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「室内楽の楽しみ」の多様性 [弦楽四重奏]

猛烈な円安になろうが、眼に入るありとあらゆるものが値上げになろうが、なんにもしない方が失点無しで支持率が上がるから上院選が終わるまで知らんぷり作戦ミエミエの我が御上、唯一やってることといえばコロナ禍の非日常をじわりじわりとノーマルに戻す作業みたいで、水無月に入るやもうニッポン列島には「外来演奏家」連中が溢れ返ってら。こっちとすれば「一斉に」だけど、向こうとすれば「2年半ぶりに」なわけで、当然のことながら「おおおおい、今、トーキョーに着いたぞ、積もる話もあるから、飯でも食おうぜっ」ってことになるのはニンゲンという心を持った生命体ならば仕方ないところでありましょーぞ。んなわけで、神無月も最初の1週間が過ぎようとする時点でやくぺん先生ご夫妻ったら、もういくつの演奏家関係者入り乱れた久々の打ち上げ宴会やら
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いくつの涙の再会のハグハグやら
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その数を数えようにも、記憶が定かならざる状態。今月いっぱいはこれが延々と続く、30ヶ月ぶりのスーパー再会&宴会月間となってるのでありまする。ふうううう…

当然ながら新帝都(そろそろ「シン」が取れてもいい気がするが、上皇後存命中は外せないんだろーなぁ)は猛烈な演奏会バッティング合戦で、仕方なく日取りをずらし北の大地まで足を伸ばしたり、こりゃお手上げと全て放棄し休養日する荒技に出ちゃったり。

かくて昨日は、日本列島ヴァインベルク祭りの頂点たる温泉県女帝&クレメルに拠るヴァイオリン・ソナタ第5番超満員のメイジャー会場での演奏、はたまたプラジャークQ最後のベートーヴェン全曲演奏の最終日、コロナ禍を耐えてブダペストで開花した若き才能インテグラの門出を祝う溜池お庭収穫祭、なぁんてスーパーイベントが目白押しなのを敢えてスルーし、多摩県最東部というか、トーキョーの西の外れというか、やくぺん先生夫妻が若き日を過ごした武蔵野の地で、なぜか激安じゃないこの主催者としてはノーマル値段、なぜか大ホール、そして今や日本語文化圏チラシ界のひとつのメインストリームとなってしまった持ってけ泥棒チラシもない、という不思議な演奏演奏会に向かうべく、蝦夷地から貧乏人御用達桃さんで梅雨空跨ぎ千葉空港に着陸、そのまま新帝都都心通り越し吉祥寺駅へと馳せ参じた次第でありました。
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https://www.musashino.or.jp/bunka/1002092/1003107.html

昔から「ヴィーン」ネタは可能な限り避けまくってきたやくぺん先生としましては、この団体がどういう素性でどういうやり方をしているのか、まるっきり知りません。どうやらメンバーに山響コンマスさんが入っていて、過去にも何度かバックバンド系の仕事で来日公演はなさっているらしい。第1ヴァイオリンとチェロが旧ハプスブルク帝国の東の方出身って感じに名前の兄弟で、風貌からしてもラカトシュ系というか、なかなか大向こうを意識したベラボーなこともやらかしそうな気配なんだけど…

30余年前に現与党議員の市長の「どんな方法を使っても良いから満員にせよ」という命令一下始まったという伝説が伝わる激安の地、武蔵野市の文化財団が流石に時代の流れに抗せずに新たな組織へと生まれ変わったか、「新法人「公益財団法人 武蔵野文化生涯学習事業団」発足記念公演」なる賑々しいタイトルが付いた演奏会。事前には新主催者が天下のモーツァルト学者先生を招いた事前レクチャーをやったりしてるんで、これはローカル新聞記者が詰めかけ、黒服の招待関係者が居並び、市長なんか来ちゃったりして、開演前に延々と挨拶があっちゃったりする類いの演奏会なのかなぁ、なーんて思ったら…まるっきり違いましたです。聴衆は武蔵野の文化財団最大の至宝たる聴衆リストの多くを占める四半世紀のお得意さん、要はこの会場の固定客でもう都心や遙か鶴見くんだりまで行く気がない熟年ばかり。このところの飯会で欧州の演奏家からも盛んに話題となる「コロナで高齢者が演奏会に来なくなり、その足が戻っていない」という深刻な話なんぞどこへやら、の盛況っぷりでありまする。でも、トーキョーの室内楽コンサート会場で見るコアなファンや同業者の皆さんの顔は一切無し。そりゃそーだろーねぇ。

んで、やってた音楽ですがぁ…これがまた、なかなか興味深いものでありました。敢えて誤解されそうな言い方をすれば、「演奏様式がどうだ、使用する譜面がどうだ、テンポ設定がどうだ、アンサンブルとしてのバランスがどうだ、フーガとソナタの形式上のバランスがどうだ、なんぞとヒョーロンカ先生が難しいことをどうのこうの仰るもんではなく、キレキレのフィドラーが仲間集めてモーツァルトやらベートーヴェンの譜面をそれっとばかりに楽しく初見弾きするのを、みんなが集まってニコニコ喜んで拍手喝采、大いに盛り上がる」ってもの。ああああ、コロナ禍ですっかり忘れてたけど、室内楽には本来こういう盛り上がり方ってあるんだよねぇ、そう、ニッポンならモルゴアQの「プログレ」に集まってくる熟年一歩手前世代なんかの盛り上がりを、《不協和音》や《ラズモ3番》でやっちゃう、というようなものかしら。

音はデッカいので、大ホールでも大丈夫。今時のコンクール世代やバリバリ世代の「メトロノームにこう書いてあるから、行きまーす」って猛烈な勢いで飛び出す《ラズモ3番》終楽章とは大違い、まずはごゆるりと重厚に始まり、ああノンビリゆったり弾けなくなったら止まっちゃってもええんでないのって70年前のヴィーン系人気団体のノンビリしたライヴの再現かと思いきや、コーダに向けてガンガンのスピードアップで、最後はもう止められなかったら聴衆総立ち、って大熱狂。
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ショーマンやなぁ、第1ヴァイオリン氏!

そんなハイパー娯楽系演奏会なんて行ってもしょーがなかろー、と言うなかれ。今時の真面目な若者たちが絶対にやらないような再現のお陰で、なるほどこの時代に流行していたという所謂「第1ヴァイオリン超絶技巧クァルテット」をハッキリと意識した《ラズモフスキー》という曲集、それも最後の大サービスおまけ楽章みたいな部分って、アンサンブルの核はセカンドとヴィオラになって、ファーストは実質上超絶技巧オブリガートなんだよねぇ、ガンガンやっても曲は壊れないように出来てるんだなぁ、なぁんて教科書に書かれているよーなことが音としてとても良く判る。娯楽として楽しかっただけじゃなくて、大いに勉強にもなりました、って一粒で二度美味しい晩なのでありましたとさ。

終演後、居並ぶ熟年聴衆の大拍手に応えるヴィーンの楽人らの、やったぜという満面の笑みったら。そう、コロナで忘れそうになってたけど、室内楽にはこういう楽しみもあったんだっけ。

大真面目な若者の真摯な力演も、どこからどう文句を言っても崩れない世界最高峰の巨匠技も、滅茶ムズ楽譜を思いっきりやっつけてみんなで盛り上がっちゃおうって贅沢な(些かベートーヴェン様に対して不届きな罪悪感も残る)娯楽も、どれもがみんなベートーヴェン!

今晩のベルリン在住ロシアの中堅達は、果たしてどんなことをやらかしてくれるやら。

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