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どうして遙かキューシュー島で… [音楽業界]

数日前に大きな噴火があったという桜島、昨日からはいつものように鹿児島市内からは右の隅っこ辺りから煙が上がっている毎度ながらの状態みたい。
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たびの空の温泉県田舎者には、よーわからんけどさ。

第49回目を迎える日本フィル九州ツアーも、キューシュー島首府たる麻生福岡帝国から始まり反時計回りに移動、最南端となる昨日の鹿児島公演で折り返し、裏九州たる日向灘側を北上、最後は久大本線長崎本線沿いに突っ切り千秋楽の佐世保に至ります。やくぺん先生ったら、コロナ禍に引退宣言をし拠点を温泉県大分の盆地に移した縁もあり、一昨年の再開以来近場の九州島北部地域は眺めさせていただいてたんだけど、今年は演奏旅行も本格再開。引退宣言撤回したこともあり、もうこうなったらいちど全部付き合うか、ってなわけでぇ、全9公演追いかけている次第。

そもそもやくぺん先生、新日本フィルさんとは本拠地をすみだトリフォニーに移したときから13年間当日プロ執筆担当をしたり、佃からチャリチャリ行けてその頃の拠点たる佃と葛飾の真ん中にある錦糸町というがホームベースだったしたこともあり、いろいろご縁があったものの、ある時期から遙か東京の西に拠点を移した日本フィルさんとは…1980年代初めかなぁ、渡辺あけさんが復帰し、最後のシベリウス・チクルスを定期でやったとき(DENONが「世界で初めてのデジタル録音によるシベリウス全集」と煽ってボックスレコード作ったときでんな)に会員になったことがあるくらい。お仕事としても殆どしたことがなかった。

ところがどっこい、なんのかんので2011年3月の香港藝術節に日本フィルが出演するのに同行することになり
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2011-03-15
リーマンショック後のオーケストラ存続の危機に金融業界から乗り込んで手腕を発揮していた今の理事長さんたる平井氏が「オーケストラの運営の話にも珍しく興味を持ってる書き手」と思ってくれちゃったこともあり、オーケストラ団員やらからではなくそっち方面からの付き合いとなって、あとはなんのかんの。もうその頃はNJPの曲解仕事は青澤のたかあきら氏なんぞ若い人に渡していたし、そもそも「オーケストラ」というものには商売として付き合うつもりはない、ってか、敬遠してきたけど、まあこれもなにかの流れなんじゃろなぁ、と大植えーちゃんとの韓国ツアーに付き合ってまだピカピカのロッテホールの大盛り上がりを眺めたりもしたり。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2018-11-02

そんなこんなで、今、桜島眺めるの宿で宮崎への移動の準備をしているところなのであーる。

この日本フィルツアー、日本フィル4月の下野定期当日プログラムに「マエストロ下野故郷九州を駆ける(仮)」てな原稿を入れるのが直接のお仕事でありまするがぁ、勿論、裏の流れがある。ぶっちゃけ、『ゆふいん音楽祭~35年の夏』なる拙著と同じ関心なんですわ。その地域拡大版、かな。

コンサートホールにいらして音楽を聴くのを楽しみになさっているほぼ全てのファンにしてみればどーでも良いことなんじゃろが、このツアー、世界を見渡しても極めて特殊、というか、誠におかしなやり方をしているのでありまする。

当たり前のオーケストラ地方公演は、地方の音楽事務所やら労音や音協、民音などの鑑賞団体、最近では地方公共団体が税金で運営している文化財団、教育スポーツ財団、ホールの指定管理者、などが主催者。そこが何千万円だかでオーケストラ公演を買って、そこが責任をもってチケットを売ります。オーケストラ側には原則、リスクはありません。ま、個人のサロンでお金持ちがポケットマネーで出来る額ではありませんから、資本主義社会で生きる以上、当然といえば当然ですね。

ところがどっこい、この日本フィル九州ツアー、主催者は「●●日本フィルを聴く会」とか「××日本フィル実行委員会」とか、要は映画やアニメ制作なんかではお馴染みの「実行委員会」が主催者となっている。組織として法人格はどうなってるか知らんけど、あくまでも任意団体で、NPOやら社団法人ではありません。無論、公益財団法人なんてガッツリした組織であるわけはない。毎年の学祭やら町の神社のお祭りなんかを運営するテンポラリーな任意団体みたいなものが九州の特急が停まるくらいの各都市に存在し、そこが共同で連続する日程の演奏会を作って主催者となり、各地の公共ホールなどを借り、年に1度だけ日本フィルを遙か杉並から招聘、日本フィルも共催となって自分らのリスクでツアーを行う、というものであります。ま、お判りになる方はお判りになると思うけど、つまるところ「ゆふいん音楽祭」実行委員会と同じやり方、ローカルな年に一度のお祭りですわ。

そんなやり方には、利点もあれば、当然、問題点も多々ある。「誰もやらないことには訳がある」という有名すぎる格言そのまま、このような実行委員会連合形式でのオーケストラ招聘が他に例がない、少なくとも半世紀近く続いているなんてところは世界にも他にないのには、挙げていけばキリがないほどの理由があるわけですな。アートマネージメント専攻の学部生やら博士前期課程の諸君、さあ、明日までにその理由を最低3点挙げるレポートをやくぺん先生のところに出してくるよーにっ!優秀者には温泉県1泊無料宿泊を提供しよーではないかっ。「北海道、東北、中国四国で行われていた同様の地方ボランティア実行委員会主催形式の演奏旅行は全て無くなったのに、何故九州でだけ続いているのか?」に明快な答えを出せたら、生涯フリー宿泊を保証いたしますじゃ。

もといもとい。なんせ始まったのは1975年、初期の実行委員の核となったのはその2年前に日本フィルを解散したフジテレビに対し法定争議を行う旧組合を支援する放送労連だった、という経緯からお判り、正に『炎の第5楽章』の世界でありますわ。労音が支援、と思ってらっしゃる方も多いようですが、労音とは別組織で、もっと「職場内同好会」っぽいもんだったようです。

Z世代以降の若いニッポン国民には想像を絶することかもしれませんけど、遵法闘争スト権ストで「組合は日本国民の敵」という印象操作を完成させつつあった1970年代前半から半ばのニッポン社会にあって、未だに「マスコミ」は資本や国家権力の敵。テレビアナウンサーが政治家になるときは、野党からの立候補が当たり前。90年代以降「楽しくなければテレビじゃない」になってからの与党自民党を支える勢力としての大手マスコミ(今時のSNS言葉を使えば「マスゴミ」でんな)となる以前の、遙かな昔話なのじゃよ、若い衆。

事の経緯はどうあれ、時流れて日本フィルの争議は和解し、「裏切り者のオザワ一派が出ていった後のオケを救ってくれた創設者の渡邊あけさん」なんてまた別の神話でカバーアップされ、今や現場ではそれすらも忘れられつつある2024年の春節今日この頃。ゆふいん音楽祭とほぼ同じ、ってか、全く同じ時期に始まったイベントの半世紀をどう評価し、未来に繋げていくか、はたまた繋げる必要なんてないのか?人生最後の10数年をキューシュー島ベースに過ごすことになりそうなやくぺん先生とすれば、お世話になる土地への税金みたいなものとして、眺めていくべきなんじゃろなぁ…ってことなのでありますわ。

こういうイベントの空気は、実は演奏会の会場だけでは全然判らない。ゆふいん音楽祭でいろんなものがぶっちゃけ見えるのが、演奏家と実行委員らが入り乱れ本音飛びまくる連夜の酒席だったように、終演後の交流会を眺めるしかない。ところが、コロナ禍で中止欠番になった2021年以降、インキネン来日不可能で代打若手で切り抜けた22年、広上指揮でまわったとはいえまだまだ恐る恐るの感は否めなかった2023年と、終演後の無礼講交流会は開催されておりませんでした。カーチュンでまわる予定という来年の50年記念ツアーを前に、やっとホントの雰囲気を眺めるチャンスが至ったわけで、これは付き合わないわけにいかんでありましょう。昨晩の鹿児島は宝山ホールから徒歩数分、やっと到着したマエストロに盛り上がる交流会、この先、何時まで続いたんやら…
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ま、この取材を日本フィルさんの仕切り以外の形でどうまとめ、どう出していくのか、なーんにも考えてないんだけどさ。

今、霧島の山麓を抜け都城に到着。ここからはまた、別の世界が広がる。キューシュー島はひとつの島じゃなく、山で隔てられた離島の集まりみたいなものじゃからのぅ。

さて、電池があるうちに、昨日の取材メモを整理するか。なんせJR九州さん、車内に電源があるのはシンカンセンだけですから、ふうううう…

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連休前の秋吉台コンクール [弦楽四重奏]

本日は日本フィル九州ツアー同行も移動日でお休み。温泉県盆地で洗濯やって連絡作業や日程調整など自分の秘書仕事して、ホントは今日中にやっつけてしまいたかった商売原稿にはやっと昼過ぎに着手。日が暮れた現時点でまだ半分くらいしか出来てないけど、明日から週末までの南九州ツアーの移動中にやれるところまでの目安は立ったので、まあなんとかなるじゃろ。なんせ九州新幹線、車内でネット繋がるからのぉ…アッと言う間じゃけどさ。

さても、年明けから春節までのアジア滞在、今の九州ぐるり周遊なんてバタバタ動いている間に老人に残された貴重な時間がアッという間に経っていき、そろそろ連休明けから室内楽お庭くらいまでの日程はある程度は決めんといけん状態にっておるわい。そんな中で、どうしようか頭を悩ませるのが、これでありまする。
https://aiav.jp/22075/

前回2019年に開催された弦楽四重奏部門では、QインテグラとほのQが優勝を分けるという今となって振り返れば荒井審査員長以下、なんとも先見の明がある結果を出していたこの国内大会でありまする。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2019-04-28
「外国から来ちゃダメ」とは言ってないけど、メイジャー国際大会のような外国からの参加者を前提にしいろいろな準備がされている大会ではない所謂ナショナル・コンクールでありながら、ニッポンローカルなターゲットとして唯一きっちり機能しているので、いかな最前線は退いたとはいえ、温泉県盆地の隣の隣の県での開催、今回も当然関心はあるのだけど…

なんせ日程が翌日からレオンコロQツアーが始まる連休直前、既にそっちに向けていろいろと移動の準備をしてしまっている。それよりもなによりも、アジア各地で刺激を受けた愛するお嫁ちゃまからも尻を叩かれ「引退宣言」は撤回したものの、だからといってこの先の命が延びる保証が出来たわけじゃありゃせんわい。今、インテグラやほのよりも若い団体を新しく見ていっても、彼らがやっと「国際舞台」やら「弦楽四重奏としての本格的な活動」の入口に辿り着く頃までも見ていけないことは明らか。それだったら、キッチリ眺めていくのはレオンコロの世代までとスッパリ諦め、結果は審査委員さんからちょちょっと話を聞くくらいに止めて老害振り撒かぬようが潔よかろうに…と思う反面、温泉県から距離にして200㎞くらいのところでやってるのに知らんぷりするのもなぁ。うううむ…

時期も場所も見物に行くにはなかなか難しいでしょうが、このジャンルにご関心のある方、是非、連休前の秋吉台へどうぞ。審査委員は信用出来る人ばかりですから、セミナー含め、興味深いと思いますよ。

なんのかんの、1日くらい顔を出してしまいそうじゃのぉ…

[追記]

結経、某専門誌の依頼を受けて、22,23日のコンクール部分だけを見物に行くことにしました。25日は大分発3時45分成田行きというフィックス航空券があるので、朝っぱらに秋吉台を出て延々と温泉県に戻らにゃ並んです。典型的な安物買いの…でありまするな。ほんと、爺になってもアホじゃ…

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訃報:パイオニアSeiji Ozawa [演奏家]

先週、シンガポールのヨン・シュ・トウ音楽院ホール客席で、たまたま小澤征爾氏が話題になった。話し相手は、マレー連邦から切り捨てられるように独立させれる前、黎明期からのシンガポール音楽界をほぼひとりで支えたヴァイオリニスト兼プロデューサーの娘さん。無論、わしらと同じくらいのいいお歳のおばーちゃんなわけで、当然ながら爺婆夫妻との昔話になる。お嫁ちゃまが「この人、SeijiがNHKとシンガポールに来たときの資料を探しに、国立図書館に通ったことがあるんです。ええ、ストレーツ・タイムズしかないですけど(笑)…」って話を振ると、あの演奏会をこちら側で仕切っていたのが父でしてね、って。あの頃は日本側の記事ではどれもこれも「クアラルンプールは英国風の都会だが、シンガポールは暑いばかりで酷いところだ」という愚痴ばかりでしたよ、40度くらいの体育館みたいなところでの演奏会で…どうこうどうこう。

でもね、あの演奏会が、シンガポールでアジア人がやる最初のオーケストラだった。それからずーっと、あの時の若い日本人指揮者がドンドン偉くなって、シンガポールには全然来なくて…

※※

ゆふいん音楽祭元実行委員長の加藤氏から聞いた話。

まだこの盆地に辿り着く前、若い画家の加藤氏がパリでフラフラしていたとき、小澤征爾という若い日本の指揮者が初めてパリのオーケストラを指揮することになった。出かけた加藤氏は、オーケストラ団員の何人かが演奏を拒否して下りた、という話を聞かされたという。指揮者氏がどういう反応をしたのかは、若いニッポン人のヒッピーなんぞの知るところではない。

※※

あまり知られていない事実かもしれないけど、この春節明けで51回目を迎える香港芸術節の第1回、開幕いちばん最初のオーケストラコンサートは、小澤征爾が指揮する結成されたばかりの新日本フィルだった。小澤氏が日本フィル組合メンバーの裁判路線に乗らず、無理をしても「日本の自分のオーケストラ」を作る必要があったのは、新たに誕生したフェスティバルの開幕を「世界的に最も著名な中国出身のアジア人指揮者」が勤める必要があったからなんじゃないかと思っている。何の証言もない勝手な憶測なんだけど。

無論、まだご健在な当時の老ディレクター女史を含め、誰もホントのことなんて言わないだろうけどさ。

※※

夕方過ぎに訃報に接したときから、萩さんが作った「北京にブラームスが流れた日」の最後で鳴っていたブラームス第2交響曲終楽章、あれをずーっともう一度、ちゃんと聴いてみたいとばかり思っている。

海賊盤だか正規盤だか判らないけどレコードがあるとは昔から聞いていて、北京や上海にレコード屋があった頃は、まさかと思っていつも探していたのだけど、とうとう一度も出会ったことはない。どういうわけか、ブラームスの2番というと、小さなテレビの画面から流れたあのアヤシげな録音のあの演奏しか頭に浮かんでこない。映像を収録していたのは、実相寺さんだったんだろうなぁ。

恐らく、あのオーケストラでは、イーウェン・ジャンのお母さんなんかも弾いているんじゃないかしら。あの北京のブラームスと、アイザック・スターンの上海でのマスタークラスで、中国の蓋が開いた。そして、上海Qやらが世界に出てくることになる。そこから先は…

※※

「歴史的にスゴイことをしたパイオニア」とは、普通に歩いているだけであちこちでその人の影が見えてしまう人。この人がいなかったら、今の東アジアの音楽の世界は全く違うものになっていただろう。そういう人が、本来の職たる音楽家としていちばん力がある頃に、お嫁ちゃまと一緒にそれなりの時間を共にできたんだから…ホントに幸運としか言いようがない。

ありがとう御座いました。

日が変われば、東アジア世界での新しい年の始まり。そして、オザワと袂を分かった団員達を放送労連らが支援することで始まった九州ツアーも、明日開幕。マエストロ下野のツアーに同行するのは、カーネギーでサイトウキネン管のポディウムを小澤氏と分けるのを眺めて以来、かな。

[追記]

2月11日付けで、日本フィルからこのようなリリースが出ました。PDFで貼り付けます。
【訃報 小澤征爾氏】 _ 日本フィルハーモニー交響楽団.pdf

実質半世紀、ニッポンのオーケストラ界という狭い狭い場所とはいえ、ひとつの時代が終わった感がありますね。無論、今やオーケストラ事務局にも団員にも、現場での「わだかまり」を抱えている人なんてひとりもいなかったとはいえ。

『炎の第5楽章』って、品切れなんだ…
https://japanphil.or.jp/node/23780

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祭りの終わりと次の祭り [音楽業界]

旧正月まで1週間、赤い点みたいな南の島の小さな先進都市で21年ぶりに開催された室内楽に特化した音楽祭、最後の演奏会のプレコンサート金管五重奏が始まる直前は、この島の雨期の終わりらしく夕方の驟雨がヨン・シュ・トウ音楽院周辺を襲ったものの演奏開始頃に雨も上がり、摩天楼立ち並ぶ大都市風景の上に大きな虹がかかる。
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参加した11歳から70代までのプロアマ演奏家28団体100名以上の中から選ばれた3団体(11歳の天才少年率いるピタゴラスQ、21年前の音楽祭での教育セッションに加わっていたヴィオラさんを含む地元団体、ヨン・シュ・トウ音楽院を出て地元でいろいろな活動をしていて今回の音楽祭を機にジュロンQと名告ることになった若いプロ団体)、遙々オハイオ州はオーブリン音楽院から学生ゲストのような形でやってきたパンダンQ(メンバーのひとりが日本とハーフのシンガポール人とのこと)が成果発表を行う「教育セッション発表会」と、タンQの創設からチェロを弾き今やバロックチェロから現代音楽までこの島での室内楽には不可欠な存在たるレスリー・タンの芸達者が光るシュニトケのピアノ五重奏までが前半。

後半は、この島でほぼ唯一真面目に室内楽をプロモートしたいと考えている「ストレーツ・タイムズ」誌(さしずめ読売朝日日経全部合わせたようなこの島の最大にして唯一のメディア)に演奏会批評を書く評論家にして音楽プロデューサーのメルヴィン・ベン音楽祭監督
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https://www.sgchamberfest.org/message
とは盟友で、「まだシンガポールには機が熟していなかった」と監督が反省する前回のフェステイバル実現でも尽力なさった英国在住のシンガポール出身重鎮ピアニストのトー・チー・ハン女史が、この島始まって以来のピアノトリオ再現と絶賛の嵐となった初日の葵トリオ演奏会ですっかりお気に入りになった我らが秋元氏とドヴォルザークを4手で共演、我らがオンちゃん率いるコーチングスタッフチームのブラームスのピアノ四重奏曲第3番、そして最後はコンコーディアQに葵トリオ弦楽器らが加わるメンデルスゾーン弦楽八重奏終楽章で、100名近いシンガポール、マレーシア、インドネシアからの参加団体メンバーも座る客席もステージも大いに盛り上がる大団円となりましたです。
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ベン監督に拠れば、演奏会4回で動員人数は1000人を越え、参加者総数はセミナーや先生含め100数十名という、建国半世紀とちょっとの国で行われた室内楽イベントとしては空前の規模となったとのこと。地元の演奏家達も、葵トリオやオンちゃんなどバリバリ現役の室内楽のプロと接することで大いに刺激を受けたばかりか、国際音楽祭のメインゲストなどという重鎮を初めて務め見事に期待に応えた葵トリオもとしても、いろいろ考える多かったとのことであります。

30年前にシンガポール響のメンバーだったタンQが本格的に活動を始め、20年前に国立のエリート学校ヨン・シュ・トウ音楽院が出来て室内楽を教えられる先生が訪れるようになったとはいえ、常設の室内楽シリーズがあるわけでもなく(エスプラネードの向かいのヴィクトリア・コンサートホールで開催される室内楽シリーズは今はシンガポール響の仕切りとなっていて、所謂著名常設室内楽団体は年に1度訪れるくらい、次回は5月のパヴェル・ハースQです)、まだまだ演奏者も「室内楽をどうするのか」手探り状態を抜け出したところ。首都圏や関西圏の学生達とは違って(首都圏の音大大学院レベルの弦楽器奏者なら、メンデルスゾーンの八重奏を一度も弾いたことのない奴など、絶対にいないでしょう)、そもそもプロレベルの室内楽を人前で披露する機会がさほど多くはないレッド・ドットの島でどうやって室内楽の経験を積んでいけばいいのか、この先の課題は大きいとあらためて分かった、正に虹に向かって歩み始める最初の一歩でありました。

経済的にも、民間非営利団体がアーツカウンシルからの支援を受けるイギリス型の支援で成り立っているシンガポールの音楽界、2年後に予定される次回の音楽祭に向けて、監督は早速お金集めに走らねばならない。それだけではなく、今回の葵さんたちが与えたようなインパクトを与え、そしてシンガポールの若者達と一緒になってやれるアジア圏の若きプロ室内楽奏者がどこにいるのか、それも探さなければならない。

てなわけで、まだまだお手伝いすることはありそう、隠居宣言撤回せざるを得ない爺なのであったとさ。ま、全ての室内楽コンクールに顔を出すという第一線仕事は頼もしい後続者に任せ、ヒコーキで2時間程度のキューシュー島から半島やらもちょっと近い南の島を眺めるのが、やくぺん先生の人生最後の本来業務になるのじゃろかな。その意味では、今年のレッジョは行かなきゃならんのじゃろが…ううううむ。

ま、先のことは先のこと。かくて、ネットも繋がる深夜1時20分発のシンガポール航空深夜エアバスはかた号は、キューシュー島首都の板付に向けてマレー半島先っちょからブルネイ沖に向け鋭意飛行ちゅーでありまする。
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朝に到着し海胆頭で温泉県盆地に荷物を降ろしたら、月曜午後にはまた福岡にとって返し、ヴィーンで学んだ九響連中を中心とするUNO弦楽四重奏団のクライスラーを聴きに行かんと。

なんだか結果としてまだまだやんなさいと尻を叩かれ現役復帰宣言をさせられに来たような、2024年グレゴリオ歴新年旧正月前の南の島のたびの空でありました。

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別府は巨匠達の室内楽大会 [音楽業界]

1月半ばからの常夏の世界での久しぶりに現場密着、周囲の色々な人々に気を遣う現役仕事に近いことをやってたうちのお嫁ちゃまがとうとう一昨日以来沈没、本日はオーチャード通りを延々と島の内側に向けて半時間も歩いたところのJapan Creative Centreというところを会場に葵トリオの演奏会があるのだけど、どうもダメそうで、婆さんはアパートで寝かせて爺だけが顔をだすことになりそうじゃわい。ま、バリバリのマネージャー氏が頑張ってくれるじゃろて。

半月以上の南洋ツアーもいよいよこの週末まで、いかな爺たりとてそろそろ桜が咲く時期から先の日程なども考えないとマズいわなぁ、と思いながらお嫁ちゃまのためにインスタントカップお粥の準備をしてたところへ(カップの封切って、お湯沸かすだけじゃが…)、由布岳の向こうは別府から「今年の音楽祭の内容発表がありました」というリリースが来ました。

昨年はアルゲリッチ&チョン・キョンファの初顔合わせというスーパーイベントがあったけど、大阪のコンクールに張り付いていたので全く顔を出すことも出来ず、別府の奥座敷の更に奥に蟄居する隠居宣言撤回爺とすればちょっとマズいなぁ、とは思っていた。なんせ、マルタ&キョンファという超スーパーデュオなのに、どうもニッポンの音楽業界では不思議な程に話題にならなかったようなので(正真正銘別府でただ一度だけの顔合わせでチケットがほぼ瞬間蒸発、別府大分の人も手に入らなかったプラチナ券になってしまい、東京の評論家メディアまでとてもじゃないがまわらなかったようじゃわい)、会場入口バス停まで直行する路線バスで50分山越えするだけの場所に居る身としても、せめてもうちょっと世間に告知するくらいの協力はせにゃならんじゃろて。

てなわけで、以下が本日発表された今年の「別府アルゲリッチ音楽祭」の全プログラム。ほれ。
https://argerich-mf.jp/2024-mf-schedule
こっちは公式チラシのPDF
https://argerich-mf.jp/wp-content/uploads/2024/01/2024MF_reaf.pdf

今年の目玉は5月17日金曜日の晩、別府では王道の顔ぶれ、「アルゲリッチ&クレメル&マイスキーのピアノ三重奏」の堂々復活でありますな。演目は、いつものショスタコの2番のトリオではありますが。
https://argerich-mf.jp/program/2024ensemble_masters
で、続く日曜日19日には、マルタ&ギドン二重奏もありまする。
https://argerich-mf.jp/program/2024argerich_kremer
それにしても、メインがヴァインベルクのソナタ第5番なんだなぁ。グレメル様、一昨年だかの金沢でもヴァインベルクをメインに据えた演奏会をやってたし、いよいよ6月には溜池の室内楽お庭でもダネルQが6番だかを披露するし、この「ソ連のシューベルト」たる作曲家さん、少しは人口に膾炙するようになったのでありましょうか。

やくぺん爺ったら、このところ葵さんの「1曲作るのに数ヶ月練習するのが基本」というキッチリした室内楽ばかりを聴いているので、世界のスター巨匠さんたちの一期一会的な合わせというのは新鮮でもあります。ともかくスケール弾いただけで世界を作れちゃう人達が集まってくるんだから、どういうことが起きるにせよ、ただ事ではないでありましょうぞ。

こういう室内楽が、由布岳の東では奏でられている。分水嶺越えた西側の盆地でも、趣が全く違う音楽が夏の盛りに鳴る予定ですので、請うご期待。

…って記して、あれ、と思ってチェックしたら、アルゲリッチ&クレメル二重奏の前日18日の午後5時から、仁川アーツセンターでパヴェル・ハースQがあったじゃないかぁ!うううむ、日曜日は仁川大分便はないし(あっても間に合うかギリギリの時間だしなぁ)、朝一仁川発福岡便で板付に到着してソニックで吹っ飛んでくればギリギリ間に合わないでもなかろうが…うううううむ、困ったなぁ。なんせパヴェル・ハースQのアジア公演、コロナ期の埋め合わせらしく仁川とシンガポールの2公演、それもシンガポールは乗り打ちみたいな無茶なツアーで、他では全然予定されてないんだわなぁ。ううううむ…

ちなみにアートセンター仁川は、こんな場所。仁川空港の西側滑走路に南側から着陸するとき、右窓側に座っていると見えますよ。
https://koreajoongangdaily.joins.com/2019/11/14/features/Incheon-welcomes-the-worlds-top-talent-The-cuttingedge-Art-Center-Incheon-aims-to-become-an-elite-destination-for-the-performing-arts/3070313.html
完全に狙ったアイコニックな建物だわなぁ。ビーコンプラザも他人のこと言えんが、あの場所では…

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人事異動:エベーネQ [弦楽四重奏]

日本時間の昨日午後7時過ぎという不思議な時間に、ジャパンアーツさんからの速報メールという形で公式リリースがありました。以下、昨晩中にジャパンアーツの公式ニュースページにも同内容がアップされているようですので、そっちを貼り付けておきます。
https://www.japanarts.co.jp/news/p8361/
なお、日本でのマネージャーのメロス・アーツさんからは関係者向け告知は来ていませんけど、同社ホームページは昨晩中に新しくなってます。
https://www.melosarts.jp/melos-arts/foreignartist/QuatuorEbene
https://www.melosarts.jp/news/20240131

無論、彼らの公式ページも新たな写真になってますし
https://www.quatuorebene.com/
いちばん対応が遅れていた感じがあるジメナウアーのページも深夜過ぎには新しくなりました。それにしても、若社長になって、随分空気が変わりましたねぇ、この「世界の弦楽四重奏界のラスボス」会社も。指揮者や歌手までやってるじゃん、最近は。
https://www.impresariat-simmenauer.de/
で、このジメナウアー事務所が出している2ページのPDF公式リリースが最新のエベーネQバイオということなのでしょうから、英語版をまんま貼り付けておきます。バイオというのはこういうものだ、というお手本みたいなものですな。最近の英語圏のチャラチャラした「はーい、みんな元気」みたいなもんとは違う、王道のプロフィル。
https://www.impresariat-simmenauer.de/wp-content/uploads/2018/07/2023-2024_QE_BIO_EN_New.pdf

ちなみに、演奏会告知はほぼ日本以外の公式レップのジメナウアーがいちばん判りやすい。こんな感じで、新生エベーネ、ラジオ・フランスの制約があれこれあるパリ以外では合衆国ツアー含め、滅茶苦茶忙しいなぁ。
https://www.impresariat-simmenauer.de/kuenstler/quatuor-ebene/

今回の人事異動でいちばん心配なのは、やはりコーチングの部分でしょう。ミュンヘンの音楽院のエベーネ教室って、マドリードのピヒラー教室みたいな「学校の中にある私塾」みたいなものなのか、それとも大学組織の中のファカリティとしてのポジションなのか、当人らに訊いてみないと良く判らんからいーかげんなことは言えませんが、なんせ岡本氏よりも歳がいった韓国の弾けるおねーさんなんぞがジャブジャブ集まってるわけですから、そこでいきなり「教える」ってのは現実的ではないでしょう。ここは学校と交渉して、レッスン期間中はチェロは別行動、ってことになるのかしらね。ラファエルの個人発信を見ていても、彼が昨年秋から盛り上がっている新任地ジュネーヴから教えに来ている、って感じはないですし。

現実問題として、今、ツアーだけで生活が成り立つ「常設」弦楽四重奏は世界に存在していません。「常設弦楽四重奏」は、敢えて言えば、愛好家の皆様に夢を与えるための幻想です。どこもいかに安定した教職ポジションが得られるかが存続のターニングポイント。中にはフェスティバルのディレクター職なんてのを上手に獲ってくる連中もいるが、それはまた別の才能ですからねぇ。メンバー交代と教職の問題は、現実的にはいちばん大きな課題なんじゃないかしら、あれこれの事例を眺める限り。

ま、そんなのいずれご本人らに尋ねればいいことで、とにもかくにも、以上のような人事に決定しました、ということ。日本は来年冬の終わりにベルチャとのオクテット、岡本氏情報が既に業界内ではあれこれと流れていた時点で某ホールのディレクターさんから「うちは買ったよ」という話は聞いてるけど、この新しい状況を受けてザ・シンフォニーホール級の大規模会場が手を上げてくれると良いんですけど。現役バリバリの横綱揃い踏みのベルチャ&エベーネで400席やら700席では、流石にこの業界、寂しすぎる。なんせお隣半島では、来月頭のノヴスQなんて、地味地味なオールイギリス作品プロでソウル・アーツセンター大ホールなんだからなぁ。

音楽の中身に関してですけど、やくぺん先生ったら、去る11月のヴィーン・コンツェルトハウスでの「エベネ&ベルチャ・シリーズ」で披露したシューベルトの大ト長調は、客席に鎮座していたピヒラー御大が第3楽章トリオで頭を抱えて感極まっているのか、はたまたその真逆なのか、まるで判らぬ反応だったのを遠くから眺め、おおおおやるじゃないか、と大喝采のホールで驚嘆しておりました。
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そんなことよりもなによりも、現役でも数少ないホンマモンの「天才」タイプのピエールが、久しぶりに自在に振る舞い、自分のやりたいことがやれている感が漂っていて、あああ誰にとっても大変だろうけど(誰になっても大変だろうけど、が正しいかな)もしかしたら岡本くんでいけるかな、と思っていたもので…良かった良かった、なんでしょうね。

弦楽四重奏ジャンルに関してはハーゲン&エマーソンで時間が静止しているニッポンの音楽業界、岡本ショックでやっと世界の常識に追いつけるかな。ベルチャの第2ヴァイオリンも韓国人女性になったわけだし、数日前に発表されたジメナウアーおばちゃんが審査委員長を務める来るボルチアーニ大会の参加者リストはなんと11団体中4団体が韓国という衝撃的な状況だし
https://www.premioborciani.it/quartetti-ammessi/
いよいよ室内楽もアジアの時代…だといいんだけどねぇ。

なお、このニュースに関しましては、諸処の事情から当無責任私設電子壁新聞としましても情報管理が成されておりました。関係者の皆様にはいろいろご迷惑かけたことを、この時点であらためてお詫びいたします。

[追記]

何の因果か知らんけど、ルクセンブルグ・フィルハーモニーさんから「こんなんあるぞ」という映像クリップが来たので面白がって貼り付けておきます…と思ったら、チェロはどっかでみたことあるような若い別の男子でありました。1月始め頃の収録。こんな断片映像でも、ピエールの切れっぷりは判りますね。やっぱりこの曲は「ベートーヴェンの弦楽四重奏全曲演奏を何度も繰り返している団体が、そのオマケみたいに地元オケに呼ばれて披露する」って曲だなぁ、と思わされますわ。
https://fb.watch/pYherxagKw/

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シンガポール室内楽フェシティバル2024折り返しへ [音楽業界]

なんのかんのバタバタしていてい当電子壁新聞も放置状態、ともかく、外は30度室内は20度の無茶苦茶な寒暖差の南の島で、生き延びてはいますです。嫁さんは昨日から酷いアレルギーにやられていてスーパーで買ってきたカップお粥しか食えん状態なんだけど、うううむ…

ヨン・シュ・トウ音楽院ホールを会場とする本公演は4つあり、うち、去る土曜日の葵トリオ、週末には参加28団体へのコーチング・セッションと、フェスティバルたけなわでありまする。昨日はヨン・シュ・トウ音楽院の各セクションのチーフ系ファカリティによる室内楽があり、本日水曜日は葵トリオさんは音楽院学生へのコーチングと、オンちゃん以下参加演奏家をバラバラにしてセッションするいかにもフェスティバル的な一晩。で、明日以降は土曜日のフィナーレに向けた練習などになりまする。ま、葵さんとすれば、その間にもシンガポールの日本商工会議所みたいなところでのクローズな演奏会があったりで大忙しなんですけど。若き日本の「音楽大使」っぷり、立派なものであります。

表のメディアに何か書く可能性もなくもないので、中身に関してはあれこれ言えないんで、ここで本日シンガポールの讀賣朝日毎日全部合わせたみたいなスーパー独占メディア「ストレーツ・タイムズ」に批評が出たのでそれを引用して…と思ったら、なんと有料記事しか見られなくなってるわい。残念ながらヘッドラインの写真は昨日のアンコールのものですが、ま、雰囲気だけ判っていただくために貼り付けておきましょか。
https://www.straitstimes.com/life/arts/concert-review-chamber-music-festival-s-successful-return-with-aoi-trio-and-pianist-ning-an

ちなみに「ストレーツ・タイムズ」の音楽批評は担当の評論家が2人で、そのうちのひとりがなんと音楽祭のディレクターさんご本人。「まさか私が書くわけにいかないけど、彼は悪いことは書かない奴だから」と苦笑しております。葵さん本番の写真などは、こちらの公式Facebookページからご覧あれ。
https://www.facebook.com/sgchamberfest
せっかくだから大盛り上がりの初日葵トリオ演奏会後、舞台裏にいらしたシンガポール日本大使夫妻と歓談する葵トリオさんの様子。
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ちなみにこのフェスティバル、当日プロはダウンロードのみで、ここからでも問題なく拾えちゃうんじゃないかな。本日は元マレーシア・フィルの首席オーボエだったヨン・シュ・トウ音楽院の先生にオンちゃんや元タンQの創設チェロのレスリー・タン氏らが加わるモーツァルトと、コンコーディアQという今のシンガポールでいちばん若い世代でアメリカに勉強に行ったりもしている奴ら(日本ならタンQがエクで、コンコーディアQがQアマービレとかQインテグラとか、って感じの位置付けかな)、それに葵さんが絡んでくる、いかにも「フェスティバル」ってプログラミングですな。
https://www.hopp.bio/scmf2024?fbclid=IwAR0EjzmtQT6CWoh5VfLjvycqiL7-Rs3ToFKX3cedvdZF-vvp9uEWbCAggsc

とはいえ、どんなもんか最低限のことくらい記しておけば、終わった二つの演奏会は「室内楽」のあり方として両極端にあるものでありました。

なんせ我らが葵トリオは、1曲を仕上げるのに数ヶ月、年間レパートリーを作ってそれを組み合わせて活動していく、という典型的な「常設」団体。それに対し、昨日は全員が中国大陸出身の音楽院の先生のアンサンブル(無論、いつも一緒にやってるようで、録音なんぞもいろいろあるようです)、ピアノのアン・ニン氏は北米でキャリアを作りピアノ科准教授に新任となってのお披露目でもあり、ヴァイオリンのチェン・ジュウは音楽院創設以来の弦楽器科主任で「世界一優勝賞金が高額」で話題になったシンガポール国際ヴァイオリン・コンクールの芸術監督兼審査委員長、ヴィオラのゾン・マンチェンはデトロイト響ヴィオラ副主席からシンガポール響首席、チェロのリーウェイ・キンはチャイコフスキーの入賞者でリンカーンセンター室内楽協会でも弾き日本でも知られている名前。要は、今のこの島で「室内楽やるぞ」と言ったらもうこれ以上のメンツはない、という人達ですわ。さしずめ日本なら…ううむ、堀米ゆず子、店 眞積、山崎伸子、江口玲、って感じのメンツかしらね。

で、その経歴からも想像が付くように、葵さんの作り込んだ精密な音楽に対し、パワーをフルにぶつけ合うアメリカンな熱い室内楽が展開されましたです。シューマンの詩情はどこに、なんて言っても仕方ない、そういうもんじゃないものをやってるんだからさ。

この二つの演奏会を聴いた「弾く」という意味では滅茶苦茶達者な世界から集まった学生たちは、どんな風に感じたのでかしら。今日の葵トリオの学生セッション、お嫁ちゃまの体調不良で覗きに行けるかわからんのじゃが、どれくらいのギャラリーが押し寄せるやら。

かくて20年ぶりのシンガポール室内楽の祭り、広く、とはいえないけど、深く盛り上がっておりまする。今日は流石にムリながら、土曜日の夜は日本からもまだ全然間に合いますよ。スコールが連日続く先週の荒れた陽気も収まった、ニッポン列島の初夏くらいの南の島にいらっしゃいな。

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16年バンフ組のリユニオン~シンガポール室内楽フェスティバル初日 [弦楽四重奏]

ディレクター氏に拠れば実質上20年ぶり、敢えて言えば第3回目開催となる「シンガポール室内楽音楽祭2024」の公開イベントが、昨晩のヨン・シュ・トウ音楽院ホールでのジョナサン・オン氏がふたつの若い弦楽四重奏団を指導するワークショップで始まりましたです。
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https://www.sgchamberfest.org/academy-series/quartet-demonstration-jon-ong

当電子壁新聞を立ち読みの酔狂な方ならご存じかも知れませんが、ヴェローナQ第1ヴァイオリンを務めるジョナサン・オン氏
http://www.veronaquartet.com/
通称「我らがオンちゃん」はシンガポール出身。前々回のアルカディアQが勝った大阪国際室内楽コンクール&フェスタの弦楽四重奏部門で旧名称ヴァスムスQとして参加し第3位となり、その後のロンドン・ウィグモアホール・コンクールでは第2位
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2015-03-29
そのまた後のメルボルンでは第3位
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2015-07-18
ってな調子でじっくりと成長を重ね、翌年のバンフを最後にコンクール時代を終えて「北米のレジデンシィを求めて彷徨う若人」になった。ちなみに彼らが最後にコンクール参加したバンフ大会には、日本ではエク以来の参加を許されたQアルパもいたわけでしてぇ、そー、正にこのアルパの第1ヴァイオリンとチェロが核となって葵トリオとなり、「弦楽四重奏を本気でやってて弦楽器ではないと不可能なレベルの室内アンサンブル」をウリにミュンヘンARDコンクールのピアノ三重奏部門で優勝を果たしたわけですから、なんのことはない、このフェスティバルのメインゲストって、みんなバンフ2016年組とも言えるわけじゃな。
https://yakupen.blog.ss-blog.jp/2016-09-03
ちなみに、今となったからハッキリ言うけど「ロルストンQを勝たせるための大会」だったとしか思えぬこの年のバンフ、全く一緒の時期にミュンヘンARDの弦楽四重奏部門をやっており、北米大会VS欧州大会という様相となってしまい、北米にはアルパ、欧州にはアマービレが参加して…という興味深い年だったわけですな。

で、あれから8年、ヴェローナQにとっての最大の転機は2019-20年のシーズンからオハイオ州のオバーリン音楽院のアーティスト・イン・レジデンスのポジションを得たこと。正にコロナ禍が勃発する直前に大学レジデンシィという安定した場所を獲得出来ていたために、コロナ禍でも生活と練習が出来、問題なく活動が継続出来た。オンちゃん自身、この状況はもの凄く幸運だった、と申しております。コロナ禍で北米でのキャリアのスタートが奪われてしまい、現在の中途半端な状況に陥ってしまったアマービレを思うに、正に大学レジデンシィ制度こそが持続可能性が極めて低い「常設弦楽四重奏団」が21世紀に存続可能なほぼ唯一のあり方なんだわなぁ、と遙か地球の反対側を眺めてしまうシンガポールの空なのであったとさ。

ついでに言えば、オンちゃんたちや葵トリオの弦楽器ふたりが参加した些か特殊な回だったバンフの前の回に優勝しているドーヴァーQは、なんだか知らんけど今や英語圏では「若手のトップ」として不思議な程に評価が高く、ヴェローナQや過激派野党系アタッカQなんぞらと共に20年代の北米拠点最若年世代となりつつあるわけじゃが…まあ、もうここから先がどうなるかは、この業界最前線を退いた爺とすれば遠くから微笑ましく眺めているしかないわのぉ、歳は取りたくないもんじゃ…

おっと、爺の昔話になってしもーたわい。こう考えると、やくぺん先生第一線現役時代に眺めて来たいろんな若者達が、いよいよ本格的に中心になって業界が動き始めているわけで、コロナ禍で一度は隠居を宣言した爺にも爺なりに、残された余生に前を向いて現役時代のパワー半分くらいで眺めていかにゃならんもんもまだあるようじゃて。となれば、無節操無分別無謀な覚悟も勇ましく、もっと若い人たちの話をしよーではないかっ!

なんせ昨晩、音楽院学生、受講者、元SSOやらのご隠居奏者、フェスティバル参加演奏家、そしてこの島にも数少ないもののいらっしゃるらしい純粋な室内楽好き等々、60名ほどのギャラリーが一緒に舞台に上がって
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マイクもない距離で眺める中に登場したふたつの団体ってば、ひとつはヨン・シュ・トウ音楽院の学生ら、もうひとつはひとつくらい学年が下くらいのシンガポール芸術学校の高校生(だと思いますが…アジア系は歳が判らず困る!)。前者は世界から奨学金全額給付のエリート国立大学に集まった楽器はよく弾ける若い子達とはいえ、モーツァルト《不協和音》第1楽章という楽譜を前に弦楽四重奏をやったのはたった1週間前から、後者も同じく若い頃のミラノセットからハ長調の第1楽章を所見して2週間だそうであります。

どうもこれには些か意地悪なディレクター氏の秘策があったらしく、「楽器をちゃんと弾ける子達が初めてアンサンブルをやってみて、さあああ大変となったところに、おもむろに先輩のオンちゃんが颯爽と登場し…」って企画だったようです。芸高の子達は、どうもやくぺん先生の前に同じ書き込みがされたタブレットを抱えた女性が座って演奏の様子を食い入るように眺めていたので、学校の先生に指導されてはいたみたい。ヨン・シュ・トウ音楽院の連中はファカリティのタンQ(なのかな、まだ?)にも習わず、全くの手探りだったみたいです。

20年ぶりの室内楽音楽祭の最初に置かれたイベントは、そんな「弾けるけど、アンサンブルとしてはなーんにもない」という状況から「アンサンブル」をどうしていくかを示そうとするものでありました。

で、我らが講師オンちゃんのしたことを一言で纏めてしまえば、「アンサンブルの基礎とは何か?」を示すことだったのであります。

偉い先生の室内楽マスターコースで(恐らくは偉くない先生でもそうなでしょうけど)、最初に言われることといえば、「お互いをよく聴き合いなさい」「お互いのコミュニケーションを取り合って」ってな類いの言葉であることは皆様もよーくご存じでありましょう。で、オンちゃんは、「でも、実際のところ、聴き合うってどういうことなの、コミュニケーションってどうやって取るの?」ってな、基本的過ぎて上級マスタークラスでは誰も言わないことを、具体的にどうすれば良いかを暗示(明示?)してくれた。

ヨン・シュ・トウ音楽院の学生達には「ジェスチャーで示すとはどういうことか」を具体的に見せていく。舞台上にいる人全員に向かって、隣の人と同じジェスチャーで動いてみてくれ、なぁんて巻き込みをやったり。ステージの上では、動きに全ての意味がある、という当たり前過ぎることをあらためてハッキリと教えてくれる。
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高校生たちにはもっと過激で、アイコンタクトとはどういうものかを示す為に4人をウンと遠くに座らせて弾かせたり、更には楽器をおろさせ全てのパートを声を出して歌って、どのようにアンサンブルのやりとりがされているかを体験させる。実際に合唱部の練習かいなぁ、って命令にちゃんと従って、最初はおどおどながらガッツリ歌ってたお嬢さん方、立派じゃわい!

恐らくは、聴衆として座っていた殆ど全ての人は、何らかの形で「アンサンブル」というものに関わっていた経験があったんだろう。そんな人達に向けても、「室内楽フェスティバル」の一番最初に「アンサンブルの基礎とは何か」を思い出させることとなって、会場はマスタークラス見物とは思えぬ盛りあがりを見せたのでありました。

若い世代が講師やメインゲストとなって、もっと若い世代に室内楽を見せていく若い室内楽フェスティバル、始まった。さて、明日以降は…

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