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テレワークをライヴで眺める [現代音楽]

「弦楽四重奏」なのか「現代音楽」なのか、はたまた「音楽業界」、それとも「パンデミックな日々」なのか、ジャンルがよーわからぬネタでありまするな。

昨日夕方、横浜は紅葉坂を上った神奈川県立音楽堂で、こんなイベントがありました。
https://www.kanagawa-ongakudo.com/detail?id=36889

正直なところ、のこのこ出かけていく前になっても、どのようなイベントなのかいまひとつイメージが掴めませんでした。んで、「太平洋の向こうにいるクロノスQと、県立音楽堂のステージ上に並んだ合唱団が、ライヴでテレワーク共演をする」のかと勝手に思ったのだが、どうもそうではないようだぞ。

ま、なんだかよくわからないけど、あの悪夢の226アベ要請当日、力を入れていたオペラの舞台稽古が始まろうという瞬間に「中止」要請が来て、泣く泣くそれまでに積み上げてきた努力の成果を示すことなく全部チャラにせざるを得ず、それ以降、も周囲がなんとなくもうやるしかないだろーって空気になって恐る恐る公演を再開しようとしている中にあっても、県知事が「今月いっぱいはやらない」と言い出して、すっかりやる気になってた民間主催者がけんか腰になっちゃったりして…

そんなこんな、昼が夜より長い季節をひたすら耐えていたスタッフが、数か月ぶりに満を持して提供する自分たちのプレゼンテーション(なんだと思う、違ったらスイマセン)、これは眺めにいかねばなりますないぞ。

かくて、年寄りにはしんどい紅葉坂えっちらおっちら作業を解消してくれる桜木町からの無料シャトルバス(乗車にチケット提示など不要ですので、能楽堂や図書館に後用事の方も乗れてしまいますぅ)で一気に急坂を駆け上り
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新帝都に残るインターナショナル様式初期の名建築物に到着でありまする。

さても、以下、きちんとイベントのレポートをすべきなのかもしれませんが、それはちゃんとすべき方がなさるでしょうから、無責任に感じたことをダラダラ綴りまする。まずは三密回避でゆったりと座った極めて限られた聴衆の前に、司会者さんと評論家さんというかライターさんが登場。
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本来ならば本日ここで演奏を行っていた筈のクロノスQとハリントン御大を讃えるお話。それから、本日演奏される筈だった弦楽四重奏と電子音と合唱のための大作《サン・リングス》を作曲したテリー・ライリーについてのお話。中身は、まあ、当電子壁新聞を立ち読みなさってるような方には特に説明は不要な、纏め記事のようなものでありました。コロナで予定されていた17年ぶりだかの来日が不可能になり(えええええ、あたくしめが水道橋のホテルメッツでハリントン御大にインタビューしたときから、ずーっと来日がなかったってことかいな!)、自粛明けからいろいろ動き、日本側の合唱団のパートを県立音楽堂の舞台やロビーで三密回避で映像収録、それをカリフォルニアに送り、クロノスQはそれぞれのパートをスタジオで収録。それらの素材に、NASA提供の電子音なんぞを重ねて、合唱が加わる楽章をリモート素材で作られた映像作品にした、ということでありました。

つまり、このホールで行われるのは、完成映像披露会ということ。客席には合唱指揮者さんや合唱団の皆さんもいらしているのだけど、実際にライヴで音を出すことはありません。

なるほど、そういう趣旨なのね、とやっと理解し、じゃあまあ、ノンビリ見物しましょうか。

おっとその前に、レクチャーでいちばん面白かったのは、ライターの松山晋也さんが話の中で使っていらした「インディ・クラシック」という言葉ですな。わしらの業界では、21世紀に入る前くらいからの北米室内楽業界の大きな流れを「室内楽のインディーズ化」と呼んでいて、この言葉を普通に使っていた。もしもこのような使い方をしている隣接業界があるとしたら、これはこれできちんと整理しないと困ったことになるなぁ、と思った次第。実は、この言葉の使い方を知っただけで、遙々横浜の坂の上まで出向いた意義はあったと思ってしまったでありましたとさ。

かくて50分弱くらいに及んだけっこう長いレクチャー、「実はライリーさん、コロナ禍の中で日本にいてアメリカに帰れなくなっていて、今は山梨にいらっしゃいます」という知る人ぞ知る業界内極秘情報が世間に大公開されてしまい、客席からはえええええっという声なき声が挙がったりして。残念ながらご本人は映像出演もありませんでした。電車で3時間のところから映像出演、ってのも逆に滑稽だわなぁ。

舞台の奥をスクリーンに上映された映像作品は、良くも悪くも「コロナの半年の間に、私たちのこういう映像に接する際の新しいスタンダードが出来てきているなぁ」とあらためて思わされるものでした。正直、大スクリーンで視ないと判らないか、というと、そうではない。テレワーク作品の完成度の高いものを、みんなで一緒に眺めた、というイベントでありました。最後に指揮者さんが出てきて挨拶、そしてなにより、この日のハイライトは、終演後に楽屋だか舞台の上だけでされていた、合唱団の皆さんとスタッフの記念撮影なんじゃないかしら。これぞ正に、ライヴ。

コロナ故のテレワーク作品を、敢えてコンサートホールでみんなで眺める。これも「新しい日常」なのか、はたまた「コロナ禍の珍事」なのか。

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