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音楽の都の室内楽再開は作品70から [音楽業界]

何故か知らぬが、今日の朝には久しぶりに欧州北米のあちこちから「今後の我が団体の方針」みたいなリリースなりが送りつけられ、シーズンも終わりで秋以降の方針を出さねばならぬ時期になってきたようじゃのぉ、と思ったら、鎖国ニッポンは新帝都に梅雨入りが宣言されたようでありまする。聖霊降臨祭も過ぎ、ニュルンベルクでは老マイスターが世代交代を考え、ファルスタッフが王殺しの儀式で殺される夏至も近い今日この頃。このまま、あっという間に秋が来て、冬になって…

欧州や北米のこの秋以降の新シーズンの流れは、どうもはっきりとふたつに傾向が分かれそう。ひとつは、大陸型の膨大な税金を用い社会インフラとしてのアーツ組織や業界(専門家)を支えることが常識になっている社会で、観光産業なども巻き込み、アルプスから北の大陸は夏の音楽祭をひとつの実験としてなんとか最低限の早期復旧をもくろんでいる。こちら、昨晩以来、マニアさん達の間で「どうやって鎖国日本を抜けてモーツァルトの街までたどり着けるか」喧々囂々の議論が展開しているザルツブルク音楽祭の発表。
https://www.salzburgerfestspiele.at/
細かく見ていくといろいろ興味深いラインナップで、特にバレンボイムのアラブ&イスラエル若者オケが小編成だったりするのは、8月までにEU外からの人の往来がどこまで可能になるのかが見えないからなんでしょうねぇ。ぶっちゃけ、100年の記念年なんだら、もうアジア、南北米、豪州からの客は一切配慮せず、席もフェルゼンライトシューレで500席くらいにしちゃって、独墺スーパーセレブの為の音楽祭という本来の姿に立ち戻ってみる絶好のチャンスではないか、と思うんですけどねぇ。まあ、事務局側含め、絶対にそんなこと口に出来ないでしょうけど。

そんな大陸の「イケイケ」なこのところの勢いとは裏腹に、かつては世界の音楽産業音情報をコントロールする音楽産業中心地だったロンドンや、海を越えた北米などの「アートは個人のサポートが基本」の場所からは、悲観的というか、長期的には相当厳しいことになるだろうという見方がはっきり出てきています。例えば、数日前に出たのこの記事とか。
“A lot of music venues are in city centres in sort of prime real estate. If they can’t continue to make the money that keeps the doors open then I think their landlords will be thinking about doing something else with the properties. We could very easily lose half the music venues we have in the UK during this crisis if there isn’t more permanent support for them.”
って、東京だって、サントリー芸術財団が森ビルにホール賃貸料を払えなくなる、なんてことは…ないのかな?巣籠もりでお酒の売り上げは好調だったりするのかしら?
https://www.theguardian.com/culture/2020/jun/09/majority-of-uk-theatres-and-music-venues-face-permanent-shutdown1
民間セクターと公共をきちんと分けて議論しているものとしては、今月頭に「ル・モンド」が出したこの状況鳥瞰記事があります。日本ではあまり意識されずに自然に形成されつつある「当面は鎖国でやるしかない」という認識は、パリみたいにあらゆる人がやってきて仕事をしていくのが当たり前だったところでは、判っていても「質が下がるのでは……」という恐怖に直結するのでしょうねぇ。
https://www.lemonde.fr/culture/article/2020/06/02/salles-de-spectacle-a-la-recherche-de-l-alchimie-perdue_6041432_3246.html?fbclid=IwAR0EPqXcDbM7ZSDo5jZy8qSYKElJW88PWbcBeZT4Fuqfo7MRu0IKdAGmVxc
あ、勿論フランス語で、やくぺん先生もちゃんと読めてるとは思えませんので、ご観戦のある向きはしっかり読んでください。

それはそれとして、日本でも今週に入りすみだトリフォニーでNJPが医療専門家や区の関係者と非公開で演奏テストをやり、上野の文化会館では都響が医療関係者ばかりか報道や、はたまた一般聴衆も入れた実質上の公開でのテスト演奏を始めています。サントリーホールが昨日に日本フィルで有料無観客ライヴをやり、週末からはブルーローズでCMG、はたまた遙か調布では「オンラインだけでの音楽祭」などとぶち上げているし。

来週になると、いよいよやくぺん先生も某ホールに座ることになりそうですが、こんな無責任壁新聞に記して良いことやら、状況を見ないと判らないところも多々あるので、ま、それまでお待ちあれ。って、専門的な記事など書きようがない話だけど……

さても、「ル・モンド」が心配する「質」に関して、ちょっとだけ前向きな話題。ええ、日本時間での本日木曜早朝からこの週末くらいまで、これ以上の公共セクターはないヴィーン国立歌劇場の日替わりライヴ無料ストリーミングで、いよいよホントのライヴ中継の舞台が視られます。こちらからどうぞ。
https://www.staatsoperlive.com/live
このページに行けた方なら(なんか無料の登録とかいろいろあるみたいで、簡単じゃなかったらゴメン)、多分、最初から二つ目か三つ目くらい、シュトラウスのバレエをノイマイヤー御大が振り付けした定番超傑作舞台の次にある「ヴィーンフィルの室内楽」って奴です。

これ、ご覧になればそれまでなんですが、あのデカいオペラハウスのピットに蓋をして、幕を下ろして、ピット上舞台にピアノ三重奏をセッティングし、平土間にポツポツと聴衆を入れてライヴをお届けする、というもの。

始まって25分くらいは延々と「宣伝」としか言えないものをやっていて、28分くらいから三密回避の平土間と、奥にいるカメラマンのおばちゃんなんかを舐めるように写し、33分くらいからやっと演奏家が出てきて、始まります。譜めくりのアジア系のお嬢さん以外はマスクもなく、ご覧のように配置もとりわけ「三密回避」をこれみよがしにやっているわけでもない。
DSCN5235.jpg
まあ、こういう街の真ん中のでっかい劇場のピットに蓋をしての室内楽って、やくぺん先生なんぞにしてみれば、レッジョ・エミリアでもボルドーでも、いつも眺めているやる方なので、「ちょっと間があいてるかなぁ、でもまぁ、こういう会場でコンクールの一次予選の朝くらいしか客が入ってない状況だと、こういう座り方になるのはあるだろーなー」って感じ。違和感はないですな。

そして、なによりも、演奏してくれるのが「耳に優しいみんなが知ってる名曲」とか「コロナの引き籠もりの気持ちを盛り上げる音楽」とかではないし、無論、「こんな特別な状況で演奏できるのはこんな曲しかありません、ゴメン」ってのでもない。正真正銘の、まともな普通の室内楽コンサート。場所だってこの舞台から下手に出て道渡った向こうは、《エロイカ》やらが初演されたロプコヴィッツ伯爵のお宅なんですから、始まったとたんに水入りになっちゃってるベートーヴェン生誕250年のお祝いを再開するのに作品70の2曲のピアノ三重奏曲を演奏するのに、これ以上の場所はなかろーに!

それに、みんなが知ってる《大公》でもなく、ましてやコロナで命を失った芸術家を忍ぶためのチャイコフスキーでもなく、この作曲家のなんのかんので14曲くらいはある(ちゃんとした大人の作品は8曲だけど)ピアノ・トリオの中でも、作品の充実ぶりに比べると余りに知名度が低すぎる作品70の2をメインに持ってきてくれるなんて、ヴィーンの楽人、なかなかやってくれるじゃああーりませんかぁっ。

この12週間、こういう、普通の、当たり前の、きちんとしたものを、私たちは聴きたかった。三密を透けたどういう座り方をしているかとか、譜めくりのお嬢さんがマスクをしているとか、そういうことじゃあなくてぇ、《幽霊》の第2楽章の雰囲気のいかにもそれっぽい雰囲気の作り方は流石にオペラのオーケストラとして日々ピットに入ってる人たちだとか、ベーゼンのピアノの音はやはりヴィーンの室内楽っぽくて素晴らしいとか、ひとつの演奏会として提示された音楽を、何の注釈も特別な意味づけもなく、当たり前に聴いてる奴らがてんでに勝手なこと言って評価すればそれで充分な1時間。

祝、音楽の都でのライヴ再開!祝、ベートーヴェンさんのお誕生250年!

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