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若い弦楽四重奏三題 [弦楽四重奏]

2020年1月を今世紀開闢以来の猛烈な作文作業量へと追い込んだ大騒動も終わり(出来上がったものに大量の誤植発見…うううう)、滞っていた日記、写真処理、各種細かい連絡事項も昨日の夕方で全部当面の処理が済み、やっと日常が帰ってきたと思ったらもう如月半ば。税金やらにゃならん時期じゃないの。っても、1月に物理的に限界を突破した作文作業の間にやらねばならなかった取材が膨大なテープ起こし二つ含め、取材メモ4つが手が着いていないという日常業務としてみれば甚だマズい状況は続いているわけで、シン・ゴジラ目線の勉強部屋でボーッとしているわけにもいかぬ。これだけ働いてなんでこんな…と預金通帳をじっと眺める有様なのには、もう今更どうこう言いますまい。ふうううう…

「書いてあることはみんな嘘、信じるなぁ」をモットーとする当無責任私設電子壁新聞も、普通の状況ならばお伝えしていたであろうあれやこれやをボコボコ取り落としており、だからといって広告収入もゼロならサブスクライブでもない無責任媒体ですから、フォローせねばならぬ責任もないわけで、まあしょーがないよねぇ、というだけ。とはいえ、流石にそれじゃまずかろーに(何故マズいのか、そこは面倒だから問わないでくれ給え!)、ってわけで、最低限のフォロー。

「世界中のメイジャーな弦楽四重奏コンクールや音楽祭には顔を出す」という生活からの引退を宣言して半年と少し、この1月だって、これまでなら香港の室内楽音楽祭、パリのクァルテット・ビエンナーレ、イレーネおばさまの若手支援団体選出コンクールも兼ねたハイデルベルクの春音楽祭(なんせ、あの韓国のお嬢さん4人組に最初に手を伸ばしちゃった場所ですからねぇ)、そして第2回アムステルダム弦楽四重奏ビエンナーレ、と今までなら1月の2週くらいから2月頭まではずーっと極東の島国を離れており、既に今の段階でベートーヴェンの弦楽四重奏全曲を様々な団体で2サイクルくらいは聴いていたであろうネタ仕込み超ハイシーズンであります。そんな生活からの現役引退宣言したら逆に作文仕事が40代の頃みたいに振ってきた、という訳のわからん状況でんがな。いやはや…

実質的な如月第一週となる先週、2日日曜日、4日火曜日、6日木曜日と一日おきに新帝都首都圏の外れの方まで足を伸ばした若手(結成時期が、という意味)弦楽四重奏団三連発のプチご報告でありまする。ぶっちゃけ、読者は自分です。引退宣言はしたといえ、自分ちの近くの釣り場で起きてることくらいは眺めに行かないと体がなまってしまうし、ホントになにも判らなくなっちゃいますからねぇ。だから、商売もんではない、あくまでも自分のためのメモ(今、本屋さんで売ってるだろう「O楽のT」誌の「年間コンサートベストテン」などというケッタイなイベント記事や、世間には出回らない日本演奏連盟さんが毎年出してる「演奏年鑑」の「室内楽」総括記事を書くための、老化した脳対応の防備録みたいなもの、なんせ日記も崩壊していたんで)。家の前の路地に張り出しちゃってるんだから他人様が読むのは勝手だが、どうこう言われても知らんよ。毎度ながら、そこんとこはあしからず。

ホントは3つに分ける内容がひとつなんで、不必要に大きいかもしれないなぁ。なんせ、いつもは途中まで書いて放棄、後からサルベージュしてメモ書きした日の日付でアップ、ということをするんだが、それすら出来てなかったんで。ま、いーか。既に記憶も曖昧だしなぁ。

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まずは遙々善光寺のお膝元は長野まで赴いた、Riverrun弦楽四重奏団でありまする。こちら。
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ご覧のように、結成旗揚げ公演とはいえ、当電子壁新聞を立ち読みなさっていらっしゃるような皆様には、説明不要なメンツ。チェロはライプツィヒの方で、このクァルテットのためだけに主催の長野市の文化財団が招聘なさったそうな。なんと太っ腹なっ!

この団体にははっきりプロデューサーがいて、セカンドを務める東フィルコンマス氏がそのご当人だそうな。ぶっちゃけ、長野市が数年前に市役所改築を行ったとき、新幹線が長野駅を出て富山方面に向かう直ぐの線路脇に大小ふたつの音楽ホールも併設してしまった。
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やはり松本への対抗意識があったんでしょうねぇ(単なる憶測だけど、誰が考えてもそーだわなぁ)、そこに座付きオケを作り、今や日本の指揮者としては小澤征爾以上に世界に最も売れてる指揮者たる久石譲氏を引っ張り込み、ベートーヴェンの交響曲全曲演奏をやり録音までしていた。
https://tower.jp/item/4928788/%E3%83%99%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%B3%EF%BC%9A%E4%BA%A4%E9%9F%BF%E6%9B%B2%E5%85%A8%E9%9B%86
この団体のコンマスなどをしていたのがセカンドさんで、どういう流れがあったか知らないが、オケはオケで館との関係は終えたようだけど(なのか?よーわからんわい)、「メイジャーな作品とミニマル系現代作品を紹介する」というオケの精神をクァルテットに落とし込んだ団体として、今年から3年の活動をすることは決まっているとのことでありまする。この辺り、間違いがあったら、関係者の皆様、コメント欄にでも突っ込んでくださいね。よろしくお願いします。

奏者のそれぞれには学校や音楽祭やセミナーやらでクァルテットをやっていた仲間、みたいな関係はなく、あくまでもセカンドを軸とする個人の関係で集まった、所謂「フェスティバル・クァルテット」でんな。とはいえ、日本拠点の方々の経歴は説明は不要、チェロさんはアマデウスやらに習っているというので、どんだけお歳なのかと思ってしまったら、そこそこ若いじゃないかい。

目出度い起ち上げ演奏会とあってか、今時の小ホールらしいきっちりした音響の会場にはほぼ満員の聴衆が詰めかける。それも、マニアっぽい人や関係者じゃなくて、普通の長野のお客さん。先に言っちゃえば、この演奏会の最大の吃驚は、きっちり隅々まで当日プログラムの解説を客席で読み、演奏家の喋りを含めしっかり舞台で起きていることを1音も漏らすまいという熱心さで聴き入る聴衆でありました。流石真面目な長野、今やこんな空気は新帝都首都圏のブッ弛んだ聴衆にはないぞぉ、と頭が下がるばかりでありましたです。はい。

わざわざ激安高速バス乗って出かけた最大の理由は、「古典の発生からロマン派、現代まで」みたいなプチ音楽史っぽい頭の良さそうなプログラムの真ん中に据えられた、キャロライン・ショウの弦楽四重奏曲だったわけでありまする。ま、「なるほど、スコアを自分らで読んでいくとこういう風になるんだなぁ」ってのが正直な感想。一昨年の秋にブルックリン図書館でアタッカQがサラッと弾いちゃったのと比べると、あちこちでガツンガツンしているのは当然で、「まあ、ペルトとかシュニトケとかやってたオケが母体だから、こういう選曲もあるんだろうなぁ」なんて勝手に思い込んでいたのとはちょっと違っており、その違った感がとても面白かったですな。これはもう、行って聴かないと判らんわい。

演奏そのものは、ハイドンは、なんというか、敢えて誤解を恐れずに言えば、「アレクサンダー・シュナイダーQのハイドンのモダンアップグレード版みたいなものを久しぶりに聴いたなぁ」って感じ。こういうハイドンもあったよねぇ、って妙な懐かしさ。《狩》はソナタ形式をきっちり見せるための細かい作業に徹する、というんじゃなくて、曲の完成度に任せた、というか。いちばん面白かったのは最後に据えられた《アメリカ》で、なんせ名曲のくせに演奏する団体が自分なりの処理をしないとあちこちぶっ壊れるところがある(つまり、若い団体だと「誰に習ったか」がもろに判っちゃう)ちょっと不思議な曲ですから、ソリストとしての力がバリバリにある人が本気で弾くと、「へええええええ!」と思わされる部分がいろいろと出てくる。ヴィオラさんバリバリいっちゃうとか、第1ヴァイオリンのフレーズの読み方が同じソリストがこの曲をやるときでもミドリさんなんかとはまるで違うなぁ、とか、滅茶苦茶楽しい20数分でありましたとさ。こういう楽しみ方が正しいのか判らないけど、こればかりはしょーがないもんね。

終演後は大拍手。来年も同じ頃に、スメタナやらヤナーチェクやらを演奏する予定だそうな。無論、3年目は武満であることは言うまでもないでありましょう。願わくば、本公演の前にいくつかクァルテットとしての活動が出来れば良いのでしょうが、それは来年以降のスタッフの頑張り、それに聴衆の側から「もっと聴きたいぞ」という声が揚がるかなのでしょうねぇ。ぐぁんばれ、長野市民!

※※※

さても、続いては遙々青葉台はフィリアホールまで東急に揺られたチェルカトーレQでありまする。
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この団体に関しましては、昨年連休前半の秋吉台コンクールで3等賞になったサントリー室内楽アカデミーの若い連中、と言えば、もう説明は不要でしょう。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2019-04-28
この演奏会、フィリアホールが若手支援の公募という形で昨年だかから始めた新しいやり方で、横浜市が各区に建てた「それぞれがハッキリ特徴を持ったローカルなホール」展開作戦のひとつ、東急のホールではなくあくまでも横浜市の公共ホールとしての企画として、若い団体に企画を公募し、フィリアホールでの演奏会の財政的な支援をする、というやり方だそうな。レジデンシィとかではなく、あくまでもこのコンサートの為の支援、ということのようです(違ってたら突っ込んでね、関係者の皆様)。

なんであれ、ホントの意味での若い団体が、ハーゲンQやらも演奏会を行う首都圏のちゃんとした会場の舞台で一晩のコンサートを行えるわけですから、こんなに有り難いことはない。で、当然のことながら、やたらと力の入ったプログラムになるわけですは。ほれ。
http://www.philiahall.com/html/series/190204.html
ハッキリ言って、1曲多い、かな。《狩》なくてもよくね、ってか。客席は、チケットの売り方がそうだったんだろうけど、ここは青葉台じゃなくて洗足のホールか、って思うような楽器を抱えた奏者と同世代の若い方で溢れ、フィリアホール周辺の熟年音楽好きは思ったほど姿はありませんでした。平日の夜、終演が凄く遅くなりそうな長そうなプロ、というのもあったんでしょうかねぇ。便利といえば便利(あたしゃ、ちっとも便利じゃないけどさ)な場所なんで、天覧席にはこんな方のお姿も。
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なかなか怖いなぁ、この状況は。学校の定期試験みたい、とは言わないけどさ。

中身に関しては、「あああ、この世代の連中には、もうバルトークの合わせが難しい、なんてことはまるっきりないんですねぇ」、ってのに尽きます。良くも悪くも、バルトークの5番という世界のメイジャーコンクールでもいろいろと神話伝説が伝わる難物を、とても余裕がある演奏で響かせてくれる。そう、何よりも、響きがあるたっぷりした音楽に聴かせてくれちゃうわけですわ。「僕たち、こんな難しい曲やってますよ」ってアピールは皆無。21世紀に入ったばかりの、タカーチュQ前世紀にリンカーン・センターでやった全曲演奏会のときに、「ああ、バルトークでアンサンブルの楽しさ、って音楽をやる時代になったんだなぁ」と新世紀を感じたけど、そんなんがもう学校出て直ぐの人たちのやることになってきている。そんな時代になってるんだなぁ。

モーツァルトやベートーヴェンは、ともかく戦ってみたぞ、という演奏。特に作品127は、第2楽章の変奏曲一点突破で来たのは判るし、よく歌ったと爺さんは褒めてあげよう、と思わんでもないが、やっぱり作品全体のフワフワした不思議感をどうするのか、風船フワフワ飛んでっちゃって上手く手にフィットしなくて、ってもどかしさは仕方ない。この曲はこういう曲なんだ、と開き直れるには、まだまだ手練手管が必要なんでしょうねぇ。何をすべきか、いろいろ指導してくれる大長老が周囲にいくらでもいる、という現状を利用し尽くして欲しいものであります。

※※※

新進気鋭団体三連発の最後は、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのQアマービレでありまする。場所は、昨年同様に上州の空っ風吹き荒む桐生です。こちらが昨年のお話。そうか、百里から行ったんだっけ。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2019-02-01
今年は新帝都は天樹足下から東武線特急りょうもう号で延々、この冬でいちばん寒い、やっと冬らしくなった空の下、遙か渡良瀬川挟んだホールとは反対の市街地にある駅に到着したら、おやまぁ、皆さん、ご一緒だったのね。
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今年はしっかりマネージャーさんもついていらっしゃって、いよいよメイジャーへの道を歩んでるなぁ。

なんせ昨年の秋の終わりに、NYのヤング・コンサート・アーティストのオーディションに合格、その直後に横浜みなとみらいでやった演奏会がたいそう完成度が高く、若手団体の中ではもう誰が聞いても明らかに一歩抜け出しちゃった感があり、個人的には「おおおお、久々の真性パウロニアQが出てきたぁ!」と判る人には判る感想を抱いた。とはいえ、若い団体というのは、失礼を言えば、コンサート毎の当たり外れがはっきりあるわけで、どのくらい安定した結果が出せているのかしら、というのが桐生詣での最大の目的でありました。

もう長くなってきて疲れてきたので、最低限のポイントだけ記すと、「なるほど、メンデルスゾーンの作品80はそうきましたか」ってのが正直な感想。
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作品18の4で、昨年くらいからどんどん自力を発揮してきているセカンドさんの力をバリバリに見せるのも賢いやり方。で、やくぺん先生の耳には未だに若手と言えば今を去ることもう四半世紀も昔、ロンドン大会で圧倒的な演奏を聴かせたステファニー・ゴンリー率いる今は亡きヴェリンジャーQ(「クァルテットでは食えないので解散します」という衝撃の宣言をした団体であります。続いていれば、今頃はベルチャQのポジションにいた可能性は高いわなぁ、うううううん…)の衝撃的な再現が残っているわけだが、戦えばステファニーとも戦えるであろう篠原さん、ああいうウルトラ・ヴィルトゥオーゾ作品としての処理ではなく、どうやって弦楽四重奏の中に己を納めていくか、拘束具の付け方というわけではないが、どうやって「ソリスト」の上手さではないものをやっていくか、本気で取り組んでいる。つまり、派手派手イケイケではない作品80だった、ということ。

ちょっと意外だったけど、これはこれでとても納得いく流れで、なるほど、この人たちは今、そういう辺りにいるのね、ってのはよーく判ったです。

以上、最後は急ぎ足になったけど、先週のそれぞれに立ち位置が違った若手三団体一気聴きのご報告でありましたとさ。さて、明日は鶴見でQベルリン東京。こっちは、もりや氏の拘束具がすっかり外されつつある、次の段階に入った準若手のご披露でありますな。

トーキョーにいるだけでも、いろいろ聴けるなぁ。松尾のオーディションって、すっかり忘れてたけど、いつだっけか?

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