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トマじゃない《ハムレット》 [現代音楽]

ホントに久しぶりにチャリチャリ大川越えて、旧築地川を晴海通りが跨ぐ東詰の東劇に行って参りました。もうどれくらいやってるのやら、「Metライヴビューイング」ってやつです。
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オペラの舞台をライヴで全米各地の映画館で中継、がっつり$30くらい取るけど、特等席じゃないと絶対に観られないような映像と、おうちのオーディオ装置よりは余程立派な音響で聴かせて、まるでメトのプレミアに座っているように体験してくださいな、ってやつ。始まった直後からそれなりに大きな反響があり、北米の地方オペラ主催者さんに「お陰で最近はうちで来シーズンの演目のリクエストをすると、メトライヴでやった作品ばかりが挙がるようになり、舞台もあんな金かかったものと比べてちゃちだとか言われ、正直、営業妨害です」とマジで怒ってたなぁ。今世紀の初め頃のことだったと思うけど。

コロナ禍を経て、パソコンどころか携帯端末で通勤電車の中でもメトやらスカラやらパリのガルニエやらからの映像を鑑賞できるばかりか、どことも知らぬドイツの田舎の劇場の尖りまくった演出も当たり前にいくらでも視られちゃう今日この頃、じゃあわざわざ一昔前の映画館の空気漂う東劇まで来て
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今時のシネコンの豪華な椅子とはちょっと比べると可哀想な、でもメトの狭い席よりは100倍くらい立派なフカフカシートに座って、映画版オペラを眺めるという「オペラ鑑賞」が21世紀初頭の徒花に終わったかと言えば…どうもそうでもないようで、なんのかんの世界中で続いている。世界中、っても、御上の情報操作が日々巧みになっている中国本土とかはどうなってるかしらねぇ、最近は。

んで、正直言えばロマン派オペラにも、今や我が世の春のバロックオペラにもホントはそんなに関心が無いやくぺん先生ったら、わざわざ出かけるのはそれなりに理由はある。この映画オペラ、あのルパージュのこけおどしセットばかりが話題になった大失敗《リング》の最初に《ラインの黄金》なんぞ眺めに来て、ああああこれはやっぱりダメだ、この音は3時間なんてとてもじゃないが晒されていられない、と思って以来くらいのことかな(その後にメトのいつもの席でライヴで眺めても、やっぱりダメだったけどね、あの演出は)。かの、元ベルリンフィルのヴィオラ奏者のオーストラリア人(オーストリア、じゃありません)、ブレッド・台湾にコロナ持ち込んじゃった・ディーン
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2020-03-06
作曲するところの《ハムレット》なる演目だからでありまする。

いやぁ、なんとも勇気のある選択じゃの、と驚きを禁じ得ないわけでありますが、ともかくこのシェイクスピア翁の現代でも比較的抵抗なく上演が出来る、一筋縄ではいかない主人公のキャラクター含め「現代にリアリティがある舞台」を作るのがそれほど難しくない作品の何度目か知らぬオペラ化でありまする。

過去2世紀版以上に無限に繰り返されてきた沙翁作品歌劇化の試みの中で、文句なしの決定的な成功作と言えば神様ヴェルディの《オテロ》と《ファルスタッフ》、次点でそれなりの成功とされスタンダードとして生きてるのはヴェルディ先生の《マクベス》とかパーセルの《妖精の女王》とかブリテンの《夏の夜の夢》とかベルリオーズの《ベアトリーチェとベネディクト》…くらいかなぁ。その次のクラスとなると、もう殆ど趣味の世界となってきて、サリエリの《ファルスタッフ》という方もいようし、ニコライだって捨てたもんじゃない、ベルリーにだって一応シェイクスピアなんじゃないの、等々。個人的には、数年前にENOが新作で出した《冬物語》という難物そうなもんには興味があるんだが、あまり話題にはならなかったよーですなぁ。あ、ヴァーグナー好きの方からは《恋愛禁制》を忘れるな、と突っ込まれそーだなぁ。

んで、この現役バリバリのヴィオラ奏者さんでもある作曲家さんの《ハムレット》でありますがぁ、既にグライドボーンの世界初演が映像化されていてNHKも放送したことあるとのこと(知らんかった)。まあ素材が素材ですから教養ある英語圏の評論家が絶賛などする筈はなく、賛否両論でいろいろ言いたいことはあるけど、まあ、ええんじゃないの、という感じ。誰もトマのグランドオペラを引き合いに出す人はいないのは、当然と言えば当然なんでしょうなぁ。

というわけで、暑い夏の午後にボーッと座って大川端眺めてるんだったら、メトのお馴染みの我がファミリーサークル天井桟敷上手いちばんステージ遠くの席$20だか、あそこに座ってどーでもいーロマン派オペラ眺めて来てしまった、というくらいの気持ちでチャリチャリ出かけたわけであります。

で、感想とすれば、「これくらいだったら、ライヴビューイングの方がいつものステージなんも判らん席でこの作品眺めるより良かったかな」ってのが本音。

以上オシマイ。始まって少し、ガッツリ寝落ちしてしまったんで、作品全体についてどうこうなんて言えません、ゴメン。ただ、オペラということで言えばトマのオリジナル版のハムレットが死なずに生き残るという終わり方は、シェイクスピアのオリジナルよりも21世紀の今とすればええんでないの、と常々思うこともあるわけで、そっちでいってくれるかな、死屍累々たる現実を受け入れて王子は生きていくという結末の方が「悲劇」なんじゃないか(「アベシンゾーは殺さずに生かして、自分のやったことの悲惨な結果を目撃させねばいけなかった…」というのと同じ)とも思っていたので、ちょっと残念かな。

音楽的には、今の作曲家が大好きなカウンターテナーを絶対にどっかに投入するだろう、ヘタするとタイトルロールかとも思ったんだけど、あの役にドッカンと突っ込んでくるかぁ、とか、タイトルロールの仕事ヘビーすぎぃ、とか、結局戦後前衛の開拓したあれやこれやよりも《ヴォツェック》のドロドロ音が勝ちなのかなぁ、とか…ま、あれこれ考えさせていただきました。真夏の午後に暑い暑いと大川端でボーッとしてるよりは有意義な時間が過ごせましたです。

ただ、これをどっかで上演するから$1000自腹切って太平洋やシベリア越えて観に行くかね、と言われると…いかないなぁ。うん、ゴメン。判った、こういう曲なのか、トマには出来なかったことが21世紀にはいろいろ出来るようになってますねぇ、ってくらいかな。

この半世紀のシェイクスピア原作オペラ化としては、正直、《テンペスト》よりも上手くいってるんじゃないかしら。ことによると《リア》よりも判りやすいかも。ちゃんと演じられるテノールがいれば、でしょうが。やたらと饒舌なハムレット青年、オペラというやり方を選ぶならば、これはこれでありとは納得させられた次第でありました。WOWOWでやったら…うーん、やっぱ視ないだろうけど。

この音楽と台本で、「悩める非行動派王子ハムレット」はやれるのかしらね。当たり前のことだけど、オペラ作曲ってホントに「解釈」であり、「演出」なんだよなぁ。

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