SSブログ

近衛の曾孫が英都を制す! [弦楽四重奏]

今を去ること40余年の昔、未だこの地上にはソヴィエト連邦とワルシャワ条約機構があり、世界のエリート音楽学校はソリストとオーケストラ団員育成がメインで「弦楽四重奏のコース」なんてものがあるのはマンハッタンはジュリアード、ニューヘイヴンはイェール、ライン川畔はケルンのアマデウス教室、はたまたシュトゥットガルトのメロス教室くらいだった頃、沈み往くロイヤル・ネイビーの横須賀か呉か、空母アーク・ロイヤルなんぞの母港ポーツマスの偉いさんが町興しになんかやりたいと天下のユーディ卿に相談に行ったところ、翁ったら何をとち狂ったか「弦楽四重奏はまだ世界にまともな国際コンクールがない」と言い出し、ことの重大さを判ってない軍港の偉いさんはあっさりああそうですか、ってことになって始まった、実質上世界最古の弦楽四重奏に科目限定した真の国際大会たるポーツマス国際弦楽四重奏コンクール、「音楽は世界の普遍言語」と信じる翁の眼目通り、こんなところで弦楽四重奏なんてやってるのかぁ、というような世界の田舎からも参加団体を集め、壁の向こうハンガリーの逸材タカーチュQやら、優勝ではなかったものの翁大プッシュの上海Qやらの才能を発掘。

軍港街が流石に運営が厳しいと白旗を揚げるや、ユーディ卿とその執事があれこれ手を回し、英都のど真ん中、シティのスポンサーを取り付けて、再開発なったバービカンセンターの南隣、ロンドン城壁の直ぐ外の帝都中央商工会議所集会所みたいな場所に居を移す。ニッポンで言えば大手町みたいなこの地球上のどの場所からも来られるアクセスの良さもあり、一次予選開幕時点で2ダースを超える世界中からの団体が押し寄せる盛況ぶり、口の悪い英都の評論家共は「あの大会はユーディ卿の趣味で1次はトンデモな奴らまでステージに挙げるから、セミファイナル以前は聴きに行く価値なし」なんて酷いことをどーどーと公言する程の盛況ぶり。正にユーディ卿が目指した「弦楽四重奏は世界の音楽言語」という夢を実現する大会となり、ついでに遙か極東の島国から相談に行った大阪は讀賣テレビ系のエラい人達に「室内楽のコンクールをやりなさい」などとアドヴァイスをし、その結果ぁ…

大英帝国の大会は、会場を英都に移してからは、東大美学系評論家先生らの猛アピールでスメタナQが異常な人気だった日本を例外に殆ど知られていなかったチェコ系団体の正統的継承者ヴィーハンQを発掘、余りに独特な英国の弦楽四重奏趣味を排したスーパー軍団ヴェリンジャーQを英国初の優勝団体にしたり、2022年春の段階で世界の弦楽四重奏番付でエベーヌQと共に横綱を張るベルチャQをしっかり落としたり、出来上がった団体を全て討ち死にさせてピカピカのカザルスQを勝たせたり、なかなかの大暴れぶり。今世紀になりユーディ卿逝き経済凋落著しいシティが支えられなくなるや、あれよあれよとRAMとやり手のウィグモアホール現総裁が引き取ることになって、10年代からは名称も「ウィグモアホール国際弦楽四重奏コンクール」になって…

ふううう、疲れたぁ。

ま、ってな経緯のロンドン大会、本来ならば昨年開催される筈だった大会の本選が、日本時間本日早朝に行われましたです。あとはこちらをご覧あれ。3時間19分とありますが、20分の休憩やら転換やらを省けば、ベートーヴェンの作品131挟んでラズモ3番ふたつ、それに総裁が満面の笑みで狭いステージ上密にしてアナウンスする結果発表まで含め実質2時間ちょいくらい、春の午後のノンビリしたながら視聴には丁度良い長さですから、お暇な方も、そうでない方も、是非ともご覧あれ。ドーネーションを迫られても、知りません、といえばいいんですからご安心を。


ファイナリストは、欧州各国の学生がシュミット先生のところで学んでる拡大EU団体アデルフィ、上と下が同じ姓のアルテミス門下のレオンコロ、それに遙々カンガルーの大陸からドイツに出てきてミュラーやらオリーやらのところで勉強しているアフィニティ、という2010年代末からのドイツ語圏弦楽四重奏の基本的な文法に則って同じ土俵でやってる若手ばかり。この顔ぶれを眺める限り、ユーディ・メニューイン卿の理想とは随分と違った、まるでドイツ系音大弦楽四重奏クラスの卒業試験か、って感じも否めんですな。ま、総裁が結果発表の最初に「コロナ禍などでいくつかの団体が来られなくて残念…」と言ってるように、パンデミック未だ収まらずもうしょうが無いから日常が戻ったことにしよう、ってときに150年ぶりの大国の隣国武力侵攻による併合目的の戦争などというアナクロニズムなことまで起きてしまっている戦時下、英都に来られたのは欧州と北米を拠点にしている連中8団体しかなかったとなれば、こうなるのも仕方ないですな。

んで、結果は…

※1位:レオンコロQ
※2位:アデルフィQ
※3位:アフィニティQ

なお、ドイツでしっかり勉強してくださいジュネス・ミュージック賞はペリア、ファイナルに行けなかったなかでいちばんだったで賞はリセス(ミロのところの子達なのかな)、エステルハージー賞はアデルフィとレオンコロ、ブリテン・ピアーズ賞もレオンコロ、ハイドン賞、新作賞、19世紀賞などなど全部レオンコロ、でありましたぁ。ちなみに総点積み上げ方式だったそうな。

ロンドン名物の英国趣味団体がまるでなかったようだし、なによりもやくぺん先生が唯一まともに音を聴いたことがあり期待していたフランスの御家族弦楽四重奏チャリック・ファミリーが早々に蹴られてしまい、ぶっちゃけ、その時点で「多様な弦楽四重奏の価値を審査員連中がどう評価するか」という関心がなくなってしまったことは確かで…隠居宣言した身を引っ張り出し数十万円の航空券代と英都に蔓延するコロナの恐怖を乗り越えて行かなくても良かった試合となったのは、ちょっとばかり有り難い。どうもハワイ連中も行ってないみたいだし、ま、大阪大会の若き新チーフ・プロデューサーが南回りで24時間かけて頑張って行って下さっているので、爺は安心じゃわい。

さても、こちらが優勝したレオンコロQの公式ページ。まだドイツ語しかないけど、ちゃんとしてるなぁ。日本語まで作ろうとしているのは、当然と言えば当然かな。それにしてもこの背景写真、テーゲル辺りの倉庫かなんかかしら。
https://www.impresariat-simmenauer.de/en/artists/
なんとなんと、既にジメナウアーの若手枠で契約しているらしいぞ。新社長になってちょっと経営方針が変わったみたいとはいえ、不動の長老アーヴィン軍団やエベーヌ&ベルチャの現役最強両横綱以下、相変わらずの「欧州弦楽四重奏の価値を決めるのは我が社だ」ってラインナップではあるものの、些か若手偏重のアンバランスさも感じるロースターではありますねぇ。
https://www.impresariat-simmenauer.de/en/artists/

正直、10年代に入ってから些か迷走気味という感も否めなかったロンドン大会、顔ぶれがはっきりしていたこともあるのでしょうが、久しぶりに順当な結果、という感じ。ニッポンでは「あの近衛秀麿の曾孫がロンドンの難関コンクールで優勝!」という文字がメディアに躍るか、ちょっと楽しみですな。

この2年分のコンクールがギュウ詰めになっているこの春から来年、来月にはボルドー、秋にはバンフとミュンヘンARDが同時開催、そして来年はいよいよ大阪とメルボルン、独奏大会と違ってコロナ禍の練習がちゃんとやれたか判らぬ室内楽、ましてやロシア国籍のメンバーを欠くことになりそうな国際情勢となると、果たして各コンクール、水準を維持出来るのか、些か心配にならざるを得ないけど…ま、こういうときもある、と割り切るしかないんでしょうねぇ。

とはいえ、レオンコロはマネージャーがミュンヘンARD参加を薦めないだろうから、秋のミュンヘンでの国際コンクール見物復帰を考えていたやくぺん先生としては、ちょっとうううううむだなぁ…

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。