので「肉まんください」というと、すいません、肉まんは今入れたばかりであと20分くらいかかるです、ピザまんなら出来てます…

かくて、どこから出てきたか、思ったよりいっぱい人々が待っているミューザ川崎チケットもぎり口前でピザまんなるものを喰らうが…売れてなかったのはやっぱり訳がある好き嫌いがはっきりした食い物であったぁ。いやはや。

ミューザのスタッフさんに拠れば、本日はオケマンは来られたけどスタッフの数は万全ではなく、いつもの散らし挟み込みなどは出来ていない、開演も10分押します、とのこと。こんな告知が。
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正直、やくぺん先生ったら、ホールが当日プログラムに挟んで下さる自分のところの公演チラシは全部チラシスタンドに戻しているので、挟み込んでくれない方がよほど有り難い…けど、そうも言えないもんね。

客席はどこからどうやって来たのか、毎度ながらのご隠居中心の休日午後のコンサート、6割くらいかなぁ。昨日はサントリーで東響定期演奏会として予定されていたが中止となり、それまで3日も練習してきたのでどうしてもやりたい。幸いにもホールは自前みたいなもんだし、夜の公演は貸ホールとして入ってなかったようなので、開演が押しても問題はないのだろう。で、開催を決定したそうな。

音楽は、目的だったアイヴス+シューベルトは余りに違和感なくフィットしちゃって、「ああそーですか」って感じ。意外にも、といったら失礼だけど、後半にメインに据えられたブラームスの若い頃のピアノ協奏曲が、細部の猛烈に魅力的な断片をぶちまけただけの音楽ではなく、特に冒頭楽章が無茶な造りなりにそれなりにちゃんとした音楽に聴こえたのに、大いに感心させていただきましたとさ。

終演後、スタッフにご挨拶もそこそこ、京急の混乱を避けてダイヤなんてあってなきが如きJR東海道線に飛び乗って、あっという間に東京駅まで戻り、何事もなかったかのように走ってる都バスで大川端まで戻ってくれば、午後5時ともなればすっかりのんびりした釣瓶落としの夕暮れが大川を照らしてる。まるで「世は全てこともなし」、と言いそうになっちゃうぞ。

先程、ラグビー大騒ぎで沸くお茶の間の隅っこでパソコン開いてたら、先程忙しそうにしていたスタッフさんがFacebookでこんな風に記していらっしゃいます。まんま、貼り付けます。
「今日の公演、随分とチケット忘れのお客様が多いなあと思ったら。全員には聞いていないけれど、ほとんどの方は避難所から直行された方々でした。昨晩避難して、家に戻れず、そのままいらしたと。その方々の置かれた状況を考えると辛いですが、それでも来てくださるなんて嬉しいじゃないですか。開催できてよかったです。」

あの客席でロシア美女の意外に無茶のないブラームスを一緒に聴いていた人々の何人もが、所謂「被災者」さんなのだった。家に帰れないから切符が手元にない、でも、晴れ上がった午後、避難所にいるくらいなら歩いてでも駅前のホールまで行って、素敵なブラームスを聴こうじゃないか…そういう人たちに、あの音楽は深く染み入っただろう。スポーツの熱狂でこの瞬間の苦しさを忘れられると仰るなら、シューベルトやアイヴスの音の世界にも同じくらいの力はあるのさ。

あそこにいた数十人の人たちのためにも、川崎市は膨大な公金を使ってこの場所を用意し、音楽家が人生をかけて練習をして、披露してくれた意味はあった。これだって、アートの力。

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