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公共インフラとしての芸術団体 [パンデミックな日々]

この2週間ほど、文字通り世界中から現在の苦境を伝える連絡が時差を伴い朝から晩まで大河の如くに流れ込み、その対応をしているともう一日が暮れてしまうという日々が続いております。イースター明けまで、この調子なんでしょうねぇ。

そんな中にあって、よおおおく眺めると、送られてくるリリースの内容が微妙に変化してきている感があるのですな。

このパンデミック騒動が始まった頃には、「中国ツアーと一緒に日本にも行く筈が、どうもやれそうもない、日程を変更するかも」とか、「日本に来る前に中国韓国に寄って仕事をして入る筈が、そっちがダメになり予定していた飛行機のルートが全部パーになった、どうしたもんか」とか、まあ、この業界ではよくある愚痴話だった。これが、そう、遙かな昔に思えるが、先月末くらいの状況。

事態が動いたのは、今月初めのびわ湖騒動くらいからで、でもあの頃はまだ「関空直行がないので明日の午後にモントリオールからの直行便で成田に着き、シンカンセンでびわ湖ホールに行くのだが、東京の乗り換えはやっぱり品川の方が良いかね?」なんてまだまだノンビリしたやりとりをしてたり。なんとかびわ湖もクラスターは出ずに無事に2週間が過ぎ、ここのポイントに絞れば、良かった良かったですな。今だったら、そもそもモントリオールから成田に来られないし、成田に到着しても2週間動けない缶詰になるわけだし。

で、その後くらいからあれよあれよと欧州のバンが始まり、今となれば「横浜の《シッラ》中止で慌ててイタリアに戻った歌手さんが2週間の自宅待機になって可哀想…」なんてノンビリしたことを言っていたのは夢のような状況になっております。

んで、パンデミックの時系列纏めみたいになってきたからもうどーでもいい話は止め。目の前の変化について。

ぶっちゃけ、この数日で、欧州と北米からの大規模芸術団体からの連絡の内容が微妙に違ってきています。

欧州からの告知や通達は、もう「いついつまで中止になりました」というレベルではありません。もうそんなこと、告知の必要もない日常の事実になってる。で、来る内容は、「今の時期を乗り切るために、皆さんに我が劇場は、我が芸術団体は、自分らが持つ資産を無料に公開し、インターネットで無料提供いたします。時間はこれこれ、URLはこれこれ…」ってものが中心。

勿論、困った、大変だ、どこそこの音楽事務所が経営破綻だ、というニュースはいくらでもあるけど、基本、それは個人レベル。フリーランスの個人の問題を語り合ったり、解決策を議論したり、はたまた日本ではヨーロッパは凄いとばかり言われるフリーランス支援の様々な緊急制度の問題点を巡る喧嘩が始まったり、そういうのはある。だけど、国家や自治体が膨大な公金を投入してやってる市立劇場とかオーケストラは、「人々が引き籠もってやることなくて悪いことばかり考えてしまいそうなときに、公立のインフラとして提供すべきものはなにか」という基本的なところから、やるべきことをやってる。特にそうなのだと騒ぐこともなく、まあ、ある意味、普通にやってる。要は、心と精神への炊き出し、みたいなもんですわ。

それに対し、北米はちょっと様相が違う。そもそも公立の芸術支援などほぼ皆無(それもトランプ政権からはオバマケア並に目の敵にされ、減らされてましたから)。パトロネージュによって成り立っているところです。先週くらいからレイオフの嵐が吹き荒れ、メト、オレゴン、カルガリ、ヴィニペックなどのオケがレイオフになった。で、そのメトの司令官たるゲルプ御大から、とうとうこんなメールが来ました。
https://www.metopera.org/support/make-a-gift/the-voice-must-be-heard/
後にURL先がなくなっちゃうだろうから、記録の為に発言をコピペしておきます。以下。

Dear Yakupen,

As you know, we recently had no choice but to cancel performances in order to protect our audiences, artists, and staff from the spread of the coronavirus. As devastating as it is to have to close the Met, this was the rare instance where the show simply couldn’t go on.
But we are determined to weather this storm and are looking ahead to the 2020–21 season, opening in September, since it is now clear that we will not be able to resume operations before the scheduled end of our current season in May. The financial threat to the Met is immense, and we cannot ensure the future of Met performances or seasons without your help. I am writing today to ask you to consider making an urgent gift to the company to help us address the overwhelming economic implications of the pandemic.
In these extraordinarily challenging times, opera and the arts offer solace to a frightened nation and our fellow citizens around the world. That’s the reason why last week we began streaming a different encore performance from our Live in HD series each night, for free. It’s a reminder that the arts are part of the soul of a civilized society, and without cultural institutions like the Met, our lives would be diminished.
While we are cutting expenses in every way possible in the coming months, including my own decision to take no salary, we need your help now. The stock market is down, but it will rebound. The Met will recover too, but only with the assistance of our most loyal fans and donors.
I am forever impressed and grateful for your passion and support. We need it now, more than ever before. Thank you.
With great appreciation for your help,

Peter Gelb
General Manager

要は、「現代の社会の魂を支える文化団体として、今の世界の皆さんのために毎晩無料でストリーミングを始めてます。頑張ってコストカットもしてます。株価は暴落してるけど、リバウンドもあるでしょう。ですから、献金してください」ってこと。

あの天下のメトが、悲鳴のような献金のお願いをしてきている。無論、北米の芸術団体は常日頃から、チケットを買おうとしただけでページ毎に「献金しませんか」という作りになっていて、それがもう普通だからなんとも感じないところもあるのでしょうけど、それにしても極めてストレートな「お金がないのでお願いします」という叫びですな。

良いとか悪いとかの問題ではない。いつもは気楽に「ヨーロッパとアメリカのシステムの違い」などと当たり前に話していることが、こういうときだからこそ、ハッキリと違いとして見えてくる、という話でありまする。

翻って我がニッポンは…とは敢えて言いません。

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