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ファン・ズウィーテン男爵邸のK.550のこと [音楽業界]

昨晩は、新帝都は溜池の大きなコンサートホールで、天下の東京都交響楽団を前代ニューヨークフィル監督が指揮して、モーツァルトの後期3大交響曲を一晩で披露する、という演奏会を拝聴してまいりましたです。
https://www.tmso.or.jp/j/concert/detail/detail.php?id=3574

21世紀20年代の今、2000人収容するオーディトリアムで管はともかく弦楽器はたっぷり入ったモダン楽器で著名指揮者がこの3曲を演奏するって、なかなかありそうでない機会。あるとしたら、ヤルヴィ指揮ブレーメン室内管とか、ハーディング指揮マーラー室内管とか、はたまたエラス=カサド指揮セント・ルークス室内管とか。まあ、狙いに狙ってペトレンコ指揮ベルリンフィル、なんてのはあっても不思議ではないですけど。

20世紀最後の「レコードの巨匠時代」終焉期には、アメリカ合衆国のメイジャー・オーケストラはこういうものを録音したくてもユニオンとの関係でコストがかかりすぎて無理、という話は盛んに聞かされたものです。そんな文字通りの「大人の事情」を逆手に取るように、所謂HIP大流行となって、こういう形のメイジャーオーケストラでの大編成モーツァルト交響曲は特殊ジャンルとなってしまった。今回、2週間弱の新帝都滞在最後をこの演奏会で締めることにしたのも、正直、珍しいからです。身も蓋もない言い方だなぁ、いやはや。

ま、中身に関しましては、マニアさんからモーツァルト好きの方、はたまた同業者さんなど含め既にあちこちでいろんなことが言われているでしょうから、関心のある方はそちらへどうぞ。やくぺん先生ったら、あああティンパニーがぁ、とか、木管のバランスはこーゆーもんなのかぁ、とか、ポリフォニックな線の見せ方って、とか、ぶっちゃけ、あれこれ脳内補正して聴いている始末で、いかに我が前頭葉がHIPに浸食されまくっているか、今更ながらに驚きまくるという貴重な体験をさせていただいたのでありましたとさ。

さて、それはそれとして、興味深かったのは当日プログラムの解説でありまする。日本語版は寺西先生、英語版は当電子壁新聞ではお馴染みの(かな?)ロバートが書いていて、別の原稿。トーキョーとモントリオールという太平洋と北米大陸隔てた10000キロ向こうから送られてきた2つの作文の基本的なスタンスが、極めて似ている。寺西先生のものは上の都響URLから読みに行けますので、ご関心の向きはどうぞ。

で、隣に座った敬愛する同業者氏に「いやぁ、こういう曲解って、難しいですよねぇ」などと世間話に毛が生えたような会話をしていて、ひとつ興味深い情報を提供していただきました。

モーツァルトのK.550ト短調交響曲ですが、寺西先生もロバートも「モーツァルトの生前に演奏されたようだが…」という毎度ながらの持って回った言い方をしている。で、もの凄く信頼出来る同業者氏に拠れば、これに関してはもう10年くらい前に書簡が発見されている。モーツァルトはファン・ズウィーテン男爵邸でのこの作品の演奏を聴いて、怒って出て行ってしまった、という手紙が公開されているとのこと。何故かこの話は日本語の媒体では定説としては取り上げられていないようで…とのことでありました。

教えていただくがままにソースとなる文献を漁ると、いやぁ、恐ろしい世界になったなぁ、あっという間にPC画面に英訳で出てくるじゃないのさ。

ホントはここでURLを貼り付ければ良いんでしょうが、流石にこの論文を読みたいという方はもうちょっと手間を取っていただくべきであろうと思うので(立ち読みなさってる方々の利便など欠片も考えてませんからね、当無責任電子壁新聞は)、この論文、という題名だけを記しておきます。こちら。

A Performance of the G Minor Symphony K. 550 at Baron van Swieten’s Rooms in Mozart’s Presence, in: Newsletter of the Mozart Society of America, vol. XVI, Number 1, 27. January 2012, S. 1-4, 17.

もう発表されてから10年も経っているのに、日本語文献ではまだ殆ど取り上げられていないのには、やはり学問的な裏付けが希薄、事実として語るにはまだちょっと…ということなんでしょうかねぇ。

なにはともあれ、モーツァルトの後期交響曲の作曲背景やら演奏を巡って、やっぱりまだまだ判らんことだらけ、ということは判りますな。個人的には、曲目解説などに盛んに語られる「モーツァルトが委嘱もされないのにこんな大作を書くのは珍しい」という話は、うううん、そーかー、と思ってしまう。なんせ、あの《ハイドン・セット》という究極の委嘱無し、勝手に書きたくて書いた作品群がある人ですからねぇ。ファン・ズウィーテン男爵周辺のサロンのためなら、それくらいやるだろーに、って思っちゃうけどなぁ。うううむ…

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奥田佳道です

2011年にカレル大学のハヨーショヴァー博士が発表したのが確か最初で、慶應の西川先生ほかが紹介していますが、なかなか広まらないですね笑
ウィーンの音美波博士は、あれはねえという感じなのか(認めたくないのか)う~んでしたよ。プラハのオルガン奏者ヴェンツェルさんが1802年にライプツィヒのキューネル出版に宛てたドイツ語の手紙の後半に、ト短調の、ときれいに書いてありますが、初演なのか再演なのか、39番と41番はどうなんだ、とまあそんなとことです。
音楽の泉でこのお話をしましたら、モーツァルトより詳しい方から、解説者の言っていることは本当なのか、私はたいていの文献は読んでいるが知らないぞとお問い合わせが笑
by 奥田佳道です (2022-08-10 19:09) 

Yakupen

奥田様

顔ばれ投稿、ありがとうございます。やはりこういう「研究者の空気感」というのは、門外漢には判らぬもんですからねぇ。学問としての「定説」の作られ方というのは、ホントに難しいと思います。情報提供、誠にありがとう御座いました。生きるとは無知を知ること、とあらためて感じ入ります。
by Yakupen (2022-08-26 10:44) 

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