SSブログ

シンガポール室内楽フェシティバル2024折り返しへ [音楽業界]

なんのかんのバタバタしていてい当電子壁新聞も放置状態、ともかく、外は30度室内は20度の無茶苦茶な寒暖差の南の島で、生き延びてはいますです。嫁さんは昨日から酷いアレルギーにやられていてスーパーで買ってきたカップお粥しか食えん状態なんだけど、うううむ…

ヨン・シュ・トウ音楽院ホールを会場とする本公演は4つあり、うち、去る土曜日の葵トリオ、週末には参加28団体へのコーチング・セッションと、フェスティバルたけなわでありまする。昨日はヨン・シュ・トウ音楽院の各セクションのチーフ系ファカリティによる室内楽があり、本日水曜日は葵トリオさんは音楽院学生へのコーチングと、オンちゃん以下参加演奏家をバラバラにしてセッションするいかにもフェスティバル的な一晩。で、明日以降は土曜日のフィナーレに向けた練習などになりまする。ま、葵さんとすれば、その間にもシンガポールの日本商工会議所みたいなところでのクローズな演奏会があったりで大忙しなんですけど。若き日本の「音楽大使」っぷり、立派なものであります。

表のメディアに何か書く可能性もなくもないので、中身に関してはあれこれ言えないんで、ここで本日シンガポールの讀賣朝日毎日全部合わせたみたいなスーパー独占メディア「ストレーツ・タイムズ」に批評が出たのでそれを引用して…と思ったら、なんと有料記事しか見られなくなってるわい。残念ながらヘッドラインの写真は昨日のアンコールのものですが、ま、雰囲気だけ判っていただくために貼り付けておきましょか。
https://www.straitstimes.com/life/arts/concert-review-chamber-music-festival-s-successful-return-with-aoi-trio-and-pianist-ning-an

ちなみに「ストレーツ・タイムズ」の音楽批評は担当の評論家が2人で、そのうちのひとりがなんと音楽祭のディレクターさんご本人。「まさか私が書くわけにいかないけど、彼は悪いことは書かない奴だから」と苦笑しております。葵さん本番の写真などは、こちらの公式Facebookページからご覧あれ。
https://www.facebook.com/sgchamberfest
せっかくだから大盛り上がりの初日葵トリオ演奏会後、舞台裏にいらしたシンガポール日本大使夫妻と歓談する葵トリオさんの様子。
IMG_3498.jpg

ちなみにこのフェスティバル、当日プロはダウンロードのみで、ここからでも問題なく拾えちゃうんじゃないかな。本日は元マレーシア・フィルの首席オーボエだったヨン・シュ・トウ音楽院の先生にオンちゃんや元タンQの創設チェロのレスリー・タン氏らが加わるモーツァルトと、コンコーディアQという今のシンガポールでいちばん若い世代でアメリカに勉強に行ったりもしている奴ら(日本ならタンQがエクで、コンコーディアQがQアマービレとかQインテグラとか、って感じの位置付けかな)、それに葵さんが絡んでくる、いかにも「フェスティバル」ってプログラミングですな。
https://www.hopp.bio/scmf2024?fbclid=IwAR0EjzmtQT6CWoh5VfLjvycqiL7-Rs3ToFKX3cedvdZF-vvp9uEWbCAggsc

とはいえ、どんなもんか最低限のことくらい記しておけば、終わった二つの演奏会は「室内楽」のあり方として両極端にあるものでありました。

なんせ我らが葵トリオは、1曲を仕上げるのに数ヶ月、年間レパートリーを作ってそれを組み合わせて活動していく、という典型的な「常設」団体。それに対し、昨日は全員が中国大陸出身の音楽院の先生のアンサンブル(無論、いつも一緒にやってるようで、録音なんぞもいろいろあるようです)、ピアノのアン・ニン氏は北米でキャリアを作りピアノ科准教授に新任となってのお披露目でもあり、ヴァイオリンのチェン・ジュウは音楽院創設以来の弦楽器科主任で「世界一優勝賞金が高額」で話題になったシンガポール国際ヴァイオリン・コンクールの芸術監督兼審査委員長、ヴィオラのゾン・マンチェンはデトロイト響ヴィオラ副主席からシンガポール響首席、チェロのリーウェイ・キンはチャイコフスキーの入賞者でリンカーンセンター室内楽協会でも弾き日本でも知られている名前。要は、今のこの島で「室内楽やるぞ」と言ったらもうこれ以上のメンツはない、という人達ですわ。さしずめ日本なら…ううむ、堀米ゆず子、店 眞積、山崎伸子、江口玲、って感じのメンツかしらね。

で、その経歴からも想像が付くように、葵さんの作り込んだ精密な音楽に対し、パワーをフルにぶつけ合うアメリカンな熱い室内楽が展開されましたです。シューマンの詩情はどこに、なんて言っても仕方ない、そういうもんじゃないものをやってるんだからさ。

この二つの演奏会を聴いた「弾く」という意味では滅茶苦茶達者な世界から集まった学生たちは、どんな風に感じたのでかしら。今日の葵トリオの学生セッション、お嫁ちゃまの体調不良で覗きに行けるかわからんのじゃが、どれくらいのギャラリーが押し寄せるやら。

かくて20年ぶりのシンガポール室内楽の祭り、広く、とはいえないけど、深く盛り上がっておりまする。今日は流石にムリながら、土曜日の夜は日本からもまだ全然間に合いますよ。スコールが連日続く先週の荒れた陽気も収まった、ニッポン列島の初夏くらいの南の島にいらっしゃいな。

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

シンガポール室内楽フェスティバル2024開幕! [音楽業界]

遙かニッポン列島は雪に埋もれているらしい(のか?)春節前の厳冬期、皆々様におきましてはいかがお過ごしでありましょうか。やくぺん先生とお嫁ちゃまったら、先週は一年でいちばん気候の良い文字通りの新春の香港で旧交を温め、諸処雑用でいちど列島に戻り、一昨日に再び同じ道を(って、全然違う台湾より南の道だったんだけど)ほぼ倍のたびの空、連日30度で朝の7時に夜が明けて夜の7時に夜になる常夏の島、今や貧乏ニッポンを遙かに凌駕し韓国台湾と競いつつアジアでトップを走る先進国、シンガポールにやってまいりましたです。

ぶっちゃけ、1940年代半ばに日帝支配が終わり、国共内戦から朝鮮戦争、インドシナ独立戦争、越中戦争終結までの激動の30年が終わってから後の半世紀弱は、戦争を煽って商売したり政権維持したりしないといけん方々の思惑はどうあれ、ミヤンマー以東のアジア地域は歴史的にも珍しい「戦争のない半世紀」を過ごしているわけで、19世紀半ばから20世紀初頭の欧州で近代市民国家を育んだ半世紀の平和にも匹敵する発展の時期になっている。ましてやここシンガポール島ったら、世界最後の分断国民国家が南北共に極めて歪な形でのスーパー成長っぷりを見せてしまった朝鮮半島というこの地域で唯一の地勢的に面倒なところからは遙か遠く、イーグルくんやらファルコンくん、はたまた買ったばかりの空中給油A330なんぞが轟音立てて高層ビルやスーパー観光ホテルのスカイラインを縫うように行き来しようが、「うちの軍隊が戦争する相手っても海賊くらいしかいないし…」ってノンビリした場所。地震はないし津波もない、台風もまず直撃はないそうで、滅茶苦茶暑くて湿ってるくらいはしょーがないわね。

かくて、朝鮮戦争の後方基地になって稼げたとかいろんな偶然が重なりこの地域で一足早く突っ走っちゃったニッポンで、80年代後半に起きた経済バブルと同じような状況が、朝鮮半島南、フォルモサ島、大陸湾岸部大都市、そしてここ赤道直下の島と、微妙なズレはあるものの、次々と到来しておる21世紀20年代なのじゃ。最初にバブルったニッポンの90年代以降の大失敗を冷静に見つめ、分析するだけの賢い御上を持てたラッキーな地域は、今や世界経済を牽引する大繁栄の中にあるわけでありまするな。

さてもさても、そんなシンガポールという場所で、いよいよ本日から「シンガポール室内楽フェスティバル2024」が開催されます。回数がないのは、ディレクターさんに拠れば「20年前にやったが上手くいかなかった、まだ時が至らなかった」とのことで、仕切り直しで今回からまた頑張るぞ、といういことのようです。

一般公開のイベントは以下。ご覧あれ。なお、コンサート告知チラシというものが日本ほどは定着していない文化なので、こんなものしかありません。
IMG_E3360.JPG
Webサイトはこちら。
https://www.sgchamberfest.org/
日程が24日からになっているのは、もう昨日からセミナーが始まっているからですな。

ええ、話は前後しますけど、このフェスティバル、普通の意味での「世界から室内楽の名人を集めて鑑賞する」というのではありません。先週の香港は、正にそういうものでしたけど、ここはちょっと軸足が違う。無論、室内楽コンサートはあり、メインゲストは我らが葵トリオ、もうすぐチャンギ空港に到着するところです。明後日の夜に最初のメイン演奏会としての公演があります。
https://www.sgchamberfest.org/concert-series/festival-concert-i-aoi-trio

で、このフェスティバルのもうひとつの柱が、アカデミーと題されたコーチング・セッション。シンガポールやその周辺、マレーシアやらインドネシアからのプロアマ年齢問わぬアンサンブル28団体が会場のヨン・シュ・トウ音楽院に集まり、葵トリオを筆頭に、シンガポールが誇る我らがヴェローナQの第1ヴァイオリン「オンちゃん」以下、フェスティバル・ゲストがコーチングをする教育セッション。
https://www.sgchamberfest.org/academy-series
実は隠れたテーマは、タンQの次の世代としてフェスティバル・ディレクターさんが育てている地元のコンコーディアQにこれら外国からのコーチからみっちり学んで貰おう、というものなのでありますわ。

ニッポン、特に東京にいると、次から次へと世界の主要弦楽四重奏団がやってきて、学校やらアカデミーやら、はたまたプロジェクトQみたいな民間のコーチング・セッションやら、なんのかんの若いプロ連中が教えて貰う機会が山のようにある。敢えて言えば、溢れていて些か消化仕切れなくなっている、と言っても過言ではないでしょう。

ところが、ソロならともかくグループのセッションとなると、サンフランシスコから直行便で17時間という地球の反対側の南の島やその周辺の室内楽志望音楽家にすれば、なかなか経験があって若く力のある先輩達に習う機会は少ないのであります。それをなんとかしたい、というのがディレクターさんの悲願。それ故に、こんな突拍子もない数のコーチングの枠が準備されたのでありました。

シンガポールの室内楽状況、正に80年代バブル頃の日本の状況に近いのかも。最初のホントのプロの団体としての巖本真理Qの活動が終焉し、初めて室内楽で世界に出た東京Qの第1世代が国に戻ってきて、本気で教え始めた頃。アマデウスQのセミナーが室内楽志望者を爆発的に増やしたあの頃のニッポンの空気が、ここ南の島に流れている…のか。

仕切り直しで再び始まったシンガポールの室内楽音楽祭、来週土曜日まで、お暇な方はどうぞ。ニッポン列島からなら、せいぜい5時間ちょっとで来られますよ。

nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

半島人事情勢あれこれ [音楽業界]

先週金曜日に福岡日帰り取材に行ってから、やっかいなテープ起こしが必要な(ってか、ひとつは英語インタビュー翻訳そのものなんじゃが)原稿が二つ入っていて、これをやっつけないと来る日曜日からミロQとマスミさんに遇いに行く香港ご隠居旧交温めツアーに行けんわい。ってなわけで、優先度最下位の当無責任電子壁新聞はすっかりほったらかしで、これじゃいくら何でもマズかろーという生存証明じゃわい。ま、雑談じゃ

ちょっと所用があってソウル・アーツセンターとロッテホールの初夏くらいまでの日程表を眺めたら、半島でも色々と人事が動いておるようじゃわい。

やはりいちばんの話題は、チョンさん騒動以降、その活動方針を巡ってもバタバタしていた感があるソウルフィル、繋ぎ人事みたいにシュタンツ御大が来たりしてたけど、やっときっちり音楽監督が決まったようですな。こちら。
https://www.seoulphil.or.kr/?langCd=en&menuFlag=MFLG0001
ご関心の向きは、香港フィルを世界に引き上げるnaxosへの《リング》演奏会形式録音なんぞやったヤープ様、香港のポジションは23-24年シーズンで終わり、ソウルに引っ越す顔見せ兼勝負曲として《ヴァルキューレ》1幕を2月1日にやりますな。思えば、チョンさん騒動が始まって、結局《ヴァルキューレ》は代役が指揮することになり、ソウルまで行ったものの気が抜けてしまって某編集者さんと南部バスターミナル駅近くのチキン屋でビール飲んでチキン喰らって1幕ガッツリ遅刻した、という呆れたことをしており、時間が合えばそのゴメンナサイをしたいところなんじゃがのぉ。

で、ソウルの都響たるソウルフィルに対抗するソウルのN響、KBS響ですけど、こちらは一昨年からの我らがインキネン様の大活躍は相変わらずで、なんだか2ヶ月に一度は定期振ってるんじゃないの、という勢い。
https://www.kbssymphony.org/eng/m/main/main.php
そればかりか、チョンさんがソウルフィルではなくこちらを振るようになっていて、なんか凄いなぁ、KBS響!

チョンさんと言えば、やはりこちら。
https://www.sac.or.kr/site/eng/show/show_view?SN=62021
https://jp.yna.co.kr/view/AJP20231205002600882
ニッポンの連休直後の5月7日、ソウル・アーツセンターでチョンさん指揮東フィルの公演がありまする。演目はまだ出てないようだけど、常識的に考えれば同月の定期と同じなんでしょうが…判らんなぁ。

なお、ソウルの春のお祭り、韓国の「地方都市オーケストラ・フェスティバル」たるソウル・オーケストラ・フェスティバルですが、アーツセンターの日程表を眺めるに4月の大ホールの日程が全く出ていませんから、恐らくここにドカンと入ってくるんでしょう。ご関心の向きは、このページをちょくちょく眺めに行って下さいな。
https://www.sac.or.kr/site/eng/program/schedule

なお、4月末の「ソウルの春室内楽音楽祭」は、アーツセンターの中ホールと世宗文化会館小ホールで開催されるようですが、毎度ながらまだ詳細は不明。この辺り、もうちょっと早く教えてくれんかのぉ。

半島への道、ANAさんの子会社も飛び始めるようだし、ドンドン広くなっていくのかしら。我が国東半島先っぽ空港も、大韓航空が戻って来て水曜日と日曜日以外は仁川便が飛ぶようになってるし。

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

第49回日本フィル九州ツアー記者会見 [音楽業界]

本日、福岡アクロス上層階の会議室で、冬恒例の日本フィル九州演奏旅行記者会見が行われましたです。
DSC_8435.jpg
今やすっかり「ヴィオラ奏者」じゃなくて「常務理事」も板に付いた後藤氏以下、3度目の九州ツアー指揮の鹿児島出身下野竜也マエストロ、ソリストでメンコンで直球勝負する「東京ブギウギ」リバイバル真っ盛り服部家四代目の百音嬢が登壇、それぞれに篤い思いを語りました。

マエストロは鹿児島出身で、プロオケがない地域とあって、毎年冬にやってくる日本フィルはプロオケに接する貴重な機会。九州ツアーで演奏された《ボレロ》とか、渡邊暁雄のシベリウス2番とか、音楽の原点となっているそうな。ライヴを体験するスペシャルさを強調なさってました。自分は日本フィルではゲテモノ担当と思われているかも知れないけど、《幻想》とかドヴォルザークの8番とか王道レパートリーを良く知っているオケとやるのは勉強になる、とのこと。「カレーライスを置いてない洋食屋はないでしょうから、その食べ比べをするのはクラシック音楽の楽しみ」と、巧みな比喩で会見場を盛り上げます。

服部さんは、14歳で読響でデビューしたときに下野氏とメンコンをやったそうで、それから10年、敢えて王道作品で真価を問う勢い。弦楽器ファンには、コロナの頃から日本ヴァイオリンさんから貸与され使っているというデル・ジェスが、真っ向勝負のメンデルスゾーンでどんな響きを奏でるか無関心ではいられないかも。
https://ontomo-mag.com/column2/classic-trend-10-4/?segment=107392

そんなこんな、壇上の音楽家諸氏が雄弁にお喋りになってくださる記者会見は延々と1時間以上続いたわけでありますが、このイベント、なによりも印象的だったのは会場の後ろに控えた九州各地の主催者の皆さんでありました。

なにせ、日本フィルの九州ツアー最大の特徴は、主催が今時のオーケストラ地方公演の常識たる地方公共文化財団やら公共ホールではないこと。コロナ以降でも、小倉のホールがゲルギエフ指揮ヴィーンフィルやらラトル指揮ロンドン響でエルガーの交響曲やったり、姫路の新しいホールがペトレンコ指揮ベルリンフィルやったり、とんでもないことが起きるわけでありますが、そういうのは基本、民間の音楽事務所が営利活動としてやるわけではなく、ぶっちゃけ、地方公共団体が税金を投入して市民のために行っているわけでありますな。千万単位のお金がかかるオーケストラ公演ですから、民間がおいそれとやれるものではない。ところがこの日本フィル公演、無論、昨今の潮流を反映して地方公共財団が共催やら協力しているところもありますが、基本、各地の民間任意団体である「日本フィルを聴く会」とか「友の会」とかが、日本フィルと共催という形でやっている。本日の記者会見も、正直、かなりの部分、マエストロやソリストさんの主催者さんとの顔合わせ、お互いに来月のツアーに向けて頑張ろう、というエールの交換のようなところが感じられたのでありまする。

まあ、東京の海千山千の専門記者やライター、評論家諸氏が雁首揃えるピリピリした記者会見と同じである筈もないでしょうけど、やくぺん先生的にはとっても新鮮で、気持ちの良いものでありました。「誰のために音楽をするか」というのがハッキリしているコンサートって、案外、ありそうでない。ましてやそれがツアーなんだからねぇ。

49回目(2021年はコロナ禍で欠番ですが)の日本フィル九州ツアー、2月の10日から21日まで九州9都市をまわります。お近くでご関心の方は、是非どうぞ。
https://japanphil.or.jp/blog/kyushu
個人的には、冒頭のご挨拶で奏される序曲が《ティトゥス》と《イドメネオ》というのがなかなか興味深い、ってか、とってもマエストロ下野っぽいでんな。で、小山実稚恵さんがこういうツアーではありそうでないK.466、というんだから。なんせキューシューの記者会見デビューのやくぺん先生ですので、ホントはこの辺り突っ込みたかったんだけど、借りてきた猫のようにしてましたわ。だって、この場にいる記者さん達の媒体には、全く使いようのない話だもん。

半世紀、人が変わり、街も変わり、敢えて言えばコンサートの意味も変わってきているのだろうけど、最後に残された地元有志主催による日本フィル地方演奏旅行、今年も九州をぐるりと周遊じゃ。

nice!(2)  コメント(3) 
共通テーマ:音楽

何故年末に現代音楽&弦楽四重奏公演が集中するのか? [音楽業界]

ロシア正教やらスラブ系宗派の皆様を除けばクリスマス休暇も恙なく終わり、今日から旧正月若しくはイースターまでさあ頑張って働くぞぉ、と爽やかな師走の朝を迎えた皆々様におきましてはいかがお過ごしでありましょうか。やっと昨日夕方にニッポンのタイムラインで年末までの〆切原稿を全て入れ、とはいえ正月明けの〆切がテープ起こし必要なもん含めさりげなく3本あり、来月半ばからの香港シンガポール実質3週間ツアーを前に案外とボーッとしてられる時間がないのに焦っているやくぺん先生なのであったぁ。今年は旧正月の間は日本フィル第49回九州ツアーにモロに重なっているので、キューシュー島内移動がインバウンド需要とぶつかりそうで、ちょっと不安なんじゃが…

かくて、そこそこ長そうに思えるが隠居爺なりにそこそこパツパツになっているニッポン列島日本語文化圏の年末年始、ここで溜まりに溜まった電子壁新聞書きかけ放り出し記事をアップせにゃとも思うのだが、ともかくまずは生存証明の雑談でありまする。

ええ、先週の火曜日に雪しんしんと降り積もる温泉県盆地標高500メートルの作業場から新帝都は大川端の寝床しかないスペース蟄居に戻りはや1週間。塒には作業スペースが存在しないために縦長屋内シン・ゴジラ視点勉強部屋に陣取って作文仕事をこなしつつ、何故か知らぬが年末に向けてやたらといっぱいある演奏会に通うわけで、嗚呼凄いなぁ新帝都は、なんせその前に盆地に3週間だか居てもお仕事絡み含め足を運んだ音楽関連イベントったら、オーケストラ公演3つ(フルオーケストラ1&室内管2)+地方都市小規模オペラひとつ+映画館オペラひとつ、無論、室内楽は室内管の開演前ロビコンのみで弦楽四重奏なんぞ一切無し、という有様。ま、キューシュー島北部三県、こんなもんなんでしょーね。

ところがところが、新帝都に戻ってから年末までの状況を列挙すればぁ…

19日:サントリー小 ほのQ
21日:オペラシティ小 日本現代音楽協会コンクール&近藤左手作品
22日:文化小 東京シンフォニエッタ西村追悼
23日:ドイツ文化会館 欧州弦楽四重奏の現状
24日:千葉市美術館さや堂ホール 弦楽三重奏版《ゴルドベルク変奏曲》など
25日:オペラシティ小 OTO新作の会 Qインテグラ
27日:東京コンサーツラボ 丹羽&杉田らQ
31日:文化小 ベートーヴェン中後期撰集 Qエク&古典Q&Qインテグラ

この他にも日程が重なり涙を呑んだものは幾つもあって、列挙すればぁ…
何故か現代音楽界隈ではなくロマン派オペラ愛好家さん達が大盛り上がりの東劇メトライヴ《Dead Man Walking》、全く聴衆層が重なる現代音楽村の狭い世界で同時に開催されてしまったこれまた西村追悼全音現代音楽室内楽コンサート、年末恒例でここから見えるティアラこうとうでやってて2公演もあるのに何故かいちども聴けずにマズいなぁと毎年思う元ゼフィルスQの山口さん率いるさくらQのベートーヴェン、某NPO年末打ち合わせとぶつかってる池辺晋一郎室内楽大会…嗚呼。

てなわけで、世間では《ダイク》か《メサイア》か、はたまた舞台なら《くるみ割り人形》か《ヘンゼルとグレーテル》か、と思われるであろうこの季節の新帝都、なんのことはないいつも以上に「ゲンダイオンガク」と「弦楽四重奏」で埋め尽くされる日々なのであったぁ。

なんでこーなるのぉ?

我が盆地庵に聳える巨木から茨の棘で指先切りながら収穫してきた冬至お土産見栄えのしない柚子の実を配りつつ
IMG_2224.jpg
新帝都の知恵ある人々に尋ねてみたところ、前者「ゲンダイオンガク」がラッシュになる理由に関しては、成る程と思われる見識が示されたです。あるそっち方面の専門マネージメント会社の現場で走り回っている方が仰るに、「年内に使わねばならない助成金があるのでしょう」って。

なるほどぉ、年内に演奏会をやってしまわないと出てこないお金があるならなんとしても大晦日までにやらにゃ、ということなのね。真偽の程は判らぬけど、大いに納得はいくところではありますな。なんせ、この数日、ここシン・ゴジラ視点縦長屋勉強部屋から新帝都中枢を眺めるに、年内にノルマを達成せねばならぬ総務省屋上ヘリポートでの離発着訓練で埼玉消防やら東京消防庁が新宿高層ビル街が遙か奥秩山塊を背景に薄暮のマジックアワーを離発着する光景が眺められるのでありますがぁ、それと同じでありまするか。なるほどねぇ。

もうひとつの「弦楽四重奏公演が多い」というのとも重なるのだけど、やくぺん先生が直感的に感じるに…この時期のニッポン列島って、国を出ている演奏者がクリスマス休暇で帰国している、というのが理由なんじゃないかしら。

例えば冬至の翌日に高橋是清公園隣で開催された「ゲンダイオンガク」の「弦楽四重奏」という両者がバッチリ重なっている演奏会など、奏者は首都圏で普段から活動している固定メンバーの団体ではなく、アンサンブル・アンテルコンタンポランにトラで入ってるヴァイオリンさんとか、ドイツ拠点の現代音楽アンサンブルやってるヴィオラさんとか、アンサンブル・モデルンのアカデミー生だったチェロさんとか、いかにもこの類いに手慣れた方がチャチャっとやって下さった、というものでした。
https://note.com/yukikocomposer/n/n9b9413b28dfd

一昨日の故末吉保雄門下生が集まって子どものための作品から20世紀後前衛系まで幅広い作風の作品をQインテグラが披露した会も、発足の頃はエクがやっていたように若手の弾ける団体が前提で、インテグラがコルバーンからクリスマス帰国している最中にやるしかないわけで。ちなみにチェロは、クライヴのところの韓国の天才少女がまだ間に合わないようで、サントリー室内楽アカデミーの同期生(なのかな?)さんの代演でありました。
IMG_E2436.JPG
https://otonokai.jimdofree.com/%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E3%81%A8%E9%9F%B3/%E3%82%AF%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%86%E3%83%83%E3%83%88-%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%86%E3%82%B0%E3%83%A9-oto%E3%81%AE%E4%BC%9Avol-3%E3%83%81%E3%83%A9%E3%82%B7/

そしてそして、本日早稲田の天井の狭いゲンダイオンガク小屋で弦楽四重奏を披露して下さるのも、若くしてジャスパーQとかQベルリン東京なんぞ常設のプロ四重奏団として外国で喰ってた経歴のある方達が。帰国してるんで久しぶりに集まってやってみるか、ってものだし。
https://tocon-lab.com/event/20231227
そういえば、沖縄のヴェリタスQも結成初期は「ニューヨークフィルやらフィルハーモニア管がクリスマス休暇の時に年に一度集まる」という趣旨の団体だったわけですしねぇ。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2015-11-13
こういうアンサンブルって、案外、あるんじゃないかしら。そういえば、温泉県盆地でオンラインでやったレオンコロQインタビューも、休暇で日本帰国時にセッティングされたものだったわけだし。

ま、他人様はどうあれ、明日だかの仕事納めに向け、ニッポンの皆様、頑張って働きましょーっ!

てなわけで、まーったくどーでも良い年末雑談でありましたとさ。何を隠そう、やくぺん先生とお嫁ちゃまも、明後日だかにはパリから一時帰国なさっている「ゲンダイオンガク」系の方とアフタヌーンティでもしましょか、ってことになってるわけだし、世は正に年末年始ホリデーシーズン真っ盛りのニッポン文化圏なのでありました。

さて、マジでテープ起こししないとなぁ。

nice!(2)  コメント(2) 
共通テーマ:音楽

クレディア30年 [音楽業界]

何故か知らないけど全部ハングルながら定期的に情報が送られてくるブチョン・アーツセンターのディレクターさんからの毎度ながらの案内で知ったこと。来る2024年はクレディア(Credia)の創設30年になるそうな。こちらがクレディアさんの公式ページ、あたしゃ勝手に英語翻訳になるようにセッティングしてますが、無責任私設電子壁新聞立ち読みでどう見えるか、そんなん知らんわい。
http://www.credia.co.kr/

この画面見る限り、特別2024年が30周年という盛り上がりはあまり感じないけど、ま、せっかくだからご紹介しておきましょうかね。なんせ今やキューシュー島北部が半分拠点のやくぺん先生、福岡がベースの所謂メイジャー音楽事務所がないニッポン国の現状からすれば、東京よりも大阪よりも距離としては近いソウルを本拠地とする最大の音楽事務所ってのは、なんのことはない、盆地オフィスから最も近い最大手クラシック音楽マネージャー、ってことですからねぇ。

いちおう、頭にはこう書いてある。

Since its establishment in 1994, Credia has been planning and producing Korean performances by world-class performers, focusing on classical music.

In addition, we actively support Korean performers with international competitiveness in advancing into domestic and overseas stages through management. CREDIA International's stage is the world.
We will do our best as Korea's leading classic management company by adding analog sensibility and digital accessibility.

アーティストラインナップを眺めるに、日本語文化圏の音楽ファンの皆々様が反応するような演奏家とすれば、アルゲリッチ、キーシン、ペライア、チョン姉弟、サラ・チャン、ジョシュア・ベル、クレメル、ヴェンゲーロフ、ムター、パールマン、リチャード・オニール、マイスキー、ヨー・ヨー・マ、スミ・ヨー、ハンナ・チャン…もうこれは完全にニッポンなら梶本&ジャパンアーツ&AMATIって会社であることは、皆様にもお判りで御座いましょうぞ。

ちなみに、所属アーティストとして来年度のロースターに乗っているクァルテットは…唯一、エスメQでありまする。うううむ。ちなみにちなみに、ニッポン人アーティストは内田光子でも鈴木雅明でもなく、韓国ピアノ界のビッグネーム蔵本裕基ただひとりのみであります!うううむうううむ。

こういう表現をすると「まだ朝鮮戦争は終わってないぞ」と怒る人もいるでしょうが、軍事政権が終わり戒厳令が明けて直接民主選挙が行われるようになりソウル五輪が開催された1988年くらい(ソウル・アーツセンターも五輪レガシーでの竣工ですし)、というのが感覚的には実質上の韓国の「戦後」の始まりで、クレディアの創設は90年代半ばというのはとても理解が出来ます。その後に奇跡の成長が始まり、今や本来ならG7に東アジアから参加するのは斜陽国日本ではなく韓国だろうと(日本を除く)世界中が思う状況になっている。チョン姉弟を突破口にクラシック音楽業界の席巻が始まったのも、やはりそれくらいから。まだ五輪やらが経済発展に意味があった、懐かしい20世紀の話に思えてしまうなぁ。

もといもとい。そんな時代をしっかり支えたクレディアが、この先の急激な少子化やら、日本以上に「高級なブランド品」としてリッチな贅沢品として定着している「クラシック音楽」のあり方をどうしていくのか。ポップス業界では「猛烈に訓練された普遍的な達者さ」のグループ売り出しで世界を支配したやり方が、そんなレベルの訓練はユニヴァーサルに当たり前な過剰な程の技術的高スペックが要求されるクラシック業界で世界制覇の手法として使えるのか、同じではやれんでしょうし。

ま、なんであれ、やくぺん先生としては関心があるのは「全く国内マーケットがないのに、ノブスQの成功で、若手が次々と雪崩を打って常設弦楽四重奏団を目指し参入してきている状況をどうするんじゃ?」だけですので、気楽に玄界灘は対馬海峡の彼方を面白がって眺めているわけじゃがのぉ。

別に宣伝ではないけど、我らがQインテグラよりも一足先に「韓国の団体」ではない道を選んだエスメQ、来年1月にはカナダ人イケメン加わる新メンバーでの来日公演がありますので、ご関心の向きはどうぞ。まだチケット争奪戦が恒常化しつつある鶴見も大丈夫なようですよ。
https://salvia.hall-info.jp/concert/20240122_3h_quartet_series_s55/

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

では「本場」の《リング》ったら… [音楽業界]

雑談ですぅ。一昨日だか、オージーリングまだいけますよ、というどーでもいい煽りネタをアップしたら、今朝、ベルリンの西の方からこんなお誘いが来ました。英語版をアップしておきましょか、ほれ。
https://newsletter.deutscheoperberlin.de/ov?part=landingPage1&mimeType=text%2Fhtml&_uid=442411779640&m2u=5N8TPAML-5N8OJTX4-2CL1672&mailing=5N8OJTX4-YOTC4B

コロナ後のウクライナ戦時下の欧州でも、あちこちでコロナの時期に出る予定だった《リング》チクルスが再開されており、東のリンデン・オパーでも既に新しいプロダクションが始まって、バレンボイム御大がキャンセルしてティーレマン先生が代役になりまんま後を引き継ぐ、なんてゴシップ話も展開されておりますな。地方の尖った系演出もいろいろ出てきており、流石にこれだけ規模が大きく、「もうきまってたから」という予算や人員配置が出来ていたプロダクションはキャンセルにならずにともかくやってしまおう、ということなんじゃのぉ。個人的には、昨年の秋に眺めたザールブリュッケンの伏線張りまくり「遺伝子操作リング」の続きは観たいんじゃが…来年には《ヴァルキューレ》やるみたいだけど、あの広げた風呂敷はちゃんとたためるのかしら。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2022-11-13
https://www.staatstheater.saarland/fr/detail/die-walkuere

もとい。んで、今朝も、朝起きて、昨日は実質一行も商売原稿が進まなかったんで今日はがんばるぞ、と朝霧が晴れていく妙に暖かそうな師走も半ばに近付く盆地を眺めるに、上述の案内が来ていた次第。

ぶっちゃけ、なんでベルリン・ドイツ・オペラから遙か極東の島国キューシュー島は温泉県盆地などに蟄居するやくぺん先生にこんな案内が来るかと言えば、理由は簡単でぇ…実は、あたくしめ、ベルリン・ドイツ・オペラのバウチャー持ってるんねん。去る4月に某原稿の勉強のためにドイツ各地で慌てて《魔笛》観まくる必要が生じ、フランクフルトで過去類例のないほど鬱々しい舞台を眺め、商売原稿の某都市に向かう前に隣の大都市の超メイジャー劇場でまともな(というべきか…)舞台が出てるんで日程には無理があるが眺めておきましょうか、とこの劇場の《魔笛》の切符を買ったですよ。ったら、今やドイツの日常風景となった公共交通ストに巻き込まれ、開演時間までに独帝都に到着出来なかった。どーしましょー、と連絡したら、流石にストではということなのか、「では、やくぺん殿には払い戻しは出来ないが、我が劇場のバウチャーでお戻ししましょう、また劇場に来てね」と、有り難いんだか迷惑なんだかわからんものが送られて来た。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2023-04-21

つまり、現時点でやくぺん先生ったら、訪れる宛てがまるでないベルリン・ドイツ・オペラのチケット引き換え商品券を持ってるんですわ。そりゃ、向こうも案内を送ってくるわな。

もといもとい、んで、じゃあ来年5月にベルリンまで行ってバウチャーを使って切符買って、シュテファン・ヘアハイムの舞台を観てやろうじゃないか、なーんて、現役時代ならば普通に考えたじゃろが、流石に貧乏隠居には無理な話。それに、そんなことするなら、同じ劇場が出す《中国のニクソン》新演出を眺めますわ。
https://deutscheoperberlin.de/en_EN/calendar/nixon-in-china.17580481#:~:text=Nixon
っても、こんな巴里五輪前のテロだなんだでアヤシげなとき、飛行機代はエコノミーでも30万円くらいはしそうな欧州に向かうなんて、とてもじゃないけど無理な話だわなぁ。

オージーリングの「わかりやすさ」とは真逆な意味で、これまたトレイラー眺めればどんなもんか大体は想像が付くこのいかにも今の欧州っぽい「わかりやすさ」に満ち満ちた西ベルリンのコロナ乗り越えたチクルス、バウチャーで配信が買えるなら、《ラインの黄金》くらいは眺めましょかね…っても、観ないだろーなー。

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

オージー《リング》三度目 [音楽業界]

もう随分前のことになりますけど、オーストラリアのブリスベーンだかで中国人演出家かなんかで《リング》の新しいサイクルをやりますよ、なんて話をお伝えしたことがありましたっけ。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2019-06-13

このプロダクション、2020年11月から12月にプレミアが予定されていたわけで、ま、当然のことながらコロナに直撃されたわけですね。んで、なんのかんの延期延期が続き、いろいろと変更もあったんでしょう。とはいえプロダクションとして消滅することはなく、苦節3年遅れでやっとプレミアが出た、というお目出度い話でありまする。あ、前は「女性監督」と書いたけど、ものを良くご存じの方から「違うよ」というご指摘がありました。直しておきます。ありがとーございます。
https://opera.org.au/brisbane/ring-cycle/

豪州大陸とすれば、やくぺん先生が眺めた恐らくは最後の(ともかく《神々の黄昏》という作品がどうにもダメなんで、どうしてもチクルスをジークフリートとブリュンヒルデの二重唱で終わらせてしまうのであーる)《リング》チクルスになっている2016年のインキネン指揮メルボルン以来、大陸で3度目の全4作ステージ上演だと思います。なんで世界文化遺産のシドニーオペラハウスでやらんのか、と思う方も多いでしょうけど、話は簡単。あそこ、ピットもステージも狭すぎる欠陥オペラハウスなんねん。どーせこの大陸でオペラやっても客なんてそんないないでしょ、って考えで客席ピット含め小さめに建設してしまったけど、世界文化遺産だかになったんで改築出来ん、という本末転倒なことが起きてるんだわさ。オペラ・オーストラリアのディレクターさんも頭抱えてましたっけ。いやはや。

もといもとい。で、この新演出ですが、ぶっちゃけ、インキネン様がやった奴とはまるで別物のようです。メルボルンの舞台は、音楽的にははっきりと21世紀指向の、この作品のリズムの複雑な仕掛けなんかがよーく見えるけど(《ジークフリート》でのマーラーっぽいポリリズムとか)、著名映画監督がやった演出はいろいろドラマとしてやりたい細部は判るが、デカいメルボルン・アーツセンターの巨大空間では伝えきれないという典型的な「映画監督演出家の失敗」という感がのこり、今ひとつ食い足りないなぁ、という印象の舞台でありました。音楽面はその後にインキネン様がバイロイトに乗り込み、どうやらヴァーグナー好きで人生を夏にかけてるドイツの田舎のオケの猛者共にイヤな顔されながらも自分のやるべきことをやりきって、ちゃんと評価されているようでよろしゅうございますですな(演出は、なかったことにしたいような酷いもんらしいけど)。

ぶっちゃけ、この1分のトレイラーを眺めれば、どんなもんか全部判る、って感じですわ。ほれ。
https://youtu.be/ARmrGo45Vlk?si=mLeKpvKhtvEkyrz_
前パブトレイラーでも、ステージの責任者さんが盛んに言うのは「巨大なスクリーンに投影されるヴィジュアル」で、やってることは極めて明快。オーストラリアの秋の初めに、猛烈に高い切符買って遠くからやってきた沢山の善男善女に喜んで貰う演出と割り切ったものみたいですから、これはもう日本の「悪い人達」を除くまともな音楽ファンには格好の舞台なんじゃないかしらね。

2度目のチクルスの《ラインの黄金》は今晩から始まっちゃうみたいだけど、最後のチクルスはまだ間に合います。さあ、LCCも飛んでますから、ジェット★でピューンとグアムから珊瑚海越えて、シーズンが始まるブリスベーンへどうぞ。

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

コンセルトヘボウのブルックナー・チクルス [音楽業界]

生存証明です。霜月は実質3週間のツアーがあり、コロナ禍明け後の数度の渡欧やらの結果、隠居前のような「移動しながらガンガン商売作文を入れる」というのはもう不可能と判断。結果、その間の〆切原稿をゼロにしたため、理屈としては2023年11月の収入はゼロ。その分を師走に入ってからここ温泉県盆地オフィスでのお籠もり作業にぶち込んだわけで、先週半ばにこちらに来てからは地獄のように淡々と作文作業を続けております。とはいえ、三十代から五十代前半みたいな「1日1本」なんてペースは不可能で、せいぜいがその半分以下ながら、ともかくご隠居仕事としては前頭葉と肉体が許すギリギリの生産量。かくて、無責任電子壁新聞などまるで手がまわっておりませぬ。思えばツアー中は、電子壁新聞作業が商売作文みたいになってたわけで、もうそんな無茶は不可能じゃわさ。

んで、半端な書きかけが溜まる一方なんじゃが、ともかく生きてますよ、と示す為の気楽なネタをひとつ。今朝方、なにやらリリースが送られて来た話。

来年2024年はシェーンベルク記念年というのは流石に存じていたが、どうやらオーケストラ業界ではもっとデカいネタがあるのですなぁ。そー、もうみんな知ってるのだろー、「アントン・ブルックナー生誕200年」でありまする。

んで、当然ながら、世界中のメイジャーマイナーアマオケ揃って、モダンオーケストラ・レパートリーの極めて重要な位置にあり、とりわけ1980年代後半以降のニッポンでは、某著名評論家が某指揮者&そのオーケストラを神の如く讃え一種の擬似宗教みたいに盛り上げ、何故かオッサン層に大人気の作曲家としてしまったブルックナーです、いろんなことが企画されてるんでしょうねぇ。知らんけど。

そんなブルックナー騒動イヤーの最初の一発、こんな案内が遙々アムステルダムから来ました。
https://www.concertgebouworkest.nl/nl/bruckner-cyclus

ある欧州系クラシック音楽サイトでは「世界一のオーケストラ」に選出されたこともある名団体が、記念年にちょっとだけフライングでまだ記念年前の今月17日を第一段に交響曲全曲演奏を始めますよ、という案内です。ま、ご覧になればそれまでなんだけど、ラインナップを引き写してみると…

12月17日:イヴァン・フィッシャー指揮 第3番(断片演奏でのサイクル導入レクチャー付き)
1月19日:チョン・ミョンフン指揮 第7番
5月2日:クラウス・マケラ指揮 第5番
6月20日:クリスティアン・ティーレマン指揮 第8番
9月27日:アンドルー・マンゼ指揮 第2番
10月3日:ヤープ・ファン・ズヴェーデン指揮 第4番
12月8日:ヴラジーミル・ユロフスキー指揮 第1番
1月17日:シモーネ・ヤング指揮 第6番
2月6日:リカルド・シャイー指揮 第9番

って、記念年を前後にはみ出てるじゃないかぁ。なんか、短期集中の「全曲演奏会」大好きなニッポン聴衆とすればちょっと肩すかしみたいな感じもするけど、現実的にはこれくらいのテンポでやってくれた方が良いのかもね。

ちなみに全曲セット券を売り出していて、定期演奏会とは別の「ブルックナー・サイクル」という事になるようです。「ブルックナーのシンフォニーは他のシリーズでもやりますよ」と注意書きしてあるのは、なかなか含みがあって興味深いですねぇ。

日本のマニアックな皆様からすれば、そもそも版はどうなってるんだ、9番をどうするんだ、なんでゼロ番やゼロゼロ番がないんだ、あれこれあれこれ、いろいろ突っ込みたいでしょうけど、これが生誕200年を迎え撃つ天下のコンセルトヘボウのやり方だ、ということですな。1番や2番に序曲付けるとか、《ヘルゴランド》やら《テ・デウム》やるとかもないし、なかなか潔いなぁ。ギリギリのところでマニアっぽくない、ってのが良いバランスですだわい。それにしても、ニッポンの熱烈愛好家諸氏のブルックナーに対する関心の特殊さが、世界の中でくっきり際立つ年になりそうだなぁ…

あちこちから既に来年度のラインナップが出てきている極東の島国のオーケストラだけど、どこかドカンとやるところはあるのかしら。妙に仲良しの関西のオケがみんなでチクルスやる、なんていかにもありそうだが…

シェーンベルク記念年も、せめてこれくらい盛り上がって欲しいものであるなぁ。

nice!(2)  コメント(3) 
共通テーマ:音楽

竹田版《蝶々夫人》はほぼ《お菊さん》であった [音楽業界]

昨日、ここ温泉県盆地から南に山越えて距離としては数十㎞の隣接市の市役所がある街まで行き、こういうものを拝見して参ったでありまする。
IMG_1590.jpg
https://www.city.taketa.oita.jp/glanz/koenjoho/kouenlink/1/2023nen/8821.html
市の文化振興財団が4年がかりでやってきたプロジェクトということで、それなりにしっかり情報発信もされているようで、こういうサイトもありまする。プロダクションの進行をSNSで市民納税者さんたちに見せていった、ということなんでしょうかね。
https://www.city.taketa.oita.jp/glanz/koenjoho/kouenlink/301/index.html

そんなこんな、舞台が出切るまでの経緯やらはそれなりの量の情報が提供されているようなので、気楽に実際に舞台を眺めた感想にもなってない感想を記しておきましょうか。なんせ温泉県の中では実質唯一の文化振興財団など公的な文化支援組織が一切ない文化果つる田舎たる由布市住民とすれば、なんとも羨ましい隣町の大きなイベントですからねぇ。

んでこの公演、岡城趾周囲に広がる竹田地区に人口1万1千人ほど、九州横断特急も停車するこの規模の街で公共ホールが主催する「オペラ」とすれば、充分に立派なものでありました。阿蘇越えて熊本方面から来る人がいたかは知らぬが、往来の豊肥本線には明らかに「グランツでやるちーちょーさんを観に行く」としか思えぬ乗客も、多くはないと言え乗ってはいたようでした(とはいえ、聴衆の9割以上が自家用車で来てるのは21世紀20年代の田舎の常識でありますな、公共交通機関を使う方が非常識という世界ですから)。それなりに集客の広がりはあったようです。今だから言うけど、数日前までは100枚売れてないという話さえ伝わってきて、これは人を連れて行かねばならぬのかもしれぬが、隣町とはいえ車でも山越え1時間半はかかる場所なんでなぁ…と思ってましたが、客席は平土間は埋まり、2階にも上から観たい人やホールが面白い子どもらが行っている、というくらいの充分な客の入りでしたので、関係者の皆様からすれば良かった良かったでありましょう。

「オペラ」というと初台やら上野文化会館やらNHKホールら2000席クラスの巨大空間でピットにオケがびっしり入って、とお思いになるかもしれませんが、実際は世界中のあらゆる場所でいろんな形で上演がされている。竹田市のような郊外含め2万人程度の規模の街でも、欧州では普通に劇場があり、オペラが上演されている。日本でも、最近流行の100人から200人のコンサートスペースで歌手とピアノでオペラ抜萃なり、編纂したものが上演というか演奏されることも珍しくなく、東京首都圏中心部でも第一生命ホールさんが「室内楽ホールdeオペラ」シリーズやったりとか、Hakujuホールさんが大ホールで活躍する著名指揮者と歌手で「TRAGIC TRILOGY」なる極小編纂ものをやったりとか、いくらでも行われておりますな。「オペラ」って、案外、やられ方は多様なんですわ。

そういう視点からすれば、この竹田版「マダム・バタフライ」という舞台は、もうしっかりとした「オペラ」上演でありました。無論、ピットに数十人のオケがいるわけではなく、舞台の真ん中奥にRentaro室内管さん15名が陣取ってます。舞台上手には畳と障子の日本家屋を切り取った小さな舞台が据えられ、オケの後ろには合唱が立つくらいのスペースがあり真ん中に空間が空いており、上手下手の他にそこからも出入出切るようにしてある。ま、毎年1本ペースで池袋が主導し気鋭の演出家が制作し全国数カ所のホールをまわっている奴とかと同じ、今時流行の「ホールオペラ」のやり方でありますな。それこそ、先頃初台の《シモン・ボッカネグラ》が話題になった前のアムステルダムの監督オーディがやたらとやりたがり、《リング》チクルスやら《アッシジの聖フランチェスコ》やら、はたまた《光》抜萃などでそれなりに成果を挙げていた「わざとオケをドカンと真ん中に置き、跨ぐようにいろいろ舞台が展開する」ってやり方の、コンパクト版でありまする。

とはいえ、若い演出家の泊氏は北九州芸術劇場拠点の方で、演劇だけではなくパーフォーマンスの演出などもなさっているということで、そんなオペラ系の試みの延長ということではないみたい。この舞台の最大のポイントは、なんといってもプッチーニの音楽を用いつつ、一部の配役を歌のない台詞役者に置き換え、要は「オペラ・コミーク」型にしている、というところ。主役級はこの作品をレパートリーにしている歌手さんですが、ゴローはテノールではなく、演出家さんが北九州で率いる劇団の役者さんで完全に台詞役。実質上、レシタティーヴォに近い部分の多くを、歌手のパートも含め台詞に置き換えてます。そして、これは終演後に演出家さんに直接言いましたけど、普通の意味で音楽的な聴き所とされている「ハミング・コーラス」などがカットされてます。なるほど、合唱を地元のアマチュアの方が担当することを考えれば、奏者に過度な要求は極力避けるべきでしょうから、賢く勇気のある判断でありましたな。

演出家が台詞を書くということになるわけですから、当然ながら、台本にも手は加わっております。基本的な物語としてのプロットとしての最大の、最後のちょーちょーさんの自殺はありません。演出家さんに拠れば、これはプロジェクトの最初から竹田市側の要求だったそうな。そもそも作品が成り立つ背景が些か異なるものとなっており、音楽やら演出の仕方よりもなによりも、こここそが「竹田版」たる所以。ちょーちょーさんの物語を、「プッチーニの《蝶々夫人》のモデルは竹田出身のおかねさんで、晩年は故郷に戻り当地出身の軍神広瀬中佐とも交流があった」という竹田市民ならみんなそれが当たり前と思っている(チーフプロデューサー曰く)逸話の上に乗っけている。となれば、当然、自殺してオシマイ、というわけにはいかんですわな。こういうサイトもあります。

ぞんな視点からの「読み替え」ですから、例えば結婚式の場面でちょーちょーさんの関係者として田舎から出てくる人達は、みんな「西南の役で没落した岡藩は竹田の武家の娘おかねさんの親戚」です。んで、合唱団はこの日のために練習を重ねて来た市民であります。男声など若い人は一切おらず、大学オペラやはたまた二期会公演なんかでも違和感を覚える「おいおいこの町は若いもんしかおらんのかぁ」ってやつの真逆。でも、遙々長崎まで阿蘇越えて雲仙通って来るのだから、こういう顔ぶれになるのは当然だわな。ちょーちょーさんも、なんか竹田名物姫だるまっぽいし。それどころか、結納品を持ち出すときに瀧廉太郎の《花》が鳴っちゃったりするのは、流石にちょっとサービス過剰かしらね。

で、前述のようにピンカートンに息子を渡したあと、ちょーちょーさんは自害せずに、決然と舞台を去って行きます。客席がちょっと戸惑っているところに狂言回しをしていたゴローが出てきて、「さて、それから…」と後日談となり、故郷に戻り隠遁生活を送ったという伝説を語ります。最後は、竹田市民合唱団の真ん中にちょーちょーさんも登場、《荒城の月》を歌い上げ暗転(カーテンありませんから)、という次第。

なお、楽譜は一巻編成の編曲版ですが、ドイツなどの田舎の小さなオケで上演するために流布している既存楽譜ではなく、今回の上演のために演出家泊氏が拾った部分を福岡の末松誠一郎氏が編曲しているそうな。この類いの編曲だと現代音楽系の作曲家さんがやりたがる楽器の持ち替えやら打楽器の多彩な使用などはなく、極めてストレート。こういうやり方だとピアノにやたらと比重がいき、その異質な音色が目立ってしまうことが屡々ですけど、それは避けるやり方でしたね。お疲れ様です。

以上、竹田版ちょーちょーさん、1万人の街で「市民オペラ」としてプロの演奏家と地元で立ちあがったプロ室内管に、北九州の演出家チームが加わり創られた、演奏会形式とはまるで異なる、正に総合芸術としての「オペラ」でありました。なによりも印象深かったのは、こういう形でもしっかり人を泣かせる力があるプッチーニの楽譜の強さでありましたです。バッハとは言わぬが、プッチーニってオーケストレーション取っ払ってもこんなに強い音楽だったんだなぁ、へええええ。

コロナ禍を挟み数年かけ、いろんな準備を重ねて竹田市民に竹田市なりの「オペラ」の舞台をきっちり観せたこの公演、納税者も納得したんじゃないでしょうかね。では、大拍手。
IMG_1596.jpg

ここまでまだ読んでる酔狂な「悪い人たち」なら既にお判りのように、この舞台、どう考えてもプッチーニの《蝶々夫人》じゃなくて、メサジュの《お菊さん》でやった方がええんでないかい、と感じざるを得ない部分はあります。この作品、やくぺん先生が葛飾オフィスを売り払い、でもまだ盆地での移転先がちゃんと決まらずに月島倉庫に仕事机持ち込んでなんとか生き延びていた頃、大川向こうの人形町でピアノ版で日本初演されてるんですよねぇ。
https://www.music-tel.com/NihonbashiOpera/archive/2021Okikusan/flyer.html
バタバタしてたときで、興味はあるが作品として俺には生涯関係ないわなぁ、と乏しいお財布も考えて見送ってしまった。今思えば、観ておくべきであったのぉ。

震災の後に新しいホールが出来、あちこちから関係者や音楽家が集まっていろいろ始まり、竹田以外では意味が無いとまでは言わないけど、竹田でなければ創れない舞台が出来て、なるほどこれがちょーちょーさんだよね、と納税者が思えたであろう、立派な舞台でありました。関係者の皆様、お疲れ様でしたです。さあ次は竹田版《お菊さん》、なんて無茶なことは言いません!

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽