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《光の火曜日》無事上演されました [現代音楽]

あとは死ぬだけの老いぼれ爺、人生最後の楽しみのひとつが「シュトックハウゼン《光》チクルス 全作舞台上演をライヴで眺める」という野望でありました。わずか数年前には可能かどうか、なんとも判らなかったのだけど、それが案外あっさりと実現しそうに思えてきたのは、一昨年秋から天才マキシム・パスカルくんが「自分が結成した電子音響やダンサーまで含んだアンサンブルで毎年1曲づつ作曲順に上演、最後は一週間で全曲上演する」という誇大妄想かって呆れてしまうようなプロジェクトを始めたことにありました。
http://www.lebalcon.com/?page_id=2029&lang=en
一昨年の《木曜日》はオペラ・コミックで、昨年はフィルハーモニー・ド・パリのオンドレ社長も見守る中、シテ・ド・ラ・ムジークや40度越えの酷暑の中に運河向こうの教会を舞台に《火曜日》を上演。これはいける、と周囲の大人達も思ったみたい。こちらが一昨年の《木曜日》のとき。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2018-11-18
んで、こちらが昨年の灼熱地獄の中での《土曜日》。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2019-06-30

今年はフィルハーモニー・ド・パリの大ホールというメイジャーな場所に舞台を移し、いよいよ地味に難物で、恐らくは完全な舞台上演はスカラ座での世界初演以来試みられてはいないと思われる《月曜日》を上演することになっていた。

ご存じの方はご存じのように、この《月曜日》って、電子音の「こんにちわ」や「サヨナラ」は恐らく全曲でもいちばん綺麗なんだけど、なんせ子供の合奏団やら合唱、それどころか子供のソリストが役者もやらねばならぬ、普通のオペラ・カンパニーの枠組みではやれない作品。一年かけて子どもらのアンサンブルを創り上げて…という予定が、このコロナで春から夏にかけ人が集まるなど不可能になってしまい…

比較的早い段階で《月曜日》を諦め、一年入れ替えて《火曜日》を先にやってしまう、という決断が下された。まあ《火曜日》なら短いし、第2部の戦闘員の規模を小さくすれば充分にパスカルくん自前のアーティストだけでもやれなくもない。若社長、なかなか現実的だな、と遙か遠い巴里の動きを漏れ聞いていたわけでありまする。

なんせパスカルくんとその団体、コロナがなければトーキョー五輪開会式の日にザルツブルク音楽祭で、ニッポンの某団体が委嘱したのにニッポンでは未だ上演出来てない《イノリ》をやって世界大運動会を祝う(わけでもないんでしょうけど)予定だったのが、当然ながら中止。でも、夏の終わりすぎに連絡したとき、「《火曜日》に向けて大忙しで、ゴメンゴメン」って感じだったので、ああああこれはやる気満点だなぁ、と安心したというか、驚いたというか。

その時点でやくぺん先生ったら、なんとか帰国後二週間隔離を前提に10月24日の巴里に特攻するか、とマジで思っていたのでありまするがぁ、9月に入りあれよあれよと巴里のコロナ事情が悪化し、なんせ老人家庭でなによりも家庭内感染を恐れるやくぺん先生んちとしては、家族の縁を切らにゃ渡欧なんて無理な情勢になってきて、9月半ばには諦めました。ったら、政権代えたらまるでコロナも終わったみたいなニッポンはともかく、欧州は事態がどんどん酷くなり、先週にはとうとう巴里では9時以降外出禁止例が布告され…

そんな中、去る土曜日に開演時間を夕方に繰り上げ、無事に《火曜日》が上演されたようであります。どんなもんだったか、パスカルくん率いる音楽舞踏集団Le BalconのFacebookタイムラインに、写真をなんぞがいっぱい上がってますので、ご覧あれ。
https://www.facebook.com/LeBalcon
「オペラ」という切り口でもそれなりに関心があったようで、半公式やら非公式の個人やら、いろんな人がいろんな感想やらレポートをWeb上に揚げてます。例えば、これとか。写真もいっぱい、キャストもちゃんと書いてあるし。フランス語は、英語ドイツ語なら無料翻訳ソフトで問題ないですから、頑張ってね。
http://www.musiquecontemporaine.fr/blog/?p=32005
こういう「勝手に口コミ評価拡散」ってのも、今時の若い世代の仕事だなぁ。爺には、権利だのなんだの、心配になってしまうけどさ。

舞台写真を眺める限り、「スカラ座のロンコーニ演出世界初演の21世紀テクノロジーを用いたリブート版」というのが基本だった最初の2つとはちょっと異なり、ライプツィヒ初演版の再現が基本というわけではないようですね。無論、コロナ禍で、昨年のアムステルダムでの抜粋上演で第2部をまるまる取り上げたアウディ演出みたいな、膨大なラッパ奏者を動員し客席での市街戦を繰り広げる、なんて派手なことはやれていないみたい。《光》チクルスの中で若い世代に向けて最もアピールしそうで、長さもいちばん短く(多分、《金曜日》は良く知らないので、もしかしたらあっちの方が短いかも)音楽としても入門に最適なコンパクトで判りやすい作品をやったのは、良い判断だったと言えましょう。

パスカルくんの《光》チクルス、来年は11月に《月曜日》のリベンジが発表されているそうな。それまでに世界がまともになっているのやら。なお、パスカルくんご本人は12月に芸劇で読響、名古屋で名フィルを振るために来日予定ですが
https://www.nagoya-phil.or.jp/2020/0128132611.html
…果たしてどうなるんでしょうねぇ。

[追記]

10月29日、パリのロックダウンが宣言されました。現地の方に拠れば、春からのロックダウンに比べると緩いそうですが、事態は悪化していることは確かなようです。ううむ、こうなると《火曜日》がやれたのはエヴァの奇跡に思えてくるわい。

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