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葵トリオについてとても残念なこと [演奏家]

去る土曜日、実質上満員のサントリーホール青薔薇での公演を以て、葵トリオ2021年初夏日本ツアーが無事に終了いたしました。途中、中部地方の公共ホールを中心にいくつかのキャンセルがあったものの、この時期に事故もなく秋田から四国まで(だと思うけど)のツアーがやれたのですから、それだけでも喜ぶべき事でありましょう。

やくぺん先生も、緊急事態下で県境越えをしてはならぬという御上のお達しに逆らい、荒川越えた埼玉は与野本町、多摩川越えて一度は神奈川に足を踏み入れる相模国は鶴川
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プログラムもすべて別の総計3度の演奏会を拝聴させていただき、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、メンデルスゾーン、サン=サーンス、ドヴォルザーク、マルティヌーと、よくまあこんなにレパートリーがあるもんだ、ってピアノ三重奏の世界に浸らせていただいたわけでありまする。

演奏家の皆さんばかりか、このツアーに関わったすべてのスタッフ裏方ご家族関係者の皆々様に、ホントにただただありがとーございました、と言うしかありませぬです。はい。

所詮はこんな無責任私設電子壁新聞、気楽に記してしまえば良いんでしょうが、ま、楽屋を襲ったり飲みに行ったり出来ない今といえ、ちゃんと問題の無い方法で演奏家さんご本人(のひとり)にあたくしめが言いたいことは良いことも悪いことも洗い浚い言っちゃったんで、他人様に誤解されそうなことや、ホントに思ってることなど、メンドーなんで記すつもりはございませぬ。やくぺん先生ったら、別に自分の感想を他人様に晒すのを商品としている評論家ではありませんので、表の媒体に書くこともないでしょう。

とはいえ、後の自分のために(あとどれだけ後があるかわかりゃせんけどさ)、今、感じていることを記しておくと…

ああああ、葵トリオがシューベルトのEs-durの楽譜で、音程もリズムもボロボロで、ダイナミックスも好き勝手で、なんでこんなことやってるかまるで判らんけど、でも、なんだか凄く格好だけは付いちゃって滅茶苦茶説得力がある、なんて演奏をしてくれる頃には…俺はもうこの世にはおらんのだろーなぁ、ホント、残念だなぁ…

以上。葵トリオについてでした。オシマイ。

…ってんじゃ、いくらなんでも酷すぎるわい。ひとつだけまともなことを記しておくと、現在の葵トリオは、恐らくは日本を拠点とする(のか?)ピアノ三重奏団としてはほぼ初めてのレベルにまで、楽曲を猛烈に作り込んできてます。特に大巨匠たちがやっつけ仕事とは言わぬが、自分の思ってることをぶつけ合うのが素晴らしい音楽である、ってスタンダードがしっかり出来てるシューベルトの変ホ長調みたいな作品で、まるでシューベルトのト長調弦楽四重奏曲をぎっちり作ってくるみたいな演奏が聴けるなど、もうひたすらぶったまげまくりでありました。その前の週に「技術的衰えがない上手過ぎ若過ぎる巨匠芸」たるイェルサレムQの20世紀後半レコード黄金時代のスターを彷彿とさせる大演奏タイプのベートーヴェンで前頭葉が潰れそうになってたところに、そーねー、敢えて誤解されても構わん言い方をすれば、今世紀初めくらいのベルチャQがベートーヴェンでやってたような細部まで猛烈に作り込んだ、嘘くささギリギリの音楽を、ピアノトリオで聴かせてくれた、ってこと。

だってね、あのシューベルトのえすでぅあで、飽きないんですから、最初から最後まで。そんなん、普通はあり得ないでしょ。

どこがどうなってたかをマニア語り始めれば、もうキリがないくらい細部が詰められている。そして、なによりも吃驚なのは、音程をがっちり固められたピアノに引っ張られずに、ヴァイオリンとチェロが音程を瞬時に変化させれる弦のアンサンブルにしか不可能なシューベルトの微妙過ぎる音程マジックを拡大鏡で掲げるみたいに見せつけてくれたこと。あのハ長調大五重奏の最後の最後、一瞬の転調で世界がひっくり返るようなおぞましさが、音楽のバランスの中で必要かつ適切な規模を崩さずに、あちこちで頻発するのでありまする。なんでこんなことやれるんねん!

勿論、モーツァルトのラルゲットってあーゆーテンポなのかとか、ベートーヴェン作品1の1終楽章冒頭の滅茶苦茶印象的な10度飛躍はモダンピアノでホントの音色が出せるのかとか、文句言いたいことはいろいろあるわけだが、そういう細部の文句を言いたくなる程にまともな演奏だった、ということなわけですし。

思えば、世界の「常設」のピアノ三重奏団の中にあっても、バンフ・コンクールの水準の国際弦楽四重奏コンクールに参加した弦楽四重奏団が根っこにある団体って、あるのかしら?お互いの音程のクセから趣味から知り抜いた精密な弦のアンサンブルに、やり過ぎとすら思える音色の多彩さで立ち向かうピアノが配される。こんな「精密」なピアノトリオ、正直、聴いたことないぞ。ボザールみたいな太字で書いた楷書体みたいな明快さでもないし、誰とは言わぬが相手のこと考えないパワーのぶつかり合いのスリリングで(出たとこ勝負な)展開では無論ないし。まるで弦楽四重奏みたいなピアノトリオ…なんて言ったら、絶対に顰蹙買うだろうけどなぁ。

さても、葵トリオ、年末にはやくぺん先生の今は亡きオフィスから至近の川向こう葛飾に登場してくださいます。なんとか年末くらいまでは、この気の触れた世界を生き伸びねば。

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