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生演奏に接する意味 [音楽業界]

敢えて「パンデミックな日々」ではなく「音楽業界」カテゴリーにします。

一昨日昨日と、錦糸町はすみだトリフォニー&溜池サントリー大ホールに連日足を運び、ブラームス交響曲第1番を新旧2つの日本フィルを名告るオーケストラ、そして日本を代表する長老と現役バリバリのマエストロという演奏家の皆様で「聴き比べ」をすることになりましたです。無観客のストリーミングをPC経由で視聴、とかではありません。共に客席に座ってのまともな普通の鑑賞でありました。ちなみに本日午後には都響のコロナ禍後初のライヴ演奏があり、これで在京オケのうち5社は聴衆を前にした演奏を再開したそうな。

正直、このような機会でもなければ、ブラームスのハ短調交響曲を何度も聴くなど、まずあり得ない。ファンの皆様ならよーくご存じのように、世の中には「感動できる回数が限られている」タイプの作品というものがある。個人的な好き嫌いとか、作品としての出来の良し悪しではなく、音楽やジャンルのキャラクターとしてそうなってしまうアート作品があるというだけのことです。ブラームスの交響曲第1番は、例えばマーラーの《復活》や第3番なんぞがその典型。ベートーヴェンは案外なくて、第九でもまぁ、そこまで「もう無理、ご勘弁を」にはならない。室内楽系はほぼ皆無で、唯一の例外が《死と乙女》、かな(そもそもダメな演奏だと始まった瞬間に耐えられなくなるタイプの音楽ではあるが…)。オペラ声楽系では、《カルミナ・ブラーナ》と《神々の黄昏》がそんな作品。ま、後者を嫌になるほどライヴで聴き続ける奴はこの世にいないと思うけどさ。ちなみにぶらいちは、ある時期から弾きたい願望に転化するようだけど、それはまた別の話。

てなわけで、残念ながら遙か数十年前にぶらいち感動チケットを使い切ってしまってるやくぺん先生とすれば、ある意味、一種の拷問に近いイベントなのでありまする。とはいえそんなこと言ってはいられない。真剣な顔で、コロナ第二派荒れ狂う新帝都ホットスポット近辺へと慎重に向かったのでありました。

それぞれの演奏会の様子、入口での消毒から検温、チケットのもぎり方、Faceシールドとマスクで誰が誰か判らないスタッフの動き方、クロークにどう対応しているか、聴衆がどのように席に着き、終演後はどのようにオーディトリアムから退出するか、舞台上でのオーケストラ団員や指揮者の様子、聴衆の反応…そういう「コロナ禍故の特別なこと」に関しましては、もうあちこちのtwitterやらfacebookやら、はたまたブログやら大手メデイア報道でもあれやこれやと伝えられており、検索すればいくらでも出てくるでしょう。ですから、当無責任電子壁新聞では敢えて触れません。すみだトリフォニーホールの正面から入ったところを眺めたこんな風景、起きてること詳細に記し始めればいくらでも書ける。
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大事なのは、この2つの演奏会が、結果的に「ブラームスの交響曲第1番」という極めてイベント性の高い作品を演奏しながら、随分と異なった、というか、今時の言い方をすれば「真逆」の有り様を示してくれた、という事実。コロナだ、活動再開後初演奏だ、とかを抜きにして、普通に議論出来る真面なコンサートが新帝都トーキョーでやっと開催された。

このふたつのぶらいち、オケというより指揮者さんのキャラが「真逆」で、結果として見えてくる風景が随分と違っていましたです。マエストロ尾高の「終演後に一瞬訪れた静寂に、ライヴでしか経験できない時間と音の大事さ感じさせる」音楽と、マエストロ広上の「終演後にブラボーと叫ぶのを禁止された状況がひたすらもどかしい、空気を揺り動かす響きの圧迫感に圧倒される」音楽という、まるで反対のアート(=神ならぬ人が創った何の役にもたたないモノ)。中身的には、金管の音色の扱いの違いが興味深かったです。ひとつのパレットの中に綺麗に収める長老と、様々な演奏技法を駆使しての音色変化を響きの質として意味付ける今がいちばん脂ののった現役バリバリ。静と動、なんて簡単に言っちゃえばそれまでなんだけど、こんなに違うもんなんかいな、とあらためて「再現芸術」の微妙さと多彩さに驚かされましたです。

なににも増して気付かされたのは、PCでのストリーミング視聴では全く判らない、音色だとか響きの重さや透明度の変化というライヴならではの要素。テンポだとか、使っている版だとか、アンサンブルがどうだとか、どんな条件で接してもある程度は判るものとは違う、環境や視聴設備でまるで異なってしまう音楽の要素が音楽の中にどれほどあり、どれほど決定的なのか、あらためて実感させられた二日間でした。そういう部分をなしでも大丈夫な再現のやり方もあるのだろうし、それが「コロナ時代の今風」なのかもしれないけどさ。

オケの皆様、そしてスタッフの皆様、お疲れ様でした。皆様のおかげで、2020年7月半ばの今、コンサートホールの中は世界のどこよりも安全な空間です。ことによると病院の中よりも安全かもね。

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