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美術界のアベ政権回顧 [音楽業界]

どうやらニッポン国の総理大臣が辞意を表明したようだが、わしら納税者有権者はだからといってなーんにも出来ることはなく、政権与党第一党の内部の後任人事話を眺めているだけしかなく、これが議院内閣制というものなのである、なにか良いことがあって大統領直接選挙制などを採用していないであろうなぁ、と考えるくらい。誠にアホらしい新暦葉月晦日の夕方、空はもう秋で、妙に涼しい東風が吹いている荒川放水路向こうの新開地、巨大柿の木下なのであった。遙か天樹の向こうの永田町は、ここからはまるっきり見えない。

文化政策では、ぶっちゃけ、「全ての文化事業、文化インフラは商売のためにある」という明快な政策(と、言えるのかなぁ)で、文化予算の半分が用いられている文化財維持管理補修に関しても、現場で文化財保護をやってる方に拠れば「文化財の修理も観光資源の磨き上げ事業となり、インバウンドも含めて活用計画を作らないといけない」そうです。ふううう…

我らが音楽業界は、相変わらずのノンポリっぷりでアベ政権文化政策総括など出てくる感じもないし、総括をしたくても書かせてくれる表の媒体など存在していない。そんな中、美術界からは早速、こんな「アベ政権総括」が出てきました。『美術手帳』さんのサイトです。
https://bijutsutecho.com/magazine/insight/22614
国際交流基金のLAにいた方で、ネットTAMの執筆者さんの話を美術手帳の記者だか内部ライターさんだかが纏めたもので、恐らくはアベ辞任表明後、文化政策関係としてはいちばん早い総括でしょう。個人的にはアベ政権のことよりも、民主党内閣がやろうとしたことを冒頭にちょっと纏めてくれている部分が有り難いです。なかなかちゃんと書かれたものがないですから、前政権の文化政策に関しては。アーツカウンシルを国家の予算から独立したイギリス型のものにしようとして、道が付かないうちに自民党政権になり、今の「文化庁の別団体」やら「文化庁役人の天下り先増やし」みたいなことになってしまった経緯は、きちんと知られるべきでしょうねぇ。そっから先は、みんなもう呆れる程よく知ってるわけだしさ。「ニッポンにっぽん」の連呼になっていく、という…

音楽がこの話にどういう関与が出来るか、いろいろ考えるひとつの軸として、有り難い纏めになっていると思います。「指定管理者問題」その後とか、現場の問題が触れられていないのは、議論のポイントが違うからなんでしょうが、公共文化施設の専用施設から総合アーツセンター、というか、でっかいコミセン化という流れとか、アベ政権のやってきたことの中でどういう風に位置づけていけば良いのかしら。

ま、これからしっかり考えてみましょ。なにしろ、実質、全てがコロナで御破算で願いましてわぁ、の今ですから。

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コロンビア・アーティスト終焉へ [パンデミックな日々]

「音楽業界」以外のなにものでもないネタなんだけど、敢えて「パンデミックな日々」カテゴリーにします。正直、業界ネタとしては無視できない大ネタではあるが、今更特に興味深いことではないので。

世界一の早耳、英語圏で最も知られた「書いてあることはみんな嘘、信じるなぁ」業界ブログで有名なSlipped Discさんが、コロンビア・アーティスト(CAMI)廃業へ、というニュースを流しました。こちら。
https://slippedisc.com/2020/08/breaking-biggest-classical-agency-goes-bust/

こういうリリースをまんまペトペト貼り付けてだしてしまう勇気は、このオッサンの偉いところだわなぁ、とちょっと呆れながら、へえええそーなんかい、と時の流れと今回のこのコロナ騒動の異常さを感じざるを得ないでありますなぁ。早速、大物アーティストの引っ張り合いが始まっている、とかも含め。考えてみればこの世界一の早耳業界ブログのオッサン、前世紀の終わり頃に”Who Killed Classical Music?”というベストセラー本を書いて業界で有名になった「英語圏の石井宏」みたいな方なわけで、世界に一報を流すに最も相応しい方ではありますな。

日本の普通の音楽ファンとすれば、別にマネージャーの名前を知る必要などありません。まあ、「ナベプロ」とか、最近では「ジャニーズ」とか「エイヴェックス」とか、はたまた「吉本興業」とか、芸能界を牛耳る悪の差配集団みたいに面白おかしくマネージメント会社やレコード会社のことが語られることはあり、それはそれでまたひとつの娯楽のジャンルを生んでいるようなところもある。正直、どーでもいいといえばホントにどーでも良いことですからねぇ。

それと同じように、「世界のクラシック音楽の堕落、商業化をすすめる諸悪の根源たるコロンビア・アーティスト」という伝説がありました。「CAMIは神なり」なんてギャグも言われてたっけ。70年代くらいからかしら、「精神性のベームvs綺麗なだけのカラヤン」みたいな空気が漂う中、べーてーの世界支配の中でのクラシック音楽商業化、商品化を進める権化はコロンビア・アーティスト社長のオルフォードなのであーる、という論調がありました。そういう論調を積極的に展開して人気を得ていたのは、日本語で活動した音楽系売文業者の中で最も筆力があり、吉田秀和やら遠山一行、野村あらえびすなど名だたる偉い先生より書き手としての力は遙かに高いスーパーライター、その論じている内容はともかく(そこが問題だ、と言われれば返す言葉はありません…)書き手としての力としては同業者としてやくぺん先生が最も尊敬する石井宏氏であったことは、ある世代以上の方はよーくご存じでありましょう。「諸悪の根源安倍晋三」とか、「悪いのはみんな民主党内閣」、みたいなもんですね、ある意味。

石井氏や、氏が中の人となって神楽坂の音楽専門出版社じゃない方の文芸と週刊誌出版の大手S社などで活躍したライターさんなどが広めたこんな神話、その根っこにあるのは書き手の方が某ホールで現場をやっていたときの私憤だという話はきくものの、まあ本人にそんなこと尋ねてもホントのことを言う筈もない。ともかく、筆力破壊力抜群のその筆によって、「音楽をダメにする諸悪の根源コロンビア・アーテイスト」説は、ニッポンの音楽ファンに深く静かに広がっていたわけであります。

やくぺん先生も、そういうものなのかぁ、と思うしか無かったが、その後に実際にコロンビア・アーティストの方々と接することがあり、なるほどねぇ、と思うこと多々でありました。少なくともやくぺん先生が現場を知っているような90年代に入ってからのコロンビア・アーティストって、「オフフォード御大の下に、若くやり手のマネージャーが集まっている巨大なマネージャー置屋」みたいなものなんだな、って。

アーティストのラインナップを眺めれば誰にでも判るように、この会社はそもそもは歌手のマネージャーさんで、そこから広がっていった。で、いちばん手薄だったのが室内楽部門です。このジャンルにはコロンビアが本気で手を出さなかったのは、ある意味、この会社の賢さというか、ちゃんと現実をみているところだったのでしょう。あたくしめの現役時代にこの会社のマネージャーで弦楽四重奏団に手を出したのはひとりしかおらず、20世紀に所属した弦楽四重奏団はセント・ローレンスQのみ(だと思う、少なくとも長続きした団体は)。当無責任私設電子壁新聞が張り出され始めてからも、こういうニュースがあったっけか。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2012-08-14
この契約も1シーズンくらいで終わっちゃったような。

ま、いずれにせよ、20世紀後半のアーティストマネージメントの形が崩れていき、広報会社とブッキング会社に分業化され、演奏家がマネージャーとの契約を辞めてインターネットを使ったインディズ型の個人マネージメントへと移行していく大きな流れの中で、コロナが歴史的な決断を迫ったということなのでしょう。なんせこの半年、会社としての収入がなかったというのだから、アベノミクスで膨大な内部留保をため込んだニッポンの大企業でもなければ、とても耐えられないのは当然ですな。

次は、日本の大手事務所ネタで、こういう「自分のための防備録メモ」を記すことになるのかな。ふううう…

[追記]

8月31日付けで、公式Webサイトにこういうリリースが出ています。いつまであるのやらわかりませんけど。
https://columbia-artists.com/?fbclid=IwAR0deLsemujAROr0lY7JKMndhrgvqdLY7JOSDNEZAzXAzJ5Ppe0ALUGQiEY

英語圏で最も読まれている業界紙の記事はこちら。公式のWebサイトを引っ張って事実関係の確認をしているだけで、分析やら今後の展望などは一切ありません。これもいつまで読めるやら。
http://www.internationalartsmanager.com/news/music/columbia-artists-closes-after-90-years.html?utm_source=wysija&utm_medium=email&utm_campaign=IAM+newsletter+01+September+2020

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アムステルダムの《光》抜粋視聴月末で終了 [現代音楽]

溜池現代音楽夏祭りの真っ最中に、久しぶりに急ぎの仕事が入って、些かなりと心地よい疲労感に浸っておりまする。その仕事の中で、いろいろ「世界の夏音楽祭」について調べねばならず、結果として今日は1ヶ月ぶりに朝からオペラの全曲配信をネットで眺めておりました。4月末から7月くらいまでは、ほぼ毎日オペラ全曲を眺めており、確実に視力を悪化させたコロナの副作用でありましたが、川崎に始まり谷保、溜池と実質の東京首都圏夏フェスが3つ立て続けにあり、その間に横浜は紅葉坂上でプチ・ベートーヴェン祭りまであったこの1ヶ月の疲労が肩にのしかかる今となっては、コロナお籠もりの頃が懐かしいとは言わないけどさ…

そんなわけで久しぶりにネット上のオペラの状況を眺めたら、なんとなんと、ヨーロッパ系の芸術コンテンツを配信するサイト「Arte」のオペラのページで配信されていた昨年初夏のアムステルダム、シュトックハウゼン《光》全7作を3日に纏めた抜粋版上演を、さらにぐぐぐっぐぅと1時間半に纏めたダイジェスト映像の無料配信が、8月いっぱいでオシマイになるではありませんかぁ。こちら。
https://www.arte.tv/en/videos/089150-006-A/aus-licht-by-stockhausen-at-the-dutch-national-opera/

これはマズい、と慌てて眺め、今、やっと通したところ。うううん、まあ、なかなか収録が難しいし、どこを拾うかも判断が大変。要は、《指輪》抜粋を40分でやっちゃうみたいなものと思ってくださいな。その意味では、なかなかよく出来ていたんじゃないかしら。扱いが難しいオペラ・バレエの《金曜日》が全然ないのは、そもそもアムステルダムでの上演の時点で電子音の後奏曲「さよなら」しか無かったわけだし(ても、この部分が無性にカッコいいんだわさ)。

あのアムステルダムの長い初夏の日々から1年と2ヶ月、なんだか別の世界で起きていた遠い遠い昔の話に感じられる。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2019-06-03
今、あらためて抜粋を眺めてみると、とりわけ10日程でクセナキス祭りやアヴァンギャルド祭りで耳をひっぱたかれてた後で聴くと、やっぱり《光》は一柳先生の最近の管弦楽曲みたいに手慣れた仕上がりになってるし、その後のいろんな「現代音楽」の試みが全部入ってるじゃないかぁ、と思わされます。とりわけ《ヘリコプター四重奏》は、分割画面であちこち遠くに離れた人々がオンライン上合奏する姿に見慣れたコロナ以降の我々には、「おお、こんなこと昔からやってたんだっけ」とひれ伏し、神様仏様シュトックハウゼン様、と唱えたくなりますな。ホント。

なお、最後の各曜日の出演者が次々と写る映像ですが
IMG_6321.JPG
これ、実際にアムステルダムで最後にスクリーンに映されたエンドロールそのままです。

あと数日しか視られませんので、時間のない方は50分くらいからの《火曜日》第2部のミカエルとルシファーが音響ミサイルを撃ち合う惑星大戦争シーンだけでもご覧あれ。α号やβ号が発信し、モゲラが出現しそうだが(ラスボスはX星人ではなく蛸のピアニストですけど)、伊福部みたいな音楽は鳴りません。悪しからず。この映像、伊福部音楽に取っ替えたら、絶対に野外大ヒーローショーにしか見えないわなぁ。《ヘリコプター四重奏》も、70分過ぎくらいからしっかりアムステルダム上空を編隊飛行する勇姿まで納められています。やくぺん先生が聴いた日にはヴァイオリン嬢が落ちた話をしてますね。それにしても、やっぱり低音部が聴こえないんだよなぁ、この曲。そもそも電子音型の再生って、低音はほぼ絶望なんですけど。

夏の終わり、頭が地底人のようにパーになってるなら、度を超したアホっぽさに残暑を忘れてみてはいかがかしら。気に入ったら、秋吉台に来週の土曜日にいらっしゃいな。低音がぐあんぐあん体を揺すぶる電子音に浸れますよ、たぶん。

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夏の音楽祭はやっているのか? [音楽業界]

お誕生日の前に天の神様に向かって「コロナでお金になる仕事が激減して困っています、神様、今年は良い子にしますからプレゼントにお仕事を下さい」と祈ったら、お誕生日イブの日曜夜に携帯に編集者さんから連絡が入り、超特急で急ぎのそれなりの大きさの仕事が入りました。おおお、編集者さんは神のお使いかぁ!

んで、その一般誌原稿のために久しぶりにバタバタし、いろいろと事実関係を調べたりして、昨日出したテスト稿は書き直しを命じられ、先程改訂稿を入れて、時間もないのでこれでオシマイだろーとボーッとしている。んで、この作業であらためて思ったんだけど…

今のご時世、演奏会をやったのか、それとも結局やらなかったのか、きちんと調べるのはすごーく難しいなぁ。

当電子壁新聞のような私設無責任媒体ではないまともな作文の場合は、殆どの時間が事実関係のチェックやら再確認に費やされます。無論、まともな表の媒体なら校正やら校閲がちゃんと入るわけですが、知識めちゃ豊富な校閲さんでも流石に無理だろうなぁ、という専門的というか、判ってる人にした判らない事実というものはある。で、これはこっちがやらにゃだめだろー、と判断される辺りは、自分で調べないとならん。

ま、具体的にはそれほど面倒なことではない。「果たして世界中の夏の音楽祭はきちんとやられているのだろうか?」というだけのことなんですわ。

北米はどこもダメ。タングルウッドもネット上のフェスティバル、って毎日有料配信していますからね。英国もダメ。プロムスは早々と中止、グライドボーンもやってないし、エジンバラもない。まあ、オールドバラは「国際的な大音楽祭」かどうか微妙なんで、まあパスしていいか。

問題は大陸で、イタリアはラヴェンナを筆頭に、規模を縮小してもなんとかやろうとしている。ドイツ語圏は州によりいろいろみたいだけど、ラインガウとかどうなってるんじゃ。ザルツブルクは規模縮小して、それでも8月いっぱい開催、開幕前のBBCの報道はこちら。一応、ソーシャル・ディスタンスは聴衆や表方スタッフには求められているようですねぇ。
https://www.youtube.com/watch?v=TaoHj20NK1Q
《エレクトラ》やら《コシ》やら、オケはヴィーンフィルがまらろくやら第九やらやってる(驚くなかれ、ORF収録の映像がどれも全曲Youtubeに挙がってます)。おいおいおい、大丈夫かぁ、って心配になりますな。こんなだもん。

お隣スイスは、どうやら当初中止と発表していたルツェルンが、8月14日から23日まで開催されたようだと、パリの同業者さんが教えてくださいました。こちら。
https://www.diapasonmag.fr/a-la-une/le-festival-de-lucerne-a-accueilli-plus-de-7400-spectateurs-30887?fbclid=IwAR3WiEUH1jiWFFEDIIu_E5t-SfxbaFT7l6pAR12bY55ZgEOCZw0H6uuA73M
ディレクターさんが映像で宣伝してます。スイス在住の音楽家だけでこれだけ豪華にやれるんですなぁ。
https://www.youtube.com/watch?v=ZCSxX7DySiU
ルツェルン祝祭管をブロムシュテット御大が振ってるんですねぇ。いいのかぁ、こんな高齢者をコロナの真っ最中に働かせて。

フランス語圏は、どうやら数週間前に5000人までの規模の集会が許されるようになったらしく、入国制限も随分緩んでるみたい。地方での小規模な室内楽や現代音楽のフェスティバルは、開催されているようです。実際、プラドの音楽祭の中継を見る限り、まるっきりいつも通りですからねぇ。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2020-08-11

なお、秋以降の外国人演奏家来日について音楽事務所の方と話をすると、どうやらチェコはほぼ普通に演奏会が行われているそうで、ことによると言語の壁で情報が届いていないだけで、ベートーヴェン交響曲全曲をやっちゃう、なんて夏音楽祭がやられてるんじゃないかなぁ、と思わぬでもないです。だって、世界の人たち、川崎のサマーフェスタのことなんて知らないでしょうし。

てなわけで、完全に自分のためのメモだけど、音楽祭やってたりやってなかったり。「こんな音楽祭に俺は出演してきたぞ」とか「先週、こんな田舎でガッツリ音楽祭聴いてきました」とかいう情報をお持ちの方は、是非、ご教授くださいませ。もう商売作文には間に合わないんだけどさ。

さて、アークヒルズ横のドトールを出て、溜池夏の現代音楽祭りに向かいましょう。
IMG_6304.JPG
もう空は夏じゃなく、すっかり秋の夕方になってら。

[追記]

BBCプロムスは、8月28日から9月12日まで無観客ライヴをやることになったようです。
https://www.bbc.co.uk/events/rxxnc8/by/date/2020
しかし、最終日も無慈悲にも"It will not be possible to have an audience at the Royal Albert Hall."とありますねぇ。みんな、ラジオの前で盛り上がってくれ、ということなのか…

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電子音楽こそライヴで聴くべし! [現代音楽]

厳重な鎖国政策以外はすっかり政府崩壊、コロナだろうが人々は生きていく、喰っていくために勝手にやってる、としか思えぬ新帝都トーキョー、昨日から「芸能人」としてのヴィザを取得しての入国が必要な外国人は一切なしの形で、夏の終わり恒例の溜池ゲンダイオンガク祭りも無事に始まりました。なんせ出演者数が多く関係者だけで400席程度は売り切れてしまうちょっと特殊な音楽祭、客席が半分になってスタッフ関係者はてんてこ舞い。昨日も、ホール正面入口で指先消毒と検温を済ませた先に、購入したチケットを新たな席が指定されたものに引き換える作業が必死でなされておりました。
IMG_6284.JPG
偉い人から現場まで総出、シールドの下にマスクして、もう誰が誰か判らないお姿での聴衆対応、ご苦労様です。

そんな不思議な空気の中で、でも何事も無かったかのように、客席にはいかにも来てそうな顔ぶれがズラリと揃い始まった溜池夏フェス、「21世紀の今にアヴァンギャルド」なる「ぐるっとまわって一週遅れが最先端」みたいなテーマを掲げて始まったわけであります。もう年寄りで、偉い先生達がいろいろお喋りになるのを真面目に聞くのは暑くてたまらん爺のやくぺん先生、居並ぶ長老から中堅若手までがなんのかんの語り倒しているプロモーション映像などが山積みになっているのを横目で眺めつつ、まあいいや、となーんにも説明を聞かずにいきなり出かけて座っていたのだけど…正直、若手の新作は「アヴァンギャルド」というのはこういう意味なんかい、と思っちゃう今風のまとまりの良い作品。中堅権代氏も騒々し過ぎない手慣れた纏めっぷり、杉山さんはノーノの流れを汲む方らしい作品で、最後にさりげなく背景に映像が映し出されたナレーションにニッポン政府批判がサラリと入っているのにどれくらい「伝える」という作業がしたいのか困惑するのもノーノっぽい。その意味、いちばん「アヴァンギャルド」風だったのかしら。

そんな若手現役バリバリの作品が並ぶ中で、やっぱりこういうところには出てこないと格好が付かない大物は神様仏様シュトックハウゼン様、最晩年の《クラング》から2曲が演奏されたのが、良くも悪くも演奏会のハイライト。となれば、昨日のスターは若手イケメンのヴァイオリンさんとかじゃなく、ニッポンのパスヴェーアというべきか、トーキョーの電子音楽再現シーンには欠かせない重鎮、有馬純寿氏なのでありました。本来はひとりで舞台上で大喝采を浴び、終演後はロビーで聴衆に取り囲まれるべきなのに、コロナ下とあってそういうことが出来なかったのがホントに無念であります。

シュトックハウゼン御大が《光》チクルスを終えた後に延々とやっていて、結局最後の2曲は構想のままあっちの世界に逝ってしまった本来は24曲から成る筈の大連作、基本は電子音です。その中で、真ん中に置かれた「24の音列素材を全部ひたすら積み上げる」電子音のみの第13番と、「24の素材のうちの4つの上にバリトンが曲目解説を延々と歌う」といういかにも御大らしくアホらしいまでに判りやすい構造の「バリトンと電子音オーケストラのための歌曲」みたいな第15番とが披露され、その電子音操作を有馬氏がブルーローズの真ん中に陣取って行われたわけですな。

所謂電子音作品って、生音じゃないからわざわざコンサート会場で聴く必要なんぞないだろーに、と思う方もいらっしゃるでありましょう。ところがどっこい、パリのポンピドーセンター向かいの池の下のIRCAMスタジオやらケルンの電子音楽センターやらで制作されたアヴァンギャルド時代以降の電子音作品って、ライヴで聴かないといちばん判らない「ゲンダイオンガク」のひとつなんですわ。

理由は簡単で、普通の人は自分ちのスピーカーシステムでは、絶対に再現出来ない、というだけ。つまり、録音されたものは、どんな巧みにパッケージ化されていたところで、あくまでも「家庭内再生用特別ヴァージョン」でしかない。作曲家さんが頭の中で鳴らしていた音の、ホンの一部を拾い上げた概論スケッチみたいなものに過ぎないのです。家の中に置いたスピーカー2台で聴く、って形で作品像が把握可能は、初期の《少年の歌》とかの頃までなんじゃないのかしらね。

昨晩も、まず15番で吃驚したのは、音が出てくる場所でした。ブルーローズのあちこちに配されたスピーカーは、基本的に全部「吊り物」で、その結果、音は全て頭の上から降り注いでくる。もう、この音像の場所だけで、家庭では絶対に無理。頭の上から鳴り響くと、家庭のスピーカーどころか、ヘッドフォンやらパソコンから聴いているのともまるで印象が違う。それに、日本のシュトックハウゼン遺産相続者たるバリトンさんとの音量バランスも、こういうものなのかぁ、と始めて判ったし。これはもう、《大地の歌》の適切なバランスを探す指揮者のお仕事ほども難しいんだろーなぁ。

電子音のみ、ブルーローズを真っ暗にして演奏された第13番も、やはり興味深かったのは真ん中辺りのクライマックスでの音量でした。音の素材が人間の耳になんとか処理出来るくらいのうちはまだいいのだが、重なってくる音素材がある量を超えると、聴覚にリミッターがかかるというか、もう聴き取ることを拒否するようになってしまう。音量も、ある絶対量を超えると「クラスター」としてしか判別出来なくなる。その辺りのバランスは、もう有馬さんにお任せするしかない。聞こえなくてもいいんだよ、ときっちり判らせてくれるように仕掛けてくれないと、わしら哀れなしろーと聴衆はお口あんぐり状態になっちゃうわけで。

何を隠そう、昨年のアムステルダムでの《光》抜粋で、なによりも驚かされ、いやあ凄い時代になった、と感じ入ったのは、スピーカーから出てくる音のバランスの良さと綺麗さでした。シュトックハウゼン・ファミリーの正当後継者たるパスヴェーアおばちゃん、国を挙げての最後の見せ場をつくってくれた巨大な舞台にしっかり応え、「シュトックハウゼンってこんなに綺麗でしょ」と鳴らしまくってくれた。このコロナでパスカル君の《光》チクルスもどうなるか判らない今、遙か極東の、とはいえつらつら考えるに《光》サイクルの故郷のひとつたる帝都トーキョーで、このようなきっちりした再現に出会わせてくださったのは、どれだけ感謝しても感謝しきれない程のありがたさでありまする。

電子音楽はライヴに限る、いや、ライヴじゃなきゃわからない。だからみんな、再来週は秋吉台に集合だっ!

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友ちゃんがヤッキーノ歌いますぅ [ゆふいん音楽祭]

医療崩壊ではなくすっかり政府崩壊となってしまった我がニッポン国、今やその新帝都首都圏は世界のどこよりも活発に聴衆が入ったクラシック音楽系ライヴが行われる大都市となってしまいました。昨日だか、某地方オケの方とやりとりをしていて、「先週来、バッハの無伴奏チェロ組曲全6曲、ベートーヴェンの後期弦楽四重奏第12番から15番まで《大フーガ》含め、それにクセナキスの独奏打楽器5作品中の超大作含め4曲をライヴで聴いてます」と申したら、ひっくり返りそうになってました。東京ってそんななんですかぁ、と呆れられたけど、どうなんだろーなぁ、まあ、事実としてそういうことになってる、としか言いようがない。

そんな中、昨晩は神奈川県立音楽堂でコロナ再開後3度目の作品132のライヴ演奏を聴き(!)、戻ってくる車内で、こんな情報を得ました。
http://www.nikikai.net/lineup/fidelio2020/index.html
チケットはもう随分前から再発売していたらしく、あたくしめがボーッとしてて知らなかっただけ。今って、「この公演はホントにやるのか」という情報は、案外と得難いんでうよねぇ。この公演も、コロナ下でコンサートが再開した直後くらいに、どっかの会場で某助成財団の方と立ち話し「室内楽とかはともかく、オペラは大変でしょ。うちは公演をやってくれないと助成のしようが無いので、ハラハラもんです。まあ、二期会さんの《フィデリオ》は、いざとなれば演奏会形式だっていいもんね、あの曲は」なんてバカな話をしていて、それっきりどうなっているか忘れてた。なんと、ともかくやるというではないかぁ。それどころか、おおおお、前から決まっていたキャストなんでしょうが、我らがゆふいんスタッフのスター、松原友ちゃんがヤッキーので出演なさるではあーりませんかっ。友ちゃんネタは、以下。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2008-08-22
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2019-11-10

こりゃ大変だ、と車内でiPhoneいじくり回し、その場でローソンチケットにアクセスし、なんとか9月3日の天井桟敷のチケットをゲットしましたです。翌日は羽田発朝7時半の山口宇部空港行きに乗らねばならないので、なんだかバタバタだけど、可哀想な純愛男を演じる友ちゃんのお姿を眺められる日取りが他にないのじゃ。

んで、「行きます」という連絡をかねつつ、友ちゃんに「ちゃんと演出が付くんですか?」と間抜けな質問をしたら、直ぐに「もちろん演出付きの舞台です!暑さに負けず、衣装も装着です!どうぞご期待くださいませ。」との力強いお返事がありましたですぅ。

演出は、あのなんというべきかな《ローエングリン》をやってくださった方ですので…果たしてこのコロナ下に、きちんと議論出来る舞台が作られるのかなんとも言えぬところだけれど、音楽に限れば、状況が悪ければ悪いほど燃え上がるこれまた我らがえーちゃんが夏の終わりを焼き尽くしそうな、昨年のカタリーナの記憶を全て記憶から吹き飛ばしてしまぇええええ、とばかりの熱い音楽を聴かせてくれるでありましょうぞ。

それにしてもトーキョーって、訳の分からぬ街だなぁ。外国で半年も蟄居している同業者に、なんと説明していいものやら。

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落合陽一×日本フィルの記者会見Web公開 [音楽業界]

去る土曜日の5時間半のバッハ&ブリテンに始まり、日曜日は《ロザムンデ》&作品131、そして月曜からは「クセナキスと日本」非公開フェスティバルと、まるっきり夏の音楽祭週間でヘバヘバ。今も、国立市某所のホール隅っこでパソコンを繋げてます。

コロナで演奏会やってない、なんて話がどこに行ったか、灼熱の連日のホール通いの中、今晩は久しぶりに記者会見の賑やかしに引っ張り出されております。若者のカリスマ、落合陽一氏と日本フィルのコラボの記者会見です。こちら。

■日時:2020年8月19日(水)18:30~ (受付開始18:10~)
■登壇者:落合 陽一(演出)、近藤 樹[WOW. inc](ビジュアル演出、「映像の奏者」)、海老原 光(指揮)、 扇谷 泰朋(日本フィルソロ・コンサートマスター)
※演奏も予定しております。

日本フィルが演出家でメディアアーティストのカリスマ落合陽一、わしらオッサン世代には「世界を駆ける国際ジャーナリスト、世界を影で操る大人物に次々とインタビューを行い、CIAもモサドもコワくないライフルをペンに持ち替えたリアルゴルゴ13」たる落合氏の息子さん、って思っちゃうんだけどさぁ。

数年来、日本フィルとオーケストラの後ろにいろいろメディアアートを展開するという形の演奏会を行ってるこの落合ジュニア、今年はコロナの環境である意味で今まで以上にやってることにリアルさが増しているわけで、どのようなことを仰るのか、ご興味のある方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうかね。

この記者会見、なんとインターネットでライブ中継されます。こちら。
https://youtu.be/Ci66OFHVpY0

お暇な方はどうぞ。

[追記]

ぶっ倒れそうになりながら長い一日を終えて大川端縦長屋に戻ってきました。8時を過ぎても全然涼しくならないのはなんなんねん。

記者会見、配信をご覧になった皆様はお判りのように、三密回避で行われました。最後のフォトセッション。
IMG_6272.jpg
発表された内容での最大のびっくりは、「配信チケット6000円、アーカイヴ無し」という価格設定ですね。これは日本フィルの現場も驚いているようですけど、どうやらポピュラーなどではそれほど吃驚するような額ではないとのこと。うううん、うちらの業界、ここでも人が良すぎるのか、チャラいと看做されているのか。当日の配信にどんな仕掛けがあるのやら、きちんと誰かが議論して「評価」して欲しいなぁ。

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「18人のプレアデス」やってます [現代音楽]

昨年の今頃、灼熱の羽村で始まった「18人の若い打楽器奏者が《プレアデス》を勉強しまくり、ギリシャで演奏するぞぉ!」という教育プロジェクト、この夏にTokyoトーキョーのイベントとしてオリンピックとパラリンピックの間に披露する予定だったのが、当然ながら春以降は中止で、5月連休のセッションはなくなりました。その後、ギリギリまでどうできるのかを模索しつつ、とにもかくにも先週の金曜日から東京都下谷保の天神様から南武線挟んでちょっとの国立市役所の隣、くにたち市民芸術小ホールで最終セッションが行われており、当初の予定参加者を変更しつつ「クセナキスと日本」というテーマでの小フィエスティバルが開催されております。
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クセナキスと日本というテーマはともかく、メインの《プレアデス》であります。この打楽器作品の集大成ともいえる4楽章の大作、学生達が楽章を指定され6人づつのアンサンブルになり、ということで、今回参加している15人が実質上の発表会をやっております。それも無料であります。

具体的には、本日の昼12時半からPeaux、明日火曜日も同じ時間にMetaux、明後日水曜日は12時50分になりClaviersの各楽章を、参加学生たちのアンサンブルが演奏します。くにたち市民芸術小ホールの1階ロビーに打楽器を並べ、ロビーのガラス壁面を開け放ち、聴衆は外で立って聴きます。晩夏の炎天下、屋根は一切無しですけど、まあ、それぞれ10分ちょっとの曲だし、多少離れていてもガンガンに聴こえる音楽ですから、大丈夫。本日もホール向かいの水場で遊んでた子供たちやお母さん、その辺にいたおばちゃんおじさんも数十人、吃驚しながら聴いてました。
IMG_6209.jpg
一応、説明しておきますと、この作品は4つの楽章から出来ていて、それぞれが用いる打楽器が違っていて、音色がまるで違います。もうひとつ、Melangesという楽章もあるけど、今回はやれない。楽章はサルベールの出版譜とは違うやり方も作曲者が公認しており、まあ、「曲の最後に向けて盛り上がる」みたいなロマン派的な音楽ではないので、これも「ゲンダイオンガク」のひとつのあり方でんな。

フェスティバル演奏会の部分は、非公開となった結果として、参加者の若い打楽器奏者のための座学の時間みたいになっていて、それはそれであり。加藤くにちゃん師匠が能の謡や舞のリズムとコラボするパーフォーマンスなど、打楽器奏者とすれば「譜面通りに叩く」を越えたところに踏み出すためのいい勉強になるでしょうし。

せっかくだから、ちょっとだけ極秘で公開。ほんとに、ちょっとだけよ。

お暇な方は火曜日水曜日のお昼、やぼてんまでいらっしゃいな。

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虎ノ門ヒルズ駅は使えるや? [新佃嶋界隈]

「新佃嶋界隈」カテゴリーにはちょと遠いけど、まあ、徒歩1時間圏内ですし、本来ならチャリ圏なので、お許しを。「たびの空」じゃないもんなぁ、流石に。

佃月島晴海在住中央区民には悲願なんだか、そーじゃないんだかよーわからぬマッカーサー道路が開通し、マッカーサー大橋(築地大橋というのかな、御上的には)が通れるようになって、2012年落選東京五輪のメインスタジアムたる晴海地区と総理官邸なんぞを直接繋ぐ新帝都最後の大幹線道路が出来、にょきにょき聳えた虎ノ門ヒルズなる森ビルシリーズの足下から晴海まで新交通システムバスが走ることになり、もう虎ノ門なんぞ湾岸の一部…となる世界は、結局、やってきていない2020年晩夏。今、取り壊された虎ノ門病院跡地をスガ官房長官御用達大成建設が再開発すべく更地にした向こうに、もうすぐ使用停止になるJTアートホールがその姿をしっかり晒しているのを眺めつつ
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日曜午後遅くのガラガラのスタバに座ってます。ったら、なにやらごっそりお嬢さんたちが現れて、席が全部塞がって三密になってしまったぞぉ、なんなんじゃ、ここは。どうやら近くでまさかまさかのアイドル系イベントがあったようだわぃ…

もとい。本日は灼熱の真昼にJTアートホールでAmity Quartetさんが《ロザムンデ》と作品131という重量級サンドイッチみたいな演目をやる。ホントは花祭り前の予定で、「へえ、JTって4月にも使えるんだ、まだ」なんて言ってたら、コロナであれよあれよと延期に次ぐ延期、結局、なんとか晩夏に開催された次第。
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いつもなら佃大川端からチャリチャリと転がすマッカーサー道路の入りっ端なんだが、マッカーサー道路が出来てからチャリを置く場所がなくなってしまい、いくらお盆最中の日曜日と言え、こんなメイジャー道路にほっぽっておくわけにもいかぬ。それに、この暑さでは汐留の大混乱箇所に至る前に暑さで遭難必至。

んで、それならば五輪に合わせて新たに設置されたBRTバスシステム駅に繋がる虎ノ門ヒルズなるヌエ的な名前の地下鉄駅から行けばいいではないか、恐らくは虎ノ門病院に直接繋がるような出口もあるに違いなかろうし。

かくて中央大橋越えて日比谷線八丁堀駅まで6月のミヤンマーの如き太陽の下を歩き、ゼーゼーしながら中目黒行きに乗り込む。なるほど、虎ノ門ヒルズ駅ってば、出口は前と後ろにしかないのか。へええ…

思ったより混雑した地下鉄に右や左と大きく振られること10数分、霞ヶ関から直ぐの新駅に到着。なんだかA1出口って、仮設っぽいなぁ。改札口を出て、目の前の周辺地図を眺めるとぉ
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虎ノ門駅と一緒になってるじゃん。ま、乗換駅だから、これはこれなのかな。つらつら眺めるに、おいおい、この駅、マッカーサー道路の虎ノ門病院やらJTビルやら日本財団側に出られる出口が、一切存在しないじゃああーりませんかぁああああ!

これではまるっきり仮設駅でではないか、と毒突きつつ、ともかく上に上がる。あんまり深くないぞ。
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あ、やっぱ、仮設駅っぽい空気が漂うなぁ。なんせ、向かいはまるっきり工事現場だもん。
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どうにもこうにも、マッカーサー道路は遙か北なので、虎ノ門病院の方に工事現場の横を抜けて行くしかないわい。地下で涼しくJTビル横まで、って思惑はまったく外れてしまったのでありました。正月の駅伝が通る道を横断歩道で渡って、真っ直ぐ歩くと、やっと目的地JTビルが見えてくる。
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旧虎ノ門病院なんぞが取り壊され、空が妙に広く空いていて、これはアメ大上空突っ切って六本木ヘリポートからニッポン国中枢の真上に上がってくるヤンキー海鷹黒鷹イロコイなんぞが見える空間じゃわい、と思いつつ、反対を眺めれば、森ビルエンブレム輝く虎ノ門ヒルズが聳えているのであった。
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へえ、JTアートホールってこういう形をしてたのか、とあらためてしげしげと見物しながら、スターバックスの横抜けてマッカーサー道路に出れば、そこはいつもの自転車で眺めるマッカーサー道路。虎ノ門病院がスッカラカンになった空間、隣がないとホールの形はホントに良く判るものであーる。ほれ。
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かくて新暦葉月を迎える午後、JTアートホールで響く最後の弦楽四重奏になるやもしれぬ音符たちが響き渡る。なんせこの世代の弾けて才気煥発な連中が束になった団体、聴衆もオヤーズ関係や藝大学長夫妻なんぞを除けば、いつもの弦楽四重奏聴衆とはかなり違った若い人たちが多数。音楽の中身は、いろいろ言いたいことはあるが、ちゃんと弾ける人達が集まってるだけに「なるほどねぇ」というものでありました。シューベルトはソナタ形式のテーマとしての「歌」ってものにどう向き合うか、という大問題がハッキリ判り、作品131は第3楽章の変奏ひとつひとつをしっかりキャラ立てて、意外にも次のアレグロが全曲の頂点みたいに聞こえかねないやり方。へええこういうのありかい、と思わされましたです。終楽章では、手数もそれなりにあることを見せてくれたし。なんであれ、やってることの良し悪しはともかく、自分たちで考えた音楽やってる気持ちよさはしっかり伝わったです。

てなわけで、コロナ下での新定番になりつつある「終演後のロビーでのご挨拶が出来ませんので、皆さん、写真撮ってSNSにアップしてさぁい!」でオシマイ。
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22日にはWeb上でZoomの反省会をやるのでご覧下さい、ってアナウンスを忘れないのも、ホントに今風な連中だなぁ。

結論。虎ノ門ヒルズ駅はJTアートホールや日本財団に行くには、地下でどこかと繋がっているわけでもなく、格別に使い勝手が良いわけではありません。日比谷線で中目黒方面から来る方には、それなりに便利に使えるでしょう。銀座線の虎ノ門や溜池山王駅とどっこいどっこい。いずれにせよ、この駅、まだ未完成と考えるべきです。虎ノ門ヒルズ側へのアクセスはやたらと便利になっているようなので、ミリオンコンサート協会の事務所に行くにはもの凄く便利そうですけど。

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南の扉を全開にして晩夏の熱風を通わせて… [パンデミックな日々]

旧大日本帝国敗戦受諾の日、東京文化会館小ホールに午後1時過ぎから午後7時まで座って、延々とバッハとブリテンを聴いておりました。

いつから始めていたのか、もう記憶は定かでないけど、今や京都を拠点に室内楽を中心にマルチで活動なさっており、この春からは相愛の先生になっている(って、ホントに教えに行けてるのかしらね)
https://www.soai.ac.jp/information/news/2020/01/post-37.html
チェリスト上森祥平氏、晩夏恒例となっている「バッハの無伴奏チェロ組曲に20世紀無伴奏作品を挟みながら全曲演奏する」という2020東京五輪マラソンにも匹敵する荒技の日でありまする。
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以前は浜離宮だったような気がするんだが、数年前からマネージメントをしているミリオンコンサート協会お得意の「長く続く定番曲全曲企画」のひとつとして上野で開催されるようになっている。クリスマス頃の道夫先生《ゴールドベルク変奏曲》、大晦日のベートーヴェン弦楽四重奏一日でハーフサイクルと並ぶ、三大企画であります。

ちなみに、前の2つの言い出しっぺプロデューサー小尾さんが先頃お亡くなりになり、道夫先生は小尾さんと「お互いどっちかが逝くまで」という口約束だったんでもう今年はいいでしょ、という事になったそうですが、遺された若き(でもないが)スタッフ連の説得で今年も開催予定だそうな。このコロナ禍、年内で収まるとは思えず、どうなるかは誰にもわかりませんけど。

もとい。んで、その今や晩夏のトーキョーの風物詩となりつつあるバッハ・マラソン、これまたデータはいい加減で申し訳ないけど(「書いてあることはみんな嘘、信じるなぁ」が当私設電子壁新聞のモットーであることをお忘れなく!)、10年代半ばからはバッハ全6曲とブリテン全3曲、という究極の灼熱のトライアスロン企画となった。

今年は旧日帝敗戦受諾の日に設定されました。なんか、良心的懲役拒否を貫いたゲイということで社会的には大いにしんどい状況で英国から北米に逃れねばならなかったブリテンという方の背景を考えると、納得がいったりして。ちなみに、曲は盟友ショスタコの晩年様式などとも通じる最晩年のものですけど。

このコンサート、客として座っている側も弾く側同様に戦略が必要で、なんせ《マイスタージンガー》全部聴く位の長さだけど、オペラとは違って作曲者の方が途中で客が気を抜く箇所を作ってくれてはいない。そりゃ当然で、こんな演目をやること考えてないでしょうからね。だから、「このくそ暑い中では全部集中するのは無理、こことここは座ってるだけでスイッチオフ」みたいな瞬間を用意しておかねば、休憩込み5時間半の長丁場を乗り切るのは不可能です。上森氏はもっと大変なのは百も承知ながら、これはもうシロートが200キロマラソンとかやってる選手の気持ちを考えようがないみたいなもので、ぐぁんばってくれ、としか言いようがないわ。

結果として、今年もバッハの1番と4番の間にブリテン1番が挟まれる第1部はほぼアウト。30分の休憩を挟んで2番と3番の間にもうひとつの2番が挟まれる第2部が、大人気のバッハ3番が頂点となる弾く側も聴く側も充実したところ。で、サパー休憩40分也を挟んで(JR公園口が文化会館楽屋真ん前から北にちょっと移動し、文化会館正面入口の真向かいにコンビニが出来て、サンドイッチやらおにぎりやらが買えるので、こういう無茶な長丁場企画にはとても有り難いことになりましたぁ!)、しんみりむっつりの難曲5番と、妙に突き抜けちゃったようなブリテン3番、そして最後に低音発ほっぽらかしののーてんきな6番で第3部が締めくくられると、短くなり始めた晩夏の日はすっかり沈んでおりました、ってなる。この長丁場の最後になると、ホントに6番ってのはあっちの世界にいっちゃってるお祭り曲だなぁ、絶対にチェロのために書いてないよなぁこの曲、とあらためて思うのであった。

この恒例の演奏会、今年はいずこも同じ真夏のコロナ対応様式で開催されています。考えてみたらコロナ下では始めて足を踏み入れた我がホームベースのひとつたる文化小ホール、ロビーへと上がっていくと、熱風が吹き込んでら。おお、「バリアフリー」などという概念は頭の片隅にすらない60年代高度成長へとイケイケゴーゴーの頃の建物らしく階段で地下に降りていくトイレの入口の向こうの扉が、大きく開かれている。この会場に70年代以降どれだけ来たか判らないけど、この扉が開かれ
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ほったらかしの草ボウボウ、上野地区でもっと野生の緑の溢れた庭園とも言えない芸術院との間のぺんぺん草の彼方から、灼熱の南風が押し寄せる。もうひとつ、駅に近い側の喫煙所になってる空間に出る扉も、同様におっぴろげ状態です。

そして、20分から30分弱の各曲が終わる度に、休憩ではなく3分程の「換気Time」が設けられ、オーディトリアムの上手下手の扉が開かれる。と、楽器のためにも少しでも湿度を下げるべく冷え切った設定にされている空間に、夏の強い光がぽっかりと浮かび上がり、熱風が吹き込んでくる。
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結果として、コロナの為の強引な換気は、長大なバッハ&ブリテン・トライアスロンの走りながらの合間合間の給水みたいなことになり、さあ、次にいこうぜ、って気持ちになってくるのであった。

コロナの時代の「新しい日常」がこうなのかは知らないし、これが冬だったらどうなんじゃろか、と思わんでもないけど、灼熱のバッハには驚くほどの効果がある。お陰で、なんだろうが、今年は第3部の大人の味わいがじっくり堪能できましたとさ。

「今年は長くなったので、アンコールはなしです」と締めくくった上森氏、弾けなくなるまで続けると仰っているというこの真夏のトライアスロン、来年も今年同様に敗戦受諾の日に同じ会場で行われるとのことでありまする。

どんな夏になってるのか、誰も知らない。

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