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コロナの秋の終わりに [パンデミックな日々]

「世界大戦」レベルの全面戦争が実質不可能な21世紀にあって、世界史的には第一次大戦やらと同じような扱いの記述になるであろう「COVID-19の年」となった2020年、霜月も晦日が更けていき、いよいよ新暦師走に入ろうとしております。

某音楽専門誌に「コンサートベストテン」というなんとも罪深い企画があり、その「1年」というのが「前年の12月1日からその年の11月末日まで」になっておりまして、あたしら売文業者とすれば今日が一年のオシマイの日なのでありまする。うちらの業界とすれば、書き手がどういう関心を持っているかを示す一年のレジュメというか、領収書というか、編集者や読者の皆様に向けての「あたしゃこういう視点から業界を眺めてますよ」というシラバスというか、ま、そんなもんであり、一両日中に編集部に提出せにゃならん。これで一年が終わる、って感じの年中行事でんがな。この依頼が来なくなったときが、ホントに売文業者としての現役引退、って感じかな。

昨年に「世界のメイジャー室内楽コンクールを全て追いかける」という現役第一線からの引退を表明したやくぺん先生の世を忍ぶ仮の姿なれど、世界がコロナになってしまい、世の中の方が俺に付き合って隠遁しちゃったみたいなことになってしまい、なにながにやら判らんことになっているとはいえ、今年2020年の回顧は、ことによるとやくぺん先生の30年くらいの現役売文業者キャリアの中でも最も重要かも知れません。戦時下の池波正太郎やら古川緑波の日記みたいなもんですわ。フランス革命家の一市民の日記、なんてのもあるわなぁ。そんなような意味での重要さ。

で、先程一年を締め括るに相応しい會田瑞樹氏の打楽器リサイタルから戻り
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昼間っからの「この12ヶ月の演奏会総浚え作業」にひとつのピリオドを打つわけであります。

では、発表いたしましょーぞ。この1年のやくぺん先生、客席で座った演奏回数は総計132回でありましたっ。

うち、外国はたったの6回のみ。昨年12月のアムステルダムでのダネルQのヴァインベルク・チクルスと、その合間に眺めたネザーランド・オペラの《ヴァルキューレ》だけでありまする。で、2020年は1月のパリとアムステルダムの弦楽四重奏ビエンナーレに行かなかったし、悩んだ挙げ句に結局は10月のパリの《光の火曜日》も行かなかったので、なんとなんとおよそ30年ぶりに一度もこの列島を出ない年となりました。うううむ、ホントに一般庶民には鎖国状態でんがな。

参考までに2019年の同データを記せば、通った演奏会は総計207回(うち外国は39回)ということになってます。無論、コンクールやフェスティバルで「午後の7時からコンサートが始まります」みたいな意味での回数勘定が出来なくなってるイベントがたくさんあり、その辺りはどんぶり勘定でカウントしてますけど。実質3ヶ月なくなって減少数が75回って、まあ、感じてるよりもペースは悪くない、ってことかしらね。

なお、去る12月から2020年2月26日のアベそーりイベント自粛要請、更には花祭り直前の緊急事態宣言までの4ヶ月の最後の平和な日々に限れば、3月に入り激減した時期のびわ湖ホール《神々の黄昏》関係者のみのGP見物とかも含めると、演奏会数は総計40回。何故か1月が異常に原稿が多く、このペースだと年収一千万円だっていくぞ、でも死ぬぞ、なんて思ってたのが夢のよう。ここまでに、今年聴いたの唯一の外来オケたるサロネン指揮フィルハーモニア管とか、ふたつしか聴いてない外来室内楽団たるFluxQとかベネヴィッツQとかを聴いてはいる。

そうこうするうちに「東京春音楽祭」が始まる頃から横浜のクルーズ船で騒動が始まったぞ。春節頃には武漢が封鎖になり、あれよあれよ…びわ湖の《神々の黄昏》無観客上演を最後に外国からの同業者と遇うこともなくなり、ゴールドベルク三勇士のベートーヴェンのピアノ三重奏全曲だけは旧奏楽堂で無事に終わる頃には、入口に消毒液が設置されマスクをして外出するのが常識になり始めていた。そして、イースター頃から延々と夏の初めまで、大阪国際室内楽コンクール&フェスタが吹っ飛んだ世界全体引き籠もり状態。2日の筈の定期が3月28日の一度だけでオシマイになってしまったNJP定期を最後に、6月半ばのミューザ川崎の試演コンサートまでまるまる12週間、一切のライブ演奏会に足を運ばず、個人的には家庭内感染の危惧から葛飾オフィスに実質上別居状態で引き籠もる異常な初夏の日々が続いたわけでありました。

再開後の半年で90回の演奏会に通ったのは、ともかく分母を増やさないと、という義務感が半分。結果として、コンクールを最初から最後まで眺める作業が一度もないし、音楽祭もないし、セミナー見物なんぞもまるでないけど、なんとか室内楽はこの1年で50数回、現代音楽系は20回程度は足を運べたので、業界的な責任は辛うじて全うしたかな、という気にはなっておりまする。はい。

あ、そろそろ日付が変わるので、この駄文も半端なままでオシマイ。いきなり結論だけ言うと、2020年のニッポンの音楽業界でいちばん元気があったのは、現代音楽と打楽器業界だったように思えます。やくぺん先生が勝手に「アーティスト・オヴ・ザ・イヤー」を選ぶとすれば、先程まで多彩な撥の魔力を振り撒いてた會田瑞樹氏と、この無茶な時期に若い才能をまとめ来年に見事に繋いだ加藤訓子氏で決まりでんな。

ライヴとは別の音楽家の生き延び方として「Webでの配信」というテクノロジーが一気に雪崩を切って表に出てきたものの、これがどのように状況を変えていくか、まだ見えない。なにせ、評価をどうするか、新人から巨匠までありとあらゆる人が駅前で「私の詩集を買って下さい」を始めてしまったようなもんで、それらをどうやって俯瞰していくか、まるで手立ては見えていない。演奏会にしても、今年は既に予算が付いていたのでやれた公共主催者ながら、来年はコロナ予算であらゆるセクションをどうやって大幅削減するのかが各自治体12月定例議会の最大の議題。破産寸前の民間の疲弊と相まって、来年の春以降は我らが業界が静かにジワジワと津波に沈んでいくようなことになるのは、みんななんとなく判ってはいる。

さても、どうなるか。2020年も師走に突入。鬼の笑いが引きつってら。

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