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びわ湖リングWeb中継を観ねばならぬ理由 [音楽業界]

昨日来、世界一千万の(?)ヴァーグナー愛好家の皆様を中心に大いに盛り上がっている「びわ湖ホール《神々の黄昏》ネットライブ中継」でありますが、本日8日日曜日も午後1時から昨日とは別キャストで行われます。こちらがいちばん手っ取り早い。わ、びわ湖ホール横を通過する「びわ湖マラソン」もストリーミング中継やってるんだなぁ。
https://www.youtube.com/watch?v=yv5tfl7t_nI

この中継、なんでこんなことになったのか、どうなってるのか、いろいろと皆々様が知りたいことも山のようにあるでしょうけど、ともかく、極めて特殊で異例な事態であることだけは確かであります。なんせ、去る水曜日に館長ご自身とやくぺん先生の立ち話で漏らされた話ですが、「全く急な話で、最初はどこも引き受けてくれるところがなく、NHKにも断られ…」って。226アベ要請以降の上を下への大騒動の中での、ホントに急な決定だったようです。

その結果、普通の「オペラハウスからのプレミア生中継配信」とは些か違った、極めて特別なものになっているのは、昨日の初回ストリーミングをご覧になった皆様ならお判りでありましょう。

いろいろ文句を言いたい方もいらっしゃるでしょうけど、せっかくの空前にして恐らくは絶後のこの規模の舞台緊急生配信、緊急故に予定されていたものならあり得ないいろいろな空前絶後がありますので、そこに注目して六時間を過ごすのも、当無責任電子壁新聞を立ち読みにいらっしゃるような酔狂な皆様には一興ではあるまいかぁ。なにしろこの中継、普通の世界の劇場生中継では絶対にあり得ない、とんでもないことになってる。なんせ、
画面がホール2階か3階正面席真ん中辺りに据えっぱなしで、一切動かない!舞台の上手と下手の隅に配された字幕すらも視野に入らない!
要は、ホールのロビーなんぞに遅刻者用に設置されているモニター画面を、まんまWebに流している状態。

どんな「舞台生中継」でも、映像演出家が画面の一部を切り取り、選択して提供するのが当たり前。ところか今回は、あまりの緊急事態なため、画像配信で常識的に必要とされる類いの演出が一切ない。ホントに劇場に座っているような、素うどんというか、盛りそばというか、炊いただけのお米というか、そんな「生素材」としか言いようがないものを、劇場が公式に提供してくれたのですよ。

無論、びわ湖ホールだって、演出家さんだって、装置家さんだって、映像担当者さんだって、時間があればもっといろいろなことがしたかったでしょう。そもそも今回のびわ湖のプロダクション、《ラインの黄金》の頃はまだそんな感じはなかったものの、回を重ねるに従い「予算1億六千万円くらいのプロダクションで、現在の映像テクノロジーを用いヴァーグナーの無茶なト書きをどこまで現出できるか」という老巨匠演出家の夢の実験場所になっていった。
カラヤンがザルツブルク復活祭音楽祭を始めて《ラインの黄金》を取り上げたとき、せめて映像化に於いてはト書きに限りなく忠実に再現してみたいと考えてディズニーと話をしたが…という神話伝説が伝わっておりますな。ま、どこまでホントの話か判らぬが、現在も簡単に手に入るあの映像を眺めるに、いかにもありそうな話だと思わんでもない。
考えてみれば、ハンペ御大は正にそのカラヤン時代に演出家として出てきた方ですから、人生の締めくくりの、恐らくは最後の《リング》サイクルで、今の時代の映像テクノロジーと、ト書きの意図をきちんと舞台に合理的に再現していくという自分がやってきた堅実なやり方とを融合させ、カラヤンですらやれなかった不可能な事に挑めるのではないか、と思ったのは、当然といえば当然でありましょう。

なんせこのびわ湖リング、ヴァルトラウテは天馬に乗って空を飛び、ラインの乙女は広大な(ラインの流域でこんな場所って、もうオランダの方じゃないかぁ、と突っ込んではいけない)水辺で遊び泳ぎ、ヴォータンの斥候鴉共は地上からヴァルハラへと伝令に走り、ローゲの炎はブリュンヒルデの眠る岩を包み燃え続ける…というもの。それらが「現代の緞帳」たる映像で、背景に延々と写り続ける。

だけど、それらは全て「客席に座っている聴衆がライブで眺める」ことを前提に作ってあって、世界のどこにいるかわからない、手のひらサイズの小さな端末の映像なのか、はたまた50インチ超えの巨大プロジェクターの前にポテトチップスとビール抱えて座ってるのかも判らない聴衆を相手に、作られてるのではない。

普通の状態ならば、舞台を作る側とすれば、そんな状態の映像を外に出すことにOKする筈がない。

ですから、現在報道されている「DVDの高画質映像でパッケージとして発売します」というものは、このライブ中継映像とは別物になると考えるのが常識でありましょう。もしかしたら、特典映像で一部が収録されるかもしれませんけどねぇ。

てなわけで、これからストリーミングされる映像は正に一期一会。今日を逃すと二度と眺められない、ホントの舞台生中継なのです。真っ正面からの一本勝負、二度と観られない映像なのでありまする。

さあ、あと2時間ちょい。皆様、準備して、貴方の端末の前にお座りあれっ!空前絶後のイベントに参加しましょうぞ!

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Yakupen

現場で両キャストのGPを眺めた方からの現状報告では、映像は微妙に画面光量はいじってるようだ、とのこと。昨日より今日の方が見やすいそうです。現場は頑張ってる。
by Yakupen (2020-03-08 13:44) 

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