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演奏会形式というもの [音楽業界]

いろいろと世間で物議を醸しているマエストロ・ムーティ入国の最大の目的たるヴェルディ《マクベス》、改訂版イタリア語演奏会形式上演を拝聴してまいりましたです。場所は、「東京春音楽祭」ホームベースたる上野は東京文化会館。なにせコロナの世界になってから、恐らくは13ヶ月ぶりくらいにニッポンの舞台のポディウムに紛れもないみんな知ってるスター指揮者が登場するとあって、客席は大いに華やいでおりまする。
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平土間真ん中招待席には、イタリア三色旗のマスクをなさった大使館っぽい方などがIIJ会長さんと懇談なさったり、天井桟敷までマニアさんたちがギッシリになったり。

既にSNS上は評論家さん、関係者、マニアの皆様などからの絶賛の嵐が吹きまくっているようでありまして、ま、こういうものに「終わり良ければすべてよし」なんてノンビリしたことを言っても良いのか些かなりと後ろめたく感じつつも、やってはみたけどボロボロでみんな頭抱えてました、なんてことにならないでホントに良かったです。ハイ。

やくぺん先生の個人的な嗜好からすれば、「ああああ、俺はハワイアンとヴィンナ・ワルツはダメと公言してきたが、やっぱりイタリアオペラもダメと正直に言うべきであろーか」と下を向いてしまう、ってのが本音。無論、あたくしめなんぞの好き嫌いがどうであれ、そんなことはどーでもいいことでありまして、素晴らしいヴェルディ初期(なのかなぁ、なんせ初期作品といえ、《シモン・ボッカネグラ》いじり回してた頃に改定した版なんだから)の猛烈なパワーが上野の杜を熱狂させたことは事実でありまする。

大感動なさっている多くの皆様は、ここから先は立ち読み止めて帰った方が良いですよ…と呟いて、後の自分のためのメモとして以下を記すわけですがぁ…

本日の演奏会、「演奏会形式」というものの利点やら美点と、敢えて言えば問題点というか限界点がよーく見えたものだったという意味で、あたしのようなヴェルディ初期ダメダメ人間にも凄く勉強になったです。

音楽、特にオーケストラパートの細部まで明快な指揮者の意志が伝わり、それを誇張しているわけではなかろうがガッツリ前に出されて他の要素は皆無な純粋に音楽だけの舞台ということで、演奏が立派であればあるほど、作品の要式性がどんどんと表に出てくる。結果として、やっぱりこの作品って、「スーパー歌舞伎ワンピース」とか、「ミュージカル・セーラームーン」とか、はたまた「宝塚版風と共に去りぬ」とか(実はどれも良く知らんけど…)、そんなもんと同じ意味での「ヴェルディ版マクベス」だよねぇ、と思わされるばかり。ネガティヴもポジティヴもない、そういうもんなんだよね、ってこと。

無論、ヴェルディ自身はこの作品に凄く思い入れがあり、まともなシェイクスピア上演なんてされていなかった19世紀半ば以降のイタリアで本気でシェイクスピアの本質を再現しようとしたのでありましょう。そして、ヴェルディなりにもの凄く成功しているからこそ、先程のトーキョーの聴衆の大熱狂もあったわけですし。

ヴェルディの真摯なマクベス主題のオペラ化だからこそ、もの凄くヴェルディであって、ある時代の、ある特殊な様式にもの凄く則ったものになっている。今回の「オペラ・アカデミー」が、そんな様式を異文化の連中や若い連中に伝えることが目的なのでしょうから、この企てとすれば大成功。関係者の皆様、ご苦労様でした。

本日の演奏では、この作品が20世紀前半のドイツという「オペラ演出」というものが現代的な意味でまともにアートな行為として成り立ち始めた頃から復興してきた、一方でシェイクスピアの本場たる英国ではなかなか取り上げられなかった、という事実にもいろいろ納得いかされました。このヴェルディの熱すぎる音楽って、案外とウーファー的なドイツ表現主義の極端な表現と親和性が高いんじゃあないかい、ってね。シュレーカーとかにも似ている極端さは、マックス・ラインハルトなんぞの流れの演出家も大いに喜んで飛びつきそうな、ウルトラ極端な部分だけを繋げていくような展開。ムーティ御大が若い人たちに「ヴェルティの楽譜への忠実さ」をたたき込めばたたき込むほど、表現主義的とも言える譜面のとんがり具合が深掘りにされていく。

この作品、舞台で取り上げられる場合は、3幕の魔女の場面をどう処理するのかとか、トリッキーな舞台対応のことばかりに目が行っちゃって、そこで鳴ってる音楽が相当に激烈苛烈、ある意味滅茶苦茶なものであってもケロッと容認しちゃってるんだなぁ、ってあらためて思ったりして。

ま、もう疲れたんでこれくらい。ホントにオペラやヴェルディが好きな方々が盛り上がってる部分はちょい違う部分なんだろうけど、やくぺん先生なりに大いに面白いものでありました、ってお話でしたとさ。

でもやっぱり、個人的にはヴェルディは《シモン・ボッカネグラ》と《ファルスタッフ》で充分だなあぁ。弦楽四重奏は…ううううむ。

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