SSブログ

『バイエルの刊行台帳』という本 [音楽業界]

「音楽業界」なのか「売文家業」なのか、ちょっと微妙な話。

もう何年前になるのか、安田寛先生の著作『バイエルの謎』がベストセラーになり、この類いの書物としては珍しくも数年で新潮文庫にまで入ったという驚異的な事件(としか言い様がない)がありました。当電子壁新聞でも無論、そこまでの大騒ぎになる前に話題にさせていただきましたっけ。ああ、もう9年も前の今頃だったのかぁ。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2012-05-27

月日は流れ、世界がとんでもない状況になっているこの春、前作の正当な続編たる『バイエルの刊行台帳』が出版されましたです。こちら。
https://www.ongakunotomo.co.jp/catalog/detail_sp.php?code=212590

早速、読ませていただきました。っても、周囲あれこれバタバタで、一気に読み上げるというわけには行かず、大川端ノマド場でドバや子雀と遊びながら、はたまた本書に曰く「2%の富める大作曲家」の中にあって最も神格化された大バッハ先生の最も神格化された《ブランデンブルク協奏曲》全曲なんぞの演奏会を前に遙か天樹を眺める公園で、
IMG_1766.jpg
ダラダラとちょっとづつ、拝読させていただくことになったのでありまする。

で、以下、正直な感想を申します。快刀乱麻、って感じで「バイエル」という存在の秘密をスッパリ暴いた感があった前作と比べますと、今回の続編は、「ミステリー」としてはちょっと難しいです。ハッキリ言っちゃえば――以下ネタバレ、と記すべきなんでしょうけど――本書を敢えて娯楽ミステリーの知的エンターテインメントとして読むと、最初に掲げられた今回の謎、「何故マインツのショット本社の回廊にバイエルの肖像画が掲げられているのか?」という疑問に対するタネ明かしとして、そのわけを綴った社長の手紙が出てきたとか、当時の新聞記事が発見され関係者の発言があったとか、そんな意味での明快な答えは示されておりません。

無論、本書を謎解き娯楽エンターテインメントとして読む方が悪いんで、そもそもそういうもんではない、というだけのことなんですけど。

本書は、「何か正しい正解を教えて貰える」本ではありません。2020年代の頭くらいに、日本語文化圏の読者にとって所謂「西洋音楽史」がどのようにあり得るのか、ひとつのあり方を探っていくプロセスを記述したエッセイです。

その意味では、現代の音楽学の流れや、誤解覚悟で言えば「流行」がどのようなものなのか、良く判る書物です。ふたりの共著者が、「私」というまるで今時のラノベみたいな一人称単数人格を仮構し、「バイエルが出版され、受け入れられた状況」を、ショット社から譲渡され今はミュンヘンのオペラハウスの向こうの州立図書館に納まるオリジナル資料を紐解いてあたっていく。そのプロセスで、「私」はあれやこれや考えた、というもの。最終的に、ロマン主義的な「英雄中心に語られる歴史」の問題性(このような言い方はなさってませんけど、つまりそーゆーこと)が、この先の「私」のテーマとして浮かび上がってくる。いろいろ判ったものの判らないこともいっぱいあり、何故判らないかはなんとなく判ったような…

売文業者として技術的に最も興味深かったのは、「共著」という形をとりつつ、「私」という登場人物を出して記述するスタイルをお採りになったことでした。前作は安田先生が語っている以外に誤読のしようがなかったけど、今回は共著となり再び登場した「私」は果たして前作の語り手と同じキャラクターなのか?なんだかまるで「記述構造そのものが謎解きの最大トリックだった」という類いのミステリーみたいな言い方ですけど、やはりどうしてもそう感じてしまうのは、前作からの愛読者とすれば致し方ないでありましょう。お許しあれ。

ま、そういう作文テクニックの問題はそれとして、へえええ、そーなんだぁ、と思いながらページを繰っていく限りは、興味深い時間を過ごせることは確実であります。

それにしても、やっぱり気になるのは、「バイエルは超一流の売れっ子編曲者だった」という本書で明かされる事実の裏にある「編曲はやった者勝ち、出版した者勝ち」という歴史状況が、バイエル没後半世紀ちょっとして守銭奴リヒャルト・シュトラウスの大活躍で著作権なるものが確立し、まるでなくなってしまう、という史実。本書で論じられようとした、はたまた次の書物で論じられることになるであろう「作品のコミュニズム」としての音楽史の見直しは、つまるところ現代日本の「YouTubeに溢れる素人のリミックス作品VS悪のラスボスJASRAC」みたいなところにまで繋がるのか…

バイエルという人を軸に、いろいろあれこれ前頭葉を刺激される著作であります。前作程気楽に「必読」というのはちょっと難しいかもしれなけど、知的刺激を受けたい方は是非お読みあれ。

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

フィショッフも韓国団体優勝! [弦楽四重奏]

偶然にも、プラハの春大会とほぼ同時の先週、フィショッフ室内楽コンクールが開催されていました。この大会、1970年代に始まった「アメリカ合衆国に於ける室内楽業界の夏の甲子園大会」ってか、「室内楽に特化したアメリカの毎コン」みたいな位置付けで、バンフ、メルボルン、大阪、ロンドン、レッジョ、ボルドーみたいな各大陸や文化圏を代表するメイジャー国際大会ではありませんし、ミュンヘンみたいなでっかい総合大会でもありません。でも、アメリカの室内楽業界とすれば、本気で室内楽をやりたい連中の最初の登竜門であります。

まさかやるとは思わなかったが、やはり恒例のインディアナ州はサウスベンドのノートルダム大学からライヴでやったわけではなく、オンラインだったみたい。こちら。
https://www.fischoff.org/competition/attending-the-competition/
ちなみに、これが過去数年の結果。なんとなんと、昨年もやってたんですねぇ。シニア部門というのはもうプロになるレベルの連中で、ジュニア部門というのは若い団体が対象で、正に目指せ甲子園ですな。おお、昨年シニア優勝は、来月のレッジョにも唯一の大西洋渡って参加することになってる連中ではないかぁ。
https://www.fischoff.org/competition/competition-winners/

さても、そんな中でのシニア部門で優勝したのは、リススQなる団体。ヴァイオリン・チャンネルが速報してます。
https://theviolinchannel.com/risus-quartet-grand-prize-winner-fischoff-chamber-music-competition-2021/?fbclid=IwAR3gLPnhuaUSsQzt92NefLfd92ZsRphm5ZyUrcLkBmDyFDpYFrMsLoMxeQQ

おいおい、ここも半島の連中、それもエスメさん同様にお嬢さんばかりの団体ではないかぁ。実は、やくぺん先生はこのニュースは彼女らがいるテキサス大学の絡み(なんだろうなぁ)でミロQのメンバーから知りましたです。今時はどんな音を出してるか、簡単に聴けますから、なんのかんの言うまでお聴きあれ。ほれ。
他にも、メンデルスゾーンなんぞがYouTube上にアップされてます。どれもこの2月くらい、ってのは、このヴィデオなんぞで選考した、ってことなんでしょうね。正直、演目がなんともこれじゃなぁ、ハイドンはないのか、って気はしないでもないですけど。

ま、フィショッフ優勝というのは国際コンクール参加に向けた最初の条件をクリアーしたというところですから、次回のバンフやら大阪に顔を出してくる可能性がある名前として、気をつけておきましょうかね。←おお、こういうニュースを視ていると、まだわしも現役気分が抜けぬわい…

今のような状況にあって、アメリカ合衆国が世界に誇る20世紀末以降に確立された室内楽教育のシステムはきっちり動いているという事実を知るだけでも、大いに有り難いニュースではあります。なんせ、コロナで業界全体のレベルが下がるのは、なによりもオソロシーことですから。

それにしても、クフモ・アシアナQがチェロ大好き大企業会長の熱烈バックアップでも開けなかった韓国の常設室内楽団体への道が、大阪でのノーブスQの3位入賞をきっかけに一気に開花し、前回ロンドンのエスメ以降はこのジャンルに雪崩を打って参入してきているって現状、なかなか興味深いことでありまする。100年近い演奏伝統とデカンショ欧州文化崇拝が背景にあったニッポンでも「一千万都市東京首都圏でホントの室内楽聴衆は数百人」という小さなマーケットが精一杯のジャンル、中国同様に国内需要がほぼ未開拓な半島に戻って、どこまでやっていけるやら。オケやオペラハウスみたいに欧米団体に就職するのはあり得ないジャンルですからねぇ。

山積みのフライドチキンとHiteビール前に、ソウルのマネージャー女史と愚痴半分であれやこれや…なんて状況はいつになったら戻ってくるのやら。ふううう…

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

ピアチェンツァでコロナ追悼《ヴェルレク》 [音楽業界]

昨日日曜夕方、日本時間では早朝というか深夜の月曜午前1時、エミリア・ロマーニャ州の北西の端っこ、ポー川鉄橋を越えればもうロンバルディア州で特急ならミラノまであと一駅という北イタリアの川口みたいな古都ピアチェンツァの市立劇場で、コロナ犠牲者追悼のヴェルディ《レクイエム》が演奏され、ライヴで無料配信されました。こちら。

ご覧のように、なんと指揮はドミンゴ御大という豪華版、オケはパルマから州のオケたるトスカニーニ管が来てますな。

ライヴで眺めようと頑張ったけど寝ちゃって、今、起きてサイトに行ってみるとちゃんと眺められます。いつまで写るか知らないけど、お暇ならどうぞ。なお、始まってまず、このようなときには圧倒的に場違い感が漂う陽気で元気なイタリア国歌斉唱があったあと会場は暗転し、コロナで亡くなった方々への追悼の医療従事者の活躍を描くモノクロ映像があり、追悼演奏本編は13分くらいから始まります。

映像を眺める限り、客席はひとり空け着席でマスク必須。演奏する側は、弦楽器はピットを下げてその中に入り、マスク使用。管楽器は高くなった舞台の上に並び、奥の打楽器はマスク着用。合唱団は舞台の奥に立ち、それなりに間隔を保っているようですが、フェイスマスクやらシールドはないみたいですな。

バイエルン州某市の評論家さんから教えて貰ったイベントで、その方は昨今のドミンゴ御大の活動にはもの凄く批判的なんだけど、ま、これはこれでありでしょう。確か、ご本人もコロナを経験したわけだしねぇ。演奏そのものは、なんせ歴史的名演キラ星の超名曲だけに、いろいろ仰りたい方も多いでしょうが。
https://www.asahi.com/articles/ASN3R32YVN3RUHBI00P.html

やくぺん先生とすれば、この演奏会が気になる理由はもうハッキリしていて、ピアチェンツァという街が来月第一週から始まる予定になっているボルチアーニ国際弦楽四重奏コンクールの舞台となるレッジョ・エミリアと同じ州にある、という事実に尽きます。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2021-05-13

なんせ、ミラノ中央駅から「走れば速いぞ」で知られるトレニタリアに乗りレッジョに向かうと、若きモーツァルトがミラノに入れずに長逗留となり暇つぶしに最初の弦楽四重奏曲を書いたローディを過ぎ、ポー川の大鉄橋を越えたらピアチェンツァ。そこからは「イタリアの高崎線」と呼ばれるヨーロッパでもいちばんつまらん車窓が続き、次はパルマだっけ。そこまで来れば、レッジョまでもうちょっと。新幹線駅はあったっけか。

ま、ともかく、そのような場所でこの規模のイベントが本日の時点で開催されているということは、2019年9月のバンフ以来のメイジャー弦楽四重奏専門大会たるレッジョのボルチアーニ大会も不参加団体続出覚悟での強行は出来る、ということなんでしょうか。エミリア・ロマーニャ州は活動規制が最も緩い場所という話もあるし。

コンクールが出来ようが出来まいが、レッジョのコンクールスタッフがみんな元気でありますように。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

プラハの春コンクールの結果 [弦楽四重奏]

本来ならば今頃は大阪はいずみホールで若いピアノ三重奏団が最初のステージを繰り広げ始めていた筈だ…などと虚しく感じつつ、まるで梅雨が来ちゃったような重っ苦しい帝都の空を眺める昼下がり、皆様、いかがお過ごしでありましょうか。新帝都は「緊急事態」とやらが延長になった途端にあちこちのオーケストラが公演を再開し、なんと昨日まで溜池、錦糸町、池袋と三連ちゃん。ヘタすりゃ今日も初台、って妙なことになってるのに、商都大阪はほぼ完全にコンサートどころではない状況のようで、これが同じ政府が納める島なのかい、と不思議な気分になってくるのでありまする。

ま、それはそれで、泳ぎ続けていないと死んでしまうマグロみたいなところもあるコンクール業界も、流石にまるまる一年の活動停止を受けてそろそろ無茶をしても動き出さないと日程が詰まってしまう状態になってきている。おそるおそるという感じで、独奏コンクールはオンラインやらでの再開がなされつつあるようですな。とはいえ、なんせ参加者の練習がちゃんと出来るか判らぬアンサンブルの世界では、まだまだコンクールなんてできっこないと思っていたら、なんとなんと、「プラハの春音楽祭」のプレ事業だかフェスティバルの一部だか、組織運営の形態はよーしらんが(知りたい方は、後述の公式サイトの「コンクールの歴史」というところをご覧あれ)、ともかく、どういう頻度か知らぬが開催されている弦楽四重奏部門が先週に無事に行われ、ファイナリスト3団体を集めた本選も行われたようでありまする。こちらが結果まできっちり出ているすべての記録。
https://soutez.festival.cz/en/

んで、これが13日木曜の夜に3団体をライヴでプラハ放送のドヴォルザーク・ホールで開催されたファイナルの中継映像全部。3団体の演奏から発表まで延々とがっつり5時間時間近く、全部あります。司会者さん、最初はチェコ語ですが、直ぐに全部英語になります。今はチェコもドイツ語じゃないんだねぇ。
https://youtu.be/oCyUm9wuUpw

正直、8日の一次予選から13日のファイナルまでの流れをご覧になればお判りのように、相当に無茶をした大会運営だったようです。

実質、一次と二次予選はライヴでは行われず、プラハに来たのはファイナリスト3団体のみ。審査も、ニッポンでもやたらとお馴染みで本来ならば4月には「東京春音楽祭」で関西Qと共演する筈だったプラジャークQのカニュカ氏が審査委員長で、本選現場に来た審査員は地元ヴィーハンQ第1ヴァイオリンのチェピツキー、遙々バルセロナからやってきたカザルスQのジョナサン・ブラウン、それにパリだかブリュッセルだか知らんがダネルQチェロのマルコヴィッチの総計4名。で、他にオンライン審査員でイェルサレムQ第1ヴァイオリンのパブロフスキー、アルティスQのシューマイヤー(うううん、マイスル御大じゃないんだぁ)、元ケラーQのガルが加わり、一応、国際的な顔ぶれで7名ということにはなっている。オンライン審査って、国際コンクール連盟ではどう扱うのかしらねぇ。

んで、オンラインとはいえ参加が認められたのは10団体で、今時の弦楽四重奏の国際大会としては常識的な数字。内訳は地元団体が半分、残りのうち3つが韓国、って状況。ちなみに同時に行われたピアノはもっと凄くて、42人参加中韓国籍24人!おいおい、一次予選はソウルでやれぇ、ってかね。一年まるまるコンクールが行われていないので、韓国の中ではもう後ろが詰まってしまって大変なことになってる、って感じだなぁ。いやはや…

もとい。んで、本選の様子は上の生中継録画をガッツリご覧になればいいから、あたくしめがどうのこうのと言いません。司会者さんが、客席にいたパヴェル・ハースQのペテルと、元ペンギンのペテルを舞台に引っ張り上げて喋らせていて、元気そうな顔が見られて嬉しいぞ。みんな暇なんで、会場に来てたのかしらね。

一応、結果を記しておきますと、レッジョにも参加予定となっているミュンヘンで学んでいる韓国のアレテQが副賞含め総なめ。二位はなく、三位をヴィーンで学ぶロシアとギリシャとルーマニアのお嬢さんたちのセリーニQと、地元のクカルQが分けてます。ざっと眺めた限り、順当な結果でしょう。ただ、やはりプラハでチェコ語が母国語じゃない連中がヤナーチェクをファイナルで弾かされるのは怖いなぁ。あ、セリーニQはWebサイトがあるな。ほれ。
https://www.seliniquartet.com/

とにもかくにも、カニュカ氏は「やれて良かった」という感じありありですが、今の世界でコンクールをすることの難しさをいろいろ感じさせられる結果ですな。嗚呼、我らがあの団体が遙々シベリア越えて行けてれば…なんて思っても仕方ないとはいえ…だってねぇ、どういう状況での開催であれ、歴史の上にはパヴェル・ハースQやらと同じ扱いで記されるわけですから。

ま、懐かしい顔だらけの審査員席やゲスト出演を眺めさせていただいただけでも、有り難いことであると申せましょうぞ。ほれ。
IMG_1795[1].jpg
みんな元気そうでなによりです。なんか、「昔の仲間も遠く去れば…」って気分になってくるけどさ。

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

ヴュルツブルクの《哀れな水夫》期間限定配信中 [演奏家]

遅くなりましたが、まだ時間があると思うので、慌てて宣伝します。

日本時間の土曜日朝3時から48時間限定で、ヴュルツブルク劇場が制作したオペラ映画(と言うのか、良く判らないが、一昔前の言い方をすればそうなります)《哀れな水夫》が、無料でネット配信されています。こちら。
https://www.mainfrankentheater.de/spielplan/spielplan/der-arme-matrose/991/

ページをスクロールしていって、真ん中辺りにありますので、ポチョンと押せば始まります。

劇場の歌手やオーケストラ、指揮者が、恐らくは劇場の舞台を使って作っているのでありましょう。で、なんで紹介するかと言えば、演出が鬼才にして異才、我らが菅尾友氏だからでありまする。無論、菅尾氏だからといって、ニッポンだアジアだというものではないのは言うまでもないでありましょう。ドイツの現在のムジークテアタの流れの王道演出であります。

とはいえ、ひとつだけ蛇足というか、視りゃ判るけど吃驚しないように記しておきますと、この映像作品、ミヨーの30分ちょっとのミニオペラ《哀れな水夫》をそのまま映像化しているわけではありません。なんせ、1時間15分くらいあります。倍くらいある。知らずに眺め始めて、吃驚してしまいました。あれ、なんか間違えたか、って。

ええ、以下、完璧にドイツ語アクセス可能でいろいろな作品をご存じな方には無用なネタバレになるから、読まないように。いいですかぁ。

この作品、コクトー台本の「戻らない水夫の旦那を15年待ってる奥さん、失踪中の水夫、奥さんのお父さん、友人」という登場人物を、「レオノーレ(及びマルツェリーナ)、フロレスタン、ロッコ、ドン・ピサロ」に重ねています。で、救いの無い話を《フィデリオ》と二重構造にしている。

音楽も、ミヨーのオリジナル(ドイツ語歌唱)に、《フィデリオ》のアリアや二重唱、シューベルト《冬の旅》第1曲と第20曲など、それにショスタコーヴィチ交響曲第14番第1,2楽章が挿入され、コクトーの話に絡んでいきます。

最後のクレジットに全部ちゃんと書いてありますから、詳細を知りたい方はオシマイまで眺めてくださいな。ええい、菅尾さんに怒られるかもしれないけど、もう丸1日だけのことだから、画面写真、貼り付けちゃいます。ゴメン。
IMG_1781.JPG

IMG_1782.JPG

日本時間の日曜日はまるまる視られるので、ご関心の方は是非どうぞ。なお、コクトー台本の粗筋は、ウィキペディアの英語版には上がってますから、ご覧あれ。さあ、お急ぎお急ぎ。
https://en.wikipedia.org/wiki/Le_pauvre_matelot#Synopsis

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

溜池初夏の室内楽お庭も… [パンデミックな日々]

昨日午後から、我が業界も「緊急事態」解除が予定される(?)来月に向けての日程に関し、複数の大きな動きがありました。後の記録として、以下に纏めておきます。

★「サントリーホール・チェンバー・ミュージック・ガーデン」参加予定のノーブスQとシューマンQがキャンセル
懸念されていたように、やはり無理でした。
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/schedule/detail/20210612_S_3.html
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/schedule/detail/20210614_S_3.html

殆ど仕事らしい仕事がなく超貧乏状態が続くあたしゃ、お庭の切符は少しでも手数料を取られたくないのでサントリーホールの窓口で買ったんですけど、払い戻しができないねん!ええええーん!
IMG_1759.jpg


★イェルサレムQとキュッヒル御大はやるみたい
ベートーヴェン全曲を開催する予定のイェルサレムQは、どうやら祖国には居なかったか、戦時下での出国不可能という事態には至っていないようで、現時点ではやる予定とのこと。「新型コロナウイルス感染症拡大防止の対応上、海外からの渡航制限や公的な入場制限の要請などの状況により、今後公演の中止や公演内容の一部変更、および販売席に制限を設ける可能性がありますので、あらかじめご了承ください。」と赤字でトップに記してはありますけど。
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/schedule/detail/20210606_S_3.html

んで、ノーブスQとイェルサレムQで予定されていたメンオクは、なんとなんと、講師の元東京Qメンバーの愛弟子たるアマービレが代演になったようです。代演とは言わず、チケット新しく売るみたいなんで、あたしの切符、どーなるの?また買わなきゃなんないのかいな?
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/article/detail/000605.html

キュッヒル御大と仲間達、それにヘーデンボルク・トリオといういかにもサントリーさんらしいヴィーン組(「いかにもヴィーンらしい」とは言えないのが、なかなかサントリーさんらしい微妙さなんだけどね)も、2週間隔離のために日程や公演そのものが変更になってますね。
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/schedule/detail/20210626_S_1.html

というわけで、なんとかメインディッシュたるベートーヴェンとハイドンの弦楽四重奏はやるぞ、という溜池の梅雨の入りでありました。ちなみに、お庭室内楽祭りが始まる直前には、なんとなんと天下のバレンボイム様が単身乗り込んでベートーヴェンのピアノ・ソナタを披露することいなっておりますの
https://tempoprimo.co.jp/stage/y2021/barenboim
溜池は一年遅れのベートーヴェン祭りになってるなぁ。

別件ながらもうひとつ、昨日あったアナウンス。イェルサレムQがベートーヴェンの作品18の1と作品127といういかにもなプログラムで初日を開ける直前、上野は東京文化会館で開催が予定されていたサーリアホ媼の室内オペラ日本初演、広報担当の方から「やるぞ、サーリアホ氏も既に東京に入って隔離状態になってます」との連絡がありました。
https://www.t-bunka.jp/stage/9159/

3時開演で2時間半くらい、って話だけど、7時開演の溜池はホントに吹っ飛んでいかないとだなぁ。タクシーよりも銀座線の方が速いかも。それにしても、ここにもまたアマービレ低音くん登場って、ちょっと働き過ぎじゃあないかい。コロナ下の業界内「勝ち組」が、ハッキリ見えてきてますね。

nice!(2)  コメント(4) 
共通テーマ:音楽

レッジョはホントにやれるのか? [弦楽四重奏]

視野の中のオリパラ選手村を眺めつつ、ワイドショー連日のコロナ報道を背中の後ろに眺めていると、日本語文化圏限定数百万相手のマスメディアはどうでもいいんで、10数万東京都中央区民向けのメディアが無いのはホントに困るなぁ、としか思えぬどんよりした曇り空の朝なのであーる。

死んだ子の歳を数えるようで虚しいとは知りつつ、本来ならばそろそろ大阪に世界から若い弦楽四重奏団やピアノ三重奏団がこの週末の一次予選スタートに向け集まり始める筈だった
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2020-06-29
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2019-03-08
世界の主要室内楽コンクールには顔を出す現役生活への引退を宣言したやくぺん爺さんとしても、流石に地元主催開催となれば今日辺りからは大阪泊まり込みになる筈だったわけで…

って中で、今世紀に入ってからは毎回大阪の直後数週間で開催される日程が固定してしまっており、世界中のコンクール参加レベル団体の頭を抱えさせる北イタリアはボローニャソーセージとパルメジャンチーズ、それにフェラーリとクァルテット・イタリアーノの故郷たるエミリア・ロマーニャ州はレッジョ・エミリアで開催されるプレミオ・パオロ・ボルチアーニ、6月5日の一次審査開始まであと3週間ちょいと迫り、そろそろいくらなんでも事務局は決断をせねばならぬであろーに。

無論、こんなニュースがあろうが来月頭に自分が現場には絶対にいけないのは百も承知なんだけど
https://www.asahi.com/articles/ASP5F2DBYP5DUHBI02W.html
今やこれまた日課となりつつある朝の公式ページチェックをしにいったら、表のニュース欄はいつも通りで変化無し。
https://www.premioborciani.it/en/
んでもって、参加が認められた団体で北米やら、ノーブスQの弟子でこの3月からベルリンに留学とプロフィルに書かれた韓国拠点らしい非欧州圏の連中は、国にいるならそろそろ出国せにゃならんだろうに、どうなってることやらと、久しぶりに「参加団体」というところを眺めに行ったらぁ
https://www.premioborciani.it/en/admitted-quartets/
なんとまぁ、我らがシンプリーQが「参加辞退」になっておるではありませんかっ!うううむ、ヴィーンからアルプス越えイタリアに入るだけなんだから、公共交通機関使わずに車で1日かければ来られるのに、やっぱりダメかぁ。まあ、ヴィーンフィルの移動でもあれだけ「ワクチン優先接種なんてずるい」という業界内の騒動になったわけだから、世間的に無名な若い弦楽四重奏団なんてお呼びじゃない、なんでしょうかねぇ。なんせ、彼らの演奏会、この調子ですから…
https://www.simplyquartet.com/concerts

数日前に日本からお隣のロンバルディア州にお戻りになった現地に住所がある方からの情報提供に拠れば、レッジョ・エミリアは規制が最も低い地域になっていて、コンサートも行える状況だそうな。大阪からレッジョに掛け持ちする予定だったマーティンなどはどうなるのか判らないけど、要職にあってワクチンも優先的に打てるだろうオンドレ御大はともかく、ヤーナやら欧州在住の演奏家審査員の面々なら、無事にアルプスを越えられるのかしら。うううむ。委嘱新作を出している遙か極東の細川氏は…

なんであれ、顔ぶれからすればシンプリーQが圧巻の横綱相撲を展開しそうだった試合という意味では興が削がれてしまったけど(強行開催したトーキョー五輪もこんな感じなんでしょうねぇ、競技的には)、とにもかくにもやるならストリーミングはあるということなので、ギリギリまで事務局の動きを見守っていくしかないでありましょう。

なお、幸か不幸か北イタリアまで行けないお陰で、完全に日程が裏番組に重なっている溜池室内楽お庭には顔を出せるわけだけど、ノーブスQやシューマンQは言わずもがな、このところのイスラエル・パレスチナ情勢は、いかな国民総ワクチンのイスラエルとはいえどうなることやら。イェルサレムQ、こちらで最新のストリーミングを眺めるしかない、なんてことにはなって欲しくはないぞ。あ、有料なので、悪しからず。
https://www.carnegiehall.org/Calendar/2021/04/19/Jerusalem-Quartet-0700PM?utm_source=wordfly&utm_medium=email&utm_campaign=stix-voh-05-12-2021&utm_content=version_A&sourceCode=35456

風薫る皐月、このままでは一度もライヴで弦楽四重奏を聴けないという昨年と同じ状況で終わりそうな…

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

パンデミック下の「国際オペラ賞」発表 [音楽業界]

昨日朝から、欧州方面オペラ・カンパニーの広報さんから、盛んにプレス・リリースが送りつけられております。3月終わり頃からオフィスがなく、インターネットのストリーミングやらを含めオーディオへのアクセス環境がまるでないやくぺん先生、このパンデミックのご時世にライヴしかダメって、もうまるっきり商売にならない環境は暫く変化する見通しがなく(転居予定先がパンデミックが始まって以来最悪の状況になっており、当初の予定では連休明けは現地に張り付いていろいろ動く予定が、それどころではなくなってしまっております)、最もレトロなメディアたる紙の本を大川端で紐解くという大都会隠居爺状態になってしまっております。

かくて、この秋のシーズンからはやるぞ、って勢いになってる欧州各地や北米のオーケストラやオペラカンパニー、室内楽主催者がやたらと盛り上がったリリースを送りつけるイースター明けから初夏になってきたといえ、すっかりワクチン後進国となり、選手村周辺住民どころか選手だって来たくないのにオリパラなんて夢物語を語るお花畑御上のニッポン、何処の世界の話なんだろーなー、と遠い目で来たメールを開けもせずにゴミ箱に放り込む日々が続いてる。

とはいえ、昨日朝にマドリッドのオペラハウス広報さんからファンファーレ付きみたいな凄い勢いで来たメールは流石になんだろうと思ったら、なーるほど、こういうことでありました。こちら。
http://www.operaawards.org/news/winners-announced/
http://www.operaawards.org/archive/2020/

International Opera Awardsが2020-21の結果を月曜日に発表した、そこでテアトロ・レアルが「今年のオペラ・カンパニー」に選ばれた、ということです。午後になって、バーミンガム・オペラの広報さんからもメールが来たのは、《マクベス》のプロダクションに関連していくつもこの賞を獲った、ということでありました。
https://mailchi.mp/70d1de3c5dbe/birmingham-opera-sweeps-the-international-opera-awards-3297082?e=a07932341a

ノミネート舞台のリストなどを眺めるに、実質上、ニッポンのシーズン感覚からするとパンデミックが始まる前の年の話をしているようにも思えるのですが、どうも講評を眺めるとそういうわけでもないのかしら。よーわからんです。なんであれ、初台の西村新作が「世界初演」部門のノミネートに入ってるのだから、一応、英語圏に君臨し世界の情報を未だにコントロールする大英帝国はロンドン拠点の賞として極東も視野には入れてますよ、ということなんでしょーかねぇ。これなら、来年は藤倉が新作大賞採れるんじゃないのかしら。参考までに、この部門のノミネート作品を貼り付けますと、以下。北米もちゃんと視野に入れてるぞ、ってかね。
García-Tomás: Je suis narcissiste (Teatro Real)
Glanert: Oceane (Deutsche Oper Berlin)
Kats-Chernin: Whiteley (Opera Australia)
MacRae: Anthropocene (Scottish Opera)
Nishimura: Asters (New National Theatre Tokyo)
Reid: p r i s m (Beth Morrison Projects)
Schreier: Schade, dass sie eine Hure war (Deutsche Oper am Rhein)
Venables: Denis & Katya (Opera Philadelphia)

ま、些か他人事感は漂うものの、パンデミックの年に頑張ってこういう賞をいただけたので、マドリッドやらバーミンガムのスタッフは大喜びでありましょうぞ。おめでとうございます。頑張ってくださいな。来年は是非とも「ストリーミング作品大賞」という部門を作っていただきたいですね。

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

Sinfonia Buenos Aires日本初演へ [現代音楽]

初演が1953年の曲を「現代音楽」扱いするのもどーかと思うが、出版は数年前で日本初演というネタなので、お許しあれ。

コロナ禍、緊急事態が発令されているニッポン国トーキョーで、生誕100年を祝いピアソラの実質上唯一の管弦楽大曲の日本初演が無事に行われることになったようです。なんとなんと、当日プログラムがPDFで誰にでも読めるようになっております。有り難いことです。
https://www.tpo.or.jp/concert/pdf/TPO_teiki_202105_WEB.pdf

ピアソラの《シンフォニア・ブエノス・アイレス》という作品、いろいろと情報が錯綜しており、出版しているff社のホームページからプリントは出来ないけど眺めるだけならOKという太っ腹状態になっている総譜があるんだけど
https://www.fabermusic.com/music/sinfon%C3%ADa-buenos-aires/score
その冒頭に記されたデータとff社公式ページの別のところの情報が違っていたり、なにがなんだか訳が分からない状態ですが、この日本語文化圏のピアソラ専門家たる斎藤充正氏の当日プログラム解説で、経緯はすっきり整理されてます。マルケヴィッチなんてお馴染みの名前も登場しますので、是非、ご一読を。作品が世に出る経緯と、手元でわしら一般聴衆が接することが可能なデータやソースの位置づけをきっちり整理することに絞り、どういう曲なのかの中身は一切捨てる、という大英断をなさっている作文で、これはこれで正しいやり方だと思います。正直、曲は「聴けば判る」タイプですしね。皆さんお馴染みモントリオールのロバートに拠る英文曲解の方では曲の内容にも触れてますから、関心はあるけどスコア眺めてるのはメンドーという方は、そっちも眺めてくださいな。

敢えて整理すると、どうやら版はいくつかあり

1:1951年初演版。録音ありだが、未出版のようです。
2:1953年改訂版初演。ff社の総譜に書かれる初演データはこれ。
3:2006年のナクソス版での世界初録音。版の違いは不明ながら、ff社版総譜で要求されているバンドネオンは2台ではなく1台で録音されたとのこと。
4:YouTubeにある映像。作曲者本人によるバンドネオンは入っていない版での演奏のようです。こちら。

てなわけで、来る水曜日から都内で三日間にわたって演奏される版は、ff社の総譜をちゃんと使う演奏としては世界で二度目みたいですな。

今回の演奏でなによりも有り難いのは、「ブーランジェ先生が、貴方は才能はこっちではなくてタンゴにあると宣った」というみんなが知ってるピアソラの逸話の根拠となった譜面が、ガッツリ聴けるということ。前衛の時代にヒナステラ先生の二番煎じみたいな作品を書く若者がまたひとり増えた、ってことにならずにすんだのは人類にとって良かったことと素直に喜ぶべきか?ブーランジェ媼も捉えきれなかったとんでもない才能が潰されてしまったと嘆くべきか?

さあ、これは聴きに行かねばマズいでしょ。公共交通機関を利用せずに初台や溜池に来られる貴方は、すっかり二重マスクして集まれっ!あたしゃチャリチャリ行くぞ…って、木曜日は雨の予報かぁ、うううむ。

[追記]

昨晩、溜池でff社譜面版の日本初演を拝聴してまいりました。プリントアウトしないなら総譜がWebで簡単に視られるので、どうのこうの言いませんけど、やはりYouTube上のバンドネオンなし版とはそれなりに印象が違いますな。上の映像で22分くらいからの延々と続くコンマス独奏の後に、映像の版で木管のアンサンブルになってる部分がバンドネオン2台の独奏になってて、この楽器の聴かせどころになっているのが最大の違い。

正直、冒頭2ページ目くらいから始めるバンドネオンのパートが延々とユニゾンで、どうみても音量のために2台入れてるんだな、としか思えない状態はその先も同じ。まだまだオーケストレーションには不慣れな若きピアソラ青年、初のオーケストラ大曲に自分の楽器を持ち込んではみたものの、どうすればきっちり響かせられるか模索状態、お手上げだったというのは良く判ります。

最後がオスティナートで盛り上がっていくのは、1951年という時代を考えるといろいろと興味深いですね。ある方が終演後に「伊福部じゃんかぁ」と爆笑なさってましたけど、誠に仰る通りでありまして、逆に言えば伊福部なんて知らない文化圏でこの作品が大いなる人気曲になる可能性もあったわけだわね。

当時の前衛志向の対極にあった「繰り返し」というテーマを真っ正面から取り上げちゃったこういう作品に、ブーランジェ先生が「これは今のメイジャーではダメだろう」と思ったのも、大いに腑に落ちるところでありましたとさ。

それにしても東フィルさん、あそこまで弾かにゃならんのだから、当日プログラムにコンサートマスター依田氏の名前は出してあげていいんじゃないかい。

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

1世紀と10年余が経っても… [音楽業界]

毎日の日課のひとつとなっている「青空文庫」の新作更新を数日しておらず、昨晩、なにやら周囲がバタバタする中で久しぶりに行ったら、興味深い作品がアップされておりました。こちら。
https://www.aozora.gr.jp/cards/001341/files/59298_73052.html

永井荷風の作品(このフォーマットが「作品」なのか良く判らぬけど)の中でも決してメイジャーではないであろう、洋行から戻り半年くらいの秋の終わりから翌年初めまで、あれやこれや言いたいこと綴った日記であります。

帰朝直後の、定職も無くブラブラ、文字通りの高等遊民をしてた30代になったばかりの荷風坊ちゃまが住んでいたのは、誰もが知ってるサントリーホール裏やら、晩年を過ごした京成八幡駅北の田舎ではなく、湘南に引っ込んでいる親の実家の「一番町の屋敷」。イタリア文化会館近くだと思うが、このBlog記事に引用されている記述との整合性はどうなるのやら。
https://blog.goo.ne.jp/asaichibei/e/f24fa89a5940076d8e6a6157370fc4f9
思い立って新橋駅まで行ける、という辺り。ショパンのソナタの「葬送行進曲」楽章を公開で弾いたという青年會館というのも、神宮外苑の日本青年館が出来る前だから、恐らくは丸ノ内とかかしらね。なんにせよ、大川端のやくぺん先生縦長屋の視野に入る中に蟄居なさっていたのでありましょう。

この日記、21世紀は20年代のコロナ禍で鬱々と暮らすわしらが今読んでも、あれこれとイタいというか、頭抱えちゃう、まるで「激辛」とか「毒舌」とか言われる業界関係者のBlogかtwitterの書き込みを眺めてるんじゃないかい、と思うようなものでありまする。まんま引用すると、こんなん。

「劇場は石と材木さへあれば何時でも出來ます。然し日本の國民が一體に演劇、演劇に限らず凡ての藝術を民族の眞正まことの聲であると思ふやうな時代は、今日の教育政治の方針で進んで行つたら何百年たつても來くるべき望みはないだらうと思ふのです。日本人が今日新しい劇場を建てやうと云ふのは僕の考へぢや、丁度二十年前に帝國議會が出來たのも同樣で國民一般が内心から立派な民族的藝術を要求した結果からではなくて、社會一部の勢力者が國際上外國に對する淺薄な虚榮心無智な模倣から作つたものだ。つまり明治の文明全體が虚榮心の上に體裁よく建設されたものです。それだから、若し國民が個々に自覺して社會の根本思想を改革しない限りには、百の議會、百の劇場も、會堂も、學校も、其れ等は要するに新形輸入の西洋小間物に過ぎない。直ぐと色のさめる贋物いかもの同樣でせう。あなたの、大學の方にだつて隨分不平な學者があるでせう。」(1908年12月2日)

いやはや…

他にも、塔之澤に今もある福住楼に行って日本の美とやらに絶望したり、私立音楽学校を創った男がギャラは殆ど出せないが講師陣に名前を出させてくれとムシの良いお願いに来たのに怒りまくったり、いやはやいやはや、の連続でありまする。業界関係者は、是非ご一読あれ。

大川端のノマド場で、足下に「くれないのくれないの」と寄ってくるドバたちを相手にしながら、携帯画面でこのような文章に浸っていると、目の前に広がるトーキョーがみるみる時間の彼方に溶け出し、さあ今日は永代橋の東詰でPANの会、そう五月だもの、って思えてくる…わきゃないわい。

永井荷風という方のバイオグラフィーで今のわしらには最も想像に難いのは、後期ロマン派爛熟期の夢のような時代にマンハッタンでメト通いをして過ごし、マーラーがニューヨークに渡ってくるのと入れ違いのように欧州に向かい、今のわしらにとっても最も人気がある最初期の伝説のアーティストたちが現役バリバリだった欧州に触れる7年だかを20代に過ごしながら、葛飾野の地で独居し寂しく没するまでのその後の半世紀という長い時間に二度と「洋行」をしなかった、という事実であります。

羽田や成田から半日でフランクフルトやらニューヨークに届くのが当たり前だった21世紀初頭の日常が奪われ、たかがまだ1年を超えただけでもこんなにおかしくなりそうなのに、これが半世紀も続く中を生きるって…

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽