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川向こう新開地の交響の丘に作品131が響く秋の終わり [葛飾慕情]

荒川放水路の東、かつては隅田川以上の暴れ川だった中川が大きく蛇行し江戸の入り江へと向かう辺りに放水路が出来、水が出ないようになったのはオリンピックの前の年のこと。いつ洪水になるか判らない悪所は放水路前提に巨大な団地が整備され、水戸街道が北を走っている便利さもあり60年安保過ぎくらいからお化け煙突眺める江東地区から町工場も移ってきて、いつのまにやら新橋まで地下鉄と繋がる京成電車のターミナル駅も出来てしまい、やがては環状道路もまわってくるという大発展が期待される場所となったのであーる。

ま、結論から言えば、景気の良い成長は安保団子をこね損ねた後の73年オイルショックで本格的にオシマイとなり、諸条件を考えれば大いに発展しても良い筈の葛飾区まんなかの街は、近隣の寅さん柴又、りょうさん亀有、はたまた飲み屋天国立石などに囲まれた「葛飾のステルスタウン」と呼ばれる名も無い場所として残り続けたわけだがぁ…区の真ん中ということで京成電車線路と水戸街道に挟まれた畑や原っぱに区役所があり、その近くには区立武道館と公民館も設置されていたのであった。うううむ、葛飾だってスポーツや文化はあるのじゃわい。

んでもて、うちのオヤジの診療所に患者としてやってきてたO区長ったら、川向こうにまで押し寄せたバブルの時代に何を思ったか、亀有から新小岩を結ぶ京成バスが区役所に向けてちょっと横道に入る角にあった公民館&武道館を取り壊し、文化施設を建てると言いだし、勘当されたやくぺん先生がカタツムリの如く膨大な書籍を抱えて各地に転々と庵を結ぶ転居を繰り返していた頃、正にバブルはじけた直後の1992年に、何の因果やら「葛飾シンフォニーヒルズ」なる名称の席1300くらいの大ホールと300席くらいの小ホール、それになんのかんの練習場やら集会場をまとめたような施設を竣工してしまったのであーる。
https://www.k-mil.gr.jp/institution/symphony/index.html

それから幾年月、区民公募の結果、寅さんが生涯で唯一出かけた海外旅行先というだけの理由で(ホントです!)姉妹区契約を結んでいるヴィーンのドナウ近くの下町との関係から大ホールはモーツァルト・ホール、水元公園に咲き誇る区を象徴する水生植物ということから小ホールはアイリス・ホールと名付けられた施設は、最初は区の文化財団、あるときからは指定管理に入った企業によって運営され、今に至っているのであった。区民オケの葛飾フィルはそれなりに活動をしており、京成電車で15分の上野の杜から藝大学長が指揮にやってきたりしてさ。

バブル期に設計された小ホールには、案外とメイジャー好きな指定管理者さんが購入した日本ツアーをする室内アンサンブルがひょこっとやってくることもある。なんせ欧米国際線が羽田にはなかった頃には、最寄り京成電車駅から追加運賃不要の特急乗せちゃえば1時間弱で成田空港第1ターミナルに到着する立地、日本公演の最後を葛飾で行い、駅前のちっちゃな安ビジネスホテルに泊めて、「朝5時起きで電車乗って帰国ですから」なんて無茶な日程が組めたので、意外な団体が弾いていたりして。なんせ、ここで公演終えて明日はミュンヘンに帰るヘンシェルQが、終わっても打ち上げするところなくて、ホールから徒歩6分(Googleマップさん曰く)の勘当中のやくぺん先生御実家に放蕩息子込みでいきなり押し寄せ、オヤジをビックリさせたこともあったり。亡父は死ぬまで「あの凄いべっぴんさんのドイツ娘」って繰り返してたっけ。いまはもう、一昔前なら徴兵されてた少年のお母さんだどさ。まだ売れてない頃のエベーヌQも来たことがあったなぁ。

そんな葛飾区民の遙かシベリア向こうの音楽の街への勝手な憧れ込めた場所に、モーツァルトならぬベートーヴェンの250回目のお誕生日を祝うべく、こんな凄い人達がやってきてくださったですぅ。
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レギュラーの原田禎夫さんは残念ながらバイエルン(だと思う、今は)のお宅を出られず不参加で、久しぶりにお姿を拝見する北本氏が助っ人。「巨匠がクァルテットを知り抜いた専門家とのコラボで弦楽四重奏の譜面に常設団体ではあり得ない発見をする」タイプのフェスティバル・クァルテットでんな。ベートーヴェンの後期を抱えてツアーするなど、日本では案外、ありそうでない。ミドリさんの年末の東アジアツアーとは相当に性格が違うけど、似たような団体…でもないかなぁ。

押し寄せる老人ばかりの葛飾区民音楽愛好家の健康を守るべく、今はキョードートーキョーさんが運営の中心になってる指定管理者は、こんな厳重なプロテクトを用意してくれました。
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すげぇ、と思ったら、アクリル板じゃなくて金属のパイプにサランラップみたいなものを垂らしたものだったけど、それにしてもこんなの客席に並べたのは、「コロナの新しい日常」の中でも見たことない。偉いぞ、凄いぞ、葛飾区!凄いぞ、指定管理者キョードートーキョー!
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流石に312以降、都も国も情報を隠匿しているのに区内に振っているセシウムの量をきちんと区広報で告知してくれていた、ちゃんと区民の命を大事にし物価が安いだけが取り柄と区役所の担当者も自虐するKatsuhsikaだけのことはあるっ!

もちろん、こういうメンツですから、いねこさんがバリバリ頑張って形を作り、巧さんがボスの音色に少しでも近づけつつしっかり支え(作品18の4はセカンドが猛烈に重要とあらためて判らされるし、作品131でも変奏曲でのセカンドの役割が際立つ)、第1ヴァイオリンは好きにやって、チェロは必要な場所は歌う、というもの。《セリオーソ》がどういう理由でこういう終わり方をしているかなどには関心は無く、最後の和音がもの凄い音(ポジティヴな意味で)になることが大事、って音楽。

寅さんの眺めたヴィーン、とは言わないけど、これはこれでありなだろー、と思わせてくれる記念年の音のひとつ。

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西に光る天樹の向こう、秋の装いではもう寒くなった空の彼方、最近は毎朝頭の上を跨いでシベリアを越えていく機械鳥を眺めるモーツァルトさんは、今や慣れ親しんだ異郷の地で無茶ばかりの後輩の音楽をどう感じるのやら。

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