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ライネッケ生誕200年 [弦楽四重奏]

記念年というのは便利と言えば便利、普段、あまり関心がない事柄やら人に注目するきっかけになるんだから、大いに利用しようではないかぁ。

ってなわけで、いきなりですが、カール・ライネッケでありまする。なんといってもフルート業界の方には極めて重要な名前、それからハープ奏者さんにしてみればコンクール本選までいくつもりなら絶対に必須な作曲家さんですわな。あとは、19世紀ロマン派の作曲家評伝を眺めているとちょこちこ作曲の先生とかライプツィヒ・ゲヴァントハウスの偉い人として盛んに名前が出てきたり。

そのライネッケさん、生誕200年でありまする。で、記念演奏会です。こちら。
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当無責任電子壁新聞の立ち読みに来ているような酔狂な方ならよくご存じ、21世紀の「古楽器」を越えた(当たり前になった)時代のクァルテットでありまする。
https://quartettooceano.wixsite.com/main

この団体が積極的に取り組んでいる「古典派からロマン派の、みんな名前はなんとなく知ってるけどあまりちゃんと聴いたことがない」ってような作曲家さんの作品を、その歴史的な意義を考えるだけではなく、楽譜をちゃんと調べて作品の面白さとして音にしてくれるんだから(チェロの懸田貴嗣氏に拠れば、やはり簡単に演奏出来る形のきちんとした校訂譜が出まわっていないのがこの辺りの作品が演奏され難いひとつの問題なのであろう、とのことでありまする)、こんなワクワクする娯楽はないでしょーに。ライネッケというメンデルスゾーンやらブラームスやらの裏にチラチラ見える、普通に考えれば「クラシック音楽」としてこんなに聴衆としてのアクセスがし易い作品群もない楽譜たちの真価を聴かせてくれようというのだから、これはもう聴かん理由はないわい。

それにしても、ライネッケが没したのって、マーラーの1年前なんだなぁ。ボッケリーニとかフンメルとか、はたまたブルッフとかサン=サーンスとかライネッケとかって、なんかいつ頃を生きてたか判らなくなっちゃうんだわなぁ。もっと大洋四重奏団さんを聴いて、しっかり勉強せんと。それに、老後にちょっとづつディスクで聴いたりする楽しい娯楽として楽しませて貰うためにも、皆さんが演奏したいと思ってくれないと困る。さあ、まずはみんなで生誕200年のライネッケを聴こー!

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人事異動:上海Q故郷に還る [弦楽四重奏]

20世紀の室内楽演奏史に於いて、業界用語(なのか?)で「Driven into Paradise」などと呼ばれる第2次大戦での中央ヨーロッパから世界各地への人材移動があり、ぶっちゃけ今に至る日本の室内楽も(様々異論はあるでしょうが)その流れの遙かな影響を受けて成り立ってるわけでおりまする。

そのような意味では、2020年春節頃に始まり、実質2022年いっぱいくらいまで続いた「コロナ禍」は、実質的に人類現文明根絶戦争になることが流石にプーチンやトランプでも判っているからやりたくてもやれない「大国間の全面戦争」に代わる、状況の巨大なリセットになったことは否めないようでありまする。

やくぺん先生が香港、シンガポール、キューシュー島とちょっとづつ規模を拡大しながらもローカルにブルグルしていた7週間の間にも、コロナ後の世界の室内楽業界ではいろんなことが起きていた。んで、遅ればせながら、キューシュー島西の玄関口長崎から船に乗って東シナ海渡ること一晩で辿り着く大陸は上海のお話。

先々週だかに個人のFacebookでステートメントが出されていた「上海Qのチェロが交代」というニュース、今や世界の英語圏メディアの中心に聳えてしまったViolin Channelが以下のような記事を出しましたです。
https://theviolinchannel.com/vc-artist-sihao-he-to-join-the-shanghai-quartet/

上海Qは、コロナ禍前に天津ジュリアード音楽院のファカリティとなり、更にはニューヨークフィルとの繋がりを深めていた上海響の客演首席奏者にもなっており、ホンガンとウィーガン兄弟の故郷上海に盛んに戻っていた。北米東海岸と中国東海岸を往来するような生活になっていたわけです。で、コロナ禍で、実質的に中国大陸実質まる2年足止め状態になり、いろんな状況で第2ヴァイオリンのイーウェン・ジャンはコロナ禍初期に離脱、北米に留まることになり、北京国際音楽祭などでお祝い演奏会があった昨年の40周年は中国人の若い新人くんになっておりました。ハワイ生まれで、今世紀前くらいから上海Qのメンバーとして活動してきたチェロのニコラスは、個人的には話をしてないので詳細な状況はよーわからんけど、基本的に上海やら天津に滞在していた。昨年の大阪国際室内楽コンクールの審査員で来日した第1ヴァイオリンのイーウェンは、「コロナの間、ずっと中国に居たよ」と申してましたわ。公式ページのコロナ禍時代の演奏会リストはこちらをご覧あれ。
https://www.shanghaiquartet.com/concerts

まあ、これだけ中国大陸生活にシフとしてくると、いかな直ぐ隣のハワイ出身とはいえ、生活拠点が北米東海岸のニコラスにはシンドイのでしょうねぇ。今シーズンの終わりで国に帰る決断をした、ということですな。まあ、これはしょーがないでしょーね。

ちなみに上海Qに新しく加わるチェロくんの写真を眺めたら、なああああんとぉ、なんとなんと、第3回八王子カサド・コンクールの優勝のホー・シーハオくんじゃないかぁ!
https://sihaohe.com/about
http://www.cassado-cello.jp/2013/results/
って、つまり、今や上海Qの後続としてヴィーン拠点にライジング・スターやってる我らがシンプリーQが、北京で唯一やられたクァルテット・コンクールの特別賞受賞者。ま、ある意味、来るべき人が来た、という感じですな。

思えば、文化大革命が終わって西洋音楽が戻った上海にスターンが乗り込み、天才少年兄弟としてリー兄弟を発見。やがて2人が上海で仲間を集め中国大陸で初めて本気でクァルテットを目指す団体となり、ポーツマス国際弦楽四重奏コンクール(現ウィグモアホール・コンクール)でメニューイン翁に激賛され西側でのキャリアを本格的に始め、あのカルミナQスキャンダルで伝説となった第1回ボルチアーニ・コンクールで実質カルミナに次ぐ2位となり、あのクァルテット・イタリアーノのおばちゃんの楽器は当時第2ヴァイオリンだったホンガンが今も持っている筈。北京中央音楽院にいたイーウェンのお母さんも、これまた伝説のオザワ氏のブラームスに乗っていた世代。

そうして「世界」に出ていった上海Qが、コロナという激動の時代を経て、国に戻る。彼らが後続者を育成していける施設が出来、市場規模や質は判らんけど、室内楽なんて文献に関心があり聴こうという聴衆もそれなりに出来てきた、ということなのでしょう。

ひとつの時代が終わった、というか、ひとつ時代が動いた、という感が否めぬ爺なのであった。

ニコラスの引退演奏会、福岡板付空港から浦東なんて東京より遙かに近いほんの1時間のフライトなんだわなぁ。うううむ、どうするべぇかなぁ。

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連休前の秋吉台コンクール [弦楽四重奏]

本日は日本フィル九州ツアー同行も移動日でお休み。温泉県盆地で洗濯やって連絡作業や日程調整など自分の秘書仕事して、ホントは今日中にやっつけてしまいたかった商売原稿にはやっと昼過ぎに着手。日が暮れた現時点でまだ半分くらいしか出来てないけど、明日から週末までの南九州ツアーの移動中にやれるところまでの目安は立ったので、まあなんとかなるじゃろ。なんせ九州新幹線、車内でネット繋がるからのぉ…アッと言う間じゃけどさ。

さても、年明けから春節までのアジア滞在、今の九州ぐるり周遊なんてバタバタ動いている間に老人に残された貴重な時間がアッという間に経っていき、そろそろ連休明けから室内楽お庭くらいまでの日程はある程度は決めんといけん状態にっておるわい。そんな中で、どうしようか頭を悩ませるのが、これでありまする。
https://aiav.jp/22075/

前回2019年に開催された弦楽四重奏部門では、QインテグラとほのQが優勝を分けるという今となって振り返れば荒井審査員長以下、なんとも先見の明がある結果を出していたこの国内大会でありまする。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2019-04-28
「外国から来ちゃダメ」とは言ってないけど、メイジャー国際大会のような外国からの参加者を前提にしいろいろな準備がされている大会ではない所謂ナショナル・コンクールでありながら、ニッポンローカルなターゲットとして唯一きっちり機能しているので、いかな最前線は退いたとはいえ、温泉県盆地の隣の隣の県での開催、今回も当然関心はあるのだけど…

なんせ日程が翌日からレオンコロQツアーが始まる連休直前、既にそっちに向けていろいろと移動の準備をしてしまっている。それよりもなによりも、アジア各地で刺激を受けた愛するお嫁ちゃまからも尻を叩かれ「引退宣言」は撤回したものの、だからといってこの先の命が延びる保証が出来たわけじゃありゃせんわい。今、インテグラやほのよりも若い団体を新しく見ていっても、彼らがやっと「国際舞台」やら「弦楽四重奏としての本格的な活動」の入口に辿り着く頃までも見ていけないことは明らか。それだったら、キッチリ眺めていくのはレオンコロの世代までとスッパリ諦め、結果は審査委員さんからちょちょっと話を聞くくらいに止めて老害振り撒かぬようが潔よかろうに…と思う反面、温泉県から距離にして200㎞くらいのところでやってるのに知らんぷりするのもなぁ。うううむ…

時期も場所も見物に行くにはなかなか難しいでしょうが、このジャンルにご関心のある方、是非、連休前の秋吉台へどうぞ。審査委員は信用出来る人ばかりですから、セミナー含め、興味深いと思いますよ。

なんのかんの、1日くらい顔を出してしまいそうじゃのぉ…

[追記]

結経、某専門誌の依頼を受けて、22,23日のコンクール部分だけを見物に行くことにしました。25日は大分発3時45分成田行きというフィックス航空券があるので、朝っぱらに秋吉台を出て延々と温泉県に戻らにゃ並んです。典型的な安物買いの…でありまするな。ほんと、爺になってもアホじゃ…

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人事異動:エベーネQ [弦楽四重奏]

日本時間の昨日午後7時過ぎという不思議な時間に、ジャパンアーツさんからの速報メールという形で公式リリースがありました。以下、昨晩中にジャパンアーツの公式ニュースページにも同内容がアップされているようですので、そっちを貼り付けておきます。
https://www.japanarts.co.jp/news/p8361/
なお、日本でのマネージャーのメロス・アーツさんからは関係者向け告知は来ていませんけど、同社ホームページは昨晩中に新しくなってます。
https://www.melosarts.jp/melos-arts/foreignartist/QuatuorEbene
https://www.melosarts.jp/news/20240131

無論、彼らの公式ページも新たな写真になってますし
https://www.quatuorebene.com/
いちばん対応が遅れていた感じがあるジメナウアーのページも深夜過ぎには新しくなりました。それにしても、若社長になって、随分空気が変わりましたねぇ、この「世界の弦楽四重奏界のラスボス」会社も。指揮者や歌手までやってるじゃん、最近は。
https://www.impresariat-simmenauer.de/
で、このジメナウアー事務所が出している2ページのPDF公式リリースが最新のエベーネQバイオということなのでしょうから、英語版をまんま貼り付けておきます。バイオというのはこういうものだ、というお手本みたいなものですな。最近の英語圏のチャラチャラした「はーい、みんな元気」みたいなもんとは違う、王道のプロフィル。
https://www.impresariat-simmenauer.de/wp-content/uploads/2018/07/2023-2024_QE_BIO_EN_New.pdf

ちなみに、演奏会告知はほぼ日本以外の公式レップのジメナウアーがいちばん判りやすい。こんな感じで、新生エベーネ、ラジオ・フランスの制約があれこれあるパリ以外では合衆国ツアー含め、滅茶苦茶忙しいなぁ。
https://www.impresariat-simmenauer.de/kuenstler/quatuor-ebene/

今回の人事異動でいちばん心配なのは、やはりコーチングの部分でしょう。ミュンヘンの音楽院のエベーネ教室って、マドリードのピヒラー教室みたいな「学校の中にある私塾」みたいなものなのか、それとも大学組織の中のファカリティとしてのポジションなのか、当人らに訊いてみないと良く判らんからいーかげんなことは言えませんが、なんせ岡本氏よりも歳がいった韓国の弾けるおねーさんなんぞがジャブジャブ集まってるわけですから、そこでいきなり「教える」ってのは現実的ではないでしょう。ここは学校と交渉して、レッスン期間中はチェロは別行動、ってことになるのかしらね。ラファエルの個人発信を見ていても、彼が昨年秋から盛り上がっている新任地ジュネーヴから教えに来ている、って感じはないですし。

現実問題として、今、ツアーだけで生活が成り立つ「常設」弦楽四重奏は世界に存在していません。「常設弦楽四重奏」は、敢えて言えば、愛好家の皆様に夢を与えるための幻想です。どこもいかに安定した教職ポジションが得られるかが存続のターニングポイント。中にはフェスティバルのディレクター職なんてのを上手に獲ってくる連中もいるが、それはまた別の才能ですからねぇ。メンバー交代と教職の問題は、現実的にはいちばん大きな課題なんじゃないかしら、あれこれの事例を眺める限り。

ま、そんなのいずれご本人らに尋ねればいいことで、とにもかくにも、以上のような人事に決定しました、ということ。日本は来年冬の終わりにベルチャとのオクテット、岡本氏情報が既に業界内ではあれこれと流れていた時点で某ホールのディレクターさんから「うちは買ったよ」という話は聞いてるけど、この新しい状況を受けてザ・シンフォニーホール級の大規模会場が手を上げてくれると良いんですけど。現役バリバリの横綱揃い踏みのベルチャ&エベーネで400席やら700席では、流石にこの業界、寂しすぎる。なんせお隣半島では、来月頭のノヴスQなんて、地味地味なオールイギリス作品プロでソウル・アーツセンター大ホールなんだからなぁ。

音楽の中身に関してですけど、やくぺん先生ったら、去る11月のヴィーン・コンツェルトハウスでの「エベネ&ベルチャ・シリーズ」で披露したシューベルトの大ト長調は、客席に鎮座していたピヒラー御大が第3楽章トリオで頭を抱えて感極まっているのか、はたまたその真逆なのか、まるで判らぬ反応だったのを遠くから眺め、おおおおやるじゃないか、と大喝采のホールで驚嘆しておりました。
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そんなことよりもなによりも、現役でも数少ないホンマモンの「天才」タイプのピエールが、久しぶりに自在に振る舞い、自分のやりたいことがやれている感が漂っていて、あああ誰にとっても大変だろうけど(誰になっても大変だろうけど、が正しいかな)もしかしたら岡本くんでいけるかな、と思っていたもので…良かった良かった、なんでしょうね。

弦楽四重奏ジャンルに関してはハーゲン&エマーソンで時間が静止しているニッポンの音楽業界、岡本ショックでやっと世界の常識に追いつけるかな。ベルチャの第2ヴァイオリンも韓国人女性になったわけだし、数日前に発表されたジメナウアーおばちゃんが審査委員長を務める来るボルチアーニ大会の参加者リストはなんと11団体中4団体が韓国という衝撃的な状況だし
https://www.premioborciani.it/quartetti-ammessi/
いよいよ室内楽もアジアの時代…だといいんだけどねぇ。

なお、このニュースに関しましては、諸処の事情から当無責任私設電子壁新聞としましても情報管理が成されておりました。関係者の皆様にはいろいろご迷惑かけたことを、この時点であらためてお詫びいたします。

[追記]

何の因果か知らんけど、ルクセンブルグ・フィルハーモニーさんから「こんなんあるぞ」という映像クリップが来たので面白がって貼り付けておきます…と思ったら、チェロはどっかでみたことあるような若い別の男子でありました。1月始め頃の収録。こんな断片映像でも、ピエールの切れっぷりは判りますね。やっぱりこの曲は「ベートーヴェンの弦楽四重奏全曲演奏を何度も繰り返している団体が、そのオマケみたいに地元オケに呼ばれて披露する」って曲だなぁ、と思わされますわ。
https://fb.watch/pYherxagKw/

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16年バンフ組のリユニオン~シンガポール室内楽フェスティバル初日 [弦楽四重奏]

ディレクター氏に拠れば実質上20年ぶり、敢えて言えば第3回目開催となる「シンガポール室内楽音楽祭2024」の公開イベントが、昨晩のヨン・シュ・トウ音楽院ホールでのジョナサン・オン氏がふたつの若い弦楽四重奏団を指導するワークショップで始まりましたです。
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https://www.sgchamberfest.org/academy-series/quartet-demonstration-jon-ong

当電子壁新聞を立ち読みの酔狂な方ならご存じかも知れませんが、ヴェローナQ第1ヴァイオリンを務めるジョナサン・オン氏
http://www.veronaquartet.com/
通称「我らがオンちゃん」はシンガポール出身。前々回のアルカディアQが勝った大阪国際室内楽コンクール&フェスタの弦楽四重奏部門で旧名称ヴァスムスQとして参加し第3位となり、その後のロンドン・ウィグモアホール・コンクールでは第2位
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2015-03-29
そのまた後のメルボルンでは第3位
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2015-07-18
ってな調子でじっくりと成長を重ね、翌年のバンフを最後にコンクール時代を終えて「北米のレジデンシィを求めて彷徨う若人」になった。ちなみに彼らが最後にコンクール参加したバンフ大会には、日本ではエク以来の参加を許されたQアルパもいたわけでしてぇ、そー、正にこのアルパの第1ヴァイオリンとチェロが核となって葵トリオとなり、「弦楽四重奏を本気でやってて弦楽器ではないと不可能なレベルの室内アンサンブル」をウリにミュンヘンARDコンクールのピアノ三重奏部門で優勝を果たしたわけですから、なんのことはない、このフェスティバルのメインゲストって、みんなバンフ2016年組とも言えるわけじゃな。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2016-09-03
ちなみに、今となったからハッキリ言うけど「ロルストンQを勝たせるための大会」だったとしか思えぬこの年のバンフ、全く一緒の時期にミュンヘンARDの弦楽四重奏部門をやっており、北米大会VS欧州大会という様相となってしまい、北米にはアルパ、欧州にはアマービレが参加して…という興味深い年だったわけですな。

で、あれから8年、ヴェローナQにとっての最大の転機は2019-20年のシーズンからオハイオ州のオバーリン音楽院のアーティスト・イン・レジデンスのポジションを得たこと。正にコロナ禍が勃発する直前に大学レジデンシィという安定した場所を獲得出来ていたために、コロナ禍でも生活と練習が出来、問題なく活動が継続出来た。オンちゃん自身、この状況はもの凄く幸運だった、と申しております。コロナ禍で北米でのキャリアのスタートが奪われてしまい、現在の中途半端な状況に陥ってしまったアマービレを思うに、正に大学レジデンシィ制度こそが持続可能性が極めて低い「常設弦楽四重奏団」が21世紀に存続可能なほぼ唯一のあり方なんだわなぁ、と遙か地球の反対側を眺めてしまうシンガポールの空なのであったとさ。

ついでに言えば、オンちゃんたちや葵トリオの弦楽器ふたりが参加した些か特殊な回だったバンフの前の回に優勝しているドーヴァーQは、なんだか知らんけど今や英語圏では「若手のトップ」として不思議な程に評価が高く、ヴェローナQや過激派野党系アタッカQなんぞらと共に20年代の北米拠点最若年世代となりつつあるわけじゃが…まあ、もうここから先がどうなるかは、この業界最前線を退いた爺とすれば遠くから微笑ましく眺めているしかないわのぉ、歳は取りたくないもんじゃ…

おっと、爺の昔話になってしもーたわい。こう考えると、やくぺん先生第一線現役時代に眺めて来たいろんな若者達が、いよいよ本格的に中心になって業界が動き始めているわけで、コロナ禍で一度は隠居を宣言した爺にも爺なりに、残された余生に前を向いて現役時代のパワー半分くらいで眺めていかにゃならんもんもまだあるようじゃて。となれば、無節操無分別無謀な覚悟も勇ましく、もっと若い人たちの話をしよーではないかっ!

なんせ昨晩、音楽院学生、受講者、元SSOやらのご隠居奏者、フェスティバル参加演奏家、そしてこの島にも数少ないもののいらっしゃるらしい純粋な室内楽好き等々、60名ほどのギャラリーが一緒に舞台に上がって
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マイクもない距離で眺める中に登場したふたつの団体ってば、ひとつはヨン・シュ・トウ音楽院の学生ら、もうひとつはひとつくらい学年が下くらいのシンガポール芸術学校の高校生(だと思いますが…アジア系は歳が判らず困る!)。前者は世界から奨学金全額給付のエリート国立大学に集まった楽器はよく弾ける若い子達とはいえ、モーツァルト《不協和音》第1楽章という楽譜を前に弦楽四重奏をやったのはたった1週間前から、後者も同じく若い頃のミラノセットからハ長調の第1楽章を所見して2週間だそうであります。

どうもこれには些か意地悪なディレクター氏の秘策があったらしく、「楽器をちゃんと弾ける子達が初めてアンサンブルをやってみて、さあああ大変となったところに、おもむろに先輩のオンちゃんが颯爽と登場し…」って企画だったようです。芸高の子達は、どうもやくぺん先生の前に同じ書き込みがされたタブレットを抱えた女性が座って演奏の様子を食い入るように眺めていたので、学校の先生に指導されてはいたみたい。ヨン・シュ・トウ音楽院の連中はファカリティのタンQ(なのかな、まだ?)にも習わず、全くの手探りだったみたいです。

20年ぶりの室内楽音楽祭の最初に置かれたイベントは、そんな「弾けるけど、アンサンブルとしてはなーんにもない」という状況から「アンサンブル」をどうしていくかを示そうとするものでありました。

で、我らが講師オンちゃんのしたことを一言で纏めてしまえば、「アンサンブルの基礎とは何か?」を示すことだったのであります。

偉い先生の室内楽マスターコースで(恐らくは偉くない先生でもそうなでしょうけど)、最初に言われることといえば、「お互いをよく聴き合いなさい」「お互いのコミュニケーションを取り合って」ってな類いの言葉であることは皆様もよーくご存じでありましょう。で、オンちゃんは、「でも、実際のところ、聴き合うってどういうことなの、コミュニケーションってどうやって取るの?」ってな、基本的過ぎて上級マスタークラスでは誰も言わないことを、具体的にどうすれば良いかを暗示(明示?)してくれた。

ヨン・シュ・トウ音楽院の学生達には「ジェスチャーで示すとはどういうことか」を具体的に見せていく。舞台上にいる人全員に向かって、隣の人と同じジェスチャーで動いてみてくれ、なぁんて巻き込みをやったり。ステージの上では、動きに全ての意味がある、という当たり前過ぎることをあらためてハッキリと教えてくれる。
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高校生たちにはもっと過激で、アイコンタクトとはどういうものかを示す為に4人をウンと遠くに座らせて弾かせたり、更には楽器をおろさせ全てのパートを声を出して歌って、どのようにアンサンブルのやりとりがされているかを体験させる。実際に合唱部の練習かいなぁ、って命令にちゃんと従って、最初はおどおどながらガッツリ歌ってたお嬢さん方、立派じゃわい!

恐らくは、聴衆として座っていた殆ど全ての人は、何らかの形で「アンサンブル」というものに関わっていた経験があったんだろう。そんな人達に向けても、「室内楽フェスティバル」の一番最初に「アンサンブルの基礎とは何か」を思い出させることとなって、会場はマスタークラス見物とは思えぬ盛りあがりを見せたのでありました。

若い世代が講師やメインゲストとなって、もっと若い世代に室内楽を見せていく若い室内楽フェスティバル、始まった。さて、明日以降は…

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パリの若手弦楽四重奏オーディション [弦楽四重奏]

香港の室内楽音楽祭、先週来の公開リハーサルや子ども向け演奏会に続き始まったメインコンサートも順調にふたつ終わり、あとは今日と明日を残すのみ。連日、演奏会そのものの内容がデッカくてヘビーで、終わると演奏家も聴衆もヘトヘトだけど、この大陸の端っこに浮かぶ南洋の島とすれば一年で最も過ごしやすい時期とあって老爺ふーふにとってもそれほど肉体的な負担は厳しいわけではなく、ま、なんとか過ごしておりまする。演奏会本編についてはいろいろ言いたいこともあるが、ニュースとして急いでアップしておかにゃならんことも広大なユーラシア大陸跨いで一万㎞の反対の隅っこで起きているので、情報として記しておきましょうかね。

現在、パリはシテ・ド・ラ・ムジークで開催されるクァルテット・ビエンナーレ、今回でなんともう11回だそうな。
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https://philharmoniedeparis.fr/en/calendar?startDate=2024-01-12&weekend_i=835
メインゲストに今シーズン結成半世紀を迎えるクロノスQを迎えた本公演とか、彼らがカーネギー財団委嘱で行った「短い弦楽四重奏の新作楽譜を全部無料でオンライン上に公開し、若い団体にドンドン新作の弦楽四重奏を弾いて貰おうじゃないか」というオソロシー、でも猛烈に意味のあるプロジェクト《クロノスの50曲》を若い連中集めて全部弾かせちゃうとか
https://philharmoniedeparis.fr/en/activity/musique-de-chambre/26399-kronos-quartet-marathon-50-future-1?itemId=129607
https://philharmoniedeparis.fr/en/activity/musique-de-chambre/26456-kronos-quartet-marathon-50-future-2?itemId=129878
先週から賑々しく開催されているようでありまする。日曜日の隣のフィルハーモニー・ド・パリを会場に借りるQモディリアーニとレオンコロQのオクテットなどのファイナル・コンサートは、会場がデカいだけに流石にまだ切符はあるようですけど
https://philharmoniedeparis.fr/en/activity/musique-de-chambre/26145-concert-de-cloture?itemId=129194
いつも席の取り合いになる売店奥のアンフィシアターでのレオンコロQやら
https://philharmoniedeparis.fr/en/activity/musique-de-chambre/26330-quatuor-leonkoro?itemId=129449
ミニマル作品ばかりやるQタナなんぞはガッツリ売り切れになってるようですし、ハーゲンQやらベルチャQやらはシテ・ド・ラ・ムジークの音楽ホールがそこそこちゃんと売れているようで、周辺には毎度ながらの聴衆が会場を移動し狭く酷い導線を右往左往するざわざわワラワラ感じが漂っているんでしょうねぇ。

さても、そんな中で、弦楽四重奏業界的に最も重要なイベントが、こちらじゃ。
https://philharmoniedeparis.fr/en/activity/master-classe/26331-audition-internationale-de-quatuors-cordes?itemId=129450
来る土曜日、狭いアンフィシアターの席を埋める欧州各地の音楽祭ディレクターやらホール主催者やらやら、はたまた勝手に来ている各地の主催者や音楽事務所関係者、演奏家やコアな室内楽ファンらが見守る前で、午前10時から午後5時過ぎまで若い団体が次々に登場し、サンプル紹介みたいな短い演奏をし、質疑応答をする、というもの。

ぶっちゃけ、所謂「コンクール」や「オーディション」のような「その結果、直接何かの賞が与えられたり出演契約が出来たりする」ものではないけれど、終わった後のパーティというか、ざわざわしたお疲れ会では欧州の弦楽四重奏の「価値を決める」力を持った人達と演奏家が直接話をする可能性があるわけで、自分らの売り込み、あるいは自分らの音楽祭やホールへの若手枠演奏会への招聘、ことによると音楽事務所の室内楽担当者から声がかかる可能性がある。〇〇コンクール優勝、なんてのよりもよっぽど意味のあるチャンスなんですわ。

なお、リストには上がってませんけど(ディレクターが交代し、うまく引き継ぎがされてなかったみたいで)、大阪の日本室内楽振興財団プロデューサー氏が招聘されて既に現地入りしてますから、一応、日本も蚊帳の外ではないのは良かった。台湾の奴の名前がなくなっているのが、単なる引き継ぎミスなら良いんですけどねぇ。

まあ、前のディレクター時代に比べると「欧州内イベント」という感は強くなったのは否めないし、カーギーホールやバンフセンターなどから人が来ていないのも気になる。なんせ、大西洋跨いだ反対側でのチェンバーミュージック・アメリカの年次総会がガッツリとバッテイングしてるんで
https://conference.chambermusicamerica.org/
来られないのか、もうコロナ後の世界では室内楽を「持続可能性」のあるものとしていくためにはマーケットを無闇に広げる必要はない、という割り切った考え方なのか。

《クロノスの50曲》プロジェクトという形で、バービカンQとかケイオスQとか、Qインテグラと同じ土俵くらいに並んでた奴らが顔を出しているし、未だコロナ禍の中で強行された前回のビエンナーレではこのオーディションに出ていたレオンコロQが2年後の今回はしっかりと本公演で演奏しているし、いくら最前線は退いた爺とはいえ、何が起きてるかくらいは知っておかないとねぇ。

ちなみに本公演に今や世界一の弦楽四重奏と誰もが認めるQエベーネの名前がないのは、エベーネがフランス国立放送のレジデンシィだかをやっているため、パリではフランス放送主催の演奏会の他には出演出来ないからだそーな。要は「大人の事情」ってやつでんな。

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BBCミュージックマガジンが選ぶ歴代トップ10弦楽四重奏団は… [弦楽四重奏]

あるフランスというかスイスというかの弦楽四重奏関係者さんが、こんな興味深いというか、抱腹絶倒というか、言語道断というか、まあなんともコメントのし辛い記事があるよと教えて下さいました。こちら。
https://www.classical-music.com/features/artists/best-string-quartet-ensembles-ever?fbclid=IwAR1oojFo6bb4nwiWu_NZW-zlPOWVOBQt1oURrUX__Qi98QygBuB58F_SBrc

このライターのシャーロット・スミスという方がどういう経歴で、どういう辺りをメインにしているのか知らないし、少なくともやくぺん先生はあちこちの弦楽四重奏コンクールの現場で出会っていた良く知った顔、という方ではありません。どうやらBBC4の「プレゼンター」だそうで、世代的には還暦くらいだから、ウィグモアホールやらロイヤル・アカデミーのホールで姿くらい見かけたことはあってもおかしくない人じゃのぉ。どうやら室内楽の専門記者というのではないみたい。

ま、ということは、逆に「イギリスの普通の音楽好きが選ぶ歴代ベストテン」ってことで、そういう風に思えば極めて興味深いですな。意外と言っては失礼なのは、パヴェル・ハースQが入っていること。いや、連中が悪いというのではなく、いっぱいいるこの世代の中からエベーネQが選ばれるのは当然としても、へええパヴェル・ハースかああああ…って嬉しいんだかなんだか。

若手トップがドーヴァーQってのも、恐らくニッポンでは「ドーヴァーって誰じゃ?」でしょうねぇ。

もうひとつ、もっと意外なのは、リンゼイQが入ってないことですな。あの「うのこーほー氏とイギリス人以外は誰も褒めない」なんて酷いこと言われてた団体、英国人の選ぶ歴代ベストテンなら当然入ってくると思ったんだけど。

ま、新春とは言えまだ長い冬の晩、このリスト片手にああだこぅだ盛り上がって下さいませ。

[追記]

この記事、いつ出たんだろうなぁ、と思いつつも、まあ「永遠のベストテン」だから問題ないじゃろ、とアップしたところ、ある方から「2年くらい前の記事ですね」というご指摘をいただきました。へえ、今だったらドーヴァーじゃなくてレオンコロじゃないかな、若手一押しは。

ちなみに、この記事を教えてくれた奴、実は自分もこのベストテンに入ってるんだけど、今は指揮者が本業。来るアムステルダムのビエンナーレで久しぶりに(なのか?)チェロ弾くようで、嬉しくなって引っ張り出してきたのかしら。やっぱり、弦楽四重奏やりたいんだろーなー…

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常設弦楽四重奏団のメンバー交代というもの [弦楽四重奏]

「弦楽四重奏団」=「弦楽始終相談」であり、その相談の中身の殆ど(もっとかな)は、音楽的な中身よりも「メンバー交代」についてなのであーる。←極論!

てなわけで、結成5年目くらいだかでカリフォルニアはコルバーン音楽院の元東京Qチェロ奏者クライヴ・グリーンスミス氏のところで「常設弦楽四重奏団」を目指し2年間の修行に励んでいるQインテグラ、過去の日本出身の団体とすれば類例のない最高に恵まれた「プロの弦楽四重奏団として北米でやっていくための教室」に在籍するという幸運を得た、ホントに「もってる」奴らですな。そいつらの日本のレップから、こういうアナウンスが昨日ありました。ちなみに、「主要国際コンクールでファイナリストになった若い団体と日本の主要マネージメント会社の契約」って、いくらでもありあそうながら、過去に類例がありません。東京QはミュンヘンARD優勝時に日本の団体ではなかったし、その後も日本人が加わった団体の主要大会入賞はあっても日本での契約など全くなかったし、90年代の弦楽四重奏ルネサンスのときにボルチアーニという業界的にはミュンヘンARDよりも遙かに格上の大会で最高位になったエクや、同時期にロンドン入賞からグラーツでの優勝という経歴を経たアルモニコなど、今なら当然、騒がれて良い筈の結果にも、全く反応はありませんでした。風向きが多少変わったのは、ウェールズのミュンヘンARD3位くらいからでしょうかねぇ。つい最近の事じゃな。おお、老人の発言じゃ。

もといもとい、で、こういうリリース。
https://www.japanarts.co.jp/news/p8211/?fbclid=IwAR0oRzlM84pwyao77_-VGvTx4sm6AN5kQi-Q0cYGvlki6KX-eFYJUhSspvM
きっちりチェロ奏者さんの経歴まで出して来てますね。なるほど、クライヴのところにいる韓国人のお嬢さん、ってことですな。亜細亜人ばかり、と苦笑してたもんね、そこもまたラッキーだっかかな。
https://www.triton-arts.net/ja/concert/2024/01/27/3849/?fbclid=IwAR1EKaYV8VyOP-6m4GnmS6jAMHxEqMZdI84zi41UIbffU-8rxk1FXdcpLIA#parkyeun

「常設団体」を目指す若い弦楽四重奏団にとって、5年目の壁、10年目の壁、といわれるものがあります。最初は、弦楽四重奏団として人生で最も濃厚に同じ4人のメンバーが顔つき合わせている時期が数シーズン続き、そろそろ考えてることややりたいこと、指向の違いがハッキリ見えてくる頃。この頃に、まず最初のメンバー交代の時期がやってくる。今回は、そういうタイミングで、弦楽四重奏団というものを良く知っていて、更には世界の天才チェリストが集まってくる教室をやっている先生が横についていたわけで、もうこれ以上理想的な環境はない。ちょっと若いくらいの元天才少女が入ってくるのだから、いやぁ、ホントにコルバーンなんてトンデモなところの学生レジデンシィってのはスゴイ環境なんだなぁ、と驚嘆しますね。

ちなみに10年目の壁とは、ヨーロッパの主要オーケストラの就職オーディションの年齢制限です。このくらいのところで、社会的な保証のない自営零細企業である弦楽四重奏を続けるか、それとも人生や生活の安定を選ぶか、ある意味、究極の選択が迫られるんですね。ここで「解散」になる国際コンクール・ファイナリスト級団体は、沢山あります。てか、まあ、実質、殆どがここで「常設団体」としての生活を断念するわけですわ。

ちなみに結成から20年を過ぎると、もう「どうやってバラバラになっていくか」を考える時期なので、この頃に弦楽四重奏での実績を買われてオケの首席クラスに入る、なんて選択も珍しくないですね。ロータスなんかもそういう生活だし、ある意味で四半世紀過ぎたエクもそういうところに入ってきている。

ま、そんなこんな、インテグラは現時点で音楽的には最高の選択が出来る理想的な環境に居たわけで、ホントに「もってる」よねぇ、こいつら。このラッキーをしっかり利用して、先輩カリドールQを追いかけて欲しいもんですね。日本なんて帰ってこなくて良いわけで。

なお、ジャパンアーツさんのリリースを眺めるに、「臨時で代理が入ったのか、これで交代なのか」はぼかして書いてあるようにも見えますな。これはもう、何シーズンの契約、なんて法的なメンバー拘束なんて存在しない弦楽四重奏業界、「そんなのわからんもん」としか言いようないですから、マネージャーさんとすれば仕方ないでしょう。いろんな事情で一度国に戻って、また復帰、なんてウェールズみたいな例だってあるわけだし。特に日本のマーケットは、「同じ顔ぶれが年に数回あって練習して本番をやる」という団体も「常設弦楽四重奏団」と呼ぶ風習が定着しており(日本だけではなく、「常設」とファンが勝手に信じている団体の殆どはそういうやり方ですけど)、なかでもフリーランスの立場が弱くオケ以外に音楽家が安定して食う道がないニッポン(弦楽四重奏として教職を得るシステムがない、ということです)の場合は、聴衆の側がメンバー交代に極端に神経質なんで、その辺りも配慮しているんでしょうねぇ。エクの場合はそこをなんとかするためにNPOにしたんだが…その後、後を追おうという団体は出てこないしなぁ…

最初の危機を乗り越えた(んだろうなぁ)インテグラ、次の5年に向けて頑張って欲しいものであります。

なお、蛇足ながら、新チェロさんのところで触れられているエリザベート大会、前回2017年ファイナリストの岡本氏、やくぺん先生は来週の水曜日にヴィーンで拝聴するです。
https://www.berliner-philharmoniker.de/konzerte/kalender/details/55024/
https://konzerthaus.at/konzert/eventid/60678
音をしっかり保っている団体でやるって、まだまだ音を作っていく段階にあるのとはまるで違う仕事でしょうから、これはこれで大変だろうに。ぐぁんばってくれぇえ!

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エク半島を往く(Ⅱ) [弦楽四重奏]

先程、無事にソウル・ロッテコンサートホールでの「日韓友好音楽会」が終了
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旧市街の宿に戻ってきました。エク一行は、まだ打ち上げなのかな。戻りは深夜過ぎるんじゃないかしら。

さても、日曜5日午後に市の財団主催「昌原国際室内楽音楽祭」に参加、無事に終えたエク一行、月曜日は移動日で、ソウルに向かい…というだけの楽な日程だったんだけど、ご存じの方はご存じのように、釜山の金海空港は我が温泉権盆地同様に(なのかは知らんけど)朝霧の名所で、韓国空軍のF-16Kがアラートしている空軍基地も兼ねているというのに、午前中欠航は日常茶飯。かなり無茶して飛ぶこと屡々なんだけど、どうやらエクが搭乗する予定だったKALさんは流石にレガシー航空会社だけあって無茶はせず、あっさり欠航になったそうな。

そこからがすったもんだ。最初は「欠航でKTXが混んでいて席が取れず、午後の特急高速バスでソウルに向かう」なんて連絡が来て、おおおおおトラックとマジで競争するぶっ飛ばし半島南端から真ん中まで2時間半で突っ走る高速バス乗るかぁ、とちょっと心配したんだけど(各社競争が激しく利用者も半端なく多い半島南の高速バスは、バスの設備そのものはニッポンのものよりも余程良く、全く問題ないんだけど…問題は運転手が無茶に頑張って吹っ飛ばすことなんだわなぁ、まあ、国民性の違いとは言わぬが…)、なにがあったか、最終的には無事にKTXで夕方にはソウルに至ったエク一行なのであった。

先週まではソウルも季節外れの暖かさと言われていたのに、エク到着の午後から急に気温が下がり始め、いつもの秋の終わり、流石に氷点下までは下がらぬものの夜は3度とか5度とかで、東大門市場の屋台のトッポギ屋さんから上がる煙も冬を感じさせるようになった。やくぺん先生もほぼ同じ時間に近くの安宿に到着、無事に到着なさった姿を確認したところでパートⅠは終了なのでありましたな。

んで、明けて本日火曜日7日。昨晩はちょっと湿っぽくて、冬のイタリア南部みたいな寒さ。今朝はカッツリ晴れ上がって気温は摂氏数度。必要ないかなぁ、と抱えてきた秋から冬初め用のコートを羽織り、ソウルの街に出ます。本日のやくぺん先生のお仕事は、NPOエクプロジェクト顧問というボランティア雑用仕事で、お馴染みインチキカメラマンじゃわい。ソウル側主催者さんがカメラマンは用意するとのことだが、ぶっちゃけ、自分らで撮影出来るならその方が後の手間がかからずに楽なのじゃ。なんせPC上であらゆるデータがやりとりされる21世紀20年代とはいえ、往々にして欲しいものを貰うだけで連絡関係で一仕事二仕事、ってのが常識。テクノロジーの問題ではかく、カメラマンの権利関係とか、ホール側の許可とかも必要なことがあり、要はニンゲンや社会の問題ですわ。

かくて、久しぶりに現役復帰の爺が取材フルセット背負って、バスで漢江越えてロッテワールドまで向かうのじゃ。ま、あとは楽屋口を探し、予定時刻前から楽屋前で演奏家到着を待ち、一緒に専用エレベーターで世界ロッテモールのフラッグシップたる超高層ビル隣の巨大モール屋上に鎮座するロッテコンサートホールの楽屋に無事に到着。

ええと、なんでこんな面倒なのかと言えば、韓国という国家は法律上(というのかな?)は未だに北朝鮮との戦争状態は継続中で、単に70年間近く休戦してるだけ。だから、オリンピック前に戒厳令はなくなり、夜は深夜までバスはガンガン走るは繁華街には戒厳令時代なんてまるで過去の話の若者たちが溢れるわなんだけど、例えば空港や鉄道は写真撮影禁止、公共施設もセキュリティが妙に厳しい、なんてアンバランスなところがあります。なんせ、大観光地の亜細亜最高峰ロッテタワーも、観光で上層階に上がるエレベーターではセキュリティチェックがあり、何故か望遠レンズは没収されますから。今時、携帯カメラで山の向こうの空軍基地だっていくらだって撮影出来ちゃうけど、携帯召し上げてたらパニックだろうからね。

もとい。で、昼過ぎから練習が始まり
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延々開演前まで。残念ながら、当初予定されたNHKソウル支局の取材は、「パレスチナ戦争で枠が取れなくなりました」とのことで中止になってしまいました。うううむ、エクも戦争被害者じゃなぁ…平和産業室内楽、ですからね。あ、今更ながら、本日の演奏会はこういうもの。ほれ。
https://s.japanese.joins.com/JArticle/310391?sectcode=A10&servcode=A00

本日はアーツセンター大ホールでヴィーンフィルがあるんで、ホントに客が来るのか心配じゃの。2000席越えるホールながら今時のワインヤード型、後ろなどをブロックすれば実質1000席弱くらいの室内楽もやれる中ホールにもなるように造られてる。ミューザ川崎や、ケルンのフィルハーモニーみたいな、小ホールを設置しなくてもなんとかなるタイプのホールですな。で、平土間と正面だけを用い、800を越える客が入ったそうな。ま、ピアノ五重奏ですから、立派なものでありましょう。

純粋に音楽的には、本日の最大の課題はひとえに「この巨大なホールでどうするか」でありました。ま、ぶっちゃけ、それが眺めたいから遙々ボランティア仕事に行ったやくぺん隠居老人でもあるわけだけどさ。ビックリしたのは、モダンなスタインウェイってのは、ホントにこういう大ホールのためにあるんだなぁ、と今更ながらに思わされたこと。さあ、エクはどうする、ってね。

そもそも今回のツアー、「友好音楽会」という題名の通り、日本大使館や韓国の政治家さん、日本人会の皆さんの招待などが沢山で、ヴィーンフィルがあろうが関係ない、って演奏会ではあったわけで、開演前のロビーはなんだかパーティ会場みたいなご挨拶の嵐。残念だったのは、₩3000の売りプロがあったことが判らないようなお客さんがいっぱいいたみたいで
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隣に並んでた大使館関係の方なども全く解説もプロフィルもないまま時間を過ごしてました。うううん、こういうもんなのか、この都市は。350円で立派な日韓両国語付きの当日プロ、皆さん、買いましょうよぉ!

かくて8時開演、まずはエクが登場し、ともかく丁寧に大空間に響きを伝える《皇帝》を披露。第2楽章のソロ大会みたいな変奏曲でも、しっかり個々人の独奏者としての音は伝わるのは、こういうホールなんだよねぇ。弱音を物理的に下げずにどう響きの中に埋もれないようにするか、ぶっちゃけ、エクは普段はそういう作業はしないですから、なかなかのチャレンジでありました。

今回のイベントの仕掛け人たる李京美さんが加わるこれ以降は、もう李さんの世界。やはり自主公演などでは同世代の仲間達との合わせが多くなるエクとすれば、案外と共演するチャンスが少ないひとつ上くらいの世代の方ですので、いやぁ、オモシロいといえば面白い。モーツァルトのト短調ピアノ四重奏、やはり今時流行の「オリジナル楽器」とか「HIP」とか何処吹く風、私が美しいと思うモーツァルトはこれです、って音楽に寄り添っていく。2000席規模の空間にまるで違和感のない我が美学を貫く世界。

で、メインとなるのはショパンのピアノ協奏曲第2番の室内楽版、それもコントラバス無し版です。李さん、もう完全に協奏曲のスタイルで、エクは超小型オケ。第1楽章などチェロに猛烈に負担がかかり、終楽章コーダ前のホルンがヴィオラソロになったりと、これはこれと割り切れば大いに楽しいものでありました。
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いやぁ、恥ずかしながらやくぺん先生、この類いのものをちゃんと大ホールで聴いたことなどなかったもので、「あああああコンチェルトの室内楽版って、やっぱりこんなにコンチェルトなんだぁ」と当たり前のことを今更に納得したりして。いやぁ、人生、生きてみるものでありまする。

アンコールのショパンのノクターンの五重奏編曲、それから恐らくは知ってる人は知ってるんだろう抒情的小品(なんかミュージカルのナンバーだそーな)、前者は本来ならピアノ右手が主旋律を担当する部分を全て第1ヴァイオリンに任せた編曲で、まさかまさか我らが西野さん、エク30年近くやってきてショパンで終わった瞬間にブラボー浴びることになるとは、想像だにしていなかったじゃろーなぁ。

半島名物のスタンディングオーヴェーション
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終演後のロビーは李さんを囲む人々がいつまでも帰らず、という「友好音楽会」の夜は更ける。ロビーの外には、東亜細亜最高峰のビル壁面が迫り、ソウルの長い夜はまだまだ続くのであった。

エクちょっと半島を往く、かくて無事に終了。こういう演奏会できちんと課された責任を果たせる中堅エク、だてに30年やってないわいな。やくぺん爺も久々の現役復帰アドレナリン出っぱなしで、冷たい半島の夜の大気が気持ち良いぞ。さても、いろんな人に写真送る、ってメンドーな一仕事が待っておるわい。

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エク半島を往く(Ⅰ) [弦楽四重奏]

クァルテット・エクセルシオのプチ韓国ツアーが始まりました。

昨日、「春の勝手に首都圏クァルテット・ウィーク」を締め括る、もの凄く細かくいろんなことをやってるのにハーゲンQみたいな「私たち、こんないろんなことをやってるますよ、スゴイでしょ」ってアピールは一切ない真面目なベートーヴェンをしっかり聴かせ、30年に至ろうとする年輪を感じさせた定期を終えたエク一行。そのまま羽田近くに投宿し、本日、朝に羽田を発ち、ソウル経由で釜山は金海空港に至り、無事に釜山から東へ車で40分ほど、「釜山の横浜」(うううむ、釜山は港町なんで「釜山のプチ東京」かな)とも言うべき、半島南東端地域の首都機能も与えられた巨大都市昌原(チャンウォン)に到着。先程から明日の最初の本番に向けた練習が始まった、との連絡がありましたです。以下、写真はエクメンバーからのものです。とにもかくにも、貼り付けます。

まずは、これが「昌原国際室内楽音楽祭」の会場となる市内の芸術ホールです。
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ま、今時の立派なもんですな。大小ホールがあり、室内楽音楽祭は小ホールで開催されているそうな。

で、これがポスター。やっとラインナップが判明しましたね。
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エクの部分を、チラシから抜萃。しっかりイルポン日の丸印で「国際」音楽祭をアピールしてますな。
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演目は…うううむ、せめて昨日の作品18の1を弾かせて欲しかったが、今回の目的は「日韓友好」ですから、ともかく与えられた仕事をきっちりバッチリこなしましょう。ホールの周辺には、ポスターも掲げられているようです。
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明日の午後開演、今から行っても、残念ながら満席だそうです。7日のソウル、聴きたい方はご連絡いただければ、チケット、なんとかします。

まずは(いつぞやのウズベキスタンみたいな)楽器入国などのトラブルもなく、無事到着、よかったよかった。なお、やくぺん先生は明後日ソウル入りし、7日のソウル・ロッテコンサートホールでの「日韓友好コンサート」は拝聴いたしますです。

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