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ローカルにして味わい深いベートーヴェン記念年 [演奏家]

コロナの日常に慣れたとは言わないけど、いつの間にか出かけるのにマスクをし、スーパーでレジに並ぶときには前をしっかり開けるのが当たり前になりつつ神無月も半ばの今日この頃、新帝都は晴れの特異日の筈が、なくなってしまった五輪を悲しんでか秋の長雨みたいな陽気、葛飾巨大柿の木の実も一気に色づく筈がちょっと足踏み状態な今日この頃、皆々様はいかがお過ごしでありましょうぞ。

やくぺん先生ったら、相変わらず、というか、金になる原稿はますます減って、書いた原稿も納入先が経営不振は目に見えていていつ支払われるか定かではないものもある。冗談じゃなく、これはもう葛飾オフィスの固定費を維持するのが精一杯、親の墓の前で土下座して柿の木切り倒して売り払うのを許して貰うしか生きる道はない状況に追い込まれておりまする。いやはや。まあ、幸か不幸か、持ち出し額の大きな取材はまるっきりないわけで、取材費やらチケット代が最低限であるが故になんとか生き延びられているだけ。御上が「原稿を発注したら原稿料の4割を発注側に補填するGOTO作文」キャンペーンなぁんて、支持者の大手旅行業界さん方になさってるような手の差し伸べ方は絶対にしてくれない特殊な零細業界。偉い学者さんでさえ税金の無駄遣いと叩かれ、税金で選挙民買収やった責任者がソーリ大臣やってル我らがニッポン、いやはやぁ。

もといもとい。そうはいっても「演奏年鑑」の概論執筆やら、某社の年間コンサートベストテン選びなどを考えると、電気代と税金払ったらチケットを買うお金がありません、というわけにもいかず、粛々と会場には足を運ぶのであーる。漁師さんが魚が売れなくても漁をせねばならぬ、農家が台風でやられそうでも畑に種は蒔かねばならんのと同じでんな。

かくて、去る金曜日から連日連夜、新帝都各地で賑々しく開催されている「とーきょー秋のベートーヴェン250年記念大フェスティバル」としか言えぬようなもんに通っているのであります。以下。

9日金曜日:小山京子リサイタル(ブルーローズ) 《月光》、幻想曲作品77、《ハンマークラヴィア》
10日土曜日:和波夫妻デュオ(文化小ホール) 《クロイツェル》、ソナタ第10番、ロマンスト長調
11日日曜日:神戸室内管東京公演下野&清水和音(紀尾井ホール) ピアノ協奏曲ト長調、《英雄》
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12日月曜日:桐山&小倉ソナタ全曲第2回(文化小ホール) 《春》、作品30全曲
14日水曜日:Qエクセルシオ弦楽四重奏全曲第1回(浦安音楽ホール) 《セリオーソ》、ラズモ3番、作品127

明日火曜日だけは日本フィルさんと落合息子氏のインスタレーション型演奏会があるのでベートーヴェンはお休みだけど、去る金曜日からだだだだだだあぁ、っと聴いてるのはベートーヴェンばっかりなのでありまする。これをフェスティバルと言わず、なんとゆーべきであろーかっ!

この「みんなで勝手にやってるコロナ下新帝都秋のベートーヴェン祭り」ですけど、ご覧になってお判りのように、所謂「日本の中堅から巨匠」が演奏者。所謂「外タレ」とか「世界を股にかけるスター」とかではありません。

コロナの鎖国状態で、本来ならばこの時期、溜池の大ホールではミドリさんがベートーヴェンのソナタを披露、プラジャークQが日本中でチクルスを含む演奏をやりまくり、ジュリアードQまでやってきて後期作品なんぞを披露していた筈。わしら同業者も、そういう状況ならば、そっちに多くの方々が行かされてなんのかんの言ったり言わなかったりしていた筈でありましょう。でも、鎖国のお陰でそういう状況は一切なくなり、結果として、この列島に拠点を置き、引き籠もりの間には家でしっかり勉強したりせいぜいがネットで個人発信していた音楽家の皆さんが、そろりそろりと出てきて半分ほどの聴衆を前に成果を聴かせてくれるのを拝聴することになっている。

ピアノソナタから協奏曲まで各ジャンルバランス良く並び、演奏も20世紀巨匠様式を今に伝える長老からピリオド系演奏の最先端、そして「古楽器」や「ピリオド奏法」の響きを知った上で敢えてロブコヴィッツ伯爵邸で初演された規模(よりも全然大きいんだろうけど)のモダンなアンサンブルで今時の研究を踏まえた総譜を再現する意味を真っ正面から問うような交響曲再現まで。声楽はないけど、ニッポンのベートーヴェン受容の中心は器楽だったわけだから、これはこれでローカルなあり方としてはあり。そう、これぞ正に、コロナがあったからこそ可能になった「遙か極東の島国で150年くらい積み上げられたベートーヴェン受容の2020年の姿」を俯瞰させてくれるラインナップでありまする。

聴衆も、こんなテイストの特別ではない、でもちゃんとしたベートーヴェンをちゃんと聴きたいと思ってホールまで足を運んでいる方々ばかり。数は多くはないけど、そもそも多くの人に強引に聴かせなきゃいけないようなもんではない。日本に入ってきた洋食がしっかりと「トンカツ」とか「カレーライス」とかになって定着し、それをもう何世代もが栄養にして生きてきている、ミシュランガイドに掲載されるような特別な物ではない当たり前のトンカツ定食やオムライスを丁寧に、ガッツリ食わせてくれるような、そういうじみぃでローカルな音楽が、ちゃんと鳴っている。

勿論、若きローカルなスターが若い(のかなぁ…)聴衆を集めるインなベートーヴェンだって鳴ってるわけで、そっちにはそっちを聴きたい人がちゃんと来ているようだし。ニッポンの新帝都、捨てたもんじゃないじゃああーりませんかっ。

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