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公共交通でボルドー近郊の酒蔵に行く方法 [たびの空]

ボルドー市内からガロンヌ川沿いに大西洋に向けて北に数十キロ、赤ワイン好きには説明の必要もないらしい超有名ワイナリー、シャトー・ラフィット・ロートシルトというところまで行って参りました。ま、ご想像の通り、酒蔵見物やティスティングではなく、目的は地下のワイン貯蔵所を会場にジョコーソQとダ・シルバ先生、そこにボルドー・コンクールのプロデューサー(なのかなぁ、よく判らぬ)、日本でも八王子カサド・コンクールの審査委員長としてお馴染みだったアラン・ムニエ御大が加わった演奏会を聴くこと。

ま、それはそれでどんなもんか、それなりに面白い経験だったわけですが(以前にここで弾いたパリ管の千々岩さんに拠れば、「人生最悪の思い出」となる程酷い目に遇われたそうですけど…)、ま、それはそれ。湿気っぽくて寒い、というヨーロッパらしからぬ場所であったことは確かでありまする。なるほど、これがワインを寝かしておく酒蔵というところなのね。べんきょーになるなぁ。

さても、問題は、そこまでどう至るかです。無論、事務局のZ女史は「夕方5時に劇場前で広報さんが拾うから、パリから来てる音楽評論家の先生と一緒に乗って行って、そーねぇ、車で1時間とちょっとくらいかしら」ってことだったんだけど、ボルドーに来るようになって初めてのエクスカーション、せっかくだから先に行って世界的に知られるワインの産地が勝沼とはどう違うのか、しっかり眺めてやろーではないか、なーんて思い、「いや、なんとかひとりで行きますので、帰りだけ乗せてきて」と宣言してしまったのであーる。


さても、どーするベーか。ネットで検索するか。いや、そんな必要はないのであります。なんせ「世界でいちばん行きたい都市グランプリ2014年」だかなんだかで堂々グランプリに輝いた当地ボルドー、もう観光産業にはがっつり力を入れていて、街の真ん中にどかんと聳えるガルニエがパリ・オペラ座の前に建てたというオペラハウスの並びに、凄くちゃんとした観光案内所Iがある。なんせ最大の観光たるワイナリー巡りは市内じゃなく郊外ですから、観光客がフラフラ歩いて行くわけにはいかない。いちばん便利なのはレンタカーなんだろうが、そうするとワイナリーで試飲が出来ないじゃんかぁ!
てなわけで、みんな観光バスでツアーに参加するのが基本となります。近場なら数時間で複数の有名ワイナリーをまわれるみたいで、だいたい半日コースの観光が基本みたい。Iに行けば、個人でも参加出来るツアーを直ぐに紹介してくれるわけでありますわ。無論、フランス語じゃなくても大丈夫なツアーもいっぱいあるみたい。日本語も、あるんじゃないかしら、よーわからんけど。

で、案内所のおねーさんたちはもの凄いプロっぽい方々で、「さあ、どんな無理難題でももってらっしゃい」って感じなんねん。胸にユニオンジャックやらドイツ国旗、イタリア国旗などを付けていて、何語が出来るおねーさんか直ぐに判るようになってる。かくてファン・カイックQが西村作品をダ・シルバ先生と議論する(マスタークラス、ってより、お互いの意見を語る場、になってたみたい)様子を堪能したやくぺん先生、さて、じゃあ遠足に向かうかとえーごのおねーさまのところに並び、「夕方の6時くらいまでにしゃとー・らふぃって・ろすちゃいるど、え、なんて発音するんですか、ま、ともかくそこに行きたいんですぅ。友人が車で連れて帰ってくれるので、片道だけ公共交通で行きたいんですけど、できますかぁ?」と尋ねた次第。

さても、おねーさん、頭を抱えるというよりも、なんか妙な奴が来たわね、と燃え上がったみたい。流石に公共交通を使ってそこまで行こうという奴は珍しいらしい(もっと近場にいくらでもワイナリーはありますから)。あれやこれやと調べ、後ろに行列が出来るのに恐縮してしまう気の小さいやくぺん先生だが、おねーさんはまーるで意に介せず。あっちこっちのカウンターに行き、出していただいた結論は以下。「鉄道だとポーイヤックの駅から4キロくらい歩くことになるし、便数が殆どないのでお薦め出来ません。駅前にタクシーなんていない小さな村です。ですから、バスに乗りなさい。そこのトラムC線でラヴェツィエ広場駅まで行き、そこから出ているジロンヌ県営交通の705番に乗ってください。1時間半くらいで終点まで行って、あとは1キロくらい歩けば辿り着ける筈。楽しんでね!」とのこと。ちんなみにジロンヌ県営バス、なんとこれだけ乗っても2.6€だそうな。「ボルドーは公共交通は安いのよ」と誇らしげでありましたぁ。

はあ、じゃあ、そーさせていただきます、と仔羊の如く温和しくニコニコ頭を下げたやくぺん先生、Iを出た途端にいつもの不遜なオッサンに逆戻りし、ま、そうはいうもののこの案内ならばトラムC線の終点メッセ会場からでも乗れることになってるんで、訳の判らん街場で待ってるよりもボルドー・メッセ会場の方がまだバス停なども充実してるだろーに、と早速言われたことと違う行動に出て…ぶっちゃけ、ちょっとした酷い目にあったんだけど、それはまた別の話…ってねぇ、結論から言えば、なんだか知らないけどメッセ会場前バス停のジロンド県営バス乗り場、705番が来ると書いてあるんだけど、なぜか無視して通り過ぎるみたいなんでありますわ。誠に以て不合理極まりないのだけど、事実としてそーなってる。今日だけがそうなのか、いつもそうなのか、判らん。要は1時間に1本あるかないかのバスをひとつ逃すことになったわけであります。悔しいから詳細は記さんわい、プンプン。

もとい、仕切り直してトラムで数駅戻り、ラヴェツィエ広場駅でありまする。トラムのホームの直ぐ横に県営バスのマークがあるので、そこに行く。が、なんか様子がおかしい。中に張り紙がしてあって、読めないフランス語を小さな辞書をひきひき必死に読むと、どうやら国鉄駅が工事中で運用中止になってる間は705番はここじゃなくてなにやら通りのバス停から発着します、と書いてあるようだ。おおおお、で、なにやら通りの方に向かえば、頭にスカーフ巻いたイスラム系の肥ったオバチャンとか、ドイツ語喋ってるにーちゃんたちとか、いかにも通勤ですっておねーさんとか、ぼーっと待っている。みんな2時15分発に乗ろうとしてる貧乏人共だな。よーしよし。

やがてバスがやって来ます。おお、なんと、垂れ耳バックミラータイプのでっかい長距離バスタイプじゃあありませんかっつ。日本でも、例えば仙台から中新田に往く路線バスなんかが長距離バスタイプだけど、高速走るんでもないのに、立派なもんです。こうやって、普通のバス停で自分で荷物入れてるおばさまもいらしたりして。
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なんとえーごを喋ってくださる運転手のおばちゃまに「お前はどこまで往くんじゃ、終点か、ホントにそうなのか、ともかく払え」と3€払っておつりを頂きます。あとは、席に陣取って、ノンビリ1時間半のジロンド県郊外ドライブでありまする。客は、そうねぇ、10人くらいかな。ま、平日昼間のローカルバスとしてはええんでないかい。

トラム駅からちょっといったバス停を何故か5分押しで出発。さっき、ぼーぜんと待っていたメッセの横のバスターミナルには入る気配もなく通過(なんでやねん、なんでやねんんっっっつ?!)、暫く行くと街が途切れて、森になります。牛さんなんぞか草を食んでたりして。
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進むにつれ、やがて車窓に葡萄畑が広がる。わあああ、ボルドーだぁ、って風景、なのかな。
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最初は嬉しくていっぱい写真なんて撮ってるんだけど、どこまでいっても「森→葡萄畑→森→葡萄畑→村→葡萄畑→延々と葡萄畑→村→あとは繰り返し」という調子で、だんだん飽きてきます。とはいえ、こんな村とか
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他にも、マルゴーとか、流石に無粋なやくぺん先生でも知ってるようなワインの名前としてやたらと聞く地名が次々と出て来るわけで、なんかワクワクしますぅ。天気も良くなってきたしさ。

なんせ路線バスですから、バイパスじゃなくて村の通りを抜けて行く。マルゴーでは、1人片道2€ちょっとで観光してやろうという雰囲気バリバリだったドイツ人の若い連中が纏めて下車していきました。
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淡々たるワイン畑の風景、やがてバスが急に遅くなる。なんでこんなところで渋滞、と思えば、あれ、タチコマじゃんかぁ…
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じゃなくて、でっかい農耕作業車がゆっくり走ってて、ワイン畑の中に車の隊列を作っているのでありました。タチコマモドキがどっかの葡萄畑の道に入っていって、渋滞が解消されると、またバスは快調に走り出します。途中から乗って来たジモティのおじょーちゃんなんぞ、もうすっかりいつものおくつろぎの調子。
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あああさっさと高校出てこんな田舎じゃなくてパリに出たいわぁ、と思っいながら周囲にどこまでも続く葡萄畑を眺めてる青春なんだろーなぁ。

1時間と20分くらい、途中タチコマモドキ渋滞を除いてごくごく快調に走ったジロンド県営バスは、無事にジロンド川の積み出し拠点らしいポーイヤック村の中心に入り、駅に停車。へえ、こんなところなのね。
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ここで殆どの人が下車し、車内はやくぺん先生ともうちょっと北の村はずれまで行くオバチャンだけになる。あ、ロスチャイルド、じゃなくて、ロートシルトのシャトーという看板があったんだけど…と思うまもなく、バスは反対に折れて、川の畔の工場街みたいなところまでドンドン進んでいく。で、なんにもないバスの折り返しターミナルに到着。「着いたわよ、終点」と運転手おばさんに言われたものの、おおおおさっき曲がったところまで歩くのかぁ、これは30分はタップリかかるなぁ、まーしょーがないかぁ、と歩き始める。

と、後ろから、あなた、どこ行くの、と運転手のおばさん。いや、ロートシルトのシャトーで…と言うと、あ、またか、という顔をされる。よくあるのよね、いいわ、あたし、これで非番だから、車で連れてって上げる。まってなさい、と太っ腹なご発言。嗚呼、運転手様が天使に見えるぞ。

次の運転手さんに引き継ぎなどするのをぼーっと待ち(これまた女性でした)
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帰りはどうするの、あそう、車で連れてってくれるのね。そうするべきよ。ええ、あんたみたいな人は始めてじゃないし、それに今日はきんよーびよぉ!あ、ここ、そこから先はどうなってるか知らないけど、じゃあ、楽しんでね。
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下ろされたのは、こんな場所。周囲ぐるりと全部葡萄畑。こんな風景、始めて眺める。ホントに空と葡萄畑しかない。顔が白くてひょうきんなヨーロッパセキレイがピチピチ言いながら渡ってきて、舞踏の木の上にとまる。なぜか上空に複葉の機械鳥がふたつ、グルグル舞っている。

てなわけで、なんとか無事に辿り着き、ワイナリーの庭園でアオガラさんご夫婦が家の穴にお家作ってるのやら、樹木の色と同じで一瞬姿が見えないゴシキヒワさんやら、高級シャトーにぴったりななんとも高貴なシラコバトさんが悠然とホーホーお歌いになるのやらをぼーっと眺めてる。

暫くそーやってると、なんだか妙な感じがしてきた。そー、ここに動いている鳥さん達って、どれもこれもが街場の方々なんですわ。イエスズメ、シラコバト、ゴシキヒワ、ヨーロッパセキレイ、アオガラ、クロウタドリ、ウタツグミ…いわゆる「ガーデンバード」って方々ばかり。猛禽類もトンビだし、ま、鷺さん系や鵜などは池にいるんだけどさ。でも、自然の森の中にいるような方々は、まるでいない。

そう、この見渡す限りの葡萄畑は、実は自然でもなんでもない。近代化され、きちんと管理された「葡萄栽培産業工場」なんですわ。そう感じると、なんだか巨大な箱庭の中にいるような気もして来る。恐らく、今、アベせーけんの下、農協を潰し日本の大企業が参入しようとしている農業の理想って、こういう場所なんじゃないのかしら。そういえばさっき、バスの運転手おばさんが言ってたっけ、「ワインはね、赤いダイヤなのよ。」

ま、それはそれ。長い長い昼間の日も暮れかかり、開演時間前になればこんな場所を通って
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演奏会になったわけでありました。

結論。ボルドー郊外のシャトーを見物に行くなら、温和しくツアーに参加すべし。ただ、なにもない葡萄畑の真ん中で2時間ぼーっとしてても平気、という人は、話がまた別でありまする。

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