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福岡弦楽四重奏団始動! [弦楽四重奏]

昨晩2021年4月6日、福岡は天神のあいれふホールで、福岡弦楽四重奏団の立ち上げ演奏会が行われました。
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メンバーは、九響コンサートマスターの扇谷氏を第1ヴァイオリンに、全員が九州交響楽団のメンバー。扇谷氏というと、現時点では新帝都大川端がホームベースのやくぺん先生とすれば「日本フィルのコンサートマスター」と思ってしまうわけだが、地元の方に拠れば九響定期の半分はコンマスを務め、おうちも福岡にあるそうな。へえ。

中心となっているのはチェロさんで、ステージ上からのご挨拶をまんま拾えば、「昨年のコロナの自粛の間、なにも出来なくなり、何かやりたいと弦楽四重奏を始めることにして、扇谷さんに相談し…」ということだそうな。これもまた、結果としてコロナ禍の一年が生んだ団体、ということになるわけですな。

経緯がどうあれ、聴衆とすれば「九響メンバーに拠る常設の弦楽四重奏団の誕生」ということになるわけで、練習場の問題などいろいろあるようだけど、チラシにはしっかり九州交響楽団も共催に名前が挙がっております。モーツァルトのニ短調に始まり、記念年のストラヴィンスキーを挟み、後半は《ロザムンデ》。起ち上げ演奏会から、まるで定期演奏会みたいなガッツリのプログラムでありますな。

このコンサート、正直言えば、なによりも吃驚したのは聴衆でした。200人入る立派な会場に、聴衆は半分くらい。「東京首都圏のコアな室内楽聴衆はMAXで300人、大阪は200人、名古屋は100人」という室内楽業界の些か自虐気味な無言の常識から考えれば、門司から北九州、直方から唐津、鳥栖、久留米くらいまでを含めた文化圏でこの数が集まったのは、もう驚異的でしょう。そして、もっとも驚嘆すべきは、その聴衆の若さでありまする。ほれ。
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東京首都圏であれ、ロンドンはウィグモアホールであれ、ベルリンのフィルハーモニー室内楽ホールであれ、こんな写真を撮影したらそこに移ってるのは白い頭ばかりになる。それがなんとなんと、明らかにお弟子さんかな、って若い聴衆ばかりではなく、普通の働くサラリーマンくらいの世代の聴衆がいっぱいいる。どーしてこんなことになってるのか判らぬが、凄いぞ、福岡文化圏!

音楽の中身は、意外にも、というと失礼だけど、「扇谷社長と仲間達」ではなく、個々人の表現への意欲が前面に出たアンサンブル。各声部がしっかり前に出ようとし、良くも悪くもガーガーと騒がしく言い立てる、強引に誰かが押さえ込もうとするもんではありません。なるほど、こういうことはしたいのね、という前向きな気持ちは良く伝わってくる音楽でありました。

無論、「常設の弦楽四重奏団」として認知されて行くには、これから長い時間が必要でありましょう。とはいえ、しっかりとオーケストラがひとつの顔として認知し、みんなで支えていけば、1都市1オーケストラの町として看板になる可能性はある団体が誕生したわけです。

1979年の丁度今頃に作品132を最後に真理さんの死で巖本真理Qが解散となり、90年代の室内楽ルネサンスが訪れるまでの間、室内楽といえばスメタナQしかないような冬の時代、日本列島の室内楽に火を灯し続けていた福岡モーツァルト・アンサンブルという団体がありました。アンサンブルとはいうものの、実質上は九州交響楽団コンサートマスターに就任した岸邉さんが率いる弦楽四重奏団で、着実に聴衆を増やし、北九州地区に室内楽の種を蒔き、初期のゆふいん音楽祭を支えるコアになっておりました。九州を一歩たりとも出ることがなく、レコードメディアは大手寡占、放送メディアも猛烈な中央集権だった時代が故、当時の日本語メディアで室内楽の価値を創っていた評論家のH氏やO氏の視野に入ることはなく、残念ながらその存在を知る人も少ない団体です。

他にも、団員にアマチュアを含みながらも日本でのアマデウスQのレッスンを受講し、博多駅前の銀行ロビーを会場にハイドンの全曲を演奏してしまったという驚くべき経歴を誇る福岡ハイドン・クァルテットなど、福岡博多の地は案外としっかりとした室内楽需要の基盤はある。

アクロスには大ホールしかないものの、他にも適正規模の会場もあるわけだし、オーケストラをしっかりとしたバックにして、新たな弦楽四重奏団と若い聴衆が室内楽を当たり前に演奏し受容することになれば良いんですけど。

ま、ともかく、やりたがり屋が気風の街。風来坊やくぺん先生としても、眺めていける限りは眺めていきましょうぞ。

[追記]

その後、この電子壁新聞雉を貼り付けたFacebook上で、なんで若い聴衆が多かったのか、地元の方からの説明が入っています。ご関心の向きはご覧あれ。「福岡文化圏は1都市1オケが辛うじて機能している」ということなんでしょうかねぇ。
https://www.facebook.com/yawara.watanabe
4月8日の当稿というスタンプがある投稿への反応です。最近はweblogはすっかり廃れ、人々の反応はFacebookやらtwitterやらで、ということなんでしょうかね。ま、それはそれでいいでしょ。

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