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Sinfonia Buenos Aires日本初演へ [現代音楽]

初演が1953年の曲を「現代音楽」扱いするのもどーかと思うが、出版は数年前で日本初演というネタなので、お許しあれ。

コロナ禍、緊急事態が発令されているニッポン国トーキョーで、生誕100年を祝いピアソラの実質上唯一の管弦楽大曲の日本初演が無事に行われることになったようです。なんとなんと、当日プログラムがPDFで誰にでも読めるようになっております。有り難いことです。
https://www.tpo.or.jp/concert/pdf/TPO_teiki_202105_WEB.pdf

ピアソラの《シンフォニア・ブエノス・アイレス》という作品、いろいろと情報が錯綜しており、出版しているff社のホームページからプリントは出来ないけど眺めるだけならOKという太っ腹状態になっている総譜があるんだけど
https://www.fabermusic.com/music/sinfon%C3%ADa-buenos-aires/score
その冒頭に記されたデータとff社公式ページの別のところの情報が違っていたり、なにがなんだか訳が分からない状態ですが、この日本語文化圏のピアソラ専門家たる斎藤充正氏の当日プログラム解説で、経緯はすっきり整理されてます。マルケヴィッチなんてお馴染みの名前も登場しますので、是非、ご一読を。作品が世に出る経緯と、手元でわしら一般聴衆が接することが可能なデータやソースの位置づけをきっちり整理することに絞り、どういう曲なのかの中身は一切捨てる、という大英断をなさっている作文で、これはこれで正しいやり方だと思います。正直、曲は「聴けば判る」タイプですしね。皆さんお馴染みモントリオールのロバートに拠る英文曲解の方では曲の内容にも触れてますから、関心はあるけどスコア眺めてるのはメンドーという方は、そっちも眺めてくださいな。

敢えて整理すると、どうやら版はいくつかあり

1:1951年初演版。録音ありだが、未出版のようです。
2:1953年改訂版初演。ff社の総譜に書かれる初演データはこれ。
3:2006年のナクソス版での世界初録音。版の違いは不明ながら、ff社版総譜で要求されているバンドネオンは2台ではなく1台で録音されたとのこと。
4:YouTubeにある映像。作曲者本人によるバンドネオンは入っていない版での演奏のようです。こちら。

てなわけで、来る水曜日から都内で三日間にわたって演奏される版は、ff社の総譜をちゃんと使う演奏としては世界で二度目みたいですな。

今回の演奏でなによりも有り難いのは、「ブーランジェ先生が、貴方は才能はこっちではなくてタンゴにあると宣った」というみんなが知ってるピアソラの逸話の根拠となった譜面が、ガッツリ聴けるということ。前衛の時代にヒナステラ先生の二番煎じみたいな作品を書く若者がまたひとり増えた、ってことにならずにすんだのは人類にとって良かったことと素直に喜ぶべきか?ブーランジェ媼も捉えきれなかったとんでもない才能が潰されてしまったと嘆くべきか?

さあ、これは聴きに行かねばマズいでしょ。公共交通機関を利用せずに初台や溜池に来られる貴方は、すっかり二重マスクして集まれっ!あたしゃチャリチャリ行くぞ…って、木曜日は雨の予報かぁ、うううむ。

[追記]

昨晩、溜池でff社譜面版の日本初演を拝聴してまいりました。プリントアウトしないなら総譜がWebで簡単に視られるので、どうのこうの言いませんけど、やはりYouTube上のバンドネオンなし版とはそれなりに印象が違いますな。上の映像で22分くらいからの延々と続くコンマス独奏の後に、映像の版で木管のアンサンブルになってる部分がバンドネオン2台の独奏になってて、この楽器の聴かせどころになっているのが最大の違い。

正直、冒頭2ページ目くらいから始めるバンドネオンのパートが延々とユニゾンで、どうみても音量のために2台入れてるんだな、としか思えない状態はその先も同じ。まだまだオーケストレーションには不慣れな若きピアソラ青年、初のオーケストラ大曲に自分の楽器を持ち込んではみたものの、どうすればきっちり響かせられるか模索状態、お手上げだったというのは良く判ります。

最後がオスティナートで盛り上がっていくのは、1951年という時代を考えるといろいろと興味深いですね。ある方が終演後に「伊福部じゃんかぁ」と爆笑なさってましたけど、誠に仰る通りでありまして、逆に言えば伊福部なんて知らない文化圏でこの作品が大いなる人気曲になる可能性もあったわけだわね。

当時の前衛志向の対極にあった「繰り返し」というテーマを真っ正面から取り上げちゃったこういう作品に、ブーランジェ先生が「これは今のメイジャーではダメだろう」と思ったのも、大いに腑に落ちるところでありましたとさ。

それにしても東フィルさん、あそこまで弾かにゃならんのだから、当日プログラムにコンサートマスター依田氏の名前は出してあげていいんじゃないかい。

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