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パンデミック下「戦後のオペラ」あれこれ [パンデミックな日々]

梅雨の季節真っ只中の水無月の終わり、雨は降っていないけどいやぁな曇り空で、天樹はともかく都庁やぱっちもんクライスラービルが濃ゆぅい蒸気の中に霞むのをシン・ゴジラ視線勉強部屋から眺めつつ、あぁああああ、今頃は次々と羽田に向け国際線国内線巨大旅客機が着陸していく轟音の下、新宿御苑でベルリンフィルがダイクを高らかに歌い上げていたんだなぁ…と現実とならなかったコロナ無き世界を虚しく思い浮かべる土曜の午後、皆様、いかがお過ごしでありましょうか。現都知事さんなんぞも、満面の笑みを浮かべ正面真ん中でスタンディング・オーヴェーションしてたんでしょうし、デュダメル御大に熱烈ハグなんてしてたんでしょうねぇ、いやはや。

ま、仮想世界のタイムラインはどうであれ、現実の新帝都周辺ったら、先週くらいからいきなり「三密回避演奏会」が矢継ぎ早に開催され始め、4月頭の緊急事態宣言で勢いがつき始めたところでストップがかけられていた「インターネットでの有料配信」も様々な配信会社やフォーマットで競うようにスタート、もう我が業界は待ってられません状態。これに付き合って良いものやら、と老人家庭としては大いに心配しつつも、来週からは自分も現場の裏方なんぞするわけで、春分の日から夏至までの四分の一年の「世界一斉お籠もり」も、実質上、今週でオシマイのようでありまする。隠居初心者の身とすれば、人類が真の変革を迎え次の段階に至るためには、あと半年くらい今の状況が続くべきだろうとは感じるが、21世紀の人類や国家社会を支配する最強の「経済」とやらが、それを許さないのであーる。ううううむ…

てなわけで、今、パンデミックお籠もり下の日課になっていた「世界のメイジャー劇場の今日だけ特別無料舞台配信」の有終を飾る(のか)ヴィーンからの《ダントンの死》を拝聴し終え、いやぁ、この四分の一年、所謂「戦後のオペラ」を随分と拝見させていただいたなぁ、と各団体関係者の皆々様に深く感謝したく思っている次第でありまする。

この3ヶ月、ヴィドマンの室内楽練習に立ち会えず、大阪コンクールでの望月委嘱新作を5回だか聴くこともなく、レッジョでの細川新作初演もなく、ベルリンフィルが早坂文雄を演奏もせず、果ては天才パスカル君の《ルル》までなくなり…そんな死んだ子の歳を数えるようなことを始めればキリがない中で、この膨大に配信されてくる貴重すぎる映像達をどうやって日々処理していくか、これまで現場での忙しさにかまけて「積ん読」になっていた大物を一気に処理しなさい、というようなとてつもない事態が起きていたのでありました。なんせ、手持ち原稿ほぼ皆無なわけで、重厚長大、普段ならとてもじゃないが手を付けないようなものを今こそなんとかせよ、とムーサの神がご命令になってたよーな。

パンデミックな日々の間、読者対象はやくぺん先生死後のお嫁ちゃまだけの日記の隅に付けておいた「本日眺めたストリーミングリスト」をつらつら見返すに、3月上旬のびわ湖《神々の黄昏》連発を皮切りに、4月の世界大運動会延期決定緊急事態発令から今までにパソコン上で眺めたオペラ全曲は総計なんとなんと63作品でありました。いやはや、こりゃ、目が悪くなって当然だわさ。オーケストラ関係はほぼ視ていないんだけど、他にも室内楽のライヴは9本ほどあるわけだし。テレビばっかり視てちゃダメ、と叱られそうじゃのぉ。

そんな中、やくぺん先生の世を忍ぶ仮のニンゲン体が編集執筆に参加させていただいた、もうかれこれ10年とまではいかないが、随分昔のものになりつつある新国立劇場刊行『戦後のオペラ』なるガイドブックの選曲対象になる作品を列挙すると、以下。作曲年順にすればいいのでしょうが、日記からの引き写しなんで日付順です。悪しからず。

4月1日:Met《皆殺しの天使》
15日:ジュネーヴ歌劇場《浜辺のアインシュタイン》
17日:BDO《オイディプス》
25日:ROH《グロリアーナ》
26日:ハンブルク《ルダンの悪魔》
27日:シュトゥットガルト《サティアグラハ》
28日:スカラ《エンドゲーム》
5月2日:ストラスブール《ブエノスアイレスのマリア》
7日:Met《彼方からの愛》
8日:パリ《アッシジの聖フランチェスコ》
11日:シュトゥットガルト《ボリス》
13日:Met《テンペスト》
17日:SOB《バビロン》
24日:SFO《モービーディック》
26日:オペラシャム《ヘレナ・チトロノヴァ》
27日:オペラシャム《壇ノ浦》
28日:シュトゥットガルト《ヴェニスに死す》
6月1日:マリンスキー劇場《モスクワ・チェリョームシキ》
3日:オペラノース《タヒチ島騒動》
4日:ヴィーン《テンペスト》
12日:Met《ヴェルサイユの幽霊》
13日:KOB《モーセとアロン》
21日:Met《アクナトン》
22日:Met《サティアグラハ》
24日:ヴィーン《オルランド》
27日:ヴィーン《ダントンの死》

24作品、かぁ。これ以外に、見物を始めたけど「こりゃダメだ」と視聴を放棄した『ガラスの仮面』オペラがひとつありました。スイマセン、今視ておかねばいつ視る、とは思ったのですが、商売ならともかく、流石に厳しかった。他にも、まだお籠もり日程が出来ていない頃に、出演者とパンデミック騒動開始直後に東京駅で飯食ったんだからちゃんと視なければ、と思ってるうちに配信が終わっちゃったアムステルダムの《フランケンシュタイン》とか、まだ大丈夫とノンビリしてたら終わってた初台の西村作品とか、うち漏らしは幾つもあり。特に、マリンスキー劇場がやっていたシチェドリンなどは、貴重とは判りつつも…なんせロシア語で字幕なしだもんねぇ。

いかにパンデミックお籠もり中の己が暇だったか、世間に恥を晒すようなリストではありますが、それなりに興味深いものではあるでしょう。なによりも、「2020年春の時点で、世界のメイジャー歌劇場が世界不特定多数の暇してる音楽愛好家に向けて配信する価値があると判断した戦後のオペラのリスト」なのでありますね。あ、中にはYouTube上に突然出現したいつ消えるか判らぬ素性不確かなものも含まれていますが、ここに挙げたリストではパリの《アッシジの聖フランチェスコ》世界初演映像くらいかな、そーゆーアヤシげなもんは(てか、これ、酷いクォリテイであれ遺ってるんだから、正規に映像を保護しなさいよ、パリ・オペラ座さん!)。

このリスト、あらためて他人事のように眺めれば、なかなか興味深いですね。ホントの新作及びそれに準ずる改訂版初演上演時の映像は(上述の非公認メシアンを含め)8作品。ブリテンは他に《ビリーバッド》とか《螺旋の回転》とか《夏の夜の夢》とかいろいろあちこちでやっていたのだけど、あたくしめが眺めたのはこの程度。いかにも出てきそうだけどこのリストに出てきていない、例えばリゲティ、ツィンマーマン、ヘンツェ、バーバー、アダムス、等々に関しては、うしろの四作家は、少ないながらもやられていてもなんのかんのあたしゃ視られなかった、若しくはその上演のソフトが手元にあるので今回は眺めなかっただけのことです。

やはり目を引くのは、グラスの初期偉人三部作が全部視られ、演目によっては別の演出でふたつ眺められている事実。それから、アデスの大活躍ですねぇ。結局、20世紀後半のオペラの様式できっちり劇場にポジションを得ているのはミニマリズム、ってことかしら。ま、ぶっちゃけ、「今ヴィヴァルディ」だからなぁ。

放送にはいろいろと著作権の問題がありそうな「現代オペラ」がこれくらいの比率ではストリーミングされていたのに、感覚的には遙かに大流行しているバロック以前のオペラが案外と流されていなかったなぁ、などと思いつつ、敗戦直後のドイツ語圏でビュヒナーの真っ正面なフランス革命戯曲がオペラ化され極めて高く評価されたということに「戦後」という言葉の意味を反芻しつつ、パンデミック下「戦後のオペラ」鑑賞反省メモでありましたとさ。

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