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伝統的現代音楽お勉強の秋 [現代音楽]

新帝君臨するニッポン国、秋ともなれば何やら知らねどブンカブンカといきなり声高になり、ましてやブンカ(や、そこをどうやら統括していらっしゃるらしい官庁)が世間を賑わす大騒動を次々と引き起こして下さる今年、正にブンカの年でありましょうぞっ。

だから、でもないのだろうが、どいうわけかこのブンカの日連休に、狭い狭いゲンダイオンガク業界でも新帝都で大きな催し、ってか、お勉強会がじみぃになされているのでありまする。ひとつは、そのキャパシティの適切さと何でもやらせてくれる会場側の太っ腹さから、すっかり東京東の「ゲンダイオンガク」の中心地となりつつある両国に引っ越した門天ホールで、こんなん。
http://www.monten.jp/EP3
特に明日ブンカの日は、「今や再生などが面倒なことになっていて実質演奏が不可能になりつつある初期テープ音楽とピアノのアンサンブル」という、懐かしくも麗しいゲンダイオンガクの伝統を今に伝えようという貴重なことをやってくれる。このテーマ、本気で論じ始めると極めて興味深い「メディア論」で、昨今のレコードやらカセットテープのリバイバルとも関係なくもないのだろーなー、と妄想せざるを得ないのだが、ま、それはそれ。

もうひとつは、伝統と格式の南青山は高橋是清公園周辺、かつてのとんがりブンカの発信地のひとつだった「ドイツ文化会館&草月会館&カナダ大使館」の一角で行われている「ベルリン・東京 実験音楽ミィーティング」なるイベント。昨日は、この関係者のみ一見さんお断りみたいな、地味というか、超蛸壺なイベントの中でも最も広く世間に開かれた「ヴチコヴァ無伴奏ヴァイオリン演奏会」なるものをご紹介しました。これマジ、(演奏会を開催する意義という意味で)今年の神楽坂コンサートベストテンに入れてもええんでないか、と思わされる立派なものでありました。

そんなわけで、本日も溜池の超メイジャー大ホールでラザレフ御大がグラズノフの短調交響曲なんて珍なるものをやっていただけるので拝聴させていただき、聴衆の9割がお目当てであろう後半の《火の鳥》全曲をパスって、だらだらと休日の米大使館宿舎脇から新帝都の超高級住宅街を抜けて、新帝のお住まい裏まで参ったわけでありました。

昨日ご紹介した作品を手がけたベルリン在住のアーティストさんがディレクターをなさっている、これまた伝統のゲンダイオンガクを今に伝えるいかにもブンカの日に相応しいフェスティバル、最大のポイントは演奏会じゃなくて、セミナーであるのはお判りでありましょう。ベルリンで活動する「即興演奏」の大家を集め、どうしてこんなもんに関心を抱いたかはともかく、日本の若いアーティストさんやアーティストを夢見る学生さんやらにセミナーを行い、人間関係をつくっていただき、こういうもんを本気で教えてくれている学校があるドイツに留学するにはどうしたらいいか、どこに先生がいるか、資金はどうしたら良いか、などなどの情報交換をする場所なのであります。一見さんお断り(ってか、いてもしょーがない)世界でありまする。

この類いのネタに関心がない方には「即興演奏の勉強ってなんじゃ?」とお思いでしょうねぇ。いや、その通りで、「即興演奏」なんだから己が感性の赴くままに好き勝手なことをやればいんじゃろ、と思いでしょうねぇ。正にその通りなんだろうが、どうもそういうもんでもない。「即興」という言葉の意味が違うんですわ。

ここでセミナーが開催され、その道の大家が存在し、勉強の仕方や先生や学校までちゃんとある「即興」とは、誤解を恐れずに言えば、「普通の意味での楽譜に書き下ろして記すのが極めて難しい特殊な奏法での再現」という意味です。で、先程行われた「即興演奏コンサート」とは、「特定の奏法に秀でた巨匠級のアーティストが、それぞれが個人様式として確立した奏法を持ち寄り、指揮者や譜面なしでアンサンブルを作り上げる」というもの。同じ演奏の再現は二度はあり得ないという意味での「即興演奏」であります。

まずは、やくぺん先生がグラズノフのどロマンティックな世界にちょっと辟易としていた頃、極めて多彩な声の表現のカリスマ巨匠ウテ・ヴァッサーマンがワークショップをやり、日本の参加者を鍛えてました。こんなんやる方。
https://www.youtube.com/watch?v=ZvYTJDUlzQE
即興演奏の冒頭には、ヴァッサーマン女史率いる先程勉強した皆さんのアンサンブルが、様々な声の表現を聴かせてくれる。ヴァッサーマンは実質的に指揮者で、彼女が特殊声楽マシンとなった参加者さんたちにキューを出し、その場で先程学んだ声の使い方を様々に披露する。ま、確かに譜面もなく、再現不可能なアンサンブル、即興でしかないのだが、決して「好き勝手に感性の赴くままにやっている」というわけではなく、ちゃんと周囲や前後のやってることを聴いて繋げていく究極の自発的なアンサンブルなわけですわ。

この「即興コンサート」、そんなような再現がそれから延々と1時間半くらい続きます。次に登場したのはベイルート生まれのトランペットを基本にする即興の大家で、トランペットというモノをあれこれいじり回し、いろんなことをする。垂直に立てたラッパ口にプラスチックのお皿乗っけて、そこにいろんな物を入れて振動させて音を出したり、とか、懐かしの「騒音系」としか言い様がない極めてダダイズムっぽいもんをやってくれる。ターンテーブルをいじるDJさんたちが登場し、足立ディレクターも加わるトリオのパーフォーマンスは、耳も聾せんばかりの騒音の中で叫んだりわめいたり。
IMG_1734.jpg
さらにはヴチコヴァ女史がDJさんと共演し、最後は声、ヴァイオリン、コントラバス、DJというベルリンからの実験音楽の巨匠たちの即興アンサンブルで盛り上がる、というもの。いやぁ、音圧に抗するだけで十分に疲れたぁ。

こう記すと、相変わらずのダダイズム、騒音音楽、バウハウス、はたまた60年代前衛系ハプニングまだやってるのか、とあきれ顔の方も少なからずいらっしゃるでありましょう。前衛の時代が終わり半世紀、こういう様々なもんは時間の中で淘汰され、生き残ったものは、今や20世紀後半以降に開拓された表現のひとつの表現のあり方として教えたり教わったりするものになっている。前述のように「即興」とはいえ、譜面に書かれたものを再現するのと質的に何が違うわけではなく、再現が出来ないという違いがあるだけ(譜面に書かれたって、ホントは再現など出来ないのはこの時代を経てきた人々ならよーくご理解なさってるでしょうけど)。

ヴァッサーマン女史のやってることなど、そーねー、あああキャシー・バーベリアンみたいだ、て思う方は多いでしょうし、今時の「現代オペラ」では完全にひとつの表現法になってるもので、これにある程度の時間に配置されたストーリーがあったり(なかったり)して再現可能性が保証されれば、所謂「オペラハウス」が実験劇場でやる新作でござい(シーズン終わりのベルリン・ドイツ・オペラがシリーズで出してるような)と言われれば、そのままああそうですか、と納得しそう。トランペットさんの即興演奏なども、《光》チクルスの中でミヒャエルがこういう風にやるシーンがあるのです、なんて言われれば信じちゃいそう。

つまり、完全に今の「ゲンダイオンガク」語法として広く世間に認められている類いのものなんでありますね。それぞれのやり方はきっちりあるが、余りに相互の方法論が違うので、こういう異種間格闘技みたいなセッションも成り立ち得る。そのぶつかり合い方、ぶつけ方を議論することも可能になる。

パーフォーマンスのレベルがここまで高いと(正直、DJというジャンルは良く判らないけど…)なるほどねぇ、こういう世界がしっかり広がっているのだなぁ、と納得さざるを得ぬものばかりでありました。ついでに、「21世紀に最も重要な楽器って、アップルコンピューターとスピーカーシステムなんだなぁ」と間抜けなところに感嘆したりして。

かくてブンカの日の週末は、全く世の役に立たぬ(=アート)喧噪の中にくれていくのであった。こういう「ブンカ」が堂々とやってられて、こういうもんをやりたいなんて突拍子もないアホなことを考えちゃった世界中の若者を受け入れてくれるベルリンでいて欲しいものであります。トーキョーってば…ま、これで良いんじゃないの、としか言いようがないわな。

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