SSブログ

太鼓ひとつで1時間半 [演奏家]

コロナ後(とも思えないのだけど、いわゆる「自粛要請」やら「緊急事態」やらが解除されて以降)初の、配信でもなければ無観客ライブでもない、はたまた「演奏会再開の向けた実験」でもない、演奏家と聴衆が同じ空間に集い、その空間に居る人達だけが共有するコンサートに出かけて参りました。こちら。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2020-06-19
場所はラフォーレ原宿から一本入った教会通りの坂の途中、夏至の長い日はまだ暮れそうにもない午後5時、頭の上数百メートルには羽田に向けて降りていく737やら320がひっきりなしに行き交う新帝都の繁華な場所。
YAL_1214.jpg
病院の治療室とかちょっとした小規模なレストランくらいの空間の片側にはモーツァルト関連の書籍楽譜が並び、モーツァルトの肖像やら彫刻やらが掲げられた空間に、1 ダースほどの人がパラリパラリと座り、日が落ちるまでの2時間弱の時間を、スネアドラムたったひとつが作り出す響きに身を委ねたのでありました。

どういう演奏会だったかは上のURLをご覧になればお判りになりますし、どんな演奏だったかは、なんせ演奏者ご本人が楽器の前にカメラ据えて全部収録、アップなさっておりまする。こちら。
https://www.youtube.com/watch?v=y656OhK1gFQ
全体が3部になってる作品の、これは昼夕方2度公演の昼公演の最初。終わると、次ぎに第2部、第3部。そして、夕方公演の第1部、第2部へと続いて視られるようです。2度目の公演の最後の部分、あれ、ヴィデオ落ちちゃってないか、と客席から判るような空間だったんですが、やっぱり大盛り上がりの45番以降くらいからは収録されてなかったのかな。

このように「どんなものだったのか」という映像がまんま視られるとなると、それになにやら付け加えてもアホみたいなので、ご関心のある方はご覧あれ、で、ちょっと根性座った方は是非とも1時間半を体験してくださいませ。スネアドラムだけどいう音程のない楽器で1時間半、何がやれるのか、半信半疑で聴き始るかもしれなけど、第3部になってくるとその音楽の充実ぶりに圧倒されるでありましょう。

とはいえ、このYouTubeライヴの映像収録を視るとますます、つくづく、ライヴというものの特別さを感じざるを得ません。単純な話で、ライヴだと、冒頭から猛烈に大きな音が耳元で響き渡るのですよ。音量は、恐らくどんなに素晴らしい再生システムを通しても、絶対に無理。ライヴと同じ音量を物理的に自宅のPCで再現しても、恐らくは単に煩いだけで「音楽」として聴いているのが苦痛になるんじゃないかしら、良し悪し、好き嫌いの問題ではなく。周囲から苦情が来ることは必至ですな。

で、この映像をちょろっと拝見し、あらためて感じたことだけを記しておきます。

スネアドラムってとっても単純な楽器に思えるのだけど、楽譜に書いてあるリズムで太鼓の表を叩くことで生じる音は、そんなに簡単ではない。演奏者が狙ったところに当たらないから妙な音が出る、というアマチュアレベルの話ではありません。それぞれ名前が付いたいろいろな構造部分があり、表を叩けばそれらにも振動が伝わり、当然のことながら、音がします。つまり、目の前でホントのプロ奏者が叩けば、「太鼓のリズム」ってだけじゃなく、もの凄くいろんな音がしている。いちばん耳に立つのは、恐らくは専門用語もあるんでしょうが、金属の響きの音ですな。もう、極めて多彩な音がしている。

これらを「雑音」と考えてしまっていいのか、それともそれらが生み出す響きを含めた音響全体が「スネアドラムの音」なのか?

正直、第1部や第2部では「騒音」としか捉えられないような部分も大きかったのだけど、音楽が複雑になってくる第3部になると、ノイズとして切って捨てられかねない響きまでも含めた音楽の表現になっているのは、はっきりと手に取るように判る。特に、所謂「ゲンダイオンガク」に慣れた聴衆なら、そういう部分が音楽の本質的な表現のひとつになってるのは百も承知でありましょう。

果たしてこれって、「練習曲」という性格で書かれたこの曲集としてみれば、どういう風に扱ったら良いのか、どう処理したら良いのか?聴衆に対しては、演奏者が「これは騒音じゃなく、音楽の一部なんですよ」と示せればそれまでなんでしょうけど。

で、終演後に濃厚接触ギリギリで、會田さんにどんなもんなんですかぁ、と間抜けな質問をしたら、曰く、「僕たちのような独奏者と、オーケストラの人などでは違う捉え方になると思うんですが…」とのこと。なるほどねぇ。

とにもかくにも、3月の春分の日以来のほんまもんの演奏会、四分の一年ぶりに真剣勝負演奏を目の前で経験し、あらためて「ライヴじゃないと判らんことはいっぱいあるなぁ」と思い知らされた次第でありましたとさ。

誰よりもそんなライヴのあり方をご存じの會田氏、ライヴが再開したとはいえ、まだまだYouTubeライヴにも挑戦いたします。是非ご視聴あれ。
https://windbandpress.net/15624?fbclid=IwAR2g6ams6stYGbi9grHYSLju8cBVCi0lQ_eZ8bFyDXw49J40G8xK8ahJM6E

nice!(2)  コメント(0)