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アマチュアオケの成すべき仕事 [音楽業界]

フライハイト交響楽団というアマチュアオーケストラの演奏会を拝聴して参りましたです。場所はすみだトリフォニーホール、演目はなんと、ツェムリンスキーの交響曲変ロ長調でありまする。

アマチュアオーケストラ、というのは、ある意味で日本の西洋クラシック音楽文化の受容度というか浸透度の高さを最も端的に表しているジャンルで、極めて特殊な、でももの凄く深い広がりを持っている。恐らくはまともに研究は成されていないだろうし、状況を網羅的にきっちり把握している人はだーれもいないジャンルでしょう。まあ、ぶっちゃけ、ご本人達が自分らのことしか関心ないし、なんせ忙しいんだからそれで十分でしょ、って世界ですから。

まあ、目の前に見える状況を皮相的に眺めるだけでも、日本というか、東京首都圏のアマオケというのは極めて特殊な団体でありまする。今、ここで訳知り顔にどうのこうの論ずる気もないし、そんなことできっこないわけだけど、一つだけハッキリしているのは、「21世紀20年代初頭の東京首都圏に於いて、後期ロマン派タイプのモダン・オーケストラ作品のある種の作品は、アマチュアオーケストラが演奏するために存在している」という事実。とりわけ、19世紀後半から20世紀末くらいまでの「前衛」とはちょっと違うところにある管弦楽曲、ぶっちゃけ、ベートーヴェンやらブラームス、チャイコフスキー、ブルックナー、マーラー、リヒャルト・シュトラウス、なんぞの正統派オーケストラ作品をベースに、その周囲にあるブルッフだとかカリンニコフだとかレスピーギだとか、はたまたチェレプニンだとか伊福部昭だとか、もっとこっちに来ると芥川也寸志だとか團伊玖磨だとかの作品、要は後期ロマン派のオーケストラ曲が普通になんとか演奏出来れば頑張れば手が出せるような作品ですな、これらはアマチュア・オーケストラの大事なレパートリーになっている。

プロのオーケストラの場合、集客を考えるとなかなか手が出せないけど、アマオケの場合は指揮者やオケの演奏委員会だかに声のデカい奴がいて、「これ、絶対良いからやろう!」とか叫んで、みんながなんかしらないけど俺にも出番がありそうな曲だからやってみるか、ってことになると、やれちゃう可能性がある。なかには、ショスタコとかシベリウスとかその周辺の作家を弾きたいから集まってきて弾く、という猛者の集団みたいなオケもあるし。

このフライハイト交響楽団という団体がどういう経緯でツェムリンスキーの交響曲、っても有名な《叙情交響曲》やら《人魚姫》、ちょっとは有名な《シンフォニエッタ》じゃなくて、この20代の若書き交響曲を演奏しようではないか、ということになったかは、知りません。ぶっちゃけ、本気で知ろうと思えば知る方法はあるけど、まあ、それはどーでもいいでしょ。

てなわけで、今、しっかり40分もかかる大曲を拝聴し、ダラダラと押上駅まで天樹眺めながら歩き、京成電車乗って葛飾オフィスまで戻ってきて、慌てて明日の朝のゴミ出しに向けて柿の木の枝払いをして一息ついているところでありまする。そうねぇ、寒い北風の中、高枝切り鋏でじょきんじょきんしながら、頭の中でツェムリンスキーの妙なる響きが鳴りまくっていたか、と言われると…うううん、そういうんじゃないなぁ。でも、凄く面白かったです。

冒頭の管楽器が一斉に吹き鳴らす序奏からして、どうも弦とのバランスはどうなってるんだい、って音楽が始まり、ツェムリンスキーという人は所謂「オーケストレーションの名人」ってこの時代にキラ星の如く並ぶ人気作曲家とはちょっと違うんだわなぁ、と思わせてくれる。このアンバランスさってか、ゴツゴツっぽさは、なかなか味わい深いぞ。この曲、変ロ長調て♭二つの調性、管楽器吹かせる為じゃないかぁ、と思ってしまったぞ。若きシュトラウスとかみたいな「うぁあああオーケストレーション上手!」ってんじゃないし、シュレーカーとかフランツ・シュミットみたいな色彩感とも違うし。確かに「ブラームスとヴァーグナーの真ん中」という当時からの評価は納得がいくものでありますな。こういうバランス感って、著名オーケストラの商業録音とかじゃ判らないんですよねぇ、綺麗に整理されちゃうから。正に、ライブじゃないと判らない部分。第2楽章のティンパニー、管の皆さん煩くないかぁ、とかもね。で、この作品の最大の聞き所は、なんといっても第3楽章のオーボエのカデンツァでありまする。演奏なさっていたのは、なんとなんと、某公共ホールのスタッフのOさんでありまするっ!GPで楽器に事故が起き、慌てて渋谷まで往復し、本番にはギリギリ飛び込んだそうな。そんなバタバタを全く感じさせない堂々たる吹きっぷりでありました。ほれ、禁断の大喝采隠し撮りっ。
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なんせこのカデンツァ、なんのことはない、次に「前奏曲と愛の死」が控えている《トリスタン》の第3幕の牧童の笛じゃないかぁ、って思わせてくれたのは、本日最大の収穫でありました。なるほどねぇ。無論、かつて「《英雄の生涯》のコンミスもやっちゃうホールの裏方さん」として知る人ぞ知る存在であったYさんがコンミスを務めているわけで、終楽章のブラームス4番を連想するなと言われてもほぼ無理な変奏曲では、彼女のきっちりしたソロも聴けたしさ。

いやぁ、いろんな意味で、日本のアマチュアオーケストラがしっかり社会的な役割を果たしツェムリンスキーの創作の根っこにある大事な部分を天下に示してくださった、大いに賞賛すべき演奏会でありました。皆々様、ご苦労様でしたです。お疲れ様でした。

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