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豊洲で「鳥獣戯画」を聴く [現代音楽]

東京湾岸は豊洲、舞台の後ろに遙か晴海大橋、豊洲大橋、そしてトーキョー虹橋の夜景がいっぺんに眺められるシビックセンターホールで、京都の(だと思うんだけど)作曲家鈴木陽子の個展を聴いて参りましたです。
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なんでまたそんな地味な、とお思いになられるかもしれないけど、理由はまあいろいろあって、ひとつはアンサンブル・ノマドのメンバーが限りなく「我が街」に近い豊洲なんぞにやってきてくださるなら、これは行かねば、ってこと。

それから、この作曲家さん、昨年だかに大川遡った門天ホールで、今、一部で話題のヴァイオリニスト石上真由子なんぞが加わる弦楽四重奏団で全部新作の弦楽四重奏と朗読だかのコンサートをやっていて、それでなんとなく気になっていたということ。そのときの演奏会のCDが出ているようなのだが、なんかわざわざ買うのも面倒だが、恐らくこの演奏会に行けば売ってるだろう、って魂胆があった。買い物ついでに聴いてくる、みたいで失礼この上ないなぁ。

てなわけで、新帝即位式があけ晴れ渡った空の下、未だ新帝都の空は戒厳令下で警察と消防ヘリ以外一切飛ばない妙な秋の素敵な日が釣瓶落としに暮れていき、風もそれなりに冷たくなった頃、チャリチャリと佃大川端縦長屋から豊洲の駅横、今時のモダンにガラス張りオシャレ空間になっちゃったシビックホールに向かったわけであります。

作品は実質全部新作で、ノマドの木管五重奏にピアノ&指揮で巨匠中川賢一が参加。どういうものかはこっちをご覧いただいた方が面倒ないでしょ。
https://atelier-canon.jp/office/1023yoko-suzuki/
って、殆ど作品の情報がないですねぇ。ぶっちゃけ、日本というか世界の漫画の元祖たる『鳥獣戯画』に描かれた動物の姿を「絵巻物の時間軸の水平移動に着目」(鈴木)して音にした連作木管室内楽集です。全部で7部から成り、編成はホルンとピアノの二重奏、フルートとオーボエとピアノの三重奏、という調子にいろいろあり、最後は木管五重奏にピアノ(半分以上仕事は指揮)が加わる大編成になる。演奏時間は休憩込みでまるまる一晩の演奏会なんで、こういうの、案外、ありそうでないわな。

音楽は、基本的に「小品の集まり」です。絵巻物、というと武満の《カトレーン》とかを嫌でも思い出すわけだが、要は「テーマが時間軸に沿って展開していく」のではなく、漫画が次々と繰られていくようにあまり多くない素材を楽器がやりとりする瞬間が重ねられていく、というもの。曲によってはある対位法と呼ぶべきものはあるけど、ガッツリなにかが起きていくというよりも、瞬間の積み重ねです。

楽器に動物が当てられて相撲をしたりする、って部分もあるそうだが、あくまでも作曲者は「鳥獣戯画」にインスパイアーされて作品を作っているのであって、決して「鳥獣戯画」の世界を音で描こうというオペラっぽい、交響詩っぽいものではありません。これはこれで、納得は行く。NHKEテレの日曜8時の番組で「鳥獣戯画」を精密に映していくときに、背景にBGMで流れていれば、ああああ、なるほどねぇ、ってなんとなく納得は行くかな、という感じ…かな。

最大の聞き物は、全楽器が登場する「法会」といういちばん大きな、20分以上かかる6部から成る部分。ここが最後に演奏されました。興味深いのは、管楽器の「吹く」という行為を思いっきり拡大していること。楽器を叩いたり、吸い口部分だけで吹いたり、楽器なしで吹いたり(要するに、限りなく声楽パートです)、いかにも今風に様々にノイズも素材として利用する。小林一茶の6つの俳諧を奏者が読むところもあるのだけど、言葉として「意味」が伝わることが目的ではなく、あくまでもサウンド。最後は、音色旋律みたいに6人の奏者が断片をつないで「我と来て 遊ぶや親の ない雀」と叫び(喋り、でも、歌い、でもないんで…)おしまい。ここだけはちゃんと言葉として聞き取れる。

木管五重奏とピアノという、かなり多彩な音色が引っ張り出せる曲で、「言葉」や「絵画」を創作のインスピレーションにしながらあくまでも純粋に音の世界を展開している、なかなか飽きない時間が東京湾岸の橋々のライトアップを背景に展開されたのでありました。

というわけで、この作品は意外にも全く寝ないで聴けた(失礼ながら、つまらんと平気で寝ちゃう爺なもんでして)んだけど、そもそも目的だった弦楽四重奏のCDは無事に購入出来たものの
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果たして鈴木さんという傍目から眺めた京都の喫茶店の人の良さそうなおばさまにしか見えない作曲家さん、弦楽四重奏という極めて音色としての素材が限られた世界でホントにやれるんだろうか、要らぬ心配をしてしまうのであります。まだ封を切っただけで、明日、朝っぱらに葛飾オフィスで柿の実掃除をしたら、別の作文仕事しながらになりそうだけど、聴かせていただきましょう。ちょっと想像が付かないなぁ。

身近なところでいろんなことが起きている。トーキョーはまだまだ面白い場所ですわ。

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