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冬至の頃の風物詩 [演奏家]

冬至を前にした昨日、クリスマス前の週末で大いに賑わう上野公園は東京文化会館小ホールで小林道夫先生の《ゴールドベルク変奏曲》を拝聴し、やくぺん先生の2019年の音楽鑑賞の時間はオシマイとなりました。
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この後、クリスマスイブの関西Q、大晦日の中堅団体総ざらえベートーヴェン《ラズモ》以降全曲演奏会とコンサート会場に行ってやってることを聴く、ってのはあるけど、幸か不幸か両方とも今年はお仕事でありましてぇ、「あー、つまらんから俺は寝るぞぉ、もう帰っちゃおー」なぁんてわけにはいかぬ。ふううう…

この「年末の道夫先生のゴールドベルク」と呼ばれる演奏会、昨日も受付横には米寿を過ぎても矍鑠として現場にいらっしゃる今や神話的存在のマネージャーOさんの音楽事務所が主催なさっていて、小林先生の独奏リサイタルなのにずうううっと小林先生のマネージメントをしている銀座の某大手音楽事務所の主催公演ではありません。なんでやねん、と昔から思ってるので、昨日、別の仕事の話のついでにOさんの事務所の永遠の最若手さん(苦笑…)に尋ねたら、そうなんですよ、どうしてなんでしょうねぇ、とのご回答。なんと、それどころか、普通なら「第○○回小林道夫年末《ゴールドベルク変奏曲》演奏会」とか謳って記念回イベントなんかをやろうとするだろうに、「実は、今年で何回目なのかも良く判らないんです、40回目くらいらしいんですけど…」とのこと。

恐らくは伝説のマネージャーさんに尋ねても「忘れちゃった」というだろうし、道夫先生に尋ねても「何回ですかねぇ…まあ、良いんじゃないですか。まだやってもいいですかね?」などと言われてオシマイだろーし。

てなわけで、全く肩に力が入らない年末恒例、今や上野の年の瀬の風物詩となっておる《ゴールドベルク》、午後2時に始まり、最初の短調部分までを弾いてがっつり20分の休憩を挟み、アンコールの《パルティータ》第4番の「サラバンド」が終わるともうしっかり4時に近い。客席はほぼ満員。でも、数は少ないけどちゃんと当日券も確保してあります。勿論、チェンバロだからやっぱりみんな前の方に行きたいのでしょう、残ってたのは最後列の辺りばかりでした。
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意外にも、チェンバロって、独奏だとあの会場でもちゃんと最後列まで聴こえるんですよ。道夫先生だから、というのはあるんでしょうけど。

会場を埋めるのは、ぶっちゃけ、熟年層ばかりです。良くも悪くも「道夫先生と一緒に歳をとってきた人々」。一年を無事に過ごし、なんとかここに来られましたなぁ、という空気が客席に漂ってます。現役バリバリの方がこれを眺めれば、「クラシック音楽の聴衆高齢化」とか「若い人にもなんとかしてバッハの音楽の素晴らしさを伝えねば」とか、いろいろと危機感を感じてしまうのでありましょうが…ま、高齢者初心者にたどり着いたやくぺん先生とすれば、これはこれで悪いことじゃなかんべぇ、って納得してしまうのであった。

一年を大過なく無事に過ごすことがひとつの大きな課題となってくるわしら高齢者とすれば、親族関係者友人知人が次々と世を去り、体のあちこちにガタがきてかつては簡単にやれていたことがやれなくなり、なにかをしようという意欲も萎え、世間で伝えられることはとてもまともには付き合っていられないような醜いニュースばかり…って世の中を、なんとか365日分くらいは生き延び、またこの会場に座っていることが出来た。素敵なアリアの間を繋いでいく波瀾万丈ながら3つ毎に一息くらいはつく30の小さな世界は、自分がなんとか生きながらえたこの1年のあれやこれやに感じられる。道夫先生ったら、今時の若い人みたいにある部分を猛烈に誇張したり、ここはこうなってるのだと説教したり、最後のクアドリヴェットに向けて劇的な頂点を作り上げたり、なんてことはせず、淡々と、いろんなことが起きながらも日々が流れていくような、時の巡りを2時間に凝縮してくれたような…

戻ってきたアリアが終わって立ち上がった道夫先生は、ちょっとよろけて、ピアノ椅子に手をつきそうになる。そう、道夫先生にもいろいろあったことだって、みんな知っている。ホントに、由布岳麓の庵には、いろんないろんなことがあった。でも、それはそれ、って音楽を創っていらっしゃることも、みんな知っている。終演後のロビーで、チェロのY先生とご一緒なさっている今年未亡人になられたO夫人と顔を合わせ、あれ、ちょっとギクッとしましたよね、と苦笑したりして。

そう、苦笑する、しかない。続きを聴きたい方は、年明けの大分へどうぞ。
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こうやって年が暮れる。上野の山をおり、昇竜の餃子を買って佃に戻ろうとアメ横の入り口にたどり着けば、そこにもまた、いつもの年の瀬が大賑わいで…

三つ目の 短調を越え 年が往く

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