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シュレーカーがアヤシく響く場所 [音楽業界]

夏草ボウボウに生い茂らんとする温泉県盆地仕事場から金沢経由深夜に新帝都に戻った翌日、パツパツの原稿を少しでも処理し、既に到来した夏空を恨めしげに見上げつついつになったら梅雨になるんだと呆れながら、遙かトーキョーとサイタマ国境の街、清瀬へと行って参りましたです。目的は、こちら。
https://ivctokyo.com/christophorus/

シュレーカーがベルリン時代に完成したオペラながら、ナチス政権把握に伴い上演が成されず、初演は前世紀の終わり頃まで引っ張られたという代物。なんとなんと、世界で3度目の上演となるだけではなく、信じられんかもしれんが、シュレーカーのオペラ作品が日本で舞台上演されるのはこれが初めてという。えええ、《イーレローエ》とか《ヘントの鍛冶屋》ならともかく、すっかり世間でも評価が定まった《遙かな響き》やら《印し付き》(やっぱ《ゲジヒネテン》と表記しましょうかね)とかもニッポン列島では舞台上演されてなかったのかぁ、と吃驚するというよりも呆れてしまうなぁ。ツェムリンスキーは初台でだってやられてるってのに…

シュレーカーのオペラといえば、当無責任電子壁新聞では何故か随分と「感想になってない感想」シリーズで取り上げており、要はどっかで上演に出会ったら多少無理しても眺めに行く、という観察対象ではあった。どうしてかといえば、日本アルバン・ベルク協会が結成される前の起ち上げ総会みたいなところで、若杉氏に立ち話で「シュレーカーはやらんのですか?」と尋ねたら、「うううん、やっぱり音楽が弱いよねぇ」と仰られ、以来、へえそんなもんなのかなぁ、と気になって、機会があれば追いかけている、というだけのこと。実際問題、過去に一切表の商売になったことはないネタじゃないかしら。無論、初台の共著『戦後のオペラ』にはひとつも入ってるわけないですしね。

ま、過去のもんを引っ張り出すと、こんなもんかな。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2018-01-21
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2013-05-02
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2012-09-04
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2011-01-22
へえ、思った程観てないもんじゃのぉ。確か、リヨンでも《ゲジヒネテン》眺めてると思うんじゃが…疲れすぎてて感想になってない感想も書けなかったようじゃのぉ。リエージュでの《ヘントの鍛冶屋》は結局日程が合わず。それどころか、恥ずかしながらなんどもニアミスしてるのに未だに《遙かな響き》はどこもタイミングが悪く舞台で観たことなく、コロナ禍後最初の渡欧のときも無理してフランクフルトからストラスブールまでICEで突っ走れば観られたんじゃが、そこまでの元気がなく諦めてしまった。このままじゃ、生涯観ないで終わりそうじゃのぉ。

ってなわけで、現役引退を撤回し老体を無茶な移動に晒しているこの春以降、流石にもうこういう極めて趣味的なオペラ系作業からは完全引退したとはいえ、新帝都縦長屋最寄り地下鉄駅から乗換無し一本で延々と1時間も座っていれば到着する場所で、それがどんなアヴリッジド版での上演といえ舞台上演でシュレーカー作品が出るってことになれば、流石に知らんぷりしてるわけにもいけんじゃろて。何故か今時あり得ない「ゆうちょ銀行への代金振り込み確認後にチケット郵送」なんてゆふいん音楽祭クラスのレトロな販売方法にも驚きつつ、インバウンド溢れかえる由布岳眺める大観光地湯の壺街道入口の大分銀行から送金し当日取り置きで席を確保、さあ、あとは清瀬に出かけるだけじゃわい。

以下、いくら読んでもこのシュレーカーの相当に奇妙な作品に対するまともな感想なんぞ、一切ありません。ただ、「キヨセに行ったぞ」というだけの話です。お急ぎの方はお帰り下さいませっ!


そもそもいかな編成が小さいからと言って、数十人規模のオーケストラは必要な作品を「清瀬けやきホール」というトーキョー新帝都特別区及び近郊市部の公共ホールのオーディトリアムで上演するわけですから、オペラハウスでのフルサイズ上演ではない。上述の過去の「感想になてない感想」の中には、ケルンのライン河右岸の廃工場みたいなところでやったりした例もあるわけだし、どこの歌劇場でも、フランクフルトならボッケンハイマー・ディポ、ミュンヘンなら裏のレジデンツの中の劇場、ベルリン・ドイツオペラなら楽屋口側にあるスタジオみたいなところで上演する若手育成枠やら実験劇場枠があるもので、我らが初台にだって中ホールがある。今回の上演も、まあそのようなもんじゃろ、と思って出かけたわけでありまする。

んで、清瀬駅に下車したら、改札前でこんなデカい立て看板がお迎え。
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うううむ、どういう風に感じれば良いのやらわからんが、ああそうですか、と改札を出て、駅連結スーパーで弁当など買い、駅前のごちゃごちゃした雑踏の中にある妙にモダンな市文化施設に向かうのじゃ。
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駅とは反対側にはシラッと畑なんぞ広がってて、練馬世田谷っぽさを感じさせる場所であるのぉ。

なんせシュレーカーという人は、ぶっちゃけ、メイジャーなんだかマイナーなんだかよーわからん作曲家さんで、天下のベルリン・ドイツ・オペラは地下鉄駅を出てオペラの正面に向かう地下道に偉い作曲家さんをオマージュした不思議なポンチ絵のようなものをベッタリ描いている中に、どういうわけかシュレーカーがしっかり存在している。あの街ではそれくらいメイジャーで、ある時期は誰でも知っていたオペラ作家、ということなんじゃろか。っても、クロール・オペラの伝統があるわけでもない、戦後の東西分断時代に西側ショーケースとして出来たオペラハウスだから、敢えてナチスに抹消させた歴史を人々に知らしめるために掲げられているのやら…。

ま、そんな遙かシベリアの彼方の街の話はどーでもいーわけで、ここトーキョー都下キヨセのロビーで開演を待つ人々から醸し出される雰囲気には、この作曲家のオペラに漂うアヤシげでどこかうしろめたぁああい感じはまるでないわい。
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どう見ても出演者の親戚、主催者の関係者、生徒さん、などなど。それに数える程のマニアさん、ってとこかしら。

開場すると、ホールはまあ、1000席はないだろうというような地方都市の市民ホール。ピットなどあるわけではなく、舞台の下の席を数列外し、下手側に囲いを付けて、なんのかんの1ダースちょっとの楽団と、管楽器関係を全部引き受けるべく編曲されたエレクトーン2台が仮設ピットに鎮座しております。舞台上には恐らくは上演にも用いるのだろうピアノがある。興味深いのはコレペテなどの用意は無く、どうも指揮者が2人いてオケと舞台と別に指示を出していたみたいなことなんだけど…これってどういうことだったんじゃろかのぉ?

自由席ということでそれらしい場所に座ったら
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同じ列には当然このような演目にはいらっしゃるであろう評論家のC先生、その向こうにはコロナで英国から引き揚げてきて今や貴重な東京の同業者さんとして活発に動いていらっしゃるGさんも。フィールドちゃうねん、と尋ねたら、だってここ、うちから数駅なんだもん、ってさ。

英国の舞台事情などは良く判ってるGさんと、なんだかアルメイダ劇場みたいだなぁ、だってオルドバラの音楽祭でブリテンがやってたのだってこんなもんよね、なんぞ無責任な話をするうちに舞台は始まり…

作品としては、なるほどねぇ、第1次大戦後のベルリンで、シュレーカーやらツェムリンスキーやらの戦前の「後期ロマン派の正統的な延長線上にある表現主義」、要は『ドクトル・マブゼ』やら『ニーベルンゲン』やら『メトロポリス』っぽいものがだんだん肩身が狭いものになって行き、若いヒンデミットなんぞはさっさと作風を転換していく中で、かつて大成功した大家がどういう風に追い詰められていったか、なかなか痛々しく感じ取れるなぁ…というもんでありましたな。《遙かな響き》や《ゲジヒネテン》の芸術家主題の結末、さらば表現主義の《カプリッチョ》というべきか。

正直、作曲者自身がリブレットを書いている話そのもののわかりにくさとか、毎度ながらの後期ロマン派言語ごった煮で様式を意図的に捨てたような瞬発力の固まりみたいな音楽なのに、何故かドラマとしての重要なポイントは台詞で済ませてしまっている《フィデリオ》型ジングシュピールっぽい拍子抜け感とか、慌てて突っ込んだようなジャズ的要素とか、シュレーカー先生の悩みっぷりというべきか、迷走っぷりというか、善し悪し好き嫌いどうあれ、なるほどこういう時代だったのねぇ、と考えさせていただきましたです。

会場には、過去の世界中のシュレーカー作品上演は全て観ているという世界シュレーカー協会の会長さんが何故かニュージャージーだかからいらっしゃっており、終演後に舞台に上がり公演監督さんとハグハグ
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ドイツ語の祝辞を述べていらっしゃいました。シュトックハウゼンにも世界中の全ての舞台を追いかけてる奴らがいるという話をバーミンガムで聞いたが、シュレーカーにもいらっしゃるんじゃのぉ。

この先生がとても追い切れないと諦めるような日がやってくるのか、未だ梅雨到らぬキヨセの土曜午後に、長い拍手は続いたのであったとさ。

ちなみに、この当日プログラム、日本語歌詞対訳だけでも€10弱の価値はあります。ご関心のある方は、上の公式URLからどうぞ。

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