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昼間のコンサートでレーガーを聴く人々 [音楽業界]

線状降水帯というよーわからん言葉が普通に使われるようになったニッポン列島の夏、まるで南洋のような空の下、遙々横浜の元祖近郊住宅地区、JR根岸線で終点大船から一駅戻った本郷台駅前、横浜市栄区民文化センターリリスに行って参りました。こういうもんを聴くため。
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https://www.lilis.jp/event/?id=1643888230-719955
舞台の上からお喋り上手の水谷氏が笑いを取りながら紹介したところに拠れば、「コロナの最中に何か出来ないかという気持ちで、東京首都圏の公的スポンサーを持たないオーケストラの僕たちが集まって、この会場で映像収録をしたことから始まったグループ」だそうな。←あ、老人の耳コピなんで一語一句正確ではないので、毎度の「書いてあることはみんな嘘、信じるな」でお願いしますです。

ご覧のように怱々たるメンツの演奏会で、演目も極めて興味深い。終演後に演奏家ご本人らに「ふつーならせめて《浄夜》でしょーに」と訊ねたところ、水谷氏がレーガーのクラリネット五重奏に大いに感銘を受け、自分らと同世代の頃に書かれたこの曲を演奏してみたかった、とのこと。なるほどねぇ。流石にこのスコールの大気には余りにも暑苦しいジューシー過ぎる作品の後にこのままでお帰りになるわけには行きませでしょうから、と苦笑しつつ《主よ、人の望みの喜びよ》のコラールを六重奏編曲で披露して下さいました。昼間っから濃厚すぎるステーキの後に、お口直しのシャーベット、ってかな。

無論、こういうメンツですから聴く側のハードルもどんどん上がってしまうのは否めず、ブラームスなどは終楽章コーダ前など、もうすこし時間があればいろいろと細かく詰めて作れたろうにともったいなさを覚えるあれやこれやも無かったわけではないものの、これだけの人が集まってこんな演目ですから、成る程今日はこうだったのか、と充分満足。願わくば本番がもう一度くらいどこかで作れればねぇ…ま、欲しがりすぎはよろしくないですな。

このコンサート、中身は$20でこれなんてありがとうございます横浜市民の皆様、としか言いようがないものだったんだけど、もうひとつ興味深いのは、その聴衆でありました。

メディアが大雨洪水に注意と朝から叫びまくる午後の根岸線、大雨での運行停止が頻発する悪名高い路線でありまする。ましてや夏の連休明けの火曜日昼間の午後2時で、空模様も怪しく雨が落ち始めている。ことによると終演頃には大雨で電車が止まってるかもしれない。そんな午後に、なんとなんと「満員御礼」です。担当者さんも、「もっと早く売り切れると思ったんですけど…」とうぁっはっはぁ顔ですし。なるほど、勝って当然、の企画なんですな。ブラームスの有名な方の(だろうなぁ…)六重奏はともかく、ヘタすりゃ切符貰っても敬遠されそうなレーガーの作品、それでこの余裕っぷりって、なんなんねん。

満員の客席を埋めるのは、極少数の明らかに「演奏家の関係者お友達」としか思えぬ楽器背負った若い人たちを除けば、全てが熟年ばかり。
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この250席くらいの、ヨーロッパなら「アンフィシアター」と言われそうな急傾斜の高齢者向きならざる会場が、横浜郊外の善きご隠居で埋まる。世代的にはブラームスは往年の名画「恋人たち」で用いられた…という世代でもなかろうしなぁ、今や。
https://www.youtube.com/watch?v=CK48EiWCheU
https://eiga.com/movie/65554/

この前も、ある中堅世代演奏家さんと話をいていたら、「今は平日であろうが昼間の方が良いんです」と主催者側から言われて、そんなもんなんですかねぇ、と真顔で訊ねられたっけ。ううむ、判らん、気楽に「そうなんですよ」とも言えないけど、この状況を眺める限り、やっぱりそうなのかなぁ。

コロナ後の世界では、所謂「クラシック」のライヴ演奏会とは高齢者ファンを相手とする「ホンモノに遭えるアイドル」のライヴイベント、要は高齢者向けAKBなのであーる、という暴言を某専門誌で吐いても、誰も文句言わんしとりたてて賛同する声も挙がらない、なんだかよーわからんけどジワリジワリといろんな状況が変化しているのは感じる夏の夜なのであったとさ。

それにしても、このオーディトリアムを満席にする人々の何十人もが「三原じゅん子」って書いているんだよなぁ…何が不満なんだろー、うううううむ。

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