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日本フィルの九州ツアーについて [音楽業界]

先程、杉並公会堂で日本フィルさんが恒例の九州ツアーに関する記者会見を行いましたです。
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見よ、記者席にちょこんと並べられたお菓子ったら、訪れる九州各地から持ち寄られた逸品ぞろいじゃぞぃっ!博多のカステラ巻きみたいなもんは食べちゃったんで、包装紙だけでごめん。

やくぺん先生ったら、いつもの「賑やかし要員」、要は質疑応答でシラッとしてしまったときに手を挙げてなにか突っ込むための存在として呼ばれたのだろうと思ってたら、なんと某媒体から記事を作れということになってしまい、中身についてはこんな無責任電子壁新聞に記すわけにはいかなくなった。とはいえ、せっかくのこのこと杉並まで出かけて皆さんがいろいろ喋ってくれたんだから、関心がある方もいらっしゃるやもしれぬので、データ的なことではなく、その意義についてちらっと記しましょうぞ。

ええ、こんな壁新聞を眺めてるようなすれっからしの皆々様とすれば、「日本フィルの九州ツアーなんて、なにが珍しいんじゃ?オケの地方ツアーなんて近衛管弦楽団の頃からいくらでもやってたことじゃないかい」と思ってらっしゃるでしょーねぇ。確かにその通り。大戦前に今のN響前身の新響やら、東フィル前身の松坂屋管弦楽団、はたまた宝塚のオーケストラなんぞが地方公演をやってたのか、それはそれでまた別の議論になるのでそれはそれ。少なくとも戦後、オケが稼ぐために生き残るためになんでもやり、諸雑の歴史状況からニッポン国開闢以来「クラシック音楽」の人気が最も高かった敗戦後から占領下、そして独立後の高度成長始め頃には、オーケストラはいろんな苦労をしながら地方公演をやっていた。その辺りの苦労話は、先頃亡くなった宮崎マー坊さんなどがいろいろと語って下さっております。じゃあこの日本フィルの九州ツアー、何が他と違うかというと…ぶっちゃけ、運営の仕方です。つまり、ホントのことを言うと、聴衆には別にどーでも良いこと。でもオケ側とすれば、とても重要なことなのでありまする。

この九州各県を巡るツアー、最大のポイントは「地元のボランティアによる実行委員会」形式のツアーだということ。要は、「九州のローカル音楽事務所が日本フィル公演をうん千万円だかで買って、それを地方の主催団体に売ったり、場合によっては自分でホール借りて切符売ったり」というのではない。無論、今のオーケストラ地方公演の常識たる「公金で運用される地方音楽ホール(を運営する指定管理者やら地方文化財団)が、オーケストラ公演を買って、切符を市民向けに売る」というのでもない。地元の日本フィルを聴きたい人たちが集まり、主催者となり、ホールを借りて演奏会を行う。ましてや今回のツアー、御上の助成が取れなかったそうで…

ですから、今、急に流行の「公金を用いた文化事業」でもなければ、「民間が営利行為として行う興行」でもありません。似たものとすれば労音のやり方などに近いが、既存の鑑賞団体に乗っかるのではなく、このツアーだけのための実行委員会が作られるのですね。なんでこのようなやり方が出来ているか、45年目、という数字を見ればお判りになるように、日本フィル分裂騒動後の「みんなで日本フィルを守ろう」運動の流れであります。

実は、このような実行委員会による日本フィル招聘は、分裂後のある時期までは日本各地でありました。ところが、時は「芸術文化に公金を用いる」方向に流れ、いくら公的助成金が出ようがあくまでも「聴きたい奴が集まって勝手にやってる」ローカル実行委員会型の招聘はどんどん淘汰されていった。そりゃそうで、激安武蔵野などの例を出すまでもなく、公金を投入すればいくらでもチケットを安く出来る。自分らが実行委員会に入るような熱心な方はともかく、普通の聴衆は「市がいっぱい補助金を出してくれるんで、今度の新しいホールではN響が5000円で聴けるぞ」なんて状況になるわけで、そうなれば持ち出しにも限界がある実行委員会型が値段で勝てる筈がない。それに、実行委員会方式は、それこそゆふいん音楽祭の歴史を見ていただければお判りのように、実行委員となる人が高齢化し去っていったあとに、後を継げる情熱を持った人がいるかどうか判らない。ぶっちゃけ、運次第。いい人がいればやれる、だけど、殆どはそういうことにはならない。かくて、今や日本フィルの九州ツアーは、殆ど文化財クラスの貴重なイベントとなっている。

無論、かつては博多から殆ど出なかった九響が、九州のオーケストラとしての活動をするようにもなってるわけですし。地方オーケストラの力がどんどん上がってきた今世紀、中央に拠点を有するオーケストラが地方公演をやる必要があるのか、ベルリンフィルやらヴィーンフィルやらコンセルトヘボウらの世界に冠たるブランド・オーケストラ(今や、こういう言い方が普通になりつつあります)ならともかく…って意見もあるでしょうしねぇ。

日本フィルさんとすれば、その歴史的使命は終わっていないどころか、僕たちの闘いはこれからだ、という気持ちであることは確か。その旗振りにラザレフ御大というのは、旗振りならぬ棒振りの司令官としては、なかなか良い人選なんじゃないかい。ほーれ、記者会見もこの有様。
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とにもかくにも日本フィルの九州ツアー、九州方面の方はいろいろ情報が出てくると思いますので、ご関心の向きはお気を付けあれ。

願わくば、チケットを買うだけじゃなくて、俺が実行委員会に入って盛り上げてやろう、って方がいらっしゃれば有り難いんですけどねぇ。

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