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《ヴァルキューレ》を真下に眺める席 [音楽業界]

時差が4時間以上ある場所に超短期滞在する場合、最大の問題は「演奏会の時間がいちばん眠くなる」という事実でありまする。歳を重ねるに従いどんどん酷くなり、今回の渡欧でも若ければ金曜日早朝にフランクフルトに到着する便で入って、月曜日の昼初便で出る、なんて実質滞在3日という強行軍もあり得るわけで、そうすれば宿代3泊分安く出来るけど、そんなん無理ですううう。んで、時差調整のために昨日ブリュッセルに入り、ノンビリとここアムステルダムに来たわけだが、こんなに早く入った理由はもうひとつ。そー、「機内では寝ずにひっぱり、到着後直ぐにヴァーグナーを見物し、ともかくウニ頭でも良いからなんとか頑張って最後まで耐え、終演後にベッドに倒れ込み、一気に時差を吹っ飛ばす」という、考えてみればこれも相当に若者向けの無茶な荒技がやれるタイミングだったのじゃよ。いやはや…

んで、先程、それを実行して宿に戻ってきて深夜前。もう前頭葉は完全に蟹味噌状態なので、恐らくこの先は数日後に追記して貼り付けることになるでありましょう。ともかく、お休みなさあああい。

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てなわけで、以下、感想にもならない感想文にすらなっていない駄文、誠に以てどーでもいい内容ですので、読む必要などありません。さあ、帰った帰った。自分へのメモにもなってないんだからさ。

アムステルダムの《リング》サイクルといえば、21世紀のゼロ年代半ばくらいにDVDボックスでどかんと出てきて、一部ではそれなりに話題になった代物。この前、無事に台中での上演も終わったバレンシア・リング、ソウルで始まったけど余りの入りの悪さに神々はヴァルハラに引きこもってしまったか、丁度今頃に予定されていた《ヴァルキューレ》が立ち消えになってしまってるマンハイム・リングなどと並び、「ちょっとぶち切れた絵面のリング・サイクル映像」として知られているもんでありまするな。こちら。わ、ものすごいURLだけど、このHMVのオタク丸出し解説を読んでいただければアウディの演出がどんなもんなのか良く判るし、映像もそれなりに入ってるので、敢えて貼り付けます。
https://www.google.com/search?safe=off&ei=5wXqXfGtKcXNwQKEzI1o&q=DVD%E3%80%80%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%81%AE%E6%8C%87%E8%BC%AA%E3%80%80%E3%82%A2%E3%83%A0%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AB%E3%83%80%E3%83%A0&oq=DVD%E3%80%80%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%81%AE%E6%8C%87%E8%BC%AA%E3%80%80%E3%82%A2%E3%83%A0%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AB%E3%83%80%E3%83%A0&gs_l=psy-ab.3...1832.10605..11034...0.0..0.183.1717.25j2......0....1..gws-wiz.......0i7i30j0i67j0j0i4j0i8i4i30j33i160.8W4EarIfTs4&ved=0ahUKEwixvenEwqDmAhXFZlAKHQRmAw0Q4dUDCAs&uact=5

さても、この舞台、前世紀の終わり頃に「極めて斬新な舞台」として賞賛され、いろんな意味で今世紀に入ってからの《リング》演出のひとつの流れのお手本になった古典的舞台。ぶっちゃけ、所謂「コンサートホールでのリング上演」のアイデアがいっぱい詰まったステージでもあるわけですが、ま、それはそれ。この劇場、映像にもなってるメッツマッハー御大の《アッシジの聖フランチェスコ》とかもそうだけど、ステージ上にオケを乗っけちゃって、舞台を客席なんぞにまで拡大して使う、というやり方をしばしば行うみたい。この劇場なのか、昨シーズンまで監督をやってたアウディの趣味なのか、その辺りは判らんが、ともかくそれなりの成功した舞台を作っている。こういうところで積み上げていったノウハウが、駅の西の公園で去る6月にやった《光》抜粋チクルスを可能にしているんだろーなー、といろいろ考えさせられること多々あり。ニッポンの新国立劇場、本来はこういうくらいの規模でこううことをやれればいちばん良いんだろーがなー…と遠い目になりつつあの悪夢の北京の町並みを思い出してもしょーがない。いやはやいやはや…

アウディの「20年前に斬新だった舞台」は、その後、この運河沿いの適正規模で客も妙にカジュアルな劇場で繰り返し上演されレパートリーになり、アムステルダム・リングとして劇場と、そして敢えて言えば、この街の財産になっていた。それがとうとう今回の上演を以てオシマイになるということで、中でも人気の《ヴァルキューレ》は本日を入れてあとは日曜日の千秋楽まで二公演を残すばかり。
https://www.operaballet.nl/nl/opera/2019-2020/voorstelling/die-walkure
客席は平日の晩というのに午後6時から11時まで付き合ってやろうというアムステルダム市民ばかりか、世界のあちこちからこの有名な舞台をライブで観ておこうとやってきたヴァーグナー愛好家さんで溢れてます。ポスター類はしっかり21世紀も10年代の終わりで、そもそも紙のポスターなどひとつとしてないし、そのヴィジュアルも中身とまるで関係ないのが今風だなぁ。
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さても、この舞台、ひことこで言えば「舞台の上にピットの上まで覆うでっかい舞台をもうひとつ乗っけて、《ヴァルキューレ》では上手寄り真ん中にほぼ正方形の穴を空け、オケはそこに全部押し込み、ステージ奥と下手、ピット上を舞台空間として演技が行われる」というもの。
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このやり方なら、金さえかければ、サントリーみたいな所謂ワインヤード型ホールにも持ち込めないことはない。無論、オケはギュウギュウで、下手側天井桟敷から眺めていたやくぺん先生とすれば、ヴォータンが嫁さんにどんな風に叱られれてるか、ツバメさんヴァルキューレたちがどうやって走り回るかなどは、殆ど見えません。でも、6台も並んだハープが何やってるかやたらとよく見える、

オペラを声中心に鑑賞なさってる方なら、この1600席くらいの適正規模劇場だからか、敢えて今時のムジークテアター系無茶な動きの演出では隠れた常識になっている仕込みマイクは使っていないようで、歌手さんたちがどっちに向かって歌うかによって音量がガッツリ変わってしまうのは大問題と考えるかもねぇ。
それから、今時のCG映像やら舞台の状況をライブカメラで捉えて切り取った画面を大きく投影したりとかする技術がまだなかった頃に作られたものとあって、第2幕の死の告知の場面でいきなり舞台奥に巨大なブリュンヒルデのアップ映像が投影されたりするのだが、それがなんとも古くさくセンスがないものに感じてしまう。流石にスカラでロンコーニが《ウィリアム・テル》だかで始めて大々的に映像紗幕を使って衝撃を与えた頃のものに比べればまだ古びてはいないとはいえ、やっぱりこういう「最先端の映像技術」ってのはあっという間に古色蒼然たるものになっちゃうんだなぁ、と吃驚(っても、あたしの席では殆ど見ませんでしたけど)。

他にも、銀色翼のツバメさん軍団ヴァルキューレたちの動きが今だったらこんなバウハウスちっくな集団よちよち歩きじゃなく、吊り物かCG映像にしちゃうだろうなぁ、とか、流石に20年経ってる演出故の時代を感じさせる部分はいろいろあるも、やっぱり「ああ、こういう空間全体をあれこれいじりまくる演出は、パッケージ映像じゃ判らないことだらけだなぁ」と納得させてくださったことは確かでありまする。勉強になりましたです、はい。

ま、それはそれとして、この演出をライヴで鑑賞するにあたり最も面白いことのひとつは、極めて特殊な客席が用意されていることでありましょうぞ。アドヴェンチャーシート、と名打たれた席は、こういうもの。
Adventurous, no fear of heights and a desire to experience Die Walküre in an unusual way? Then take a seat on the adventure seats. These seats float above the stage and offer a unique perspective on the opera.Please mind that there is no view of the surtitles from the adventure seats.

なんじゃらほい、と思うでしょ。上の写真の、天井からぶら下げられた二本の細長い箱の中が、アドヴェンチャーシートでありまする。上手と下手上空にそれぞれ40席くらいづつかなぁ。もうさっさと売り切れていていくらなのか判らないけど、人によっては拷問席だわなぁ。どうやって入るのやら、ともかく明らかに楽屋側のどっかからレセプショニストさんに引っ張られて高いところまで行き、開演直前に導き入れられておりました。
IMG_2379.jpg
まあ、上手側はオケの真上。下手側は演技が行われている舞台の真上。そこから眺めてなにがどう違うのか、天井桟敷が基本のやくぺん先生には取り立てて違って見えるとも思えないのだけど、平土間からしか眺めてないようなセレブなお客様にはものすごく刺激的な体験なのかもねぇ。ってか、そもそもアウディ御大、どう考えても百万円単位の予算がかかりそうなこんな客席仮設をどうしてやろうとしたんじゃろーなぁ。なんかやってみたかった、ということなんじゃろうが、この空間があることで高さを利用した演出は出来なくなるし、視覚的にはやたらと舞台の奥に向けての直線が強調されるし(それは利用してましたね)。

ま、なんかやってみたかった、ということなんだろーけど。こういう実験が、あの《光》の客席と舞台空間の融合というか、混交というかへと結びついたと思えば、ま、これはこれでありなのであろー。昨年の今頃のスカラ座でのクルターク世界初演、作品のオペラとしての余りの酷さになすすべもなく…って可哀想なようだったアウディ御大、こういう方向でやってきて今に至ったんだなぁ、という出発点のひとつは良く判りましたです。

日曜日は売り切れみたいだけど、このサイクル、チャンスがあればアドヴェンチャーじゃなくてもいいから、ライブでご覧になる価値はあります。やってることそのものはまともな演出ですから、ご安心を。ヴォータンがフンディングを殺す瞬間がすげえええカッコいいぞぉ。

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